製薬業界のビジネスモデルの変化や新型コロナウイルスの影響を受け、医薬品の情報提供の在り方は変化しつつあります。2020年10月開催のオンラインセミナー「今、患者が製薬企業に求めているものとは?適切な情報提供の在り方を考える。」では、患者が求める情報とは何か、どのように情報提供していけばよいかを、株式会社コスモ・ピーアール マネージングディレクターの長澤知魅氏が、がん患者300名を対象にした調査結果とともに解説しました。
医薬品マーケティングにおける患者コミュニケーションについて
同セミナーでは医薬品のマーケティングサポートを行う株式会社医薬情報ネット代表取締役の金子剛章氏が、医薬品のマーケティングにおける患者コミュニケーションの変化について説明しました。
これまで医薬品マーケティングにおける患者コミュニケーションは、疾患啓発や患者掘り起こしにより売り上げを上げるプロモーションが主でした。しかし製薬企業のビジネスモデルの変化や新型コロナウイルスの影響により、今後は患者さん中心のプロモーションへと変わっていくと考えられます。
薬剤周辺の環境は、
- ビジネスドメイン:プライマリー中心からヘルスケアや遺伝子製剤へ
- システム:薬価改定が毎年に
- マーケティング:SOV(シェアオブボイス)からデジタルを活用した効率的なものへ
と変化してきており、「これまでは治療範囲での商品提供が中心であった製薬企業の事業領域は、未病や予後など幅広く、かつ、情報サービス提供にまで領域を広げることが求められる」と金子氏は話します。
この背景にあるのが、医療とデータ取得の変化です。検査や通院といった定点データ取得(EHR)であるものが、食事・運動・睡眠も含めた連続的なデータ取得(PHRとEHRの融合)に進化してきています。「連続的なデータ取得に変わってくることで、データ取得企業によるメインプレーヤーチェンジの可能性が出てくるだろう」と金子氏は指摘します。日常的に記録しているものがデータとしてたまっていく未来は近く、製薬企業の事業領域の拡大も求められてくることでしょう。既にLINEと連携して家族の見守りサービスを展開したり、病院検索やAIを活用した受診相談サービスを提供したり、疾患啓発を行ったりしている製薬企業もあり、今後さらに増えてくることは間違いなさそうです。
医薬情報ネットは、2020年10月にJMDCグループに参入。「JMDCグループの持つさまざまなデータと連携することで、医療マーケティングの分野においてより質の高いソリューションを提供していきたい」と金子氏は話します。
処方箋選択における患者の意識と行動~がん患者300名への調査結果より~
過去10年で抗がん剤市場は3倍に増加し、「決して治らない病気」と言われていたがんは、ともに抱えながら生きていくものとなりました。さらに治療の選択肢が増えたことで、医師と患者の関係も変わりつつあります。以前は医師が一方的に治療を決めていたものが、シェアード・ディシジョン・メイキングが注目されるようになり、「医師と患者が一緒に治療を選んでいく時代」となりつつあります。そこでコスモ・ピーアールでは、がん患者300名を対象に、治療選択の際にどのように意識し行動しているのかを調査しました。
対象と患者背景について
調査は下記のがん患者を対象に行われ、治療中または治療から1~3年以内の患者が多くを占めました。
・20~69歳の男女
・主要がん10種 各30例ずつ(計300例)
企業レピュテーション調査も同時に実施し、がん事業を行う国内外売り上げ上位19社を選択肢としています。
治療に対するがん患者の意識
「治療法を検討される際に、どのような治療法であるか自身で調べた上で、治療方法を選択されましたか」という質問に対し、「治療法を調べた」と回答した人は79.8%でした。しかしそのうち28.2%の人は、「調べたがよく理解できず医師の勧める治療法を選択した」と回答しています。
疾患別に分析したものが下表になりますが、疾患によってばらつきがあることが分かります。例えば、「調べた情報を参考にして治療方法を選択した」と回答した割合は、前立腺がんでは84.6%であったのに対し、胃がんでは33.3%と半分以下でした。
治療法の選択肢の数も影響していると推測されますが、「医師の説明が丁寧であるほど、自分で治療法を選択する傾向にあるのでは」と長澤氏は話します。
