医薬品マーケティングに活かせる!行動経済学やナッジを学ぶおすすめ本&サイト紹介

2017年にリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞して以来、「行動経済学」やその中のひとつである「ナッジ理論」が注目されるようになりました。本記事では、医療のマーケティング活動においても有用とされている「行動経済学」や「ナッジ理論」を学ぶための本やWEBサイトをご紹介します。

医療のマーケティング活動と行動経済学

「行動経済学」は、人間が感情や心理に左右され、必ずしも合理的に行動しないことに着目し、研究する学問です。
薬を飲み続けなければ症状が悪化することがわかっているにも関わらずアドヒアランスがうまくいかない、早期に身体の異常を発見できればさまざまなリスクを回避できるとわかっているにも関わらず健診を受けないなど、医療現場においても人間が必ずしも合理的に行動していないと考えられる場面は多々あります。

医療用医薬品のマーケティング活動においては、患者さんの服薬アドヒアランスを高めたいという資材を作ったり、病院の受診を促したいというような意図で疾患啓発サイトを作成することがあると思います。その際、合理的な説明を入れることで望まれる行動につながると思ってしまうことはないでしょうか。

しかし、行動経済学の視点を持つと、合理的に説明したとしても、人の行動に結び付かない可能性があるのではないかということがわかります。そのため、医療のマーケティング活動を考えるにあたっても、行動経済学の理論を学んでおくことはとても重要です。

行動経済学の理論を漫画で学ぶ

行動経済学やその理論についてこれまで学んだことのない方には、まずはその概要・面白さを知るための本がおすすめです。行動経済学が日本で注目されて以来、さまざまな本が出版されています。その中でも、さらっと読みやすい漫画はいかがでしょうか。

参考 『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』 佐藤雅彦ほか、マガジンハウス、2017Amazon.co.jp

この本は、昔話題となった「ポリンキー」や「バザールでござーる」などのCMを生み出し、社会現象を巻き起こした『だんご3兄弟』の作詞・プロデュースや、ピタゴラスイッチの監修など、幅広く活躍されている佐藤雅彦氏が著者の一人として執筆しています。

1つの理論を4ページ(漫画3.5ページ+解説0.5ページ)にまとめ、1冊の中で23の理論を漫画で紹介しています。(巻末にその他11の理論の概要の記載もあります。)
詳細まで深く触れなくとも、まずはどういう理論があるのか把握しておきたいという場合におすすめの本です。
あとがきには、行動経済学を新しい表現方法に結びつけたいと、展示会にしたらどうか、芝居を作ったらどうかと模索したということが書かれています。クリエイティブディレクターとして第一線で活躍している方の情報の伝え方・見せ方の切り口としても参考になるのではないでしょうか。合理的ではない経済学をイメージした「ヘンテコノミクス」というキャッチーなタイトルもさすがです。

医療現場での事例を学ぶ

行動経済学を知ると、なるほどまさしくそうだと思う一方で、自分の仕事や役割ではどのように活かせるのだろうかと気になるのではないでしょうか。行動経済学のテーマは幅広く、政策分野から商売の話までさまざまであるため、1つの本を読んでもなかなか医療の事例にあまり触れられないということがあります。

そのような中でも、医療における行動経済学についてまとめてくれているのが『医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者』です。

参考 『医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者』 大竹文雄、平井啓、東洋経済新報社、2018Amazon.co.jp

こちらは行動経済学の学者として第一線で活躍されている大竹文雄教授と、健康心理学、医療心理学などが専門の平井啓教授らが、「健康・医療の行動経済学的研究」プロジェクトの成果としてまとめた本です。医療現場における行動経済学についての知見が詰まっています。

第1部では「医療行動経済学とは」をテーマに、患者と医師のやり取りをもとにした行動経済学の側面からの解説と対応方法、行動経済学の理論とその応用法、医療分野における行動経済学的研究の紹介をしています。
第2部では、「患者と家族の意思決定」をテーマに、がん治療における患者の意思決定、がん検診の受診率を引き上げる手法、子宮頸がんの予防行動が日本で進まない理由、遺族の後悔、高齢患者の意思決定支援の方法、臓器提供の意思表示について、行動経済学的な観点で解説しています。
第3部は「医療者の意思決定」をテーマに、医療者の意思決定のバイアスについて触れています。
医療においてより具体的な示唆を得たいときに役に立つ本です。

