患者を主人公にしたマーケティング施策で自社ファンを増やす!「ナラティブ」の考え方

医療分野にはナラティブ・アプローチという患者ケアの方法がありますが、近年、企業やブランドのマーケティング活動でもナラティブが注目を集めています。そこで今回は、ナラティブの基本的な考え方について、成功事例などを交えながらご紹介します。

ナラティブは生活者が主人公になる

「ナラティブ」という言葉をご存じでしょうか。ナラティブは物語、話術、語り口といった意味を持つ言葉です。医療分野においては、患者さんの看護や介護などの支援をする際に、通り一遍のケアを提供するのではなく、目の前の患者さんが語る物語を通してケアの中身や対応方法を探る方法を「ナラティブ・アプローチ」といいます。ナラティブは近年、企業のマーケティング活動でも注目されています。

“物語”や“マーケティング活動”というワードから「ストーリー」を連想する方がいるかもしれませんが、ナラティブとストーリーには明確な違いがあります。そのひとつが「物語の主人公は誰か?」という点です。ストーリーでの主人公は、企業やブランド、サービスであり、生活者はあくまで聴衆です。それに対して、ナラティブでは生活者自身が主人公になり、企業やブランドは演者の一人に過ぎません。

さらに言うと、ストーリーは企業やブランドが発信する起承転結のある一方通行の物語ですが、ナラティブには起承転結や決められた筋書きはありません。生活者一人ひとりが主人公としてブランドやサービスに接して描かれる、未来も含めた物語がナラティブなのです。つまり、ストーリーは企業やブランドが主体となって「語る」ものであるのに対して、ナラティブは生活者が主役となって「語られる」ものであり、語られる内容もそれぞれ異なるものになります。

なぜ今ナラティブなのか

それでは、なぜ今の時代にナラティブが求められているのでしょうか。その要因のひとつに「共体験の価値の高まり」があります。共体験とは、集団内で共通の価値を共有して起きる現象のことです。野球やサッカーなどのスタジアム観戦をイメージすると分かりやすいでしょう。この共体験の価値の高まりはSNSの普及・浸透とも深い結びつきがあります。なぜならSNSによって、同じ趣味・興味・関心を持つ人たちが集まりやすく、強く結びつきやすくなったからです。加えて、コロナ禍によって人と人とのリアルなつながりが分断されたことも共体験の価値の高まりに影響していると考えられます。

このような時代は、企業やブランドは従来型の一方的なストーリーの発信ではなく、企業やブランドにまつわる事柄で共体験できるプラットフォームを用意し、生活者一人ひとりが主役になれるような仕組みをデザインすることが大切です。

ナラティブを活用した事例

続いては、実際にナラティブを活用したマーケティング事例をご紹介します。

事例1. Your Story with あなたとクルマの物語/SUBARU

自動車メーカーのSUBARUは、ユーザーに近い人を主人公にしたテレビCM「Your Story with あなたとクルマの物語」を展開しています。「あなたとクルマ、どんな物語がありますか」というナレーションから始まるCMでは、人生とクルマをテーマに、恋・友情・仕事・親子の絆などをドラマ仕立てに描いています。新作が放映されるたびにSNSなどでは「泣ける」「感動する」と話題になり、現在22本のCMが制作されています(Epsode22まで/2022年2月7日現在)。

CMでは、企業や車は脇役に徹しており車の性能やデザインなどは一切伝えていません。感情移入しやすく、生活者が主人公になったような感覚で見てしまう物語は、大きな反響・共感を呼び、テレビドラマ化や小説化もされました。

事例2. #この髪どうしてダメですか/パンテーン(P&G)

ヘアケアブランドのパンテーンは、「あなたらしい髪の美しさを通して、すべての人の前向きな一歩をサポートする」をブランドフィロソフィーに掲げています。そして、髪における日本の同調圧力に対して、「さあ、この髪でいこう。#HairWeGo」というスローガンのもとさまざまなキャンペンーンを展開し、一人ひとりの個性について考えるきっかけを与えています。2019年3月からはその一環として、地毛なのに黒染めを強要されたり「地毛証明書」の提出を求められたりする学校の髪型校則をテーマにした『#この髪どうしてダメですか』キャンペーンを新聞広告やSNS、ラジオなどで実施しました。