治療法についてどのような内容を自身で調べているかについても調査が行われていますが、「副作用」「治療法/治療内容」がそれぞれ19.7%と高い割合を示しました。一方、「メリット・デメリット」は9.2%であり、治療法を比較検討するより、医師に勧められた治療を自分なりに理解するために検索しているといえそうです。
処方された薬に対する意識や行動については、下図に示すように、副作用や薬の飲み合わせを気にするという回答が多くなりました。
企業のレピュテーションも調査項目に含まれており、「製薬会社の名前が分からないと不安になる」が26%、「処方された際に製薬会社の評判を調べる」が23%でした。さらに「ニュースなどで製薬会社のマイナスな話題があがった際、処方された薬がその製薬会社かを確認する」と回答した人は36%であり、不祥事があった場合はより企業検索の傾向が高まることが分かりました。つまり製薬企業の評判が、患者の意識行動に影響を与えていると考えられます。
患者への情報提供の在り方
調査結果をふまえた上で、製薬企業は患者にどのように情報提供すべきでしょうか。金子氏の話にもあったように、製薬企業に求められる役割は変化してきており、情報提供における支援が大きな役割の一つとなりつつあります。
インフォームドコンセントの最後に「何か質問はありませんか?」と医師が尋ねると、多くの人が「何もありません」と答えますが、理解度をチェックすると4.7~28%の人しか理解できていないという報告があります。診察時間だけで治療法や薬の内容を理解するのは難しく、8割の人が自宅に帰ってから治療法を調べているそうです。その結果、約3割の人が調べた情報が理解できず医師の勧めに従っているのが現状です。
「納得した同意や積極的な意思決定は治療満足度に影響するため、情報のアンメットニーズ解消への支援が製薬企業に求められているであろう」と長澤氏は話します。続けて、「分かりやすい医療情報」と「継続的な企業レピュテーション構築とメッセージ発信」の2つが重要だと指摘します。
患者に分かりやすい医療情報を提供するために、第一に医療の専門用語を分かりやすくする必要があります。完解やQOL、エビデンスなどの言葉は、医療業界では一般的な言葉ですが、患者の認知度は10~25%程度と低いものです。ガイドラインや腫瘍マーカー、化学療法などは、認知度は高いが理解率は高くなく、補足が必要となります。
「『病院の言葉』を分かりやすくする提案などの本やインターネットサイトを参照し、自社サイトや資材の文章を分かりやすくすることは、簡単に取り組める情報提供の改善方法である」と長澤氏は提案します。
患者の意思決定を支援するガイド(ディシジョンエイド)の参照も役立ちます。製薬企業が提供する資材としては難しいものの、患者が求めているポイントを理解するひとつの指標として活用してみるのもよいでしょう。
調査結果からも明らかになったように、患者は企業の評判を気にしており、平時からの継続的な企業レピュテーション構築とメッセージ発信が重要となります。コントロールが可能な自社メディアをレピュテーション構築に活用しましょう。
企業ブランディングに有効なポイントは、「透明性」「トップメッセージ(人的魅力)」「ビジョン」の3つ。社会保険という枠組みの中でビジネスを行う製薬企業は、他業界よりもさらに透明性を求められます。コスモ・ピーアールが実施した調査によると、がん患者が製薬企業に期待するものとして、「信頼できる」「最先端技術を持つ」「積極的な患者向け情報発信を行っている」の3項目が高く評価されました。透明性や人的魅力を持ちながら、これらのポイントをおさえた情報発信が、患者への情報提供の在り方として重要といえるでしょう。
今回紹介された調査結果は、「患者インサイトレポート – がん疾患編」から一部抜粋したものです。本調査には企業レピュテーションについても、がん種別の詳細な結果が示されています。がん治療薬の製造販売企業としての認知度や、企業イメージスコアなどを含んだ調査結果がコスモ・ピーアールから販売されており、患者が抱く企業イメージを知る手段として活用できます。紹介したがん患者の意識や行動についてのより詳細な分析結果もあり、製薬企業の患者向けプロモーション活動にも役立ちます。
レポートについては下記より概要をご確認いただけます。
http://cosmopr.co.jp/ja/library-jp/library-insightreport01-jp/