【2024年診療報酬改定を先取り】診療報酬改定を製薬企業のマーケティングに活かす方法 「Ⅱ ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」編
製薬業界も注目している2024年の診療報酬改定の個別改定項目は、2月14日に答申が提出され、点数も明らかになりました。この中には、製薬企業のマーケティングにも関わることが散見されます。そうした項目を見落としてしまうと、製品戦略上重大な状況になりかねません。
今回は診療報酬改定の個別改定項目の「Ⅱ ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」の内容を解説し、製薬マーケティングとの関係について考えます。
- 今回の診療報酬改定の見えざる脅威が迫っている
- Ⅱ ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DX を含めた医療機能の分化・強化、連携の推進
- Ⅱ-1 医療 DXの推進による医療情報の有効活用、遠隔医療の推進
- Ⅱ-2 生活に配慮した医療の推進など地域包括ケアシステムの深化・推進のための取組
- Ⅱ-3 リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進
- Ⅱ-4 患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価
- Ⅱ-5 外来医療の機能分化・強化等
- Ⅱ-6 新興感染症等に対応できる地域における医療提供体制の構築に向けた取組
- Ⅱ-7 かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機能の評価
- Ⅱ-8 質の高い在宅医療・訪問看護の確保
- 今回の診療報酬改定は、製薬企業にとってかなりの逆風かもしれない
今回の診療報酬改定の見えざる脅威が迫っている
今回取り上げる「Ⅱ ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」からは、中長期的に見れば、「シェアを獲得できている製品がますます強くなり、シェアが取れてない製品はますます弱くなる」ことが予想されます。
もちろん、新規の作用機序の新薬が登場し、それがゲームチェンジャーの役割を果たし、治療そのものを革新すれば、市場のシェアは大きく変化するでしょう。しかし、そうではなく、従来の治療薬同士の市場のシェア争いが続くならば、現在シェアを最も獲得している製品が、ますますそのシェアを強固なものにする可能性が高まります。
この根拠の一つに、厚生労働省がリードしているオンライン資格確認によって、来る2025年10月からの電子カルテ情報共有サービスを医療従事者が活用できる体制が築かれていくということがあります。
電子カルテ情報共有サービスの活用は、治療薬のレジメンが地域医療連携の体制の中で一層広まっていくきっかけになるかもしれません。例えば、レジメンが病院から診療所やクリニック、在宅医に至るまで広まったり、フォーミュラリとして広まったりすることなどが十分に考えられます。
担当地域の医療機関や医師らに向けて、その体制作りを先導し、レジメンの中に自社製品を組み込むことができた製薬企業は売り上げを伸ばし、シェアを強固にすることができるでしょう。
Ⅱ ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DX を含めた医療機能の分化・強化、連携の推進
その方向に進むために、厚生労働省はどのような布石を打っているのかが、今回の改定の「Ⅱ ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」の項目を見るだけで容易に想像できます。
近い将来、医療DXによって医療従事者や患者さんの利便性が高まりつつ、そのシステムに集積される患者さんの診療データの活用から、診療の効率が重視される世界がやってくるかもしれません。
ここからは、この項目を詳しく解説します。
Ⅱ-1 医療 DXの推進による医療情報の有効活用、遠隔医療の推進
医療DXは、従来分散していたさまざまな情報やデータがネットワークに連携され、共有される世界を実現するでしょう。そのような世界がやってきた時、自社製品がどのような状況になるかを想像してみることが大切です。
【具体的な改定内容】
- 医療情報・システム基盤整備体制充実加算の見直し
