製薬マーケ戦略を強化!フレームワーク完全ガイド

製薬マーケティングの成功には、戦略的なフレームワークの活用が不可欠です。
本記事では、3C分析、PEST分析、5フォース分析を用いた環境分析から、STP分析によるターゲティング、さらにカスタマージャーニー、AIDMA、AMTULなどの消費行動モデルを駆使した顧客理解まで、実践的なマーケティング手法を網羅。データに基づく戦略立案で、競争優位性を確立するためのポイントを解説します。
製薬マーケティングで用いられるフレームワーク
マーケティング戦略立案時に用いられるフレームワークはさまざまあり、ほとんどのフレームワークが、製薬業界でも応用できます。フレームワークごとに分析できる内容は異なり、大きく以下の4つの機能に分類されます。
機能 | 概要 | 該当フレームワーク |
---|---|---|
環境分析 | 内部環境だけでなく、市場や競合などの外部環境も分析 | 3C分析、PEST分析、5フォース分析 |
戦略の方向性を決める | 環境分析で得た情報を整理し、自社の強みや弱みなどをより詳細に分析 | SWOT分析 |
戦略の確立 | ターゲット層を確定し、彼らにアプローチすべき自社の強みや施策を見定める | STP分析 |
顧客理解を深める | カスタマージャーニーマップを策定し、顧客像をより具体化。顧客へのタッチポイントや適切な施策を見つける | AMTUL、AIDMA |
環境分析→戦略の方向性を決める→顧客理解を深める→戦略の確立、といった順に、複数のフレームワークを組み合わせて順番に実施することが一般的です。そのほか、自社や自チームが直面する課題に応じて単発でフレームワークを実施することで、情報や思考の整理にも役立ちます。
自社や製品を取り巻く環境をあらゆる観点から分析
環境分析で用いられるフレームワークには、3C分析、PEST分析、5フォース分析などが挙げられます。
より「自社」を深く知る「3C分析」
3C分析は、「市場・顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つの視点から環境を分析します。 このフレームワークにより、自社を取り巻く環境を客観的に評価し、効果的な戦略立案が可能となります。

3C分析で得られた結果は、KSF(Key Success Factor:成功要因)を見定めるひとつの要素となり得ます。特に製薬業界では、厳しい規制、市場の競争、医療環境の変化、デジタル化の進展など、独自の要因が製薬マーケティングの結果を左右します。適切なKSFを特定し、それに基づいた戦略を展開することがマーケティングプラン成功の鍵となるといえるでしょう。
3C分析では、以下の要素を分析します。
- 市場・顧客(Customer):市場の動向や顧客のニーズ、消費行動を分析します。製薬業界では、医薬品の将来性や患者の治療傾向などを把握することが重要です。
- 競合(Competitor):競合他社の製品やサービス、販売戦略、マーケットシェアなどを分析します。競合の強みや弱みを理解することで、自社の改善点や差別化ポイントを見出すことができます。
- 自社(Company):自社の経営資源、技術力、組織力、収益性などを評価します。市場や競合の状況と照らし合わせて、自社の強みや弱みを明確にし、成功要因(KSF:Key Success Factor)を導き出します。
「市場・顧客」では、以降で解説するPEST分析や5フォースを組み合わせることで、より多角的な情報収集や分析が行えます。
3C分析についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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外部環境を4つの視点で分析「PEST分析」
PEST分析は、製薬企業が自社や医薬品を取り巻く外部環境を「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4つの視点から分析する手法です。 この分析により、環境変化を整理し、マーケティング戦略の策定に役立てることができます。
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1.政治的要因(Politics):
医療法や薬機法などの法改正、薬価制度の変更などが該当します。2024年4月より本格始動した医師の働き方改革も、これに含まれます。
2.経済的要因(Economy):
景気動向、物価変動、消費者の購買意欲などが含まれます。製薬業界では、患者の受療行動の変化や、デフレ・インフレによる医療費負担の増減が影響します。厚生労働省の受療行動調査などのデータが参考になります。
3.社会的要因(Society):
人口構造の変化、少子高齢化、社会トレンドなどが該当します。総務省統計局のデータやRWDなどを活用し、地域ごとの人口や年代別人口に着目し分析することで、地域ごとに最適化されたマーケティングプランを展開できます。
4.技術的要因(Technology):
新技術の開発や市場への浸透などの情報が該当します。デジタルヘルスの普及、AIの活用、新しい診断法や治療法の登場などが、医療現場や製薬企業の活動に影響を与えます。近年注目されているHaaSの取り組みなどを検討する際にも、技術的要因の分析が役立ちます。
PEST分析についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