なお、著者の一人である平井啓教授による“行動経済学×医療”をテーマとした看護師向けの記事が以下から読めます。こちらも参考になるのではないでしょうか。

参考 「行動経済学×医療」医学書院医学界新聞

たった16ページで受診率向上のポイントが学べる

時間が無くてもまずは行動経済学のエッセンスを学びたい、というときにはこちらはいかがでしょうか。キャンサースキャン社が制作し、厚生労働省が発行している冊子です。

参考 「がん検診受診率向上施策ハンドブック(第2版)」厚生労働省

表紙には“明日から使える ナッジ理論”とあり、検診の受診に繋げるためのポイントの解説と、ケーススタディ、事例をコンパクトにまとめています。
こちらの冊子は、英国の内閣府内に設置されたBehavioural Insights Team(BIT、通称ナッジユニット)がナッジ理論を使いやすくするために開発した“EAST framework”をもとに紹介しています。EASTはEasy, Attractive, Social, Timelyを示していて、行動を促すには、それを簡単に、魅力的に、社会的に、タイムリーにしましょうと、4つの簡単な原則にまとめています。

がん検診の普及プロジェクトの事例から学ぶ

Medinewの読者には、医療用医薬品マーケティングのプロダクトチームに属していて、患者向けの冊子やポスターなどを作っている方もいるのではないでしょうか。実際の冊子などをもとにした事例を参考にして学びたいという場合に役立つ資料を最後に紹介します。

参考 「⾏動科学やソーシャルマーケティング、ナッジを活⽤したがんに関する普及・実装研究」国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センターサイト

こちらは、国立がん研究センターによる資料です。がん予防の実践とがん検診受診率向上の方法を開発し、実際の普及啓発を全国規模で行うという研究目的のプロジェクトについて説明しています。
プロジェクトでは、ナッジ、ソーシャルマーケティングなどの新しい行動科学的方法を活用したがん検診受診勧奨資材の開発を行っており、それを自治体が使えるようにすることで全国へ普及させています。

資料の28ページからは実際に作成した資材の実績が紹介されています(資材はこちらからも確認できます)。32ページから61ページには、作成にあたって考慮した理論が紹介されています。ここで紹介されている理論は、資材やWEBサイトの制作をする際のヒントとなるはずです。また、83ページからは各資材のデザインにあわせ、制作にあたってのポイントが解説されています。

各資材の制作のポイント:「行動科学やナッジ、ソーシャルマーケティングを活用した
がんに関する普及・実装研究
」P88

このプロジェクトでは、実際に資材が使われており、各自治体から受診率のデータを集めています。受診率について効果検証を実施し、有用性が確かめられていることから、実例をもとに学ぶのにとても参考になるプロジェクトです。

行動経済学を学び、より効果的な製薬マーケティングを

資材の制作をしたり、WEBサイトの制作をする際には、いかに正確に理論的に伝えるかがとても重要で、そちらに意識を向けてしまいがちなところがあります。しかし、正確で理論的だからといって、伝わりやすいか、さらに、見た人の行動が変わるかというとそうではありません。より良い医療サービスの提供に少しでも関与できるよう、行動経済学を学び、その視点を活かしましょう。

<参考>(2021年7月21日最終閲覧)
・『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』 佐藤雅彦ほか、マガジンハウス、2017
・『医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者』 大竹文雄、平井啓、東洋経済新報社、2018
・「行動経済学×医療」医学界新聞、医学書院(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/series/174
・「がん検診受診率向上施策ハンドブック(第2版)」厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000506624.pdf
・THE BEHAVIOURAL INSIGHTS TEAM(https://www.bi.team/
・「⾏動科学やソーシャルマーケティング、ナッジを活⽤したがんに関する普及・実装研究」国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター(https://www.ncc.go.jp/jp/cpub/division/public_health_policy/project/project_05/project_05.pdf
・「ソーシャルマーケティングを活用したがん検診の普及プロジェクト」国立がん研究センター健康推進科学研究室(https://rokproject.jp/kenshin/items.html