【MRの声を聞く3】COVID-19流行から約3年。現役MRへのインタビューで見えてきた課題と展望
2020年1月から製薬業界のみならず日本経済に多大な影響を与えたCOVID-19。感染拡大から3年が経ち、徐々に医療施設への訪問規制は緩和の傾向にありますが、依然として医師との接点確保は難しい状況が続いていると言えそうです。
そこで、現在MRが課題と感じていることは何か、オフラインでの医師面談が叶わない状況で有効だったツールなどについて、現役のベテランMR2名にインタビューを行いました。
参加者
<Sさん>
MR歴20年以上。新卒で外資系製薬企業に10年ほど勤務し、内資へ転職。豊富な知識と正確な情報提供をモットーに、現在は病院と開業医を担当。エリアチームリーダーも務める。
<Kさん>
内資系製薬企業に新卒で入社。以降、一貫して同企業に勤務しながらさまざまな経験を積み、現在は大学病院を中心に基幹病院を担当。管理職として部下のサポートにまい進しながらも、現場のMRとして本社との架け橋を務める。
現場のMRが感じる今の課題とは?
―COVID-19流行から3年程経過しましたが、感染拡大当初と変わった部分はありますか?
Sさん:3年前はほとんどの得意先に訪問規制がありましたが、現在では得意先ごとに面会が可能な方法が分かってきて対応しやすくなりました。
ただ、依然として難航している施設があることも事実ですね。
Kさん:Sさんが言う通り、同じ大学病院でも全く反応が違うため、個々の病院の考え方によるというのが正直なところです。
これはエリアや担当先にもよると思いますが、感覚的には半分近くはまだ訪問できない状況が続いている印象です。
―面会できる施設も徐々に増えてきてはいるということですね。
面会できる施設はCOVID-19前と同様にアプローチできると思うのですが、面会できない施設に対して現場のMRが困っていることは何でしょうか?
Sさん:面会できないからと言って売り上げ目標を達成しなくてもよいというわけではないので、ギャップを埋めるのに苦労しています。
Kさん:結局、会えない医師が多く存在することが1番の問題点であることは変わりません。
部長クラスの医師は窓口として私たちMRに会ってくれますが、実際に処方実権を持っている医師には会えない。
アプローチする方法が限られているので、実際に処方の状況も把握しにくくなります。
メールで十分とおっしゃる医師も中にはいますが、それはそれで大変です。
Sさん:まさにその通りです。
販売情報提供ガイドラインではメールでの処方提案が禁止されているので、私たちが伝えたいことが制限されてしまっているのも課題です。
さらに販売情報提供ガイドラインがあることを知らない医師がほとんどなので、医師が期待する情報提供とMRができることの間に大きな隔たりがあることも問題の一つです。
やはり対面もしくはZoomなどで話す機会がなければ、進む話も進まないことが多いと感じますね。
面会が制限される中で有効だったツールは?医師のニーズはどこにある?
―会えない課題をどう解決するかという点に終始しているということですね。一方で、会社側から提供されたツールや手法で有効だったものは何かありますか?
Sさん:Zoomはやはり有効でしたね。会社がアカウントを全MRに付与してくれたので、非常にありがたかったです。
製薬メーカーによっては所長しかアカウントを持っていないということも聞きますので。
Zoomはパソコンに疎い医師でもリンクさえクリックしてもらえれば始めることができるので、他のビデオ通話ツールよりも導入が簡単というメリットもあります。
Kさん:Zoomと併せてWeb講演会の予算を潤沢に用意してもらえたこともプロモーション上有利に働きましたね。
演者や座長などの役割者、出席予定の医師と接点を増やすことができるので、Web講演会を理由に面会できたことは訪問制限下でプラスとなりました。
特に、連絡は取っていても実際にお会いしたことのない医師もいるので、一度顔を合わせてお話できる機会があることは、その後のやりとりもスムーズになったと感じています。
―顔を見て話すということの重要性を改めて感じているということですね。医師側の意識もCOVID-19前とは変わってきているとは思うのですが、ニーズとして何か変化はありましたか?
Sさん:COVID-19前はいわゆる表敬訪問や上司同行のようにあいさつ回りみたいな面会も散見されていましたが、今はあいさつぐらいで訪問することは逆に迷惑になってしまう側面はありますね。
Kさん:COVID-19はあくまでもきっかけと考えています。
タイパ(タイムパフォーマンス)という言葉も出てきている通り、医師に価値のない面談を申し込んでも時間の無駄です。Zoom面談であいさつだけなどは論外ですが、何を伝えるのか目的をより明確にしてお会いするようになりましたね。
そういった意味では1回の面会でどれだけ有意義な情報提供を行えるかとがニーズのような気もします。
―面会の頻度自体は変わりましたか?
Kさん:COVID-19拡大以前は、月4回会えていた医師が今では月1回アプローチできればいい方ということもあります。気軽に医局で話しかけられなくなったので当然とも言えますが、その分内容を意識するようにはなりました。
Sさん:COVID-19が変えたというよりは時代の流れという側面もあります。
MRに求められるものが昔とは大分変わってきていたので、遅かれ早かれこうなっていったのではないかと思います。
会社も今はまだディテールの回数を指標としている部分もありますが、今後は回数ではなくディテールインパクトがどれだけ大きくなるかも意識する必要があるでしょう。
Web講演会の手応えや改善点は?
―先ほどWeb講演会の開催でアプローチする機会が増えたと伺いましたが、実際に参加する医師の反応はいかがでしょうか?