- 医療DX推進体制整備加算の新設
- 在宅医療における医療DXの推進
- 訪問看護医療DX情報活用加算の新設
- 救急時医療情報閲覧機能の導入の推進
- へき地診療所等が実施するD to P with Nの推進
- 難病患者の治療に係る遠隔連携診療料の見直し
- 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料における情報通信機器を用いた診療に係る評価の新設
- 小児特定疾患カウンセリング料の見直し
- 情報通信機器を用いた通院精神療法に係る評価の新設
- 情報通信機器を用いた歯科診療に係る評価の新設
- 歯科遠隔連携診療料の新設
- 超急性期脳卒中加算の見直し
- 脳梗塞の患者に対する血栓回収療法における遠隔連携の評価
- 診療録管理体制加算の見直し
- プログラム医療機器の使用に係る指導管理の評価
- 診療報酬における書面要件の見直し
- 書面掲示事項のウェブサイトへの掲載
- 医療機関・薬局における事務等の簡素化・効率化
Ⅱ-2 生活に配慮した医療の推進など地域包括ケアシステムの深化・推進のための取組
この項目では、製薬企業とMRの機動力で地域の医療機関のネットワークをしっかり抑え、自社製品の処方を確実なものにすることが見込めるさまざまな点が見直し・評価されています。
この内容を理解した上で、ターゲット先の病院の院長や地域医療連携室、病院と連携しているクリニックや有償診療所、在宅医、医師会、地域包括支援センターなどと、その地域における最適な医療の提供体制を構築することをおすすめします。
その上で、その地域のフォーミュラリの策定に関与し、自社製品を必ずそのフォーミュラリに入れてもらうことができれば、その地域での自社製品のシェアは自ずと高まっていくでしょう。
【具体的な改定内容】
- 地域で救急患者等を受け入れる病棟の評価
- 介護保険施設入所者の病状の急変時の適切な入院受入れの推進
- 医療機関と介護保険施設の連携の推進
- 介護保険施設及び障害者支援施設における医療保険で給付できる医療サービスの範囲の見直し
- リハビリテーションに係る医療・介護情報連携の推進
- 退院時におけるリハビリテーションに係る医療・介護連携の推進
- 就労支援に係る医療機関と障害福祉サービスの連携の推進
- 入退院支援加算1・2の見直しについて
- 在宅療養指導料の見直し
- 認知症ケア加算の見直し
- 入院基本料等の見直し
- 地域包括ケア病棟入院料の評価の見直し
- 地域包括ケア病棟の施設基準の見直し
- 有床診療所における医療・介護・障害連携の推進
- リハビリテーションに係る医療・介護・障害福祉サービス連携の推進
Ⅱ-3 リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進
Ⅱ―3の改定内容については、中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申をご参照ください。
Ⅱ-4 患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価
これらの項目は、医療機関、製薬業界、ともに影響を受けやすいと考えられます。特に、医薬品の処方に関する改定項目は、要チェックです。そのため、この箇所のみ、製薬マーケティングに関わると考えられる個別改定項目ごとに、簡単な解説を加えました。
改定項目が多いため、ここでは製薬業界に関わりが深いと考えられる項目のみを取り上げます。そのほかの項目については、詳細を中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申にてご確認ください。
【具体的な改定内容(抜粋)】
① 急性期充実体制加算の見直し
③ 急性期一般入院料1における平均在院日数の基準の見直し
④ 一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の評価項目及び施設基準の見直し
⑦ 重症度、医療・看護必要度Ⅱの要件化
⑫ 地域包括ケア病棟の在宅患者支援病床初期加算の見直し
「① 急性期充実体制加算の見直し」では、急性期充実体制加算が見直されます。許可病床300床以上の病院でも算定可能になりますが、点数は若干低くなります。ただし、急性期充実体制加算の施設基準は、従来よりも厳しくなります。年間の悪性腫瘍などの手術件数の基準が設定されるなど、中長期的にみた時、製薬企業のターゲティングに影響が出る可能性があります。
