健康行動を促すには「自己効力感」がカギ?マーケティングにおけるその重要性とは

自己効力感の重要性_サムネイル

「自己効力感」という言葉をご存知ですか。サービスを対象とするマーケティングにおいて重要な役割を果たしているとの研究結果があり、医療サービスにおいても、自己効力感は人々の健康行動に影響するといわれています。今回は、自己効力感とは何か、そしてマーケティングにおける重要性について解説します。

「自己効力感」とは

メンタルヘルス分野で取り上げられることの多い「自己効力感」は、社会心理学者のBanduraが1997年に提唱した概念です。

自分が行為の主体であり、自分の行為が自己の統制下にあり、外界の要請に応じて適切な対応を生み出しているという確信、感覚のことを指します。簡単に言うと、ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまくできるかという予期のことであり、人がさまざまな経験を経て成長する過程で形成されます。

自己効力感の低下は、動機づけの低下やネガティブな感情につながる

自己効力感が低下する例として、「学習性無力感」という概念が挙げられます。

学習性無力感はセリグマンらが提唱した概念で、努力をしても良い結果が得られないことが続くと、努力することだけでなく逃げることさえもしなくなる状態のことを意味します。これは、経験によって「自分の行動では悪い未来は変えられないという無力感」を学習したためと解釈されています。

セリグマンらは実験の結果から、自己効力感の低い状態は人間のうつ病の症状と似ているともいいます。外界に対する自分の働きかけが効果をなさないと感じられるとき、自己効力感が失われ、動機づけの低下やネガティブな感情が生まれます。そして、自分の行動では悪い結果を変えられないと捉える自己効力感の低い状態では、良い方向へ行動を起こすことができなくなるのです。

それでは、自己効力感を強化し、良い方向へ行動を変容させるにはどうずれば良いのでしょうか?「サービス・マーケティング」における満足度の考え方から紹介します。

サービス・マーケティング研究における「満足」

「サービス・マーケティング」とよばれる、サービス業や製品の付随機能としてのサービスに関するマーケティングがあります。研究も盛んに行われており、サービスの提供者と顧客の関係性が、サービス品質の評価や形成プロセスに大きな役割を果たすことが分かっています。
 
そして、サービス・マーケティング研究では、品質向上や差別化戦略に不可欠なものとして「顧客満足」が注目されてきました。「満足」とは、購買前の期待と実際に得た結果の比較により発生する購買後の態度であり、知覚品質としてのサービス品質とは異なる概念として扱われます。

満足に影響を与える2つの課題は「期待」と「動機づけ」 

サービスは顧客と提供者の相互作用によって成立しますが、信頼財もしくは経験財である点でモノに比べ期待形成が不安定であり、期待の影響を受ける「満足」の管理は難しいと考えられます。
特に、一定以上の長期的な関係構築を前提とするサービスにおいては、経験を重ねる中で期待と満足が修正されるため、事前の期待、満足は次の満足に大きく影響します。
ときには、提供者が予測する顧客の期待と実際の顧客の期待に乖離があることによって不満足が生じることもあります。

満足に影響を与える要因として、もう1つ重要な課題は、顧客がサービスに積極的に参加するよう動機づけることです。その理由は、顧客の参加がサービス品質や結果に大きく影響するからであり、サービス提供者には、顧客を動機づけて満足させる関係構築が求められます。

医療サービスにおける患者満足向上には期待コントロールが重要

医療サービスにおいても、提供者と患者の良好な関係が患者満足を高めることがわかっており、患者満足は重要な戦略課題とされています。

例えば、医療サービスは病状に対して最高の医療を提供したとしても、患者がそれを上回る期待を抱いていれば、患者は不満足に感じるでしょう。
流通科学大学 人間社会学部教授の森藤ちひろ氏は、医療サービスの課題は、提供者が提供可能な範囲内に患者のサービスへの期待をコントロールした上で、患者がサービスに積極的に参加するよう動機づけることと述べ、医療サービスにおける期待コントロールの重要性について言及しています。

期待をコントロールし、行動の動機づけをするには?

