【マーケティング戦略の基礎】3C分析とは?具体的な方法や製薬企業の実践例を解説
マーケティングプランの立案時に使われるフレームワークの一つに「3C分析」があります。3C分析は、市場・顧客や競合他社、自社の分析が行えるフレームワークです。本記事では、3C分析の概要や製薬マーケティングにおける具体的なやり方や、SWOT分析やPEST分析との違いについて解説します。
- マーケティングの基礎「3C分析」とは?
- 製薬企業のマーケティングで3C分析が必要な理由
- マーケティングにおける3C分析の具体的な指標
- 市場・顧客(Customer)
- 競合(Competitor)
- 自社(Company)
- 製薬マーケティングにおけるPEST・3C・SWOT分析の位置づけ
- 製薬企業のマーケティングにおける3C分析の具体例・やり方
- 手順①|マクロ→ミクロの順で市場・顧客(Customer)の情報を集める
- 手順②|MRなどから競合(Competitor)の情報を集める
- 手順③|競合と対となる自社(Company)の情報を整理する
- マーケティングで3C分析を行う際の注意点
- 製薬マーケティングにおいて3C分析は基礎的なフレームワーク
マーケティングの基礎「3C分析」とは?
3C分析とは、自社のマーケティング環境を分析するフレームワークのことです。フレームワークは経営戦略の立案や分析、問題解決を行う際に用いられる思考の枠組みを指します。
3C分析を用いることで自社と外部のマーケティング環境を客観的に検討でき、効率的なマーケティング戦略立案につながります。
具体的には、以下のように「市場・顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つの視点でマーケティング分析を行います。
3つの視点(3C)の関係は、戦略的三角関係(strategic triangle)と呼ばれ、マッキンゼーの経営コンサルタントだった大前研一氏の著書『The Mind of the Strategist』(1982年)の中で提唱されたことで広く知られるようになりました。
製薬企業のマーケティングで3C分析が必要な理由
製薬企業のマーケティングで3C分析が必要な理由として、主に以下の点が挙げられます。
- 常に変化する現代に対応するため
- KSF(Key Success Factor:成功要因)を見つけ出すため
世の中全体の変化はビジネスと深い関わりを持ちます。例えば、新型コロナウイルス感染症のような世界的なパンデミックによる医療体制の変化や、物価上昇や円安による製造コストの上昇などは、製薬企業の売上にも大きな影響を及ぼします。
実際にロシア・ウクライナ危機では、原材料やエネルギー価格の上昇により調達コストが2倍に増加し、医薬品の売上原価が悪化しました1)。
製薬企業においても、目まぐるしく変化する時代に対応するために3C分析で自社を取り巻く環境を把握し、KSF(Key Success Factor:成功要因)を見つけ出さなければなりません。
マーケティングにおける3C分析の具体的な指標
マーケティングにおける3C分析の具体的な3つの指標は以下の通りです。
- 市場・顧客(Customer)
- 競合(Competitor)
- 自社(Company)
市場・顧客(Customer)
3C分析では、自社を取り巻く市場・顧客(Costomer)を把握し、医薬品分野の将来性や顧客の消費行動などのデータを分析します。市場・顧客の分析は、競合他社や自社製品がどのように評価されているのかを見極め、マーケティング戦略の方向性を決定するために必要不可欠です。
一般的に3C分析の市場・顧客の検討では、「PEST分析」や「ファイブフォース分析」がセットで用いられます。
PEST分析とは、「Politics:政治的要因」「Economy:経済的要因」「Society:社会的要因」「Technology:技術的要因」のマクロ環境を分析するフレームワークです。世の中の流れを広く俯瞰し情報収集・整理を行います。
ファイブフォース分析は、「競争業者」「新規参入業者」「代替品」「売り手」「買い手」の5つの脅威(Force)を分析するフレームワークです。自社ビジネスに大きな影響を与えるミクロ環境を分析することで、自社の有利となる競争要因を見つけ出します。
