インパクトと分かりやすさで勝負!海外の事例から学ぶ疾患啓発アイデア

インパクトと分かりやすさで勝負!海外の事例から学ぶ疾患啓発アイデア

病気というものは、実際にかかるまでそのリスクを意識することは難しいものです。血圧が高いことがよくないと分かっていても、どうしてよくないのかまでしっかりと理解している人は少ないのではないでしょうか。また、がんをはじめとする生活習慣病などの疾患は、早期に治療を開始することで予後の改善が期待できますが、そのためには定期的に検査を受ける必要があります1)

だからこそ製薬企業や医療機関、厚生労働省などがさまざまな手段で人々に啓発していくわけですが、今回の記事ではインパクトが強く、分かりやすい表現を使った海外の疾患啓発広告を紹介します。

▼過去に紹介した、海外の疾患啓発キャンペーンについてはこちら

新たな視点でマンネリ打破!世界の疾患啓発キャンペーン事例5選
2022.09.07
疾患啓発
新たな視点でマンネリ打破!世界の疾患啓発キャンペーン事例5選

事例1)血管が詰まるということを現実世界で再現した広告

ノバルティス社キャンペーン広告1ノバルティス社キャンペーン広告2

このポスターは、血中のコレステロール値が上がると血管内がどうなるのかを視覚的に分かりやすく啓蒙した、ノバルティス社による広告です。コレステロールは黄色、血液は赤で表現されており、エスカレーターや道路は血管を模していますが、両方とも黄色が原因で詰まってしまっています。

コレステロールが原因で血管が詰まる理由は、簡単に言うとコレステロールが動脈内壁に蓄積し、血管を詰まらせるからです2)。コレステロール値が高い状態が続くとこの写真のような現象が人々の動脈内で起こり、心筋梗塞や脳梗塞などの原因になります2)

発熱や咳、喉の痛みのように自覚することができないからこそ、コレステロール値が高いことがどのようなリスクがあるのかを理解することが大切ですが、それを視覚的に分かりやすく表現した広告と言えるでしょう。

「clogs up」とは「詰まる」を意味する英語ですが、その後に「Life stops」とかなり強烈な言葉が綴られています。
日本においてこのような表現を用いることは難しいかと思いますが、「コレステロール値を下げましょう」と訴えるよりも直球でリスクを示唆する表現が海外においては用いられていることにも注目です。

事例2)オンライン診療のメリットを分かりやすく訴求したイギリスの動画


人々が病院に行くには、徒歩や車などさまざまな方法がありますが、ソファやベッドのまま病院に行けたらどれだけ便利でしょう。

この動画では、実際に男性を乗せたソファや女の子を乗せたベッドがまるで乗り物かのように外を走り始めます。

それぞれの登場人物やその家族と思われる人が持っているのはタブレット端末で、何やら操作をしているように見えますが、そうこうしているうちに行き着いた先は病院です。

この動画はイギリスの国民保険サービスであるNHSが、オンライン診療の有用性を訴求するために制作した動画で、文字通りソファやベッドのまま診察が受けられるということを分かりやすく表現しています。

NHSは医療費のほとんどを政府が負担し、国民は原則無料で受診することができる3)のが大きなメリットですが、最近ではオンライン診療や電話診療に力を入れており、多くの診療所が遠隔診療を採用しています4)
症状や治療歴、服用中の薬などをタブレット端末で入力することで、診察を受けたり処方箋を受け取ったりすることが可能になっています3)

イギリスではCOVID-19流行後からオンライン診療の普及率が増えた4)と言われており、今後もその流れは加速していくでしょう。

日本ではまだ2割程度の医療機関しか対応していないオンライン診療5)ですが、そのメリットはいずれ日本でも認知されていくかもしれません。

事例3)乳がんチェックの意識を高める!ポップなステッカーを配布したイギリスのドラッグストア

乳がんチェックの意識を高めるステッカー

乳がんは、早期発見と適切な治療により9割以上のケースで治癒が期待できます6)。また、乳がんは自分で発見できる数少ないがんであり、早期発見にはセルフチェックの習慣づけが大切です7)

大手ドラッグチェーンであるSuperdrugは、イギリスの若年層女性のセルフチェック率が芳しくないという状況を受け、乳房をステッカーにして配るというキャンペーンに乗り出します。

さまざまに描かれた乳房のステッカーですが、「Itty Titty Stickies(乳房の小さなステッカー)」とのストレートなネーミングで展開されました。キャンペーンは、避妊薬を購入した女性に乳房のステッカーを配布していくもので、服用したら薬剤パッケージの空の部分にステッカーを貼っていくという内容でした。

