医薬品マーケティングにおける4つのメディアの特徴と展望 〜ソーシャルメディア、新規メディア編〜
医薬品のプロモーションにおけるデジタルマーケティングの重要性が高まる昨今、製薬企業のマーケターは顧客へ効果的にアプローチするために、適切なメディアを駆使する必要があります。前回は、医薬品のデジタルマーケティングにおける4つのチャネルのうち、ペイドメディアとオウンドメディアの特徴と展望について解説しました。本記事では、ソーシャルメディアや新規メディアという新しいメディアの特徴や、具体例と展望などを解説します。
製薬企業のソーシャルメディア活用の現状と展望
コロナ禍の影響もあり、ソーシャルメディアの利用が加速しています。他業界では以前からLINEやTwitter、Facebookなどの活用が広く普及していましたが、製薬マーケティングでの利用は限定的でした。しかし、医師との接点が急速に減少する中、新しい情報提供の機会を創出する目的で、さまざまな取り組みが増えています。その中でもソーシャルメディアは、まだ展開されていないマーケティング利用の可能性を秘めているといえるかもしれません。
ソーシャルメディアの現状:LINEやTwitterなどの利活用が進んでいる
ソーシャルメディアは、医療従事者だけでなく患者さん自身やそのご家族も利用しているため、患者さんと直接コミュニケーションを取ることができる数少ないメディアです。
特にLINEは、一般の方にコミュニケーションツールとして広く用いられていることから、患者さん向けでは疾患啓発や患者支援の取り組みでの利用、医療従事者向けでは医師とMRや製薬企業間のコミュニケーションチャネルの新たな一手として、活用が増加しています。
<製薬企業のLINE活用の事例(患者さん向け)>
- アストラゼネカ:乳がん情報へのアクセスを支援、LINEアカウント「わかる乳がん」の提供を開始1)
- 武田薬品工業:パーキンソン病の患者さんやその家族を対象にLINE公式アカウントを用いた疾患関連情報配信を開始2)
<製薬企業のLINE活用の事例(医療従事者向け)>
- アストラゼネカ:医療従事者とのコミュニケーションツールとして、新たにLINE WORKSを導入3)
- ブリストル・マイヤーズ スクイブ:がん領域を対象とする医療従事者向けLINE公式アカウントを開設4)
- 中外製薬:MRを中心とする約2,400名にワークスモバイルジャパンの「LINE WORKS」を導入5)
LINE以外のメディアとしてはTwitterが注目に値します。国内の製薬企業アカウントは、一般人を含めた企業ブランディング中心の運用ですが、医師や学会では新しい動きが見られています。
現実でもKOLであり、ソーシャルメディアでも実名で活動している医師インフルエンサーが登場しています。特に海外のKOLはその傾向が強く、積極的に最新の学会発表や臨床試験結果、自身の考えを発信しており、波及力や拡散力をもたらしています。日本の医師でも最新情報収集にTwitterを利用する医師が一定数存在するというアンケート調査(1,824名の医師の情報収集に関するアンケート調査:2021年10月メディウェル社調べ)も存在します6)
また、最近では国内の学会による利用も見られます。日本循環器学会では、学会自身がTwitter利用指針を定めて公開7)し、一部の専門医が日循情報広報部会協力員(サポーター)として任命されているようです。多くの学会発表内容についてツイートされ会期中のツイート数は約8,000に達し、学会アカウントのフォロワーは倍増しました8)。
オンコロジー領域でも、日本臨床腫瘍学会や日本乳癌学会でTwitterの利用が始まっています。
ソーシャルメディアの課題:本質的な施策はまだ途上、情報リスク対策を
LINEなどを単純に医師とのコミュニケーションの接点として利用しても、メールか、LINEか、オンライン面談かのように、選択肢が一つ増えたに過ぎません。提供される情報内容に大きな違いはないため、本質的な課題解決にはつながらない可能性があります。
また、広く情報を拡散させる試みにしても、薬機法や情報提供ガイドラインなどの規制により、医療用医薬品の情報は医師のみに提供することが原則です。その点、LINEやTwitterでは医師認証を精度高く実装するのが困難で、必然的に提供できる情報は広報レベルが中心となります。医師が求める専門的な情報を個別に提供をするのは難しいでしょう。
学会や医師インフルエンサーから自社製品の情報を発信してもらうことは、直接的にコントロールできません。
加えて、発信だけではなく、受信する情報にも注意が必要です。患者さんや、医療従事者からの返信やツイートに、要配慮個人情報や、安全性情報が含まれると思わぬトラブルや当局報告につながることから、企業責任や安全性報告リスク、関連する業務の負担が増加する恐れがあります。
ソーシャルメディアの展望:既存メディアと全く異なる情報収集と拡散の可能性
製薬以外の他業界では、ソーシャルリスニングとして、顧客のリアルな声を分析して、深い顧客理解や、カスタマージャーニーを作成することは行われていますし、専用のサービスやツールも存在します。PMDA(医薬品医療機器総合機構)が安全性情報収集の一環としてSNS利用を検討するプロジェクトを開始していることから9)、ソーシャルメディアならではの顧客理解や情報収集の可能性があることは明白です。
医師への情報提供のチャネル、内容や量が限られ、医師からのフィードバックが得られにくくなっている現況下では、医師同士の本音の議論や、いいね!などの反応も重要な情報源になります。
また、医師の情報収集・交換として、ソーシャルメディアが今後より影響力を持つ可能性は高いと考えられます。インフルエンサー、KOLを中心にしたクラスター(ソーシャルメディア上の自然発生的なグループ、集団)では、すでに最新データが発表された直後に議論が行われ、数千いいね!や数百リツイートされている事例も散見され、また医師が使うアプリとしてはm3.comについで2位にTwitterがランクインしたアンケート調査結果もあります(1,824名の医師の情報収集に関するアンケート調査:2021年10月メディウェル社調べ)6)。