患者満足度を上げるため、期待をコントロールし健康行動の動機づけをするにはどうしたらよいのでしょうか。それには、自己効力感が重要なポイントとなります。

満足を形成する2種類の期待

期待には以下の2種類があります。

1. 提供されたモノ・サービスに対する期待
2. 提供物によって変化する自己への期待

期待は一般的サービス品質に対してだけでなく、自己の状態変化に対する期待も含んでいます。
例えば、フィットネスクラブに対しては、顧客は、設備やアクセス等のサービス品質に加えて、体型やライフスタイルの改善にも期待を抱くでしょう。

不満足の場合は、提供物に対する期待と、自己変化に対する期待の不一致が合わさって全体の不満足を形成します。

自己変化への期待コントロールが満足向上のカギ

自己変化に対する不満足は、自己効力感と関係が深いといわれています。
Smithによれば、期待との不一致は満足形成の一要素であり、不一致をコントロールすることによって満足は変化するといわれています。
特に、教育や医療等、自分の能力や努力によって結果が異なるサービスでは、自己変化に対する期待コントロールが満足に大きく影響すると考えられます。
全体満足を高めるためには、顧客にサービスの限界や顧客の役割、積極的な参加の必要性を理解させ、サービスへの期待を明らかにすることが重要になります。

自己変化への期待のコントロール手段には「自己効力感」強化が有効

Banduraによれば、行動変容の条件として結果予期(outcome expectancy)と効力予期(efficacy expectancy)があるとされています。

結果予期はある行動のもたらす結果への期待であり、効力予期は結果を導くために必要とされる行動の達成見込みを指します。効力予期を認知したとき、自己効力感があると言われます。
Banduraは自己に対する期待のコントロール手段として自己効力感の強化が有効と主張しました。

「自己効力感」強化には期待に近い目標設定が重要

強度(その行為をどのくらい強く行うことができるか)は目標設定の内容によって影響を受けるといいます。

1.目標を設定しない
2.近い目標を持つ
3.遠い目標を持つ

目標設定の内容を上記3つに分けそれぞれ比較した結果、2が最も自己効力感を強める結果となりました。
他の研究でも自己効力感の強化によって意欲が増し、行動が促進されることが明らかになっており、願客との相互作用が結果に強く影響を与えるサービスにおいて、自己効力感が期待コントロールと満足向上に活用できることを意味します。

つまり、期待に近い目標を設定すれば「自己効力感」は強化され、消費者の行動を促進させることができると考えられます。
結果への期待は、自己効力感を高めて健康行動の動機づけとなります。そしてそれは、意思決定や行動の開始、保持の過程で重要な役割を果たします。自己効力感を介して期待をコントロールすることによって患者行動が促進され、患者満足が高まると考えられます。

期待コントロールと患者満足度

「自己効力感」強化が医療サービスの顧客満足をアップさせるカギ

自己効力感は、医療サービスの満足構造に重要な役割を果たしているとわかってきました。

自己効力感は、医師に対する満足を患者満足につなぐ媒介変数であり、自己効力感が媒介変数として機能するか否かは、患者の期待の高低の影響を受けると考えられます。また、医師のサービス品質が医師に対する満足を形成し、再診意図につながることも研究によって明らかとなっています。
このように、医療サービスの満足向上のためには、自己変化に対する期待を重視した支援型の関係構築が重要であり、そのためには自己効力感の強化が有効となります。

製薬企業の患者向け資材にも「自己効力感」の視点を意識しよう

患者の健康行動を変えるための自己効力感の考え方は、病院などの医療機関におけるマーケティングに取り入れられています。この考え方は製薬企業のマーケティングでも、患者向けの資材やWEBコンテンツを作成する際に応用できると考えられます。

厚生労働省『特定保健指導の実践定期指導実施者育成プログラム』においても、「食行動、喫煙、運動、飲酒など長期間にわたって形成された生活習慣の変容を促す場合、さらにプログラム終了後のセルフケアにむけて自己効力感の概念は不可欠である」と記載されています。患者向け資材を作成する際には、この「自己効力感」を強化する視点を盛り込むと、患者さんの満足度が上がり、健康行動を促せるかもしれません。

<参考文献>
・森藤ちひろ(2009)「マーケティングにおける期待の重要性」関西学院大学経営戦略研究会 経営戦略研究第3号,21-34
・森藤ちひろ(2011)「サービスの選好と自己効力感 ―提供者と消費者の相互作用―」
・中島義明、繁桝算男、箱田裕司(2005)『新・心理学の基礎知識』有斐閣ブックス
・厚生労働省「特定保健指導の実践定期指導実施者育成プログラム」https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/info03k-05.pdf