医療現場でも活用される「アサーション」とは?心理療法から学ぶ、言いにくいことを伝えるためのスキル

相手の気持ちを考えながら自分の気持ちを正直に伝える、「アサーション」というコミュニケーションスキルをご存知でしょうか。アサーションの考え方は、チーム医療の現場や医療者と患者さんの間のコミュニケーションでも活用されています。製薬企業では、患者さんへの支援策などを考える際にも役に立つ内容です。本記事では、アサーションの基本的な考え方と具体例を紹介します。

アサーションとは?

「アサーション」とは自分の気持ちや意見、相手への希望などを伝えたいとき、なるべく率直に、その場に合った適切な方法で伝えるコミュニケーションスキルのことです。

1950年代のアメリカで心理療法として、内気な人や恥ずかしがり屋のためのトレーニングとして考案されました。その後1960年代に公民権運動を背景に、社会的弱者が声を上げる方法として注目され「人間には皆誰しも自分が表現したいことを表現して良いという生まれつきの権利がある」と認識されるようになりました。根底には、一人ひとりが異なる価値観や考えを持ち、表現することは基本的人権として守られているとする理念があります。

心理療法を超えて発展するアサーション・トレーニング

アサーション・トレーニングは、個人の心理的問題を解決するための介入技法として使用されており、現在はさまざまな領域に向けて発展しています。例えば医療・福祉分野などのサポート職に従事している人が、サービスの受け手とのコミュニケーションに悩み、燃え尽き症候群などの心理的な問題に陥ることを防ぐためにも使われています。
コミュニケーションに悩む人であれば、領域関係なく有効な方法です。

アサーション・トレーニングの具体的な方法の前に、まずはアサーションにおける3つのコミュニケーションスタイルについて紹介します。

3パターンのコミュニケーションスタイル

アサーションの考えでは、コミュニケーションスタイルには「非主張的表現」「攻撃的表現」「アサーティブな表現」の3パターンあるとされています。このパターンは人によって固定されたものではなく、相手や場合によって変化します。

1. 非主張的表現

自分の気持ちを言わない、というスタイルです。例えば、患者さんが医師に「もっと具体的に説明をしてほしい」といえず、曖昧にして我慢するような場合があてはまります。「私はOKでない、あなたはOK」の状態であり、服従的で相手任せなコミュニケーションスタイルといえます。

2. 攻撃的表現

自分の気持ちだけを言い、相手の意見を聞かないスタイルです。
例えば、同僚へ「今日はあの店にランチに行くわよ」と告げて、否応なく連れて行くような場合があてはまります。
「自分は常に優先されるべき」と考える人も攻撃的な自己表現になりがちです。「私はOK、あなたはOKでない」状態であり、支配的で自分本意なコミュニケーションといえます。

3. アサーティブな表現

自分の気持を正直に言い、相手の気持ちも確かめるスタイルです。
「私はOK、あなたもOK」の状態を指し、歩み寄りがあり、自他尊重のコミュニケーションといえます。思い通りに相手を動かそうとするのではなく、相手も自分も大切にしながらお互いが納得できるようなコミュニケーションを目指すことがアサーションの第一歩となります。

アサーティブな表現を行うための「DESC法」とは?

では、アサーティブな表現を行うにはどうしたらよいのでしょうか。
ここでは「DESC法」という手法を紹介します。具体的に相手にどう伝えるかという「台詞づくり」のためのポイントの頭文字を取って「DESC」(デスク)と呼ばれます。

DESC法詳細

「DESC法」を使ったアサーションの具体例

具体例で「DESC法」の使い方を見てみましょう。

例:既婚の女性患者さん

彼女は仕事をしながら月2回の通院があり、家事の分担に不満を持っています。
病気が発覚した際、夫は「家事は分担するよ」と言ったはずですが、気がつけば自分ばかり家事をしているような気がしています。
鬱憤がたまり、女性は夫に「いつも私ばかり家事をしている。分担するって言ったのに。私は病気なのに思いやりのない人ね。あなたも少しはやってよ」と言いました。
夫は「俺だってやってるじゃないか」と反論し、結局「やっている」「やっていない」の喧嘩になり、何も解決しないままお互い嫌な気持ちになってしまいました。

この女性患者さんの場合、アサーションの考え方を用いて、どのように夫に伝えればお互い納得することができるのでしょうか。

アサーティブな台詞の組み立て方

この台詞をDESCに沿ってアサーティブな表現に言い換えてみましょう。
まずDとE(描写と説明)を分けることがポイントになります。

【D】描写する

「D」の描写では、客観的であることが重要です。「いつも」「何も」は主観が入っているため、相手は認めづらくなってしまいます。目的は共通認識を作ることなので、なるべく数字で表すと効果的です。

例:「今週の食事は6回のうち4回は私が作りました。洗濯と掃除は私がしました。今週あなたがした家事は一度ゴミ出しをしただけです」

【E】説明する

「E」の説明では「私」の気持ちを表現します。
「思いやりのない人ね」の主語は「あなた」です。「あなた」メッセージの多くは、相手を責めるときに使われます。「私」がどう感じたのかを正直に表現するほうが、相手にとって受け取りやすいメッセージになります。この表現を「私」メッセージに言い換えると、以下のような表現になります。

例:「あなたも忙しいと思うけど、私は自分がほとんど家事をしているような気持ちになって悲しくなるし、家事の負担が大きくて疲れています」

【S】特定の提案をする

提案の「S」です。「少しはやってよ」という表現では具体性に欠け、相手はどうしたらいいのかわかりません。できるだけ具体的な行動変容を提案します。
ポイントは、小さな変化を提案することです。大きな変化の提案は相手が納得し難く、実現可能性も低いので注意しましょう。

例:「洗濯は週1回、土曜日はあなたがやってほしい」

【C】選択する

最後に、選択の「C」です。相手にも断る権利があるので、提案を受け入れられない場合を想定します。代替案を用意しておかないと、一つの提案に固執してしまい、よい結果になりません。

例:「じゃあ週末に洗濯できないときは、次の週に病院まで車で送り迎えしてくれない?」

応用編/言いにくいことを伝える「アサーティブ・サンドイッチ」

DESC法の応用編として、神経過敏な傷つきやすい人に対して、言いにくいことを伝えなくてはいけない場合のコツがあります。「アサーティブ・サンドイッチ」という、2つの肯定文の間に言いたいことを挟む方法です。

例えば、重要ではない連絡を頻繁に送ってくる友人に対して連絡頻度を落としてほしい場合、

「私はあなたが連絡をくれるのを楽しみにしています」(肯定1)
「でも平日夜11時以降は明日の準備をしているから困ることがあります」(言いたいこと)
「週末なら大歓迎です」(肯定2)

という言い方です。とても有効な表現方法で簡単に活用できます。

日々のコミュニケーションで活用できるアサーションスキル

このように、アサーションのポイントを理解することで、言いにくいことを適切に伝えるほか、相手が納得しやすいメッセージを組み立てられます。社内で上司へ提案する際など、日常のさまざまな場面で使えるスキルです。また、アサーションを理解することは、日々の我慢が重なったり、言いたいことが言えない患者さんの支援策を考える際のヒントにもなります。

今回ご紹介したアサーションのポイントを、日々のコミュニケーションに活用したり、患者さん支援策の企画立案の参考にしてみてはいかがでしょうか。


<参考>
森川早苗『アサーション・トレーニング 深く聴くための本』2010年,金子書房
下山晴彦『面白いほどよくわかる!臨床心理学』2012年,西東社