【MRの声を聞く2024(前編)】働き方改革が目前に迫る今、医師との関係構築における変化やデジタル活用の状況は
新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い対面コミュニケーションが復活した一方、医師の働き方改革施行を目前に控えるなど、MRの情報提供活動を取り巻く環境は変化の渦中にあります。効果的な施策立案やMRの業務効率向上のために何をすべきかを明らかにするために、今回3名のMRに現在の状況をうかがってみました。
参加者
<Aさん>
外資系大手製薬企業MR。MR歴25年。現在は地方にて複数の疾患領域を担当。ターゲット施設数は60〜70軒。ターゲット医師数は約100名。
<B さん>
内資系大手製薬企業MR。MR歴16年。現在は大都市圏にて特定の疾患領域を担当。ターゲット施設数は30〜40軒。ターゲット医師数は40〜50名。
<Cさん>
外資系大手製薬企業MR。MR歴24年。現在は大都市圏にてオンコロジー領域を担当。ターゲット施設数は7軒。ターゲット医師数は約50名。
MRによる医師への情報提供の現状:コロナ禍を経て対面が増加
司会:2023年は、新型コロナウイルス感染症が2類から5類に移行した年でした。これに伴い、前年と比較して、医師への情報提供に何か変化はありましたか?
Aさん:面会できる医師が増えました。担当している病院の訪問規制が緩和されるなどの影響があり、Webで面会していた医師も直接対面で会えるようになりました。対面で会えるようになった分、Web面会のアポイントが取りづらくなっています。私の場合、約100名のターゲット医師の中で、Web面会を希望している方が10名。その10名の中で予定通りの時間を全て使って話せるのは1〜2名くらいです。
当社では、成果目標として医師とのWeb面会数を設定しているため、Web面会が減ったことを問題視しているようです。
Bさん:私も対面での面会が可能な医師が明らかに増えました。ただ、コロナ禍と比較して、Web・対面を含む医師との面会数そのものは変わっていない印象です。
コロナ禍ではアポイントを前提とした限定的な面会、もしくはよほどの理由がないと会えないという状況でしたが、5類移行以降では、大義名分がなくても対面で会えるようになった医師はいます。
しかし、医師からの対面での面会の需要が増えた印象はありません。アポイントなしで面会できる医師が増えたので、MRが無理やり会いに行くこともあり、対面での総面会数が増えているのではないかと思います。
Cさん:私も、5類移行に伴い病院に訪問しやすくなりました。
Web面会は減少も、デジタルチャネルの活用は浸透。より効果的な使い分けが重要
司会:では、医師のデジタルチャネルの活用状況はいかがでしょうか?MRと対面での面会が増えたなら、医師のデジタルチャネルの活用が減ったのではと想像します。
Aさん:Web面会は減りましたが、他のデジタルツールの活用も含めて考えれば、医師のデジタルチャネル活用は増えていると思います。
Bさん:医師との面会数全体が増えていない中、割合として医師のデジタルチャネルの活用は減っている印象です。
Cさん:私の担当先では、医師のデジタルチャネルの活用は減っていません。製薬企業が医師のデジタルチャネル活用を促進する施策を打っていることも影響していると思います。
MRが面会数の目標を設定するとき、医師の担当患者数でターゲットの重みづけをし、重要な医師には面会数を多く設定します。しかし、実際に患者を診ているのが若手医師の場合もあるので、若手医師に情報提供する時にはデジタルチャネルも使っています。若手医師は、デジタルチャネルを上手く活用している方が多いからです。
Bさん:発売から数年経った成熟期、かつ専門性が高い医薬品の場合、製品特性や開発時データのような発売時から継続して提供している情報は、情報の浸透と共に顧客ニーズが低くなる傾向にあります。そのような情報を必要とする医師は、臨床経験の少ない若手医師になるでしょう。しかし、彼らは担当患者数が少なく、治療方針の決定権がないため、メインターゲットから外れていることが多いです。
ですから、私たちが届けられる情報の価値と、対象とする顧客が合っていないのです。もし効果的に情報提供を行おうとするなら、「処方医師の裾野を広げるには、デジタルツールやMRを使う」「専門性が高い医師の処方拡大のためには、Dr to Drや医療課題解決につながる企画を立案・提案する」など、打ち手を切り分けることが必要だと思います。これらを考慮せず、単にMRの面会数を増やしても効果は薄いのではないでしょうか。この点については、私たち全員が考えるべきことだと思います。