Sさん:難しい質問ですね。Web講演会も、最初は物珍しさで参加する医師が多かったのですが、だんだん回数が増えていくに従って同じようなテーマになってしまい、徐々に視聴数が減ってしまったというのは否定できないと思います。
Kさん:ガイドラインの関係もあり、以前のように製品群を比較した内容は講演できなくなったのでインパクトが薄くなってしまっていることも否めません。
医師が1番聞きたいのはそういった比較したデータだったりするのですが…。
―有効な一面と課題の両方があるのがWeb講演会ということですね。
Sさん:直接会場にいないので、印象に残らないと言う医師もいます。
一方で演者や役割者との接点が増えるので、担当MRにとってメリットは大きいです。
Kさん:担当者だけにメリットがある講演会も本末転倒なので、参加した医師をいかにフォローしていくかが重要と考えています。Web講演会はあくまでもきっかけです。参加してくれたというチャンスを最大限に生かすためにどうアプローチするかがMRの腕の見せどころではないでしょうか。
今後のMR活動はどうなる?
―面会制限やガイドラインなど、思うように活動できない部分もある中で、今後MR活動はどのようになっていくとお考えですか?
Sさん:情報提供ガイドラインがどう変わっていくかがMR活動に大きく影響するので、ガイドライン次第とも言えますが、間違いなくオムニチャネルでのアプローチにシフトしていくと思います。
例えば、自社サイトに登録していただいた医師の興味関心のデータを元に興味がありそうなものを提案していくなど、1つの活動で終わらないように連続してディテールしていくようなイメージですね。
―Amazonのおすすめ商品のようですね。
Sさん:そうです。それをデジタルと人の力で実施していくのがこれからのMR活動の中心になっていくと思います。
Kさん:うちの会社でもオムニチャネルの話はたまに出ます。
一方でMRに面会して直接聞きたい、あるいは電話でパッと今すぐ知りたい、みたいなニーズも少なからずあるので、MRの存在価値自体が大きく激変することもないのかなとも感じます。
ただ、これから若い医師が経験を積んでベテラン医師になったときに同じニーズがあるかはわかりません。
Sさん:そうはいってもMRが全く不要となることは考えていません。
私たちが普段使っているサービスで窓口がなくてメールとチャットボットだけで困ることってありますよね? それと同じことが製薬業界でも言えます。
医師が知りたいことをWeb上でチャットボットに聞いてもお決まりの返事しか返ってこないとなれば、すぐに聞けるMRの存在はありがたいものになります。
Kさん:COVID-19前よりも忙しくなっているのは、より意味のある活動をするためにリソースを割いているからというのはあります。
Sさん:デジタルはデジタルで活用して、人にしかできない部分は残っていくというのがMRが感じていることだと思います。
医師とコンタクトを取る上であったら便利だと思うことは?
―さまざまなツールを活用してディテールに励んでこられたと思いますが、こんなのがあったらいいのにと思うものはありますか?
Kさん:それがあればとっくに現状を打開できているとは思いますが…。
Sさん:まあ、これはあまり大きな声では言えないかもしれませんが、m3.comなどの医療情報ボータルをもっと活用しても良いのではないかと思います。
うちは自社サイトと内容が競合してしまうのでm3.comに提供する情報はある程度制限しているのですが、会員数や見やすさで言えば圧倒的にm3.comです。
Kさん:m3.comはもはやインフラみたいなものですから、使わない手はないと思います。
あと私が個人的にあったらいいなと考えていたのは、バーチャル上の仮想医局前です。
Sさん:仮想医局前とは?
Kさん:メタバース的な感じで仮想空間に医局前を再現して、そこに各メーカーのMRのアバターが立っているようなイメージです。
医師が聞きたいことがあるときに話し掛けられるようになったら面白いなと思ったことはあります。
Sさん:オンラインゲームで一緒にプレイするみたいなイメージですか?
Kさん:だいたいそんな感じです。まだニーズはないかもしれませんが、もっとデジタル化が進んでいって障壁が下がればあり得るのではないかなと。
Sさん:ニーズという言葉が出ましたが、それこそ医師のニーズを真に調査してくれる機関があったらありがたいですね。
何の薬剤に1番興味があるのか、どんな講演会だったら聞きたいのかなどが分かればピンポイントで濃い情報提供ができます。
COVID-19はあくまでもきっかけ
現場のMRの現状として、感染拡大当初よりも面会制限は減ってきてはいるものの、依然としてキーパーソンにアプローチできないという問題が大きいようです。
医師との接点を増やすためには、Web講演会開催の予算を増やしたり、全MRがZoomを使えるようにしたりなど、本社からの支援も必要であることも示唆されました。
一発逆転のとっぴな手法はなく、基本的な活動の中でどうやってツールを生かすかが面談機会を獲得する鍵と言えるでしょう。
また、今回のインタビューで興味深かったのは、COVID-19はあくまでもきっかけにすぎないと意識していること。
COVID-19は確かに医師との面談機会を激減させましたが、遅かれ早かれMRが価値のある情報を提供できなければ面会は制限されるという危機感はベテランのMRならではの意見でしょう。
普段から医師に感謝されるために何をすればよいのかを意識しているMRには医師も面会の必要性を感じてくれるはずです。
さまざまな場面でデジタル化が声高に叫ばれる中ではありますが、販売情報提供ガイドラインと照らし合わせたクリーンな活動も求められます。
MRを取り巻く環境は今後も変化し続けることが予想されますが、常に先を意識して医師に会いたいと思われる存在になることに価値があると言えそうです。