「③ 急性期一般入院料1における平均在院日数の基準の見直し」では、医療機関間の機能分化を推進するとともに、患者の状態に応じた医療の提供に必要な体制を評価する観点から、急性期一般入院料1の平均在院日数が18日から16日に短縮されます。従来から急性期医療の治療薬は、救急医療で1stチョイスのポジショニングを確立することと、その後救急の患者さんを受け入れる地域包括ケア病棟や在宅でもその治療薬の処方を継続することが至上命題でした。この傾向は今後も続きます。
「④ 一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の評価項目及び施設基準の見直し」は、重症度、医療・看護必要度の評価項目が見直されました。注目すべき点が3つあります。
- 従来だと複数の注射薬を投与すればA項目で点数が取りやすくなっていたため、「注射薬剤3種類以上の管理」の項目について、初めて該当した日から7日間を該当日数の上限とするとともに、対象薬剤から「アミノ酸・糖・電解質・ビタミン」等の静脈栄養に関する薬剤を除外すると変更されました。
- 注射の抗悪性腫瘍剤も、従来のA項目だと何を処方しても点数が取れました。今後は、「専門的な治療・処置」の項目のうち「抗悪性腫瘍剤の使用(注射剤のみ)」について、対象薬剤から入院での使用割合が6割未満の薬剤が除外されます。
- 経口の抗悪性腫瘍薬も同様に、「抗悪性腫瘍剤の内服の管理」について、対象薬剤から入院での使用割合が7割未満の薬剤が除外されます。
抗がん剤を担当するプロマネにとっては、2.と3.が注目でしょう。この改定によって、現時点で1stチョイスのポジショニングを確立できている製品はシェアがさらに伸びる可能性が高まりますし、現在盤石な抗がん剤ならシェアは一層安泰になるでしょう。
この一般病棟の重症度、医療・看護必要度の中で、2.と3.を満たし、容易に点数を得るには、がん治療に用いる抗がん剤を絞り、その薬剤から処方することが病院経営上最も効率が良いからです。主治医の負担もありません。
従来以上に、その病院の治療レジメンをどのように攻略するかというプロマネの腕の見せどころになります。
「⑦ 重症度、医療・看護必要度Ⅱの要件化」では、重症度、医療・看護必要度Ⅱを算定したい病院に対して、それらの医療機関が適切に医療を提供するように、許可病床数や届出によって重症度、医療・看護必要度Ⅱを要件化します。
上記④同様に、7対1看護体制で適切な点数を確保するには重症度と、医療・看護必要度の要件を確実に満たす必要があります。
⑦では、患者さんの重症度と、医療・看護必要度Ⅱを要件化することで、急性期医療を一層充実させたいという厚生労働省の意図が見えます。
「⑫ 地域包括ケア病棟の在宅患者支援病床初期加算の見直し」では、救急搬送患者の緊急入院を受け入れる地域包括ケア病棟は、その受け入れ側の負担を鑑みた加算に見直されます。在宅医療や医療連携がさらに進むでしょう。
この状況を踏まえ、病院から在宅医療に至るまで、自社製品の処方が途切れないようにすることが、プロマネの喫緊の課題の一つです。
Ⅱ-5 外来医療の機能分化・強化等
この項目も要チェックと考えられます。
【具体的な改定内容】
- 生活習慣病に係る医学管理料の見直し
- 特定疾患処方管理加算の見直し
- 地域包括診療料等の見直し
「①生活習慣病に係る医学管理料の見直し」は、特定疾患療養管理料から「糖尿病」「脂質異常症」「高血圧症」が外れます。これらの生活習慣病は今回の改定以降、生活習慣病管理料(Ⅰ)、(Ⅱ)として算定することになります。
従来、特定疾患療養管理料を届け出ていた医療機関が「糖尿病」「脂質異常症」「高血圧症」の患者さんを診た場合、月2回まで、6ヶ月にわたって特定疾患療養管理料を算定できましたが、生活習慣病管理料(Ⅰ)、(Ⅱ)の場合は月1回までで、算定した月から起算して6ヶ月は算定できません。この改定によって、収益が悪化する医療機関が出てくると考えられます。
集患力があり、収益が安定している医療機関こそが、私たちがターゲットとすべき医療機関といえます。
Ⅱ-6 新興感染症等に対応できる地域における医療提供体制の構築に向けた取組
今後の新興感染症への対応として、各種加算が見直されました。関係がある方は、中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申をご参照ください。