ただし、製薬企業が医師向けの製品マーケティングを目的としてTwitterでつぶやいたり、医師インフルエンサーと共同してプロモーション施策を実施したりすることはレギュレーション上、簡単ではありません。そのため、ソーシャルメディアのインフルエンサーと関係を構築することや、UGC(User Generated Contents:ユーザーによって作られたコンテンツ)を生み出す方法論を確立することが重要になります。
マーケターとして、リアルのKOLだけでなく、ソーシャルメディア上のインフルエンサーとの関係構築を強化し、UGCを発生させる方法を見つけ出すことができれば、これまでとは異なった強力なデジタルマーケティング施策になることが期待できます。
製薬企業の新規メディア・サービス群活用の可能性
2010年代後半からは新しいメディア・サービスが次々と立ち上がっています。
特徴として、いずれも医師が創業メンバーにいるなど「医師による医師・医療のためのサービス」という点が強みで、既存メディアよりもユーザーファーストであり、既存メディアにはない期待感を感じさせます。
注目すべき新しい6サービスの概要
製薬マーケティングに関連し、特色があり、かつサービスが順調に伸びている6つのメディア・サービスの概要を表にまとめました。
医師向け情報提供サービスだけでなく、医師同士のマッチングやコミュニティ機能、さらには患者さんの疾患の早期発見や受診に導くような、治療フェーズを超えたサービスもあります。
すでに、製薬企業が利用している事例も散見されていることから、各社のサービスの特徴を十分に理解することが第一歩です。
自身の担当製品のマーケティング課題とマッチさせて、どうやって解決に結びつくかを新規メディア企業と十分に議論することが重要です。
長期目線で協働し、新しい価値と成果を生み出す
新規メディア・サービス群は成長している最中であり、会員数や実績で見ると既存メディアより見劣りするかもしれません。
ただし、本質的に医師のニーズに刺さるサービスが多く、理念や方針が合致すれば、新しいサービスを協働し、作り上げることも可能です。
これまでにない発想と、既存の枠にはとらわれない方法を製薬側のマーケター自身が考え、長期目線で協働することができれば、既存メディアでは叶えられなかった成果が生み出される可能性があります。
新しいサービス連携に挑戦する際には、規制や社内調整、市場浸透の時間など困難もありますが、もし経験や実績を積むことができれば、先行者利益として、次世代のデジタルマーケティングを一歩リードできるというメリットも享受できるでしょう。
医薬品マーケティングとメディアの新時代が到来
紹介してきた4種のメディアを見渡すと、課題も多いことながら、さらなる活用可能性も十分にあると感じられたかもしれません。メディア自身も、活用施策もまだまだ進化している最中で、過去のペイドメディア一色の時代から比べれば、これからがメディアの新時代ともいえます。
本記事から各メディアの特徴を十分に理解し、自身の企業方針や担当製品に合ったメディア活用や新しいマーケティング施策を検討してはいかがでしょうか。厳しい時代においても、その経験はきっと今後の役に立つ時が来ると思います。
▼ペイドメディア、オウンドメディア編はこちら
<出典>※URL最終閲覧2022年12月12日
1) アストラゼネカ, 2022.09.07, アストラゼネカ、乳がん情報へのアクセスを支援、LINEアカウント「わかる乳がん」の提供を開始
(https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2022/2022090701.html)
2) 武田薬品工業, 2021.02.15, パーキンソン病の患者さんやその家族を対象にLINE公式アカウントを用いた疾患関連情報配信を開始
(https://www.takeda.com/ja-jp/announcements/2021/pd-line/)
3) アストラゼネカ, 2021.06.30, アストラゼネカ、医療従事者とのコミュニケーションツールとして、新たにLINE WORKSを導入
(https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2021/2021063002.html)
4) ブリストル・マイヤーズ スクイブ, 2020.08.05, がん領域を対象とする医療従事者向けLINE公式アカウントを開設
(https://www.bms.com/jp/media/press-release-listing/press-release-listing-2020/20200805.html)
5) 中外製薬、ワークスモバイルジャパン, 2020.09.01, 中外製薬、MRを中心とする約2,400名にワークスモバイルジャパンの「LINE WORKS」を導入
(https://www.chugai-pharm.co.jp/news/cont_file_dl.php?f=200901jLINE+WORKS.pdf&src=[%0],[%1]&rep=2,1020)
6) EPILOGI, メディウェル, 2021.10.19, 医師が情報収集に使うアプリランキング
(https://epilogi.dr-10.com/articles/4886/)
7) 日本循環器学会, 2019.03.28, 日本循環器学会ツイッター利用指針
(https://www.j-circ.or.jp/old/topics/tw_guidelines.pdf)
8) 医学界新聞, 医学書院, 2019.04.29, 日循が講演内容をTwitterで発信(第83回日本循環器学会学術集会の話題より)
(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2019/PA03320_02)
9) 薬事日報, 薬事日報社, 2022.04.18, 【PMDA】SNSで副作用兆候検出‐24品目対象に試行調査開始
(https://www.yakuji.co.jp/entry94706.html)