働き方改革が及ぼす医師への影響は、まだ不透明な部分が多い
司会:2024年4月から、医師の働き方改革が本格的に施行されます。これを機に、MRの情報提供に何か変化は出そうでしょうか?例えば、「医師へのアポイントメントが取りにくくなる」「タスクシフトによって医師の業務の一部を負担するようになった看護師など、他の医療従事者への情報提供が増える」など、何か影響があれば教えてください。
Aさん:正直、まだ影響はありません。医師には、働き方改革で業務がどのように変化するのかという実感や危機感がまだないように見えます。担当先の医師と働き方改革の話になることがありますが、院内から回ってくる書類はあるものの見ていないという医師もいます。若手医師が指導医に働き方改革やそれに伴う自分への影響などを聞いても、部長クラスの医師でさえ回答できないと話していました。部長は「自分の残業時間が増えるのかな?」と思っている程度というのが現状のようです。
Cさん:最近は、医師の働き方改革の話題になることが多いです。医師との面会に際して、時間外でのアポイントメントは依頼できないということはあります。医師も自分の勤務時間や医局員の勤務時間との兼ね合いから、時間外のアポイントメントをお願いするのは憚られているようです。ですので、就業時間後に部長だけに情報提供することもあります。
Bさん:医師によっては、面会の時間帯が変わったりしています。また、アポイントメントの用件が医師に吟味されている感覚はあります。MRが医師に会いたいと思っても、医師に会えるかどうかは用件によると思います。
タスクシフトについては、あまり変化は感じません。私の担当領域は専門性が高いのですが、急性期病院の外来において、看護師はローテーション制のところが多いため、医師が自分の業務をタスクシフトさせるには、看護師のローテーションのたびに教育する必要があります。看護師を都度教育するのは労力がいるので、結局タスクシフトをさせず、医師自身でこなしてしまうという話を耳にします。入院して治療を受ける患者がいる病棟だと、状況が少し違うかもしれませんが。
MRが考えるWeb講演会のポイントは「メタバース」「開催時間」「臨床課題の提供」
司会:講演会や説明会での情報提供の現状について教えてください。
Aさん:サードパーティや自社サイト上の講演会を視聴される医師が増えた感触はあります。
Web講演会は本社企画として年に6回開催していて、担当地域でも開くことがあります。その場合は、リアルの会場に加えWeb配信を行うハイブリッドでの開催方法が増えています。
当社ではWeb講演会の開催場所の一つとして、2023年からメタバースの利用も開始しました。メタバースでWeb講演会を開催し、講演聴講後に医師同士でディスカッションができるという仕組みで、医師からの評判が良いです。しかし、社内ではまだ十分にメタバースの活用が広まっていないようです。
また、多くの医師は、メタバースの操作方法を知りません。メタバースの操作自体は簡単なのですが、医師に操作方法を教えるのはなかなか大変だと感じます。
Cさん:医師の働き方改革への対応として、説明会を医師の勤務時間内で実施しています。
また、Dr to DrのWeb講演会の際は、参加医師を会議室にお招きし、そこから参加していただいています。そうすることで、参加医師にWeb講演会の内容をしっかり視聴していただけますし、演者の医師とのディスカッションもできています。さらに講演会の終了後、MRは参加医師と会話できます。
Bさん:5類移行により、リアル講演会や懇親会などの企画は可能となりました。しかし、予算そのものは増加していないので、コストを抑えた講演会の企画や取り組みを現場で工夫しています。
「Web講演会が医師にどのような価値を提供するか」という視点で考えると、Dr to Drによる、臨床課題に関連する情報提供が有効でしょう。
講演会の準備については、メールでのやり取りを好む医師もいます。「用件を簡潔に済ませたい」「忘れないようにデジタルで証拠を残したい」と考えるためです。
デジタルツールとして活用が浸透しているのは「CRM」「Outlook」「Zoom」
司会:Web講演会以外のデジタルツールとして、どのようなツールを利用していますか?
