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患者の気持ちを理解する新たな手法?! グラフィック・メディスンとは

2007年に英国のコミックス・アーティストであり医師でもある、イアン・ウィリアムズがグラフィック・メディスン*1のwebサイトを立ち上げ提唱した概念です。そのコンセプトは、病気をめぐる患者自身または家族の、複雑な経験・心理を伝える手法としてコミックス・マンガを捉え、医療従事者との相互理解、治療に有効なメディアにするという考え方です。

*1 「グラフィック・メディスン」とは、2007年にイアン・ウイリアムズが概念を提唱し、2010年からは毎年国際会議が開催されている。2018年には日本でも一般社団法人として日本グラフィック・メディスン協会が設立された。

医療マンガとグラフィック・メディスン

日本には古くから医療マンガというジャンルがあり人気があります。古くは手塚治虫の「ブラック・ジャック」(1973〜1983)、最近ではドラマ放映が新型コロナ感染症のために延期になった「アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり」荒井ママレ(2018〜)、その他作品を挙げようとすれば膨大な数です。そのほとんどが医療業界の内部をテーマにし、医療従事者の視点で描かれ、医療の内情を代弁しています。患者にとって役立つ物語も少なくありませんが、どちらかというと職業マンガの位置付けでしょう。

グラフィック・メディスンの考え方は、患者またはその家族が病気とそのケアに対してどのような思いを抱いているか、事実と心理を元にした患者自身の目線または家族の目線で描かれることに重きを置いたコミックス・マンガを指します。そこにはリアルな患者の悩み、苦悩、不安が如実に描き出され、何気ない一コマに描かれた登場人物の表情が重要な意味を持っていることもあるのです。

臨床心理学の世界では患者の心理を読み解くナラティブ・アプローチ*2が、患者と医師の間で行われる心理療法の一つでしたが、それがナラティブ・ベースド・メディシン(NBM)として医療現場でも活用されています。現在の医療はNBMとエビデンス・ベースド・メディシン(EBM)が互いに補完し合ったものと言えるかもしれませんが、NBMを推進するための有効な手段がグラフィック・メディスンの考え方ではないでしょうか。

*2 「ナラティブ・アプローチ」とは、相談相手や患者などを支援する際に、相手の語る「物語(narrative)」を通して解決法を見出していくアプローチ方法。1990年代に臨床心理学の領域から生まれたが、現在では医療やソーシャルワークなどの分野でもNBMとして実践されている。

日本におけるグラフィック・メディスン“的”なマンガ

グラフィック・メディスンを代表する作品に「母のがん」ブライアン・フィース(ちとせプレス)が有名です。肺がんにかかった60代の母と家族を描いたグラフィック・ノベルで、深刻な病により患者本人や家族の日常生活が一変し、それぞれの思いが交錯する様子を、独特の表現とイラストで、正直に真正面から、時にユーモラスに描いた話です。

もともとマンガ文化が特異的に発展していた日本では、患者の心理を患者の視点から書いたマンガも多数あります。
ドラマ・映画にもなった「ツレがうつになりまして。」細川 貂々(幻冬舎文庫)、大腸がん手術を受けた自身の経験を描いた「がんまんが 私たちは大病している」内田春菊(ぶんか社)、アルコール依存や鬱(うつ)といった壮絶な経験をからりとした描写で描いた「失踪日記」吾妻ひでお(イースト・プレス)。
病気ではないが、交通事故から引き起こされた自身の変化を淡々と描いた「交通事故で頭を強打したらどうなるか?」大和ハジメ(KADOKAWA)。
また、ウェブ上では、多くのアマチュアの描き手が病の経験をマンガにし、ブログやツイッターで発表しています。

患者から学ぶ手段として

通常診療において医師が患者に伝えることは多々あり、それができる立場です。しかし、患者側は医師に伝えたいことが多数あっても時間的制限や必要性への疑問があり、特に気持ちを伝えるのは表現も難しく、諦めてしまうこともあると思います。患者がどんな思いでその治療を受け入れているのか、医療従事者がそれを理解する手段として、グラフィック・メディスンは一つの有効な手法かも知れません。

〈参考〉
GRAPHIC MEDICINE https://www.graphicmedicine.org/why-graphic-medicine/
日本グラフィック・メディスン協会 https://graphicmedicine.jp/
臨床心理学用語辞典 http://rinnsyou.com/