製薬業界マーケティング/DX最新動向まとめ 2023年総括版 〜製薬企業の1年間の動きを振り返る〜
Medinewでは、2カ月に1回、各製薬企業のプレスリリースより、最新製薬マーケティングやDXの取り組みをピックアップしてお届けしています。今回は、2023年のプレスリリースを振り返り、マーケティング、プロモーション、DXについて、製薬企業の動向をまとめました。この1年間での業界全体のトレンドや、他社がどのような動きをしているのかを把握するためにぜひお役立てください。
※調査対象の企業は2023年5月にIQVIAより公開された22年度販売会社ベース企業売上ランキング(期間:2022年4月~2023年3月)より抜粋した19社。
AIを活用したサービスの提供や社内業務での利用が進む
2023年は、ChatGPTが飛躍的に進化するなど、AIに関する話題の多い1年でした。製薬企業では、AIを活用した製品、サービスが続々と実用化に向かっています。
バイエル薬品は、HACARUSと共同開発を行ったAIを活用したオンプレミス型の画像解析ソフトウェアCal.Liver.Lesionや、クラウド型の画像診断支援AIプラットフォームCalanticTMの販売を開始しました。
中外製薬とBiofourmisは、バイオセンサーおよびAIベースのアルゴリズムを利用して、子宮内膜症患者の痛みを客観的に評価する新たな評価法の確立を目指しています。
ファイザーは、宮崎大学、NTTデータと協業し、複数医療機関の電子カルテデータに適用可能な、肺がん患者さんの薬物治療効果を判定するAIモデルを構築。今後多施設の電子カルテデータベースから臨床アウトカムの情報を効率的に収集して活用することができれば、個別化医療の進展、適切な医薬品への早期アクセスなどのベネフィットが期待できるとしています。
バイエル薬品とHACARUS 共同開発を行ったAIを活用したオンプレミス型の画像解析ソフトウェアCal.Liver.Lesion発売のお知らせ
バイエル薬品、医療用画像診断支援AIプラットフォームCalanticTMデジタルソリューションを販売開始
中外製薬とBiofourmis、子宮内膜症における痛みのデータを活用したバーチャルケアに向けた新たなパートナーシップを締結
(ファイザー株式会社)日本初、複数医療機関の電子カルテデータに適用可能な薬物治療効果判定AIモデルを構築
また、一部の製薬企業では、社内業務における生成AI活用も進んでいます。
小野薬品工業では、AI自然言語処理技術を用いて、PubMedに収載されている医学論文のトピック抽出分析AIシステムであるMaTCHを開発。メディカルアフェアーズ統括部で同システムを活用して診療上の課題を特定し、メディカル戦略の構築に向けて運用を開始しています。さらに、国内外のグループ会社を含む全社員を対象として生成AI(人工知能)が利用できる環境を導入し、その本格的な利活用を開始したと発表しました。
小野薬品とアイエクセス、共同で医学論文のトピック抽出分析AIシステムを開発
小野薬品グループで生成AIの利活用を開始
患者向けサイトの新規開設やリニューアルも引き続き活発
2023年も多くの患者向けサイトの新規開設やリニューアルが行われました。また、LINEアカウントやPodcastなど、Webサイトだけではないさまざまなチャネルを活用した情報提供も見られました。
アストラゼネカが開設した「Search My Trial for AstraZeneca」は、どのような臨床試験が実施されているのか探しやすくしてほしい、最新の情報にアクセスできるようにしてほしいといった患者の要望に応えたもの。なるべく専門用語を使わずに、一般の方にも分かりやすく臨床試験について記載しています。
グラクソ・スミスクラインが開設した「EGPA.jp」は、まだ解明されていないことが多い好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の一般向け疾患啓発サイトです。12月には、GSKの医療関係者向けサイト内にもEGPAに関する情報ページを新たに追加し、早期診断と治療の実現に向けて取り組んでいます。このような診断までに時間がかかることが課題となっている希少疾患に関して、情報提供に取り組む製薬企業も今後増えてくると予想されます。
他にも、2023年に開設、リニューアルされたサイトは以下の通りです。
■新規開設
企業名 | サイト名(チャンネル名) | リリース日 | 概要 |
---|---|---|---|
アストラゼネカ (※1) | Search My Trial for AstraZeneca | 2月9日 | アストラゼネカが国内で実施する医薬品の臨床試験(治験)の最新情報を、患者やその家族が一括検索できる |
沢井製薬 (※2) | 大人の神経発達症.jp ~心の地図の歩き方~ | 3月30日 | 神経発達症(発達障害)の当事者の方、その家族、神経発達症を知らない方への、神経発達症の理解促進や周知 |
日本ベーリンガーインゲルハイム (※3) | 糖尿病への色眼鏡~その認識、色眼鏡(偏見)かも?~ | 4月18日 | 糖尿病を正しく理解してもらい、糖尿病に対する社会的偏見をなくすための活動 |
グラクソ・スミスクライン (※4) | EGPA.jp | 4月24日 | 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の症状や診断、治療に関する疑問を解決 |
ファイザー (※5) | ワクチンを学ぶPodcast | 8月24日 | 感染症予防の認知向上を目的とした、日本の医療用医薬品企業として初めて開設したPodcastチャンネル |
ファイザー (※6) | 新型コロナを学ぶ | 9月1日 | 新型コロナウイルス感染症の基礎知識や適切な予防法や感染時の対応方法など幅広い情報提供 |
