【プロマネTips.8】 これからのプロマネに求められるデータの収集・分析・活用スキル

【プロマネTips.8】 これからのプロマネに求められるデータの収集・分析・活用スキル

データの活用は、現代の企業のマーケティングには必要不可欠なことです。それは、製薬企業のプロマネにとっても例外ではありません。マーケティングプランの策定や、結果の分析などの際に、プロマネはどういったデータを集め、どのように活用するべきなのか改めて考えます。

プロマネがデータを必要とする理由

プロマネは、自社医薬品の売上アップ、市場のシェア獲得のために、精度の高いマーケティングプランを策定しなければなりません。そのために、プロマネはさまざまなデータを必要としています。

例えば、市場の変化や、顧客である医師や患者さんのニーズなどのデータを収集・分析します。医師をセグメンテーションし、医師や施設をターゲティングし、競合品よりも有利なポジションを獲得しようとします。自社医薬品の処方を獲得して売上を伸ばすためにあらゆることを検討する上で、データは欠かせません。そして期末には、売上データや市場シェアのデータなどを駆使して、マーケティングプランが効果的だったかを評価します。このように、さまざまなデータを利活用します。

プロマネが扱うデータの種類

プロマネが扱うデータには、大きく分けて1次データと2次データの2種類があります。
1次データとは、自社で集めたデータです。例えば以下のような「その企業だけが持っているデータ」を指します。

  • 自社製品の毎日の売上の実消化データ
  • MRの日報入力のデータ
  • 自社のウェブサイトやオウンドメディアへの医師のアクセスログデータ

2次データは、他社が持っているデータ、公開されているデータ、販売されているデータを指し、具体的には以下が挙げられます。

  • IQVIAやエンサイスのような第3者機関の医薬品市場のデータ
  • m3やケアネットのような第3者機関による動画配信の視聴医師のデータ
  • 患者名および医師名が匿名化処理されたReal World Data
  • National Data Base
  • アルトマークの医師コード・施設コードのデータ
  • 医薬情報ネットの学会情報データベース、論文情報データベース
  • 医療情報総合研究所等の処方箋データ
  • 学会のウェブサイトや難病情報センター等にある患者数に関するデータ
  • SNS上の患者さんの投稿を分析したソーシャル・リスニングデータ

また、2次データの特徴として、新しいSNSやデジタルチャネルが登場すると、新たなデータが得られるようになるという点もあります。今後も新サービスの登場と、それに伴う新たなデータには要注目です。

全医師の処方状況が分かる完璧なデータはない

プロマネとしては売上の最大化につながるプランを作るために、正確で、毎日のように随時更新され、全国の全ターゲット医師を網羅したデータが欲しいと考えるのではないでしょうか。

病院内では、どの医師がどの医薬品を何人に処方しているのか、どのような患者さんに処方しているのかなどのデータがないため、実際の処方状況が正確に分かりません。そのため現時点では、さまざまなデータ分析会社などが、「医師のプロモーションへの反応や、情報収集時のチャネルの嗜好性などのデータから、新たな医師のセグメントやクラスタリングなどを分析し、新セグメントへのプロモーションの費用対効果を予測する」といった取り組みをしています。

プロマネは、そのような予測データよりも正確な現状のデータを欲しいと考える傾向があります。しかし、現状の医薬品業界では、全医師の治療方針や処方薬、処方患者数などが一目で確認できるデータはありません。

仮に医師ごとの治療薬の処方状況が分かったとしても、実はプロマネができることは限られています。自社医薬品を処方していない医師を特定できたところで、その医師がなぜ自社医薬品を処方していないのかの理由までは分かりません。その解明と対策は、現場のMRと所長・マネージャーらがすることです。

はじめから正解を求めず、プランを実行しながら検証する

正確なデータは欲しいものの、プロマネとしては正確なデータの収集はある程度割り切ることが必要です。それよりもマーケティングプランの実行から得られた結果を、さまざまなデータに基づいて検証する方が、時間を有効に使える価値ある取り組みです。

特に、医師の行動データに基づいて、医師別もしくは施設別に医薬品売上のトレンドの変化を確認し、その上で「医師のセグメンテーションが適切か」「仮説に基づく新たなセグメンテーションが作れないか」などをトライ・アンド・エラーで検証しながらマーケティングプランを実行するというサイクルを迅速に回す方が、より良い結果に早く到達できることもあります。

はじめから正解を求め、そのためのデータ探しに時間を費やすよりも、プランをいち早く実行し、その結果を早く知る方が、うまくいけば売上アップが期待できます。うまくいかなくても、改善すべきポイントを早く検討できるため、ビジネス上得ることが多いでしょう。

データを購入する前に目的・使い方を明確にする

最近、DWH(Data Ware House:目的に応じて使えるように膨大な量のデータを格納するシステム)を導入、活用する製薬企業が増えています。その理由は、DWHは、様々なデータを格納でき、企業の意思決定に関わる重要な分析までも可能とするからです。

このDWHを導入する際、目的や使い方が分からないまま多数の種類のデータを購入し、DWHへ格納することはおすすめできません。データはあった方が良い、とりあえずDWHに格納しておいてあとで使い方を考える、MR等の現場に知らせたい、などの不明瞭な目的でデータを購入するのではなく、なぜそのデータを必要とするのか確認することが重要です。 データは購入から活用までコストがかかります。データの購入費用はもちろん、データをDWHに格納し、使えるように調整するための人件費など、コストは多岐に渡ります。データ購入は必要なものにとどめておいて、むしろ自社で調達可能な医師の行動データの収集に力を入れる方が、これからのデータドリブンなマーケティングには有益かもしれません。プロマネとしては、全社に影響が及ぶようなコストをかけるよりも、実務で必ず使うデータを厳選して購入するにとどめ、新たな医師の行動データなど自前でデータを入手する工夫が求められます。

データ活用はこれからのマーケティングを左右する

これからは、データの活用の仕方でプロマネのマーケティングのセンスが分かるようになります。どのようなデータを用いて、どのようにプランを策定し、その結果をどのように評価するかが、マーケティングの鍵を握ります。

さらに今後は、最新のヘルステックのデバイスやセンサーから、これまで得られなかった患者さんのバイタルデータ等も得られるようになる可能性があります。プロマネは、このような技術にも敏感にならざるを得ません。最新のデータ取得のためにヘルステックとビジネスコラボが可能かなど、製薬業界の新しいマーケティングの最前線に、これからのプロマネは立つことでしょう。

<参考>
・2018年5月18日 、内閣官房健康・医療戦略室 内閣府日本医療研究開発機構・医療情報基盤担当室、「次世代医療基盤法について」( https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000406831.pdf