「服用すると同時に乳房も確認しましょう」というメッセージも書かれており、リマインド効果の高い仕組みになっていました。避妊薬を服用する度に自身の乳房のチェックを促し、意識付けするという風変わりなキャンペーンですが、目の付け所が素晴らしい啓発と言えます。

事例4)ワクチンに関して情報に踊らされないよう啓蒙したアメリカの動画 


周囲の人から受け取るアドバイスは、役に立つこともあれば的外れなこともあるということは、誰しも経験があるのではないでしょうか。

アメリカの感染症対策総合研究所は、自分で情報の真偽を確かめることの重要性を「Know-it-Alls(知ったかぶりたち)」と題した動画で啓蒙しました。

動画の中では、エンジンを直そうとする人や資産運用を考えている人にアドバイスをする人の様子が描かれていますが、アドバイスを受けている人たちはあまり嬉しそうではありません。

世の中には知ったかぶり、あるいは間違った情報を鵜呑みにしたまま、まるで正しい情報であるかのように周囲に広める人がいるものです。

特にパンデミックのような異常事態においては、SNSやデモなどを通じていろいろな人があらゆる情報を拡散していきます。そのような事態を受け、この動画ではたとえ親しい人からのアドバイスでも、COVID-19のワクチンに関する情報はしっかりと自分で調べ、判断する重要性を強く訴えています。

誰しも思い当たる節があるような事例で共感を得ることで見る人をくぎ付けにし、メッセージを心に残りやすくした、効果的な啓発と言えるのではないでしょうか。

事例5)薬を持ち歩く重要性を訴求するファッションショー風の啓蒙動画


頓服の薬は、いざというときに手元になければ意味がありません。いつも飲んでいる薬が家にあるにも関わらず、外出先で持っていなかったがために薬局に向かったことがある人もいるのではないでしょうか。

ドイツのバイエル社は、薬を持ち歩く習慣のない若年層をターゲットに、アスピリンを常に携帯してほしいとの思いからアパレルメーカーとコラボした広告を展開しました。

ファッションショー風の大型イベントで若年層への認知拡大を狙った大規模な施策。イベントの開催や動画制作のインパクトはもちろんのこと、「ポップなデザインのアスピリン専用ポケットがついたジーンズ」というファッションに絡めたアプローチは、若年層の興味関心を集める有効な手段と言えるのではないでしょうか。

いかに人々の印象に残すかが啓発のカギ

以上、海外の疾患啓発キャンペーンの事例を紹介しました。疾患啓発は、いかに人々にインパクトを与えるかが重要な要素の一つです。「血圧を下げよう」「緑内障に気をつけよう」などのメッセージだけでは、具体的にどうしたらいいのか、何がよくないのかまではなかなか伝わらず、行動変容を促すまでに至らない場合があります。ビジュアルで分かりやすくする、親しみやすくして接触機会を増やす、ファッションに織り込むなど、人々の意識に入り込めるようにするような工夫が啓発のカギと言えそうです。

<参考> ※URL最終閲覧2023.3.9
・PR EDGE, PR TIMES, 2022.1.3, 血管の詰まりを「交通渋滞」で表現した製薬会社のプリント広告(https://predge.jp/214756/
・PR EDGE, PR TIMES, 2022.2.1, オンライン診療サービスの利便性をストレートに描いたイギリスの啓蒙動画(https://predge.jp/265130/
・PR EDGE, PR TIMES, 2022.4.20, 乳がんチェック用に、ポップなステッカーを配布した英ドラッグストア(https://predge.jp/234260/
・PR EDGE, PR TIMES, 2022.9.27, ワクチン接種に関する情報の重要性を訴えた、米・疾病予防管理センターの啓蒙動画(https://predge.jp/253887/
・PR EDGE, PR TIMES, 2022.6.27, 外出時も常備してもらうため、鎮痛剤専用ポケットを搭載したジーンズ(https://predge.jp/244070/

<出典>※URL最終閲覧2023.3.9
1)政府広報オンライン, 内閣府大臣官房政府広報室, 生活習慣病の予防と早期発見のために がん検診&特定健診・特定保健指導の受診を!(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201402/1.html
2)e-ヘルスネット, 厚生労働省, LDLコレステロール(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-072.html
3)外務省, 世界の医療事情 英国(https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/europe/uk.html
4)株式会社メドレー,【2023年最新版】データを用いてオンライン診療のシェア率を徹底解説します!(https://clinics-cloud.com/column/276
5)総務省, データで見るオンライン診療の状況(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd122320.html
6)日本対がん協会, 検診の意義と目的(https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/各種の検診について/乳がんの検診について/検診の意義と目的
7)もっと知りたい乳がん-あなたを守る検診のすすめ-, 2020年2月発行(改訂版), 日本対がん協会(https://www.jcancer.jp/wp-content/uploads/nyu-gan2020.pdf