知っているようで知らないDTC広告の基本|メリットや活用事例を紹介

知っているようで知らないDTC広告の基本|メリットや活用事例を紹介

医薬品の販促活動で売り上げが伸び悩んでいる場合、DTC広告を活用できていないケースがあります。販促活動では医療従事者へのアプローチも重要ですが、疾患啓発を通した潜在患者の発掘も売り上げが増える要因となるため欠かせません。疾患の症状などを情報提供することで、疾患に気づき医療機関を受診する患者が増え、間接的に自社医薬品の売り上げにつながります。本記事では、一般向けに行うプロモーション活動であるDTC広告の概要やメリット・デメリット、具体例を解説します。

製薬業界におけるDTC広告とは?

DTC広告は、広く世の中に正しい疾患や治療の情報を届けることが目的であり、社会貢献につながる活動です。ここでは、DTC広告について下記3つの観点から解説します。運用時の注意点など、ポイントを押さえておきましょう。

  • DTCは何の略?製薬企業が一般向けに行うプロモーション活動
  • 日本における製薬企業のDTC広告には制限が多い
  • 製薬企業のDTC広告の役割は主に疾患啓発

DTCは何の略?製薬企業が一般向けに行うプロモーション活動

DTCは「Direct to Consumer」の略で、その言葉通り「顧客直結」を意味します。米国で製薬企業が医療用医薬品の製品関連情報を、医療従事者だけでなく一般の方に直接提供していったことが起源となり、顧客直結のマーケティング・コミュニケーションの活動のことを指して呼ばれるようになりました1)

ただし、米国とは異なり日本では積極的な一般向けへの製品販売広告は薬機法や適正広告基準などの法令で禁止されています。

そのため、日本において、DTCマーケティングは「製薬企業が自社の医療用医薬品に関連する特定の疾患に焦点を当て、結果として自社製品の処方に結びつけるために医療消費者への疾患啓発から潜在患者の発掘、受診の促進、そして受診後の疾病管理、患者の生活指導、継続的治療を促すための中長期的かつ計画的に実施する総合的なマーケティング・コミュニケーション活動である」と定義されています1)

よって、DTC広告では、製品名を出さずに疾患名や社名を主として情報提供を展開していくことになります。

日本における製薬企業のDTC広告には制限が多い

前述の通り、日本ではテレビやWebサイト、新聞などに医療用医薬品の製品名を出すことができません。
薬機法の制限を受けるのは、下記3項目2)を満たしている場合です。

  • 顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること
  • 特定医薬品などの製品名が明らかにされていること
  • 一般人が認知できる状態であること

また、医療広告は常に不適切な文言や表現が入っていないか、厚労省や各都道府県などから監視されています。そのため、製薬企業がDTC広告を出す際には細心の注意が必要です。

製薬企業のDTC広告の役割は主に疾患啓発

製薬企業は医療用医薬品を直接患者に販売できないため、DTC広告で発信する内容は主に「疾患啓発」となります。疾患の正しい知識を広く提供することで、情報を受け取った潜在患者が症状から疾患を認知し、正しい知識を持って医療機関を受診するように促すことが目的です。

DTC広告で得られる3つのメリット

DTC広告は制限が多いものの、適切かつ効果的に実施することで、主に下記3つのメリットが得られます。

  • 間接的な自社医薬品の売上向上
  • 医療業界での企業の認知度向上
  • 患者を含む一般の方からの企業の認知度向上

メリットを知っていればより有効的にDTC広告を活用できるため、把握しておきましょう。

①間接的な自社医薬品の売上向上

DTC広告を展開すると、間接的な自社医薬品の売上向上が見込めます。その理由は、DTC広告を見た潜在患者が疾患を認知して医療機関を受診するようになり、潜在患者が顕在化することで市場自体が拡大するためです。また、既診断患者においても、正しい知識を啓発することにより治療へのモチベーションアップを促すことなどが期待できるでしょう。

