若者向け疾患啓発のヒントに!Z世代へのプロモーションのポイント

若者向け疾患啓発のヒントに!Z世代へのプロモーションのポイント

近年、マーケティングでは次代の消費の中心となる層として「Z世代」が注目を集め、TVやインターネットメディアなどで目にする機会が増えています。疾患啓発においても無視できない世代です。本記事ではZ世代について取り上げ、その世代ならではの特徴や、Z世代に向けたプロモーションの事例・ポイントを紹介します。

Z世代は10代前半から25歳ぐらいまで

Z世代に明確な定義はありませんが、1990年代中盤(または2000年代中盤)以降に生まれた若年層を表す言葉で、ここ数年、メディアやマーケティングなどで広く使われるようになっています。Z世代という言葉自体はアメリカで生まれ、Z世代よりも上の世代をX世代(おおよそ1965年~1980年生まれ)、Y世代(またはミレニアル世代。おおよそ1981~1995年生まれ)といい、それに続く世代をZ世代と呼んでいます。

なお、Z世代の下はα世代と呼ばれ、2010年代序盤(もしくは中盤)から2020年代中盤に生まれた(生まれてくる)人たちのことで、現在のおおよそ10歳以下が該当します。

Z世代はソーシャルネイティブで社会問題にも関心が高い傾向

Z世代の特徴としては、生まれたときからインターネットやスマートフォン、SNSが日常にあり、当たり前のように触れている点が挙げられます。ひとつ前のミレニアル世代はガラケーから使い始めた人がほとんどで、ミレニアル世代を「デジタルパイオニア」「ガラケー第一世代」、Z世代を「スマホネイティブ」「ソーシャルネイティブ」と呼ぶこともあります。

Z世代はITバブルの崩壊、リーマンショック、親世代の終身雇用制度の崩壊、東日本大震災など、深刻な不況や大災害などを経験しています。そのため、経済面では保守的で、現実の生活を重視するリアリストの傾向があるといえます。インターネットやSNSにより国内外のさまざまな情報にアクセスできる環境にいるため、上の世代に比べて多様な価値観を受け入れやすく、ジェンダー問題などの社会問題にも関心が高いとも考えられています。

ほか、Z世代の特徴的な価値観に「チル」があります。「まったりする」「のんびりする」といった意味で、自分のペースで居心地のいい時間を楽しむこと、自分らしくあることを大切にする人が多い傾向です。

なぜいまZ世代が注目されているのか

少子高齢化により人口ボリュームとしては決して大きくはないZ世代ですが、なぜいまメディアやマーケティングで注目を集めているのでしょうか。

いくつかある理由のひとつは、将来への投資です。 Z世代の若者たちは数年後や数十年後に消費の主役になります。そこで、いまのうちから戦略的に囲い込みを行い、自社商品やサービスのファンになってもらう というわけです。

ブランディングは一朝一夕にできるものではなく、コアなファンの獲得には地道な積み重ねが必要です。若いうちから愛着のある商品なら年を重ねてもそのブランドを支持し続ける可能性は高いですが、ある程度の年齢になってから急にファンになってもらうことは容易ではありません。そのため、将来への投資をZ世代のうちから行うことはマーケティングの正攻法といえます。

また、生活のデジタル化も理由のひとつです。生活のデジタル化は、Z世代に限らずさらに上の世代も含まれることですが、Z世代の方がその流れにいち早く対応できています。生活のデジタル化特有の現象として「バズる」や「拡散する」といったワードを目にする機会がありますが、そもそもの起点がZ世代であることは珍しくありません。Z世代からブームになりその上の世代へと広がったり、メディアが取り上げて全世代に浸透していったりという事例も多くあります。

例えば、シンガーソングライターの瑛人の「香水」という曲は、2019年4月の発売当初はさほど注目されていませんでした。しかし、TikTokユーザーに発見されYouTubeなどに歌をカバーするユーザーが増えて、発売から約1年の時間をかけて大ヒット。2020年には紅白歌合戦にも出場し話題になりました。同様にタピオカブームもZ世代から広がっており、こうした実績からZ世代は新しい消費トレンドを作る世代として注目されているのです。

Z世代向けに向けたプロモーション事例

続いては、Z世代を意識して実施されたプロモーション事例を紹介します。

事例1)遊園地リニューアル(西武園ゆうえんち)

2021年5月に昭和レトロな世界観にリニューアルして話題になった西武園ゆうえんち。リニューアルに向けての消費者インタビューから「昭和時代の人とのつながりに飢えているのでは」という仮説を立て、さらにその後の調査結果から、昭和レトロの世界に最も魅力を感じ、最も来場意向が強かったのはZ世代ということが分かり、リニューアルのメインターゲットを10~20代の若者に絞り込んだそうです。

Z世代にとっては昭和を知らないからこそ目に入るすべてが新鮮に映り、「昭和を浴びてきた」「この時代に生まれていないはずなのに、すごく懐かしかった」と評判で、同園は「エモい」施設の代名詞になしました。リニューアル前に比べて客層も大きく若返り、来場客の半数以上がZ世代という日も珍しくないそうです。

事例2)「#と思いきやダンス」CM出演チャレンジ(ワイモバイル)

携帯電話会社ワイモバイルは、18歳以下を対象にした「ワイモバ学割」を訴求するためにTikTokで「#と思いきやダンス」動画(音楽に合わせてダンスしている動画)を投稿した人の中から1名にテレビCM出演権をプレゼントするキャンペーンを行いました。

高校生に人気のある芸能人と同じCMに出演できる特典と、用意された楽曲や振り付けをまねして動画を撮影し特定のハッシュタグを付けて投稿するだけという手軽さが受けて大きな話題になり、累計視聴回数は1億5,000万回を超えました。