Aさん:「CRMの1 to 1メール」「Outlookのメール」「自社サイトからのメール」が主なコミュニケーションのチャネルです。その他、アポイント取得用のアプリをMRの意見で導入しました。これは賛否両論があり、使いたい人が使っています。
Cさん:医師への情報提供は、1対1で行う時はZoomを使います。講演会の案内などは、CRMから配信しています。その他、本社主導でサードパーティからの情報提供もあります。
Bさん:CRMからのメール配信などは使っていません。なぜなら、内容が顧客のニーズに合っていないこと、配信を続けることで「ニーズの理解できないMR」として医師からの評価が下がってしまうと考えるからです。そのため、私はこの役割をWeb専任MRに任せています。Web専任MRと連携して、医師に情報提供するケースもあります。デジタルでのアンケート結果やWeb専任MRが収集した情報を踏まえ、フォローに行くこともあります。
また、長年担当している医師には今更すぎて聞きづらいような内容があります。そういった時には、Web専任MRに踏み込んだ質問をしてもらい、聞き出してもらうこともできます。インサイトの深掘りや再確認ができるので、Web専任MRとの連携は有効だと考えます。
情報提供ツールとしては、Web面談ではPDF、対面では冊子を使うことが多いです。iPadは操作で手間取ると医師が苛立ってしまうことがあるので、冊子の方が便利かつ短時間で説明が済みます。
司会:デジタルツールの活用は、本社からどのように推奨されていますか?また、その際デジタルツールの使い方の研修といったサポートはありますか?
Aさん:ツールを使う際のレクチャーなどがありますが、デジタルツールをどう使うかは、MRが考えることになっています。ツールを使った人が使用方法や使用感などを発表して、そのツールを使う人を増やそうと取り組んでいます。
実際のところ、新たに導入したツールを使っているMRは増えていなさそうです。
Bさん:当社ではツール使用を推進していますが、必須というわけではありません。デジタルを組み合わせた営業スタイルが会社の方針なので、積極的に使ってほしいという姿勢は、どんどん強まっている気がします。ツールの使用状況は本社でデータとして管理していますが、そのデータをどう使うかはマネージャー次第です。
Cさん:本社が強力にサポートしてくれます。デジタルツールを使う際のコンプライアンスも厳しいです。MRがプロモーションコードに違反しないよう、厳格にサポートしています。
デジタルツールは情報提供が捗るが、活用できる医師が少ない
司会:デジタルツールを活用していて、どのような印象をお持ちでしょうか?
Cさん:「デジタルツールは情報提供が捗る」というのが私の印象です。担当先に訪問規制を敷く病院が多いと、医師への情報提供も制限されてしまうので尚更です。
そのため、医師のメールアドレス獲得が重要になります。「医師からどうやってメールアドレスを聞き出すか」は、MRにとって非常に重要な取り組みです。
Aさん:私は、正直なところデジタルツールの活用は面倒くさくて、やってられないなと思うことがあります。
司会:では、デジタルツール活用の課題は何だと思いますか?