同じ市場に競合医薬品があったとしても、市場全体が大きくなれば自社医薬品の売り上げ向上も期待できます。

②医療業界での企業の認知度向上

DTC広告は、医療従事者を含めた多くの方が目にします。企業名が医療機関に認知されることで、自社がどんな領域の医薬品を取り扱っているか理解してもらいやすくなる点もメリットです。特定の疾患に強みを持つことができれば、医療従事者からも相談されやすくなるでしょう。

DTC広告を見た患者が通院して、診察の際に企業名を伝えてくれる可能性もあります。そうすれば、医療従事者からより信頼を集められるでしょう。

また、疾患の正しい情報を提供していくことは社会貢献にもつながります。企業として医療業界で高く評価される要因になり、企業のイメージアップが見込めます。

③患者を含む一般の方からの企業の認知度向上

OTC医薬品を扱っていないメーカーは一般消費者に社名を認知されにくい傾向にあります。そこで、DTC広告を通じて社名の認知度が高まると、医療機関で医薬品が処方された際に患者が認識しやすくなり、信頼度の向上につながります。

社名や治療方法を患者が認知することで、薬剤選択に理解を示してもらいやすくなるでしょう。治療内容に納得することでアドヒアランスの向上が見込めるという点もメリットと言えます。

DTC広告で懸念される3つのデメリット

DTC広告はメリットがある一方、デメリットもあります。DTC広告で懸念されるデメリットは、下記の3つが考えられます。

  • 広告に関わるコストがかかる
  • マイナスイメージがつく可能性がある
  • 製薬企業として信頼を損ねる可能性がある

懸念されるデメリットを防ぐために、それぞれ詳しく見ていきましょう。

①広告に関わるコストがかかる

DTC広告を出すためには、広告宣伝費がかかります。多くの方に情報を届けるためにマスメディアを使用すると、さらに費用が大きくなるでしょう。

しかし、DTC広告の広告宣伝費は工夫次第で抑えられます。最近はDTC広告もテレビや新聞など費用が数百万円を必要とするマス広告から、広告料が数十万円から始められる比較的安価なWeb広告にシフトしてきているため、うまく活用すればコストを最小限にした広告運用が可能です。

②マイナスイメージがつく可能性がある

DTC広告を出す際は、自社医薬品の売上向上を目指している姿勢が明らかに見て取れるような内容は控えるべきです。

自社をただ目立たせるような内容のCMやWeb広告では、ビジネスイメージが前面に出てしまい敬遠される可能性があります。

あくまでも、患者に適切な疾患の情報を提供することを目的に留めておきましょう。

③製薬企業として信頼を損ねる可能性がある

期待感を高め過ぎる内容や不安をあおる内容でDTC広告を出してしまうと、「治療すれば必ず完治する」などといったような誤った認識につながります。

そもそも、こうした内容は薬機法に抵触する恐れがありますし、治療の効果は個人差があるため、過剰にアピールする内容は控えるべきでしょう。広告内容に問題があれば企業のイメージダウンになり、患者だけでなく医療従事者からも信頼を損ねてしまう可能性があるため注意が必要です。

DTC広告に関連する主な手法

DTC広告に関連する主な手法としては、下記の5つが挙げられます。

手法

概要

オウンドメディアやSNSで疾患や治療について啓発を行う

・すべての広告からの流入の受け皿としての役割

・流入してきたユーザーに向けて、形式に捉われない多くの情報提供が可能

・制作・維持に費用がかかる

外部のWebメディアに疾患や治療についてコンテンツ提供を行う

・疾患の認知が目的であれば効果的

・自社で運営しないので費用も抑えられる

自社のコーポレートサイトにて疾患や治療について情報提供を行う

・新規でオウンドメディアを立ち上げるコストや手間が省略できる

・一般の方と医療関係者でWebサイトの入り口を分ける必要がある

・一般の方向けはわかりやすい言葉で表現する

デジタル広告を活用して疾患や治療について情報提供を行う

・ターゲットの世代に合わせて、届きやすい媒体を選定する

・SNS活用の場合は他の投稿に埋もれない工夫が必要である

テレビや新聞に広告掲載して疾患や治療について情報提供を行う

・インターネットを使用しない世代に効果的

・主流はデジタル広告に移りつつある

各DTC広告の手法には特徴があるため、把握しておきましょう。

オウンドメディアで疾患や治療について啓発を行う

オウンドメディアを運用するメリットとしては、以下の内容が挙げられます。

  • あらゆる広告からの流入の受け皿にできる
  • 注力している疾患領域で詳細情報を発信し続けることにより、自社のブランディング構築を進めやすい


オウンドメディアに掲載するコンテンツの内容は自社でコントロールできるため、企業が目指すブランディング構築の実現に近づけやすくなります。強みを持ちたい疾患領域があれば、注力してみましょう。

