製薬マーケティングに役立つ心理学・行動経済学|基本的な考え方や事例まとめ

マーケティングやビジネスコミュニケーションに役立つと注目されている行動経済学。医療の分野でもさまざまなシーンで活用されています。本記事では、患者向けサイトや冊子制作などで疾患啓発に携わる製薬企業のマーケティング担当者に向けて、行動経済学の考え方やマーケティングへの活用事例をまとめました。

行動経済学とは

「行動経済学」は、人間は必ずしも合理的に行動しないことを前提とし、心理的側面を考慮した分析を行う経済学のことです。経済学の理論をベースに心理学を踏まえて分析する学問といえます。2017年にリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞して以来、「行動経済学」やその中のひとつである「ナッジ理論」が注目されるようになりました。

マーケティング研究の第一人者フィリップ・コトラー氏は、「行動経済学は『マーケティング』の別称にすぎない」と述べています1)。どのようなプロセスで人間は非合理的判断をしてしまうのか、どうすれば合理的判断を行うことができるのかを知ることができる行動経済学、そして社会心理学の考え方は、マーケティング施策の立案にも活かせるのです。

医療用医薬品のマーケティングにおいても、「患者さんに受診してもらいたい」「服薬を継続してもらいたい」などの意図で資材やオウンドメディアを制作するものの、合理的に説明さえすれば患者さんは行動してくれるとは限りません。そのようなときに、行動経済学の理論はマーケティング活動のヒントを与えてくれるでしょう。

行動経済学の代表的な理論「ナッジ」「ヒューリスティック」

行動経済学の代表的な理論に「ナッジ」と「ヒューリスティック」があります。小さな工夫をすることで人々の自発的行動を促すナッジの手法は、マーケティングに限らず、医療分野や社会問題の解決にも活用されています。そのナッジに使用されているのが、ヒューリスティックという人間の特性です。

ナッジ理論

ナッジは「肘で軽く小突くように、自発的に望ましい行動を選択するように促す」という意味です1)。企業だけではなく、公共政策でも活用が進んでおり、近年注目を集めています。

健康・医療の分野でもナッジを活用したさまざまな事例があり、その成果も報告されています。
製薬企業の医薬品マーケティングにおいても、患者向け資材の制作や疾患啓発サイトを構築する上で、最終的にどのような行動をしてもらいたいか、を考え施策を検討することは非常に大切です。

健康・医療分野でのナッジの事例、ナッジを用いた予防医療に関するソーシャルマーケティングについては、以下記事で紹介しています。

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ヒューリスティック

人間は、何か判断をするときに、無意識のうちに今までの経験や先入観によって意思決定することがあります。そのように、時間をかけずに判断するために物事を単純化する思考法を「ヒューリスティック」といいます。マーケティングにおいてターゲットにメッセージを届ける際、この特性を理解していないと、メッセージが正しく伝わらないことがあります。

以下の記事では、より相手に伝わるメッセージを作成するためのヒントとして、ヒューリスティックのうちフレーミング効果、初頭効果について解説しています。

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心理学で用いられる理論もマーケティングのヒントに

医療サービスにおいて活用されている心理学の理論が多くあります。Medinewでは「自己効力感」「ナラティブ」「アサーション」といった考え方を紹介しています。これらの考え方は製薬企業のマーケティングにおいても有効な手法だと考えられます。

自己効力感

「自己効力感」は長期間にわたって形成された生活習慣の変容を促す場合に不可欠な概念であり、生活習慣の改善に重要であるとされています。自己効力感とは、簡単にいえば「自分にはきっとできる」と思える力のことです。
製薬企業のマーケティング担当者も、この考え方を理解しておくと患者向け資材の作成やオウンドメディアのコンテンツ制作時に応用できるでしょう。

自己効力感については以下記事で詳しく解説しています。

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ナラティブ

患者さんの看護や介護を支援する際に、「ナラティブ」というアプローチ方法を行うことがあります。「ナラティブ」は「物語」「話術」「語り口」という意味を持つ言葉です。医療においては、患者さんが語る経験や対話などを通して個別性の高いケア・医療を提供することをいいます。企業のマーケティング活動においても、ユーザーを主人公とする物語をCMにしたり、体験型のイベントを実施したりといったナラティブの手法が注目されています。

ナラティブについては以下記事で詳しく解説しています。

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アサーション

「アサーション」は、相手に配慮しつつ自分の意見をきちんと伝えるコミュニケーションスキルの一つです。もともとは心理学の分野でカウンセリングの手法として使われていました。現在では、医療・福祉分野などに従事している方の患者さんへの対応などにも活用されています。製薬企業では、患者さん支援策の立案や、医師とのやりとり、社内での上司への提案などにも活かせるスキルです。

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行動経済学やナッジ理論をもっと知りたくなったら

製薬企業のプロモーション資材やWebコンテンツは正確性だけに意識が向いてしまい、なんだか伝わりにくい文章になってしまった、というケースもあります。また、読者に行動を起こしてもらいたいときにも、マーケティングだけではなく人間の心理的側面を知っておけば、行動に移してもらえる確率が上がります。

行動経済学の視点は医薬品マーケティングにも活かせますので、もっと知りたくなった方はこちらの記事を参考にしてみてはいかがでしょうか。行動経済学やナッジを学ぶのにおすすめの本やサイトをまとめています。

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<参考>
1) 阿部 誠, 新星出版社, 2021,『ビジネス教養 行動経済学 (サクッとわかるビジネス教養)』