事例3)農Tube 高崎(群馬県高崎市)

自治体もZ世代を意識したプロモーションを取り入れています。群馬県高崎市はブランド・シティプロモーションの一環として、農業素人2人が高崎市の農業の魅力を伝えて就農への興味喚起を促す農業系YouTube「農Tube 高崎」を実施。2019年7月にスタートし、Z世代の女優の手島実優さんと俳優の富井大遥さんが高崎市の農業を掘り下げるコンテンツをこれまでに56本配信しました。

2022年4月1日に最終回を迎えましたが、「今新卒1年目の22歳なのですが、将来的に就農したいと考えています」「農業をする若者がもっと増えて欲しい!!僕も農業します!」などの声が寄せられました。

事例4)「#胸キュンチェック」プロジェクト(神奈川県横浜市)

疾患啓発でもZ世代を意識した取り組みがあります。横浜市が展開する医療の視点プロジェクト(医療広報をこれまでとは手法を変えて行うプロジェクト)では、自治体としてTikTokと全国初の連携協定を締結。2019年10月の「乳がん月間」に合わせ、「#胸キュンチェック」と題したTikTok ユーザー層に関心を持ってもらえるダンスと音楽を用いた乳がん啓発を実施しました。

ダンスを通じて若い女性の乳がんに対する関心を高め、彼女たちから発症リスクの高まる親世代にセルフチェックや検診受診を呼びかけてもらうことが本施策の狙いです。オリジナルの乳がん啓発ダンスを37万人のフォロワーを持つモデルなどがPRしところ、約1カ月間で1,090本の「#胸キュンチェック」動画が投稿され、総視聴回数は9,450万回を突破。SNSでのシェア数は、TikTok の他のキャンペーンの平均に比べて約3倍多かったそうです。

Z世代の疾患啓発はリアルと共感がポイント

上記の「#胸キュンチェック」のように、疾患啓発においてもZ世代を意識したアプローチが有効または必要になるケースがあります。例えば、今年の4月に積極的接種勧奨が再開されたHPVワクチンでは定期接種の対象は小学校6年から高校1年相当の女子 *1 とされており、まさにZ世代が対象です。

Z世代の傾向として、スマホやSNSネイティブであり、多様な価値観を受け入れやすく、まったりとのんびりしていながら自分らしくあることを大切する人が多い、などを挙げました。

その一方で、広告(コンテンツ)やプロモーションに対する傾向として、TikTok for Business Japanの「Z世代白書2020」 *2 には、「動画や投稿を見たらとりあえずコメントを確認してしまう」(Z世代61.4%、25歳以上27.0%)、「共感できるコメントが多い動画・投稿は信頼できる」(Z世代48.9%、25歳以上35.7%)といった報告があり、Z世代は上の世代よりも同調志向が強い点も見られます。また、「広告臭がする、やらせっぽく感じるものは苦手だ」(Z世代71.9%)、「好きなブランドでも、広告っぽいと見たくない」(Z世代38.5%)、「自分の日常に近い動画・投稿は信用できる」(Z世代50.2%、25歳以上35.4%)という報告もあります。

そのため、Z世代に向けて疾患啓発プロモーションを行う際には、 作り込まれた完成度の高いコンテンツではなく、リアルさがあり共感が得られる広告っぽくないコンテンツが有効といえます 。Z世代にとってのリアルさや共感は、世代の違う大人が勝手に想像して作ることは難しいため、Z世代の声を聞くこと(Z世代と協働すること)が大切だと考えます。

*1 1997年4月2日~2006年4月1日生まれの女性で、過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない場合、2022年4月から2025年3月までの3年間、HPVワクチンを公費で接種できます。
h ttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_catch-up-vaccination.html
*2 出典:TickTokZ世代白書(2020.6)
『TikTok For Business』: https://tiktok-for-business.co.jp/archives/3831/


<参考> ※URL最終閲覧2022年4月5日
・『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』原田曜平, 光文社, 2020
・『若者たちのニューノーマル Z世代、コロナ禍を生きる』牛窪恵, 日経BP, 2020
・Z世代とは? その価値観や消費行動と、SDGsへの影響力|SDGsにまつわる重要キーワード解説, 講談社
https://sdgs.kodansha.co.jp/news/knowledge/39069/
・ICT COLUMN Z世代のICT事情 第3回, テレコム・フォーラム
https://www.jtua.or.jp/wp/wp-content/uploads/2022/02/202202_01generationz.pdf
・Z世代から「エモい」 昭和で“若返った”西武園ゆうえんちの戦術, 日経ビジネス
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00314/091700011/
・強烈にエモい“昭和の商店街” 「西武園ゆうえんち」刷新の全貌, 日経クロストレンド
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/01422/
・企業のTikTok活用方法は?成功事例12選から学ぶ、利用するメリットと3つのポイント, PR TIMES MAGAZINE
https://prtimes.jp/magazine/tiktok-official-account/
・JR東もワイモバイルも TikTok活用で成功するポイント, 日経クロストレンド
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00117/00004/
・「絶メシ」続くか「農Tube高崎」農業素人Tuber「農チャンネル」, 高崎前橋経済新聞
https://takasaki.keizai.biz/headline/3554/
・農業素人2人による高崎農業の魅力を伝える行政初となる“農業系YouTuber”誕生!『農Tube 高崎』開始!7月24日(水)より動画チャンネルをスタート!, PR TIMES
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000047161.html
・TikTok との連携による乳がん啓発「#胸キュンチェック」プロジェクト実施報告, 横浜市記者発表資料
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/iryo/2019/1112tiktok.files/0002_20191111.pdf
・乳がんチェックへ啓発ダンス 横浜市とTikTokが連携, 時事メディカル
https://medical.jiji.com/topics/1361