Aさん:一番の課題は、デジタルにアクセスしてくれる医師の数が増えていないことだと考えます。
現状、Web講演会に参加する医師は、製品に関わらずいつも同じです。デジタルツールでの情報提供を好む医師の裾野が広がっていません。
キラーコンテンツとなるWeb講演会が少ないことも課題です。Web講演会は、基本的に本社が企画します。そのため、「多くの医師に関心を抱いてもらえる話のできる医師」「当社製品の処方を推奨する強いメッセージを出してくれる医師」をもとに講演会が企画されます。どちらのケースでも、本社が届けたいメッセージと医師が知りたいことが違っていると感じることがあります。
Cさん:私が感じている課題は、本社が用意してくれたツールを使いこなす時間がないことです。会社の用意するツールそのものは充実していますが、MRの業務量が多いため、使われていない不要なツールも多くあります。
Bさん:会社としてはデジタル活用による効率化を求めているのかもしれませんが、情報提供活動そのものの価値が低下してきているので、今のところデジタルへの移行で本質的な課題が解決できるとは感じていないのが本音です。あくまで「リーチを広げる」「新しい情報を早く発信する」という点においては有効ですが、デジタルのみで医師の行動変容につなげるインパクトはないと思います。
MRのデータ活用の現状は企業間でばらつきが。生成AIはほぼ使われず
司会:MR活動において、売上データ以外にどのようなデータを活用していますか?
Aさん:当社が使っているデータに、医師のつながりを一覧で出すソフトがあります。例えば、ソフトに演者の医師を入力すると、関連する属性の医師が表示されます。医師のつながりがわかるので良いですね。ただ、表示される医師に案内状などを配信できればいいですが、今はソフトとデジタルツールがつながっていません。それらがリンクできたら業務が楽になるでしょうし、そうなったらいいなと思っています。
また、当社ではターゲット医師を「デジタルを好む医師」「MRとの対面を好む医師」「デジタルでもMRでもOKな医師」「デジタルもMRもNGな医師」と4象限に分類して分析し、医師のタイプに応じて情報提供することを推奨しています。そして、例えばデジタルに親和性が高い医師には、Webシンポジウムやメールでの情報提供をMRに推奨しています。
Cさん:当社は、データ分析に非常に力を入れています。製品の売上に関連するさまざまな分析データを、MRがiPad一つで見ることができます。
分析結果は、現場のMRから見ると違っていることもありますが、そのギャップを埋めるのがMRの役割だとも思っています。
また、行動目標を作るときに、どこに問題があるかを見つけるためにデータを活用しています。データは必要に応じて、必要なタイミングで見ています。
司会:MR活動の業務効率向上のために、どのようなツールを使ったり、工夫をしていますか?
Aさん:自分の活動を分析するソフトを使っています。ターゲット先への訪問の有無が一目でわかるので、リソース配分や過去の活動を見直すことができます。
Bさん:業務効率向上ということで、医師との間に専用のビジネスチャットツールを導入した製薬企業があると聞きました。ですがそのようなツールを使う医師は若手や非専門の医師で、自社製品の使用経験が少なく、製品使用において不安のある医師が多いのではないでしょうか。ベテランの専門医がわざわざ専用のツールを導入してまでMRに質問するという印象はなく、個人的には有効な手段とは考えていません。
司会:近年、業務効率向上を目的としたChatGPTのような生成AIのビジネス活用が話題です。MR活動では、生成AIの活用はいかがでしょうか?
Cさん:当社では独自の生成AIを有しているようですが、自分の業務効率向上のために、生成AIを使うことは今のところありません。
Bさん:医師一人一人に向けてオーダーメイドの文章を作ることには、ChatGPTは使えないと思います。
ChatGPTを使うとすれば、社内向けの報告書類の作成になるでしょう。
Aさん:当社ではChatGPTを導入しましたがMRは現状使っておらず、使い方も分かっていない状態です。また、以前ChatGPTが作成した文章を見た時、プロモーションで引っ掛かるような他剤と比較するメッセージを出していました。これでは、MRの現場では使えません。
ChatGPTの概略を会社が説明してくれましたが、いまだに使い方がはっきりしないと感じます。
司会:なるほど、生成AIをMR活動に活かすにはまだまだ時間がかかりそうですね。今回は、MR活動の最前線における医師への情報提供の現状、デジタルツールの活用状況、そしてそれらの課題感などについて広く伺いました。本日はありがとうございました。