また、オウンドメディアはユーザーの行動を分析しやすい点もメリットで、効果判定も容易に行えます。

専門知識を生かしたコンテンツの企画・制作、そしてサイト分析をもとにブラッシュアップされたコンテンツは、資産として蓄積されていきます。1つの疾患領域で手法が確立できれば、他の疾患領域への応用も検討できます。

留意すべき点としては、オウンドメディアは制作・維持にコストがかかることも理解しておきましょう。それを踏まえた上で、長期的な目線で自社医薬品の普及を目指してメディアを運営できる体制づくりをする必要があります。

外部のメディアに症状・疾患のコンテンツ提供を行う

病院検索サイトや症状検索サイトといった健康系メディアに疾患や治療についてのコンテンツを提供し、広告作成やコンテンツの維持・更新にかかるコストを軽減する方法もあります。広く疾患を認知してもらい受診を促すことが目的であれば、有効な方法です。

上記の方法は自社で運営をしないため、維持コストや運営にかける時間を抑えることができます。

自社のコーポレートサイトにて疾患や治療についての情報提供を行う

自社のコーポレートサイトを使用することでWebサイトの立ち上げコストを抑えながら、疾患や治療についての情報を発信できます。

その場合、製薬企業のコーポレートサイトは患者だけでなく、医療従事者が医薬品の情報を閲覧するため、入口や内容を明確に棲み分ける必要があります。加えて、一般の方向けページは専門用語を減らすなど、できる限りわかりやすい内容を心掛けてください。

デジタル広告を活用して疾患や治療について情報提供を行う

デジタル広告の方法については、代表的な下記3つの方法を解説します。

  • リスティング広告
  • 動画広告
  • SNS広告


リスティング広告は、Googleなどの検索エンジンで検索されたキーワードに紐づき、掲載されるテキスト形式の広告を指します。デジタル広告の中では低額からでも始められるため、比較的始めやすい広告です。

動画広告は文字通り、動画を使った広告です。テキストや画像よりメッセージ性を持たせられるため、訴求しやすい点が特徴と言えます。

SNS広告は、TwitterやFacebookなどのSNSに表示される広告を指します。2022年にICT総研が行った調査によると、日本でのSNS利用者数は8,270万人と年々増加しており3)、多くの人の目に留まりやすい点がメリットです。

若い世代が多い媒体(TwitterやTikTokなど)のSNSで広告を打ち出す際は、他のコンテンツに埋もれないようにして情報を届ける必要があります。薬機法の範囲内でキャッチーな文言や芸能人を起用するなどして、目に留まるような広告を制作しましょう。

デジタル広告については「製薬企業が活用できるデジタル広告とは? 広告の種類と活用例を解説」で詳細に解説しているため、ぜひ参考にしてください。

マスメディアに広告掲載して疾患や治療について情報提供を行う

テレビや新聞などのマスメディアに広告掲載を行い、疾患啓発を実施する方法です。デジタル広告が一般化する前は、主流なDTC広告の方法でした。インターネットを活用する機会が少ない、比較的高めの年齢層がターゲットの場合は効果的です。

しかし、ターゲットを絞って訴求しやすい、閲覧数などのデータで効果を分析しやすいといったメリットから、広告掲載の主軸はデジタル広告へ移りつつあります。

DTC広告を含む、DTC活動の事例

より効果的なDTCを行うために、今回は実際の事例を3つ紹介します。

症状検索エンジン「ユビー」と「UUI相談室」の連携(Ubie/ファイザー)