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HaaSとは?製薬企業に広まる新しい価値提供のかたち
外部環境の5つの競争要因を分析「5フォース分析」
自社を取り巻く市場の競争環境を包括的に理解するために有用なフレームワークが、「5フォース分析」です。製薬業界のように規制が多く、競争が激しい市場では、外部環境を正しく認識することがマーケティング戦略の成功につながるといえます。具体的には、以下の要因を分析します。
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- 新規参入者の脅威:新たな競合企業の参入可能性。参入障壁が低い場合、市場シェアが奪われるリスクがある。
- 売り手(供給業者)の交渉力:原材料やサービスの供給者が価格や条件を左右する力。供給者の交渉力が強いと、コスト増加の可能性がある。
- 買い手(顧客)の交渉力:顧客が価格や条件を要求する力。顧客の交渉力が強いと、利益率の低下が懸念される。
- 代替品の脅威:同じニーズを満たす他の製品やサービスの存在。代替品が多いと、顧客がそちらに流れるリスクがある。
- 業界内の競合(既存の競合他社)の脅威:同業他社との競争の激しさ。競争が激化すると、価格競争やプロモーション費用の増加により、収益性が低下する。
例えば、ジェネリックやバイオシミラーの影響(代替品の脅威)、病院・医師・患者の意向(買い手の交渉力)、研究開発・製造コストの高さ(売り手の交渉力)などが製薬マーケティングにおける競争要因と考えられます。こうした市場環境を体系的に理解することで、競争優位を確立し、リスクを管理しながら戦略的に意思決定を行うことが可能となります。
5フォース分析についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

環境分析で得られた情報を整理・統合する「SWOT分析」
SWOT分析は、以下の4つの視点で、前述した環境分析フレームワークによって得られた情報を整理・分析するフレームワークです。 SWOT分析により、限られたリソースを効果的に活用し、売上最大化を目指す戦略立案が可能となります。
- 強み(Strengths): 自社の競争優位性やリソース
- 弱み(Weaknesses): 自社の課題や改善点
- 機会(Opportunities): 市場の成長要因や未開拓のニーズ
- 脅威(Threats): 競合の動向や市場のリスク要因
SWOT分析で得たい情報(SWOT分析の目的)を明確にしたのちに、これまでのPEST分析や5フォース分析などで得られた情報を、上記の4つの要素に当てはめ分類・整理します。強み/弱みは自社の内部環境(コントロール可能なもの)であり、機会/脅威は外部環境(コントロール不能なもの)と考えられます。
情報を整理したら、上記の要素を組み合わせて戦略を策定します。例えば、「強み×機会」で攻めの戦略を、「弱み×脅威」で防御の戦略を検討します。
SWOT分析の具体的な方法や事例を知りたい方は、以下記事をご覧ください。

ターゲットを特定し最適なマーケプランを検討する「STP分析」
STP分析は、市場を細分化(Segmentation)し、ターゲット市場を選定(Targeting)し、自社製品の市場での位置づけ(Positioning)を明確にするためのフレームワークです。
STP分析を行う目的は多岐にわたり、製薬マーケティングにおいては、例えば医師や患者といった顧客ニーズを把握したり、各市場のビジネスチャンスを比較・評価したり、製品の強みと弱みを明確化したりといったことが挙げられます。
具体的にSTP分析は、セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニングの手順を追って実施します。
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セグメンテーションではさまざまな切り口から市場を細分化し、グルーピングを実施。ターゲティングではセグメント分けした市場のうち、マーケティングの対象とする市場を選定します。その後、ポジショニングでターゲットにアプローチすべき競合製品との差別化ポイントを見つけ出し、具体的なマーケティングプランを検討します。
STP分析を適切に行うことで、製薬企業は市場での競争優位性を高め、効果的なマーケティング戦略を構築することが可能です。
STP分析のやり方や事例について詳しく知りたい方は、以下記事をご覧ください。

