働き方改革の最前線、医師が気になる他院の取り組みは?-メディカルジョブアワード2025

2025年2月16日、医療施設における先進的な働き方改革の事例を共有する「メディカルジョブアワード2025」が東京都内で行われました。
医療現場で働く医師は、「医師の働き方改革」をどう捉え、どのような課題意識を抱いているのでしょうか。そのインサイトを探るべく、本アワードの盛況ぶりや、注目を集めた働き方改革への取り組み事例を紹介します。

働き方改革の機運を反映するアワード
メディカルジョブアワードは、医師の鎌形博展氏が代表取締役を務める株式会社ENが主催するアワードです。長時間労働の是正や職場環境の改善などに取り組む医療施設の事例を募り、医師の働き方改革におけるベストプラクティスを共有することを目的としています。
第2回の開催となる今年は、事例の応募件数も当日の来場者数も前回を大きく上回り、働き方改革の対応への注目度の高さがうかがわれました。50件超の応募のうち、7件が一次選考を通過。応募者が当日登壇して自施設での取り組みをプレゼンし、来場した多くの医療関係者が耳を傾けました。
基調講演:医師の働き方改革元年を終えて
イベント冒頭、聖路加国際病院の藤川葵氏による基調講演が行われました。藤川氏は、「働き方改革で診療時間を減らせば、医療の質が低下するのではないかという懸念は、一部の医師に未だ強く残っている」と切り出しました。一方で、医師自身の健康問題や集中力低下への懸念、労働負荷の高い診療科を避ける若手医師の増加などがあり、働き方改革は喫緊の課題です。
そうした背景のためにタスクシフト・タスクシェア、厚生労働省による一般の人への協力の働きかけなどが進んでいることを概説し、「本日の発表も参考にしてほしい」と締めくくりました。
各事例から見る医療現場の課題意識
心臓血管外科×「施設群」連携
聖路加国際病院の中村亮太氏は、「心臓血管外科施設群『ハートアライアンス』が変える働き方と教育」とのテーマで登壇し、一般社団法人ハートアライアンスの取り組みを紹介しました。ハートアライアンスは、同院と東京ベイ・浦安市川医療センター、虎の門病院、順天堂大学病院などの首都圏の医療施設に広がる、多施設多職種のハートチームの協力体制であり、以下のような施策を進めています。
- タスクシェア:診療看護師が診療記録や処方・検査のオーダーなどを行うことで、外科医の病棟業務を1〜2割減少させる
- 病診連携:アライアンスのクリニックが術後フォローを担当、外科医が手術に集中できる環境をつくる
- 施設間での業務の標準化:手術器具や人工心肺の種類、開胸・閉胸の手技、手術説明資料などを統一する
- 転院搬送の連携:独自アプリを用いて外科医のオンコール体制をリアルタイム共有し、空き時間を活用する
- 共同の外科専攻医プログラム:10施設・年間4,000症例を含むため、柔軟な研修プログラムを経験できる
「施設群」という概念のもとで、仕組み、人、知識を共有することが、新たな働き方のアプローチにつながると中村氏は述べました。
急性期病院×診療看護師へのタスクシフト
聖マリアンナ医科大学病院の堤健氏は、「診療看護師が急性期病院の働き方改革に与えるインパクト」をテーマに登壇。診療看護師の増員により、医師の業務量を補完しつつ収益も伸ばせる成功事例を示しました。
堤氏は、「資格を持った診療看護師は、最低でも初期研修医、トレーニングを積めば後期研修医や若手医師と同等くらいに働けると体感している」と説明。指導医が減少した病棟に診療看護師を補充したところ、残る医師の負担を増やさずに患者数や収益を増やすことができたという事例を複数紹介しました。
診療看護師と治療方針を共有しておけば、外来や手術などで医師が不在の間も、診療看護師が病棟管理や患者対応の一部を担えば日勤帯に業務を進めることができます。そのため、医師や看護師、薬剤部の残業を減らすことにもつながります。堤氏は、そのほかにも急性期医療での診療看護師の活用システムの構築を試みており、その可能性を強く示唆する発表となりました。
