コロナ禍の中で、製薬業界のプロモーション活動ではWebディテーリングの動きがますます加速しています。プロマネの皆さんも、Webディテーリングは重要なチャネルの一つと位置付けている方が多いのではないでしょうか。今回は、この製薬業界におけるWebディテーリングの現状と可能性について考えてみます。
訪問規制を敷く病院は2021年も増加
2020年4月の緊急事態宣言が発出された後、ほぼ全ての製薬企業とそのMRは、一切のプロモーションが一旦ストップしました。この時期以来、医療機関へのMRの訪問は従来よりも一層限定的になりました。緊急事態宣言が解除された後でも、医療機関によってはMRの訪問を制限するところが増えたようで、検索エンジンで「病院 訪問規制」で検索すると、訪問規制を施行している医療機関の名前が数えきれないほどヒットします。
さらに、それらのページをよく確認すると、2021年に入ってから新たに訪問規制を始めた病院も多く見られます。しかし、逆に訪問規制を撤廃したという病院は1軒もヒットしませんでした。
これらのことから、訪問規制を敷く医療機関がますます増えていると想像できます。
Webディテーリングの動きも増え続けている
訪問規制を敷く医療機関が増えたことで、情報提供チャネルとしてのMRの役割は、対面から新たな手法に変更せざるを得なくなりました。そこで用いられるようになったのが、Webディテーリングのサービスです。2021年7月時点での製薬業界全体のディテーリング数に占めるWebディテーリングの割合は不明なものの、Webディテーリングのサービスを提供している会社は増え続けています。
また、それらのサービスを利用せずとも、製薬企業が導入しているWeb会議システムを活用して、MRと医師の面談の機会を提供している製薬企業もあります。ファイザーでは、自社のコミュニケーションツールに加え、2021年7月からエムスリーの提供するプラットフォーム「My MR君」を全社導入すると発表しました * 。こうした動きはまだ続くと考えられます。
今やWebディテーリングは、製薬業界で汎用されるチャネルの一つになったと言えるでしょう。
Webディテーリングを他職種連携の場に活用
Webディテーリングは、製薬業界のプロモーションにさまざまな影響や変化を及ぼしました。
MRが直接医療機関を訪問しなくても、医師とWeb上で画面越しに情報提供が可能というスタイルは、コロナ禍以前はほとんどありませんでした。製薬企業からみた時、MRが医療機関を訪問せずとも情報提供が可能になるということは、ガソリン代や駐車場代といったMR活動のコストをこれまで以上に削減できるということです。対して、医師にとっては、自分が会ってもいいと思うMRだけを厳選して付き合うことが可能になります。
このように、Webディテーリングの登場は、プロモーション上のメリットだけでなく、これまでよく分からなかった医師と製薬企業・MRとの関係も浮き彫りにしました。
たとえばMRが医師のメールアドレスを知らなければ、MRはWebディテーリングのためのリンクを医師に送れないため、Webディテーリングは実施できません。MRが医師からWebディテーリングのためのアポイントをもらえない時も、Webディテーリングの実施はできません。この状況は、従来からみられているMRが医師からアポイントをもらえない状況と変わっていません。この状況が解決できなければ、プロマネのあらゆるマーケティングプランが実行されることはないでしょう。
このことは、これまでの製薬企業が推し進めてきたプッシュ型セールスを、医師が否定しているとみることができます。これは、医師に受け入れられるマーケティングプランを策定する際に、プロマネが留意すべきポイントの一つです。
Webディテーリングの新たな可能性
一方、Webディテーリングには、新たな可能性もあります。多くの人が参加しやすい、出張しなくても遠方の医師と面会できるなどのWebの特性を生かして、さまざまな活用方法が考えられます。
1. Webディテーリングを他職種連携の場に活用
複数の人がWeb上のミーティングスペースに参加可能な特性をいかせば、MRと医師だけでなく、多職種連携の場とすることもできます。
せっかく医師とMRがWebディテーリングできるならば、医師とMRの1対1だけの場面にしておくことは非常にもったいないのではないかと感じます。そのWebディテーリングを他職種も集う場として、その地域医療の質の向上に資するミーティングにすると、医師からも他職種からも喜ばれるのではないでしょうか。
実際の医療現場では、多くの地域で、多くの職種が、お互いの仕事の実態が見えておらず、仕事のやりにくさを感じています。医師が何を考えてこのような指示を出したのか、なぜこのような処方設計にしたのか、病院の地域医療連携室と在宅医がどのように連携しているのか、服薬指導の際に薬剤師は患者さんからのどのような相談を受けているのかなど、役割が違うと相手の仕事の内容が見えなくなることが医療現場には多々あります。
この他職種連携の場にプロマネも参加すれば、病院の患者さんが在宅に移行する際に自社医薬品が他社医薬品に切り替えられていないか、処方継続の際の課題が何かなどを知り得ることもできます。
2. マーケティングにWebディテーリングを活かす
Webディテーリングを活用すれば、プロマネが遠隔地のMRと医師とのディテーリングにも参加できるようになります。KOL以外の一般の医師の考えや評価などを、プロマネが直接聞くこともできるのは大きなメリットです。これによって、マーケティングのプランニングの際、非常に有益な意見を全国から収集できます。
さらにこれは、プロマネ自らが製品メッセージを評価できるということでもあります。
従来のデプスインタビューやグループインタビューとは異なる、従来のマーケティングリサーチにとって代わるかもしれないアプローチといえるでしょう。そのリサーチの時期やスケジュールも迅速に、そして安価に実施することも可能です。 デプスインタビューやグループインタビューには会場の予約、医師の交通費と謝礼、リサーチ会社への案件の準備~分析までの費用の支払いなど、コストがかかります。この時間的・金銭的な負担を軽減するために、Webディテーリングを活用し、プロマネ自ら直接リサーチするのは妙案といえるのではないでしょうか。
3. プロマネのメッセージをMRがどのように伝えているのかが分かる
これもWebディテーリングによって分かることの事例です。今までMRが自社医薬品をどのようにディテーリングしているのかは、上司との同行以外ほとんどブラックボックスでした。しかし、Webディテーリングにプロマネも同席すれば、MRがどのように自社医薬品をディテーリングしているのかを見ることができます。その内容によっては、プロマネの製品メッセージがMRにとって伝えやすいメッセージなのか、MRが医師からの質問に適切に対応できているかなどが分かります。
このことによって、プロマネはMRがもっと説明しやすい製品メッセージ、医師の注意をひく製品メッセージなどを検討しやすくなるでしょう。
Webディテーリングを活用し、医師・MRとの信頼関係作りを
製薬企業のプロマネがWebディテーリングに参加することによる効能は、それだけではありません。
プロマネが全国の医師とリモートで面談し、多くの治療方法等を知っていると、医師からの質問に対応できる可能性が高くなります。医師としては、たくさんの医師の治療法を知っているプロマネはとても頼りにできます。また、そうした姿を見せることで、MRとプロマネの信頼関係も強固なものになっていくでしょう。
このような良好な関係が構築できるようになれば、プロマネの考えているメッセージが医師やMRにも伝わりやすくなります。プロマネのマーケティングプランが実行されやすくなることで、結果として自社医薬品の売上アップにも寄与する可能性があるのです。せっかくのWebディテーリングを、プロマネも大いに活用してみてはいかがでしょうか。
<参考>
*2021年6月4日、ファイザー株式会社「ファイザー リモートコミュニケーションプラットフォーム「my MR君」の全社導入を決定」(
https://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2021/2021_06_24.html
)
【プロマネTips.8】 これからのプロマネに求められるデータの収集・分析・活用スキル