東レ・メディカル×ジョリーグッドに学ぶVR活用の可能性(後編)|VR導入で医療現場のタスクシフトを推進。その反響と今後の展望は

東レ・メディカル×ジョリーグッドに学ぶVR活用の可能性(後編)|VR導入で医療現場のタスクシフトを推進。その反響と今後の展望は

2023年11月、東レ・メディカル株式会社は、株式会社ジョリーグッドの医療VRセルフ制作ソリューション「JOLLYGOOD+make」を導入して全事業部でのVRコンテンツ制作を開始し、VR活用の可能性を追求されています。インタビュー前編では、その導入の背景や狙い、社内導入プロセスについてお伺いしました。後編は、VR活用の効果や活用例とともに、VR活用の今後の展望について、東レ・メディカルの馬場氏、小林氏、ジョリーグッドの坂田氏にお聞きします。

各所で大きな反響を呼んでいるVRコンテンツ

―「JOLLYGOOD+make(ジョリーグッドプラスメイク)」で制作したVRコンテンツに対し、医療現場からはどのような反応がありましたか。

東レ・メディカル:2021年の「HotBalloon™手技体験VR -HotBalloon™ Ablation: A VR Tour-」と同じような手術の手技を撮影したVRコンテンツでは、著名なプロクター(指導医)の手技を見たいという医師のニーズに応えることができており、非常に高い評価を得ています。こうした手技は医師のスキルなどによって興味を持つ視点が異なることから、ご自身のレベルに合わせて体験学習ができると大変好評です。しかも、高精細でクオリティの高いVRコンテンツを、当社のスタッフが撮影・編集しているということに驚かれます。

東レ・メディカル提供:VRコンテンツのイメージ
東レ・メディカル提供:VRコンテンツのイメージ

東レ・メディカル:さらに、360度空間で撮影しているので、手術中の全体の動きをトータルで把握できるのもVRコンテンツのメリットとして注目されています。医療機関では、業務の最適化を図るためのディスカッションが日常的に行われていますが、その中でチーム医療としての効率化やタスクシフトを進めていくには、このVRコンテンツが欠かせないという認識が浸透してきています。

手術の手技とともにモニターしているX線透視撮影などの画像、血圧や心拍数、脈拍、出血量などの循環管理やパルスオキシメーターやカプノメーターなどを使った呼吸管理などのモニター画面、そして手術をサポートする各医療機器の操作など、全てをVRコンテンツとして撮影できますし、他の2Dカメラを使って撮影した動画をキャプチャーで挿入して編集することもできます。まさに、臨床の現場に立ち会っているような没入感で、さまざまな視点を同時に見ることができるので、チーム医療を支えるメンバー一人ひとりに向けた改善点を浮き彫りにするとともに、必要に応じたタスクシフトに向けた教育が可能となります。これは、2Dのビデオではできなかったことです。

東レ・メディカル:医師の働き方改革が本格化する中、医療従事者のさまざまなニーズを満たすVRコンテンツを撮影・編集できる「JOLLYGOOD+make」は、当社の各事業部で引く手あまたの状態になっています。また、VR撮影の時は撮影そのものがちょっとしたイベントになっていて、医療従事者の皆さまが集まってきて「すごいね」と盛り上がり、注目を集めています。

でき上がったコンテンツを見ながら、新たな活用方法のアイデアがその場で発案されるといった好循環も生まれつつあり、さまざまな活用の可能性を感じています。最近増えてきているのは、撮影したVRコンテンツを使ってトレーニングやイベントをしたいという要望です。その際は、当社が保有しているVRゴーグルを貸し出していますが、ゴーグルの台数に限りがあるのが課題として上がってきているくらい、各所で大きな反響を得ていると実感しています。

工場見学やインフォームドコンセントなどの活用例も

―「JOLLYGOOD+make」で制作したVRコンテンツの展開事例をお聞かせください。

東レ・メディカル:当社には、主力の透析事業領域を始め、急性血液浄化領域、心臓血管治療領域、がん放射線治療領域、医療用具領域など、さまざまな事業部があります。これらの事業部では、VRコンテンツのニーズが異なります。これまでご説明してきた、「HotBalloon™手技体験VR -HotBalloon™ Ablation: A VR Tour-」と同じように、手術の手技や医療機器の操作方法を体感させタスクシフトへと導く、教育用のVRコンテンツを制作する事業部もありますが、主力事業である透析事業部では、機器を製造する工場を見学するVRコンテンツの制作を進めています。