競合(Competitor)
3C分析における競合(Competitor)の指標では、他社のサービス提供体制や内容、品質などを分析します。競合他社のベンチマーキングをすることで、自社のマーケティングにおける課題発見や改善につながるアイデアを生み出せます。
競合他社の分析で重要なポイントは、「結果」とその「理由」を明確にすることです。例えば、他社の医薬品の売上が自社より高いのであれば、売上が高いという結果と理由を把握できるように情報を整理し、競合の優れているポイントを明らかにします。
「結果」とその「理由」を押さえることで、競合よりも魅力的なサービスの提供ができるメリットもあるのです。
競合分析の「指標」としては、以下のような項目が挙げられます。
- 売上
- 販売ルート
- 市場シェア
- 顧客数
- 競合製品の評価
- サービスの利便性
- 社員一人当たりの生産性
- 営業体制
競合が複数存在する場合は1社ごとに分析を行うことで、競合全体に共通する事項と個別ならではの特徴も見えてきます。自社業界の競合全体に対策を立てるのか、個別に対策するのか、意思決定がしやすくなるでしょう。
自社(Company)
3C分析における自社(Company)の指標では、これまでの「市場・顧客」「競合」と比較することで、自社の強みや弱み、KSFを導き出します。例えば、コロナ禍における病院の訪問規制(市場・顧客情報)に対して、他社と自社のマーケティングを比較することが可能です。
市場・顧客の変化に競合がどのように対応しているのかを分析することで、自社に足りないものを見つけ出せるでしょう。自社分析で着目すべきポイントは以下が挙げられます。
- 経営資源
- 売上高
- 市場シェア
- 収益性
- 販路
- 技術力
- 組織力
自社分析では、一般的にSWOT分析というフレームワークがセットで用いられます。SWOT分析を行うことで、自社の内部環境に該当する「強み:Strength」「弱み:Weakness」と、外部環境に該当する「機会:Opportunity」「脅威:Threat」を整理し、KSFの導出精度を高めます。
製薬マーケティングにおけるPEST・3C・SWOT分析の位置づけ
製薬マーケティングプランを策定するためには、「PEST分析」「3C分析」「SWOT分析」のフレームワークを用いることが一般的です。
3つのフレームワークの目的・対象・観点・取り組むべき順番を表に整理すると、各分析手法は以下のような位置づけとなります。
PEST分析は、3Cにおける市場・顧客の業界情報を収集するためにも必要不可欠です。一方でSWOT分析は、3C分析で得られた自社を取り巻く内外環境の情報から強みや弱みなどを明らかにし、最適なマーケティング戦略を決定するために用いられます。
PEST・3C分析でKSFを抽出し、SWOT分析で自社に最適なプランを決定するプロセスがマーケティングプラン策定の一連の流れです。3つのフレームワークを正しく組み合わせることで分析の精度が高まり、自社の課題解決や増収増益につながる製薬マーケティング戦略を立てられるでしょう。
製薬企業のマーケティングにおける3C分析の具体例・やり方
製薬企業の例を挙げながら、3C分析の具体的なやり方を紹介します。
- 手順①|マクロ→ミクロの順で市場・顧客(Customer)の情報を集める
- 手順②|MRなどから競合(Competitor)の情報を集める
- 手順③|競合と対となる自社(Company)の情報を整理する
ここからは、上記3つの手順を具体的に解説します。
手順①|マクロ→ミクロの順で市場・顧客(Customer)の情報を集める
製薬企業の3C分析では、まずはPEST分析で収集・整理したマクロ環境の情報や、自社ビジネスと関わりの深いミクロ環境を中心に市場・顧客情報を集めます。
3C分析で確認すべき市場・顧客情報として以下が考えられます。
<市場>
- 疾患市場
- 診療報酬改定
- 薬価改定
- 政府の医療計画
- 医療現場のIT化
<顧客の動向>
医師
- 医師法
- 医療法の改定
- 医療機関の経営状況
- KOLとその影響力
患者さん