Ubie株式会社の生活者向けWeb医療情報提供サービスである症状検索エンジン「ユビー」と、ファイザー株式会社が提供する疾患啓発サイト「UUI相談室」4)が連携して疾患啓発をしています。両社が連携したことで、約17,000人の医療機関受診につながった実績のあるDTC広告です。

2つのサービスは、尿意切迫感を必須の症状とする症状症候群の「過活動膀胱(OAB)」と、OABの症状の1つである我慢できないほどの強い尿意を突然感じ、尿漏れを引き起こす「切迫性尿失禁(UUI)」の患者がターゲットです。
尿失禁の推定患者は1,040万人いるものの、医師へ相談しにくい症状であることから低い受診率になっていました。
相談することが恥ずかしくて受診をためらっている患者の後押しになり、受診患者が増加した実例です。

がんを乗り越えて(小野薬品工業株式会社)

小野薬品工業株式会社は、がんに関する正しい知識や理解を目的とした高校生向けのメッセージ動画 5)を公開しています。元SKE48メンバーの矢方美紀さんが経験してきた、闘病生活の思いを感じ取れる内容です。
動画を見ると、がんという疾患について正しい知識を得られ、疾患が身近なものに感じるようになっています。
また、同社は大阪府と連携し高等学校での「がん教育」に関するサポートをしています。疾患啓発を通じて社会貢献している事例です。

がん個別化治療啓発セミナー「みんなでみつける、ひとりひとりにあわせた『がん治療』」(バイエル薬品株式会社)

バイエル薬品株式会社とNPO法人キャンサーネットジャパンが、がん遺伝子検査・個別化治療の疾患啓発を目的にオンラインセミナー6)を実施しました。

がん患者のCTやMRI検査の認知率が9割以上であるのに対して、がん遺伝子検査を認知している人が2割に留まっているため、遺伝子検査の認知を広げていくことがセミナーの目的です。

セミナーは、家族ががんの闘病経験をもつアキラ100%さんと、国立がん研究センター東病院の内藤陽一先生が対談する形で進行。
実際に医師へ相談する際のポイントを紹介しながら、患者が納得して治療を受けられるように促しています。

DTC広告とは製薬企業による一般向けプロモーション

DTCを実施することで、疾患啓発を通じて潜在患者を顕在化させ、間接的な自社医薬品の売上向上、疾患の正しい知識の提供、および会社の認知度アップが期待できます。

一方で、コスト面やマイナスイメージを避けるための注意点も把握したうえでの運用が求められます。

製品領域によって相性の良い媒体は異なります。若い年齢層が多い疾患はSNSなどのデジタル媒体を活用し、高齢者が多い疾患はTVや新聞を利用するなど工夫が必要です。

DTC広告は、製薬業界の知識だけではなく、マーケティングの知識が必要になる領域です。Medinewでは、製薬企業におけるマーケティングを後押しする情報を発信しています。マーケティングを進めるために役立つ資料のダウンロードや最新事例もご紹介しているメルマガなど、ぜひMedinewをご活用ください。

<出典>※URL最終閲覧日2023.04.16
1)古川 隆, 文眞堂, 2022, 『DTCマーケティング【第3版】医薬品マーケターが考える患者中心のコミュニケーション』
2)厚生労働省ホームページ, 薬事法における広告規制|厚労省(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000059731.pdf)
3)ICT総研【ICTマーケティング・コンサルティング・市場調査はICT総研】,2022年度SNS利用動向に関する調査 (https://ictr.co.jp/report/20220517-2.html/)
4)ファイザー株式会社,Ubieとファイザー、症状検索エンジン「ユビー」と「UUI相談室」の連携で約17,000人の医療機関受診に繋がる(https://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2023/2023-03-13#)
5)小野薬品工業株式会社,がん患者さんの想いに触れる動画「がんを乗り越えて」を公開(https://www.ono-pharma.com/ja/news/20230208.html)
6)バイエル薬品.ご家族ががん闘病経験を持つアキラ100%さんも登壇 がん個別化治療啓発セミナー「みんなでみつける、ひとりひとりにあわせた『がん治療』」開催(https://www.pharma.bayer.jp/ja/news2023-02-28b?token=MyI2ND88NyA4I31uSyk3WA==)