顧客理解をより深めるカスタマージャーニーと消費行動モデル
カスタマージャーニーとは、顧客が製品やサービスを購入・利用するまでの行動経路を「旅」に見立てた概念であり、これを可視化したものがカスタマージャーニーマップです。製薬マーケティングではカスタマージャーニーマップを作成することで、医師の視点に立ったマーケティング施策の立案や、複雑化する購買行動の正確な分析、施策ごとのKPIの明確化が可能になります。
カスタマージャーニーマップ作成の主な手順は以下の通りです。
①医師のペルソナ設定:ターゲットとなる医師の詳細な人物像を設定します。
②縦軸・横軸の設定:縦軸には「行動」「感情」「タッチポイント」など、横軸には「認知」「興味・関心」「比較・検討」「購買」などの購買ファネルの各フェーズを設定します。
③タッチポイントの洗い出し:医師が情報収集や意思決定の際に接触するチャネルや手段を特定します。
④顧客行動の記入:各タッチポイントにおける医師の具体的な行動を記載します。
⑤感情・思考の推定と記入:各フェーズでの医師の感情や思考を推定し、視覚的に表現します。
⑥課題の想定と施策の立案:各フェーズで医師が直面する課題を想定し、それに対応する施策を検討します。
カスタマージャーニーマップの作成には、AIDMAやAMTUL、5A理論などの消費行動モデルが参考になります。これらのモデルを活用することで、医師の購買行動を深く理解でき、顧客に適したマーケティングプランの策定に役立ちます。
カスタマージャーニーマップについて詳しく知りたい方は、以下記事をご覧ください。

医師が処方決定するまでの心理プロセスを知る「AIDMA」
AIDMA(アイドマ)は、消費者が商品やサービスを購入する際の心理プロセスを以下の5段階で表し、顧客理解を深めるための消費行動モデルです。
- Attention(注意): 消費者が広告や宣伝を通じて商品やサービスの存在を知る段階。
- Interest(関心): 商品やサービスに興味を持ち、関心を寄せる段階。
- Desire(欲求): 商品やサービスを欲しいと感じる段階。
- Memory(記憶): 商品やサービスの情報を記憶する段階。
- Action(行動): 実際に商品やサービスを購入・利用する段階。
製薬マーケティングにおいても、医師が新しい医薬品を処方するまでのプロセスを理解するために、AIDMAモデルが活用できます。
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例えば、医師が新薬の情報を得て(Attention)、その薬に興味を持ち(Interest)、処方したいと考え(Desire)、情報を記憶し(Memory)、実際に処方する(Action)といった流れです。
医師の処方決定までの心理プロセスを理解することで、各フェーズに位置する医師が「何を考えているのか」「具体的な施策は何か」といったことまで把握しやすくなります。
AIDMAについて詳しく知りたい方は、以下記事をご覧ください。

処方継続や医師との関係構築に焦点を当てる「AMTUL」
AMTUL(アムツール)モデルは、従来のAIDMAモデルを発展させた消費行動モデルで、特に消費者の「信頼」や「愛着」に焦点を当てています。このモデルは、以下の5つのステージで構成されます。
- Awareness(認知):消費者が製品やサービスの存在を知る段階。
- Memory(記憶):認知した情報が記憶に残り、必要時に思い出せる状態。
- Trial(試用):製品やサービスを実際に試してみる段階。
- Usage(利用):試用後、継続的に使用する段階。
- Loyalty(愛用):製品やサービスに強い愛着や信頼を持ち、他者に推奨する状態。
製薬マーケティングでは、AMTULモデルを活用することで、医師の処方行動を可視化し、各ステージに応じた適切なマーケティング施策を展開できます。
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例えば、認知段階では新薬の情報提供を強化し、記憶段階では医師の記憶に残るようなコンテンツを継続的に提供します。試用段階ではMRによる細かな製品特性の説明や他施設での処方事例を共有し、利用段階では処方促進のためのサポートを行います。最終的に、医師が製品に愛着を持ち、他の医師にも推奨するような関係性を構築することまで視野に入れ、顧客の心理プロセスを検討します。
AMTULモデルを適切に活用することで、医師との信頼関係を深め、製品の普及と継続的な使用を促進する効果的なマーケティング戦略の構築を目指せます。
AMTULについて詳しく知りたい方は、以下記事をご覧ください。

データとフレームワークの活用で製薬マーケプランの最適解を探す
製薬マーケティングで効果的な戦略を立案するためには、適切なフレームワークを活用することが重要です。3C分析、PEST分析、5フォース分析を活用し市場環境を把握し、SWOT分析で戦略の方向性を決定します。ターゲット選定・プラン策定にはSTP分析、顧客理解にはカスタマージャーニー、AIDMA、AMTULなどが有用です。
これらのフレームワークを最大限に活用するためには、各要素の情報を集めるためのデータ分析が欠かせません。市場や顧客の状況を定量的に分析し、エビデンスに基づく施策を展開できるよう、データドリブンな意思決定を行いましょう。