- 世帯収入
- 年金制度
- 受療行動
- 景気や社会保障制度の変化における消費行動
3C分析の市場・顧客では、マクロ・ミクロ環境が業界に及ぼす影響や、医師や患者の行動要因を探ります。これにより自社のKSFが見つかり、マーケティングプランの方向性が定まるでしょう。
手順②|MRなどから競合(Competitor)の情報を集める
3C分析の市場・顧客情報の収集・整理の次は、製薬業界の「競合」がどのような企業活動を行っているのかを分析します。競合他社の分析では、実際に営業担当を行うMRや医療従事者にアンケートを実施し、業界の生の声を広く集めることも重要です。
競合他社に関する具体的な調査内容として、以下の例が挙げられます。
- 競合品の売上やトレンド、キャンペーンなどの特約店施策
- 競合他社の新薬の上市時期、MR数、所長(マネージャー)数、プロモーション方法
- 臨床試験や基礎実験など、競合品に関連する論文・学会に対する医師の反応
- ウェブセミナーやリーフレット、製品メッセージの内容と医師の反応
- 全国講演会や地域の後援会、患者会への支援活動の有無
- MRをサポートするSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)やAIツールの活用の有無
集めた情報の中から、他社の売上向上や顧客数の増加、認知度拡大といった結果の理由を探ります。販売ルートや営業戦略などは非公開のケースが多く、全ての情報を集めることは困難ですが、可能な範囲でデータ収集を続け、競合の強みや弱みを明確にすることが大切です。自社にはない競合の優れた部分をマーケティングに取り入れれば、会社の増収増益につながるでしょう。
手順③|競合と対となる自社(Company)の情報を整理する
3C分析で競合分析を行った後、競合分析で収集した項目と同じ情報を自社内で集めます。競合分析で集めた情報と対になる自社の情報を整理すれば、他社と比較しやすくなります。
自社分析では、メディカルアフェアーズや医療従事者からの寄せられた問い合わせ内容も対象です。医師や患者の疑問・不安・苦情を解決することで、自社医薬品における弱みの克服にもつながります。
マーケティングで3C分析を行う際の注意点
製薬マーケティングに3C分析を活用する際は、以下の注意点があります。
- 分析の順番を確認する
- 徹底して事実を集める
- 顧客の生の声に触れる
- 時間をかけすぎない
3C分析を「自社や競合→市場・顧客」の順に行うと、マーケティング視野が狭くなったり、分析が解釈や予想ベースになったりする可能性があります。主観的な分析によりミスリードをしてしまうと、自社のプラン策定において適切なKSFを導き出せません。
効果的なマーケティング戦略を立案するためにも、3C分析は順番を意識しながら、事実ベースでの分析を徹底し、顧客の生の声に耳を傾けながら分析を進めていく必要があります。
政治状況や社会のトレンド、顧客のニーズは常に変化し続けます。分析に時間をかけすぎてしまうと、情報収集をやり直す手間が発生したり、新鮮な情報から分析結果を得られないこともあります。そのため、3C分析はスピーディに情報収集・整理を進める必要があるのです。
製薬マーケティングにおいて3C分析は基礎的なフレームワーク
今回は、3C分析の必要性や具体的な指標、製薬マーケティングにおける3C分析の手順や注意点についてご紹介しました。
3C分析はマーケティングの基礎となる重要なフレームワークの1つです。シンプルなフレームワークですが、集める情報の種類、情報のリソースの範囲などで、得られる情報の量と質、そして自社のKSFが変化します。
SWOT分析や策定されるマーケティングプランの精度にも影響が出るため、常に視野を広くし、さまざまな情報を敏感に察知しておくことが大切です。実効性が高いマーケティングプランの策定のために、ぜひ本記事を参考に3C分析を活用してみてはいかがでしょうか。
<出典>※URL最終閲覧日2022.10.31
1)AnswersNews, 2022.10.5, 製薬企業、原材料費高騰に悲鳴…中間年改定「薬価引き下げる環境にない」(https://answers.ten-navi.com/pharmanews/23981/)