Ⅱ-7 かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機能の評価
かかりつけ医機能の評価である地域包括診療料等の要件及び評価が見直されます。
「かかりつけ医と介護支援専門員との連携の強化」、「かかりつけ医の認知症対応力向上」、「リフィル処方及び長期処方の活用」、「適切な意思決定支援及び医療DXを推進」という観点からの見直しです。
要件が厳しくなっている箇所も見受けられますので、開業医市場でのさまざまな変化が予想されます。
【具体的な改定内容】
- 地域包括診療料等の見直し
- 時間外対応加算の見直し
- 小児かかりつけ診療料の見直し
- 継続的・定期的な口腔管理による歯科疾患の重症化予防の取組の推進
- かかりつけ薬剤師指導料の見直し
- 服薬管理指導料の特例(かかりつけ薬剤師と連携する他の薬剤師が対応した場合)の見直し
- 薬学的なフォローアップに関する評価の見直し
Ⅱ-8 質の高い在宅医療・訪問看護の確保
往診や在宅医療に力を入れている診療所や病院と、他の医療機関の連携を強化することを目的とした改定が、この箇所です。改定項目数が非常に多いです。
今回の改定以降、地域における、24時間の在宅医療の提供体制の構築の推進をはかります。このことによって、今後地域のフォーミュラリの策定が加速するなどの影響が出てくるかもしれません。
その他、介護保険施設入所者が安心して療養を続けられる体制作りや、在宅医療・往診の推進、在宅医療や往診などを手掛けてくれる医療従事者の増加の期待などの、厚生労働省の意図が見えてきます。
【具体的な改定内容】
- 介護保険施設入所者の病状の急変時の適切な往診の推進
- 地域における 24 時間の在宅医療提供体制の構築の推進
- 往診に関する評価の見直し
- 在宅医療における ICT を用いた 医療情報連携の推進
- 在宅療養移行加算の見直し
- 在宅における注射による麻薬の投与に係る評価の新設
- 在宅における質の高い緩和ケアの提供の推進
- 在宅ターミナルケア加算等の見直し
- 在宅時医学総合管理料及び施設入居時等医学総合管理料の見直し
- 在宅療養支援診療所及び在宅療養支援病院における訪問栄養食事指導の推進
- 包括的支援加算の見直し
- 訪問診療の頻度が高い医療機関の在宅患者訪問診療料の見直し
- 頻回訪問加算の見直し
- 訪問看護ステーションにおける管理者の責務の明確化
- 虐待防止措置及び身体的拘束等の適正化の推進
- 訪問看護ステーションの機能に応じた訪問看護管理療養費の見直し
- 訪問看護ステーションにおける持続可能な24時間対応体制確保の推進
- 緊急訪問看護加算の評価の見直し
- 医療ニーズの高い利用者の退院支援の見直し
- 母子に対する適切な訪問看護の推進
- 訪問看護療養費明細書の電子化に伴う訪問看護指示書の記載事項及び様式見直し
- 訪問看護医療DX情報活用加算の新設
- ICTを活用した遠隔死亡診断の補助に対する評価の新設
- 質の高い在宅歯科医療の提供の推進
- 訪問歯科衛生指導の推進
- 小児に対する歯科訪問診療の推進
- 入院患者の栄養管理等における歯科専門職の 連携の推進
- 多様な在宅ニーズに対応した薬局の高度な薬学的管理に係る体制評価の見直し
- 在宅医療における薬学的管理に係る評価の新設
- 医療用麻薬における無菌製剤処理加算の要件の見直し
- 高齢者施設における薬学的管理に係る評価の見直し
今回の診療報酬改定は、製薬企業にとってかなりの逆風かもしれない
今回は、診療報酬改定の個別改定項目の「Ⅱ ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」の中で製薬企業の製品やマーケティングに関与が深い項目を見てきました。
特に抗悪性腫瘍薬や生活習慣病治療薬などは、今後の製品の売上トレンドに影響が出てくるかもしれない内容と考えられます。今後の市場の変化に十二分に注意を払う必要があるでしょう。
参考資料
1) 厚生労働省資料 令和6年度診療報酬改定の基本方針の概要(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001177119.pdf)
2) 中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申 ( https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001220377.pdf)