透析事業部では、東レ株式会社が開発した中空糸膜などの技術を応用した医療機器を販売しています。その技術力を臨床現場の医師や臨床工学技士に理解していただくためには、どのような場所でどのように医療機器を製造しているのか、その現場を体験・体感していただくのが一番です。単なる工場見学の2D動画であれば、YouTubeなどを通じてスマホの画面で見ていただくこともできます。しかし、VRコンテンツはVRゴーグルをかけて、疑似空間ではありますが臨場感を持って広い空間を見渡せて、しかも自分が興味を持った部分を注視することができます。さらに、透析機器の工場見学をVRで体験したということが、特別なイベントとして記憶に残り、当社の技術力の高さ、強みをきちんとお伝えすることもできます。旅行先の動画をスマホで見るのと、実際に現地を訪れて見渡してみるのでは、明らかに記憶に残るものが違います。それと似たような体験ができるのです。

また、教育用のVRコンテンツを、患者さんやご家族へのインフォームドコンセントに活用する事例も出てきました。ある医師の方から、「このような治療を行いますので、ご安心ください」とお伝えするために、VRコンテンツで体験していただくという形で活用されているとお聞きしました。医療従事者向けのみならず、一般の方に向けたVRコンテンツの活用も今後増えていくと思います。

海外でも有用性を発揮するVRコンテンツ

―VRコンテンツ活用の今後の展望をお聞かせください。

東レ・メディカル:当社では、「JOLLYGOOD+make」で制作したVRコンテンツの海外展開を計画しています。先日、国内の医師による手技のVRコンテンツを、これからプロクターになっていただく海外の医師にVRゴーグルで見ていただきました。海外の医師にとっては、VRコンテンツを活用することで、言葉の細かなニュアンスを汲み取ることに腐心することなく、ダイレクトに体験できたようで、VRコンテンツの新たな有用性を確信しました。今後も、海外の医療従事者の教育やトレーニングにVRコンテンツを積極的に活用していきます。当社と同じように、海外展開を検討されている企業であれば、そのための教育やトレーニングをサポートするツールとして、VRコンテンツはおすすめです。

ジョリーグッド:当社は、これまでVR×AIテクノロジーを活用した医療教育サービスやヘルスケアサービスを開発して国内外に提供しており、医療機関や医療機器メーカー、製薬企業への導入開発実績は世界トップレベルを誇ります。製薬企業への導入では、帝人ファーマ株式会社とVRを用いたうつ病向けのデジタルセラピューティクスの共同開発大塚製薬株式会社とのVRを活用したソーシャルスキルトレーニングやメンタルヘルスケアの共同事業など、精神疾患を中心に薬物療法と連携したVRコンテンツの共同開発を中心に行っています。

今後は、VRやAIなどのテクノロジーを駆使して、医療教育、障害者支援、精神疾患治療など、人の成長や社会復帰を加速し、医療の進化や人の生きがいを支えるサービスを、さまざまな研究機関や企業の皆さまと共に展開していきたいと考えています。

また、インホスピタル分野だけではなく在宅医療分野にも進出していきたいと模索しています。訪問のテクニックや在宅医療ならではのノンテクニカルなスキルの教育など、当社のVRコンテンツシステムを活用したサービスを拡大していきます。課題は、VRシステムのコンパクト化です。現状では、物理的に在宅医療分野での撮影や編集はやや厳しいものがありますので、新たなシステムやソリューションの開発に注力していきます。

また、VRコンテンツの未来形の1つとして、Appleがリリースした「空間コンピューティング」にも対応し、新たなサービスを開発しました。「空間コンピューティング」とは、デジタルコンテンツを現実の世界とシームレスに融合しながら、実世界や周囲の人とのつながりを保つことができる「Apple Vision Pro」という革新的な技術ですが、当社で開発したのは、この「Apple Vision Pro」が実現する空間コンピューティング向けのイマーシブ医療サービス「JOLLYGOOD+ for Vision Pro」です。このサービスは、空間コンピューティングの特性を活かし、これまでのVRとは異なる新しいイマーシブ医療トレーニングやヘルスケアサービスを目指しています。アメリカ・テキサス州オースティンにて開催されたクリエイティブの祭典「SXSW 2024」にて本サービスを初披露しました。「空間コンピューティング」という概念のもと、バーチャルとリアルのシームレスな行き来の実現によって、ストレスのないスマートかつ効率的なヘルスケア体験を生み出していきます。

新たなマーケティング、コミュニケーション、エデュケーションの扉を開くVRコンテンツ

医療用VRコンテンツは、疑似体験による教育効果や広報・マーケティングでの有用性、インフォームドコンセントを含めた患者さんやご家族との対話増進など、多面的な効用が期待できます。さらに撮影・編集機器のコンパクト化が進めば、在宅医療分野での活用可能性も広がっていきます。また、VRを超える「空間コンピューティング」向けのイマーシブ医療サービス「JOLLYGOOD+ for Vision Pro」も開発され、本格的な導入が進んでいくことでしょう。医療VRセルフ制作ソリューション「JOLLYGOOD+make」がリリースされたことで、コスト面でのハードルも低くなりました。新たなマーケティング、コミュニケーション、エデュケーションのツールとして検討をするべき段階にきているのは間違いありません。