ノバルティス ファーマ (※7) | Together We Fight Cancer & CVD(Cardiovascular Disease)特設サイト | 10月16日 | 広島県、広島市、マイライフ株式会社、株式会社もみじ銀行、他共創パートナーと協働し、「がん」と「循環器疾患」の一次予防における疾患啓発を目的に開設 |
田辺三菱製薬 (※8) | 患者さんのためのくすりの情報 | 11月7日 | 同社の医療用医薬品を使用中の患者に向け、これまで複数のサイトに掲載されていた患者向けのくすりの情報を集約 |
アストラゼネカ (※9) | 教えて、胆道がん | 12月11日 | 胆道がんの基礎知識から治療中の日常生活を送りやすくするヒントまで、Q&A形式で掲載 |
※1 アストラゼネカ, Search My Trial for AstraZeneca, プレスリリース
※2 沢井製薬, 大人の神経発達症.jp ~心の地図の歩き方~, プレスリリース
※3 日本ベーリンガーインゲルハイム, 糖尿病への色眼鏡 ~その認識、色眼鏡(偏見)かも?~, プレスリリース
※4 グラクソ・スミスクライン, EGPA.jp, プレスリリース
※5 ファイザー, ワクチンを学ぶPodcast, プレスリリース
※6 ファイザー, 新型コロナを学ぶ, プレスリリース
※7 ノバルティス ファーマ, Together We Fight Cancer & CVD(Cardiovascular Disease)特設サイト, プレスリリース
※8 田辺三菱製薬, 患者さんのためのくすりの情報, プレスリリース
※9 アストラゼネカ, 教えて、胆道がん, プレスリリース
■リニューアル
企業名 | サイト名(チャンネル名) | リリース日 | リニューアル内容 |
---|---|---|---|
アストラゼネカ (※10) | What's? 前立腺がん | 9月15日 | 対象者ごとに知りたい情報をより見やすく、検索しやすいよう改善 |
日本ベーリンガーインゲルハイム (※11) | 肺線維症.jp | 10月2日 | 同社が運営してきた肺線維症に関する複数の情報サイトを統合し、チャットボットを導入 |
グラクソ・スミスクライン (※12) | ぜんそく.jp | 10月16日 | LINE公式アカウント「ともに歩こう ぜんそく.jp」の開設に伴い、疾患啓発サイトもリニューアル |
※10 アストラゼネカ, What's? 前立腺がん, プレスリリース
※11 日本ベーリンガーインゲルハイム, 肺線維症.jp, プレスリリース
※12 グラクソ・スミスクライン, ぜんそく.jp, プレスリリース
デジタルマーケティングに重点を置いた組織体制づくりも
データ・デジタルマーケティングを強化するため、営業やマーケティング部門を再編する動きも見られました。
第一三共では、デジタルマーケティング機能を活用し、より顧客軸思考に基づく活動を強化することを目的に、『営業本部』と『マーケティング本部』を統合して、『医薬営業本部』に再編。また、「営業企画部」と「マーケティング企画部」よりデジタルマーケティングに関する機能を集約・強化し、「デジタルマーケティング部」を新設しています。
また、アステラス製薬では、顧客ニーズに基づいたオムニチャネルの活用とデータ分析を強化した新たな営業体制を構築したと発表しました。
(第一三共株式会社)2023年4月1日付 組織改定について
(アステラス製薬株式会社)国内営業体制の見直しについて
パーソナルヘルスレコード(PHR)の利活用を模索
パーソナルヘルスレコード(PHR)の利活用も注目されています。
沢井製薬では、地方自治体や他企業と連携してパーソナルヘルスレコード(PHR)管理アプリ「SaluDi(サルディ)」による健康支援に取り組んでいます。
エーザイは、認知症エコシステム構築を加速させるデジタル事業会社「Theoria technologies株式会社」を設立。長年に亘り蓄積した臨床研究データのほか、コホート研究データおよびPHR(Personal Health Record)などを活用し、さまざまな予測アルゴリズムの開発や、デジタルソリューションの創出、データ提供に取り組むとしています。
また、大塚製薬も、株式会社カケハシ、イオンリテール株式会社とともに、PHRを活用したヘルスケアサービスを開始したと発表しました。
(沢井製薬株式会社)兵庫県養父市の「養父市デジタルヘルシーエイジング事業」におけるPHR管理アプリ「SaluDi」の採用のお知らせ
(沢井製薬株式会社)PHRサービスを起点とした業種間連携型の健康なまちづくり形成に関する実証事業実施における協定書を締結
(沢井製薬株式会社)沢井製薬と凸版印刷、PHRの利活用事業での協業で合意
(エーザイ株式会社)認知症エコシステム構築に向けたデジタル事業会社「Theoria technologies株式会社」を設立
(大塚製薬株式会社)経済産業省「PHR利活用推進等に向けたモデル実証事業」に採択
"意識することなく健康になっていくヘルスケアサービス"を開始
製薬企業のデジタルマーケティング・DXは次のステージへ
この数年で製薬企業のDXは飛躍的に進み、デジタルチャネルでの情報提供も当たり前に行われるようになっています。2023年のプレスリリースを振り返ってみると、今年も多くのWebサイトが開設され、患者や家族、一般の方々に正しい情報を届け、早期診断や適切な治療につながる支援が行われていました。
また、生成AIやPHRなどの新しいテクノロジーの利活用を積極的に進めていることも分かりました。今後はこれらのデータから何を読み取り、どのように活かしていくかが課題となるのではないでしょうか。
医療従事者への情報提供については、医師の働き方改革が間近に迫り、組織体制を見直す動きも見られました。医師の利便性を考慮し、「欲しい情報に最適なタイミングでアクセスできる」仕組みとして、オムニチャネル戦略は今後ますます重要になりそうです。