地域中小病院×総合診療モデル
豊田地域医療センターの近藤敬太氏は、「『総合診療』と『コミュニティホスピタル』で地域医療を改革する」と題し、一般社団法人コミュニティ&コミュニティホスピタル協会での取り組みを紹介しました。
2015年に近藤氏ら3名の総合診療医が赴任した時、豊田地域医療センターは「特色のない地域の中小病院」であり、年間赤字は3億円に達していたといいます。しかし、近隣の藤田医科大学が総合診療プログラムをスタートし、ブランディングと組織文化の醸成などにより「日本で最も総合診療医が集まるプログラム」となっていった過程を通じ、同センターも変化。総合診療医38人を擁し、急性期から在宅医療まで対応する地域の拠点として生まれ変わりました。
近藤氏は、「他の診療科では、大学が教育拠点として強くなりがち。一方、総合診療では患者中心の医療や地域ニーズにあわせた診療を行うため、地域医療の最前線である中小病院でしか学べないことがある。だから、総合診療科であれば、中小病院でも教育拠点になれる」と指摘。この気づきを体系化・標準化してコミュニティ&コミュニティホスピタルモデルとして広め、中小病院の総合診療医というキャリアの魅力を高めることで、総合診療医を増やしたいと語りました。
療養型病院×3つの積極施策でエンゲージメント向上
横浜病院の中村大輔氏は、「私の考える慢性期医療の魅力と元気会横浜病院の取り組み」と題して、長期療養の質を上げる3つの取り組みと職場環境の向上を行い、その結果としてスタッフのエンゲージメントを同時に高めた事例を報告しました。
同院の3つの取り組みは以下の通りです。
- 身体拘束ゼロ:拘束しなくても安全な環境づくりを徹底、拘束ゼロ100%を達成
- 積極的な経口摂取:スタッフと家族がリスクを承知した上で取り組む
- 退院支援:要介護度の平均値4.6でも在宅復帰率を上げていく
さらに、認知症ケア技法であるユマニチュードの研修、介護開発室の設置など、スタッフへの教育と環境整備を進めています。「療養型病院を希望する医師は、イメージの問題からか少ないのが現実。しかし、子育て世代なども働きやすい環境であり、働き方改革でいうと療養型病院は最先端ともいえるはず」と話しました。
医師主体の働き方改善に医師のニーズあり
全てのプレゼンの終了後、「医療関係者の働きやすさ」「チーム力強化」「患者サービス向上」を評価基準として、今回の発表事例について審査員や来場者による評価が行われました。
その結果、各賞を受賞した事例は以下の通りです。
最優秀賞
心臓血管外科施設群『ハートアライアンス』が変える働き方と教育
一般社団法人ハートアライアンス 中村亮太氏
オーディエンス賞
「総合診療」と「コミュニティホスピタル」で地域医療を改革する
一般社団法人コミュニティ&コミュニティホスピタル協会 近藤敬太氏
審査員特別賞
診療看護師が急性期病院の働き方改革に与えるインパクト
聖マリアンナ医科大学 堤健氏
かけはし方式 てんかん専門クリニックが実践する医師の働き方改革
医療法人社団かけはし 生田陽二氏
医師不足に立ち向かう若手医師の挑戦
新潟県町立津南病院 千手孝太郎氏
優秀賞
遺伝カウンセラーのタスクシェアで実現するゲノム医療の未来-多職種連携と新たな働き方
香川大学医学部附属病院臨床遺伝ゲノム診療科 十川麗美氏
私の考える慢性期医療の魅力と元気会横浜病院の取り組み
医療法人社団元気会横浜病院 中村大輔氏
本アワードでは、一般公募や事務局からの働きかけのほか、医局などの推薦があってエントリーした候補者も多くいたといいます。実際に当日は、知人の発表を聴講に訪れる参加者も多くいたことが印象的でした。医師主体・医療施設主体の働き方改革においても、医師間のネットワークはやはり大きな役割を果たしていることが見て取れました。
今回紹介された各事例は、働き方改革のまさに最前線であり、医師の課題意識や切実なニーズが感じられるものでした。製薬企業にとっても、こうしたインサイトの把握は今後の情報提供を考える一助となるのではないでしょうか。