全国の中高生・卒業生・先生の男女合計1000人を対象にした、「髪型校則へのホンネ調査」から生まれた本施策は、開始後3日でTwitter上のリアクションは2万件を超え、現役の先生からも応援のコメントが届きました。SNSでの盛り上がりに加え、TVや新聞などの各種メディアに取り上げられたことで、署名活動にまで発展。最終的に東京都教育庁に約2万の署名を提出し、「生来の頭髪を一律に黒染めするような指導は行わない」という回答を得ました。主役をパンテーンではなく髪型校則に疑問を持つ人たちにしたことで多くの人の自分事となった本キャンペーンは、行政を動かすほどの影響力を発揮し、パンテーンのイメージや売り上げアップにも貢献しました。

事例3. NoBagForMe/ソフィ(ユニ・チャーム)

生理用品ブランド「ソフィ」を持つユニ・チャームは、女性が自分自身のカラダについて気がねなく話せる社会の実現を目指して、『#NoBagForMe』プロジェクトを2019年6月に立ち上げました。プロジェクト名である「#NoBagForMe」は、「私は、紙袋はいりません。」という意味です。日本では生理用品を買うとき商品が見えないよう紙袋に入れて渡されるのが一般的ですが、この習慣こそが「生理=恥ずかしいもの・隠すもの」という意識の表れと捉え、生理についてオープンに話すことを勧めるキャンペーンを展開しました。

1年目である2019年は、トークイベントやワークショップなどの活動を積極的に行い、「購入時に紙袋で包む必要性を感じさせない」パッケージデザインの開発も実施。SNSや街頭で人気投票を行うと54,000票以上が集まるなど大変な盛り上がりを見せました。2020年は生理の知識を身につけることで社内における男女間や女性間の相互理解を促進する企業向け研修プログラム『みんなの生理研修』を開発。研修を受けた企業の中には、有給扱いとして生理休暇を導入した、トイレに生理用品を設置したなど、社内制度や環境の見直しを行ったところもあったそうです。多くの女性を巻き込み共感を集めた本キャンペーンは、一般財団法人 経済広報センターが主催する第36回企業広報賞において企業広報大賞を受賞しました。

患者さんを主人公にしたアプローチを

企業がマーケティング活動にナラティブを取り入れるメリットとしては、生活者自身を主人公にしたアプローチによって企業やブランドに対してより親近感を覚えるため、一方的にメッセージを発信した場合よりも、理解や好感・愛着が高まるという点があります。

そして、このように生活者自らが共感して輪に加わるナラティブは、製薬会社が行う疾患啓発やオウンドメディアの企画にも有効な手法だと考えられます。例えば、高血圧予防のために減塩の重要性を伝えたい場合、「私の減塩ライフ」のようなテーマでキャンペーンを実施し、減塩を取り入れている人のリアルな声を集めて彼らの物語を通して減塩の重要性を理解していただく仕組みなら、一方的に情報を発信する従来の手法(塩分摂りすぎのリスクや高血圧のリスクを一方的に伝える手法など)とは違った反応が得られるのではないでしょうか。

これから疾患啓発やオウンドメディアの企画をする際には、「ナラティブなアプローチはできないだろうか」「どうすれば患者さんや患者予備軍を主人公にできるか」「どういった企画なら自分事として参加したくなるか」などと考えてみることもおすすめします。

<参考> ※URL最終閲覧2022年2月7日
・『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』本田哲也, 東洋経済新報社, 2021
・『ナラティブ・アプローチ』/一般社団法人日本医療コミュニケーション協会, https://medcommu.jp/2020/09/16/column25/
・『「あなたとクルマの物語」TVCM』, SUBARU, https://www.subaru.jp/yourstorywith/
・『#この髪どうしてダメですか』, PANTENE, https://pantene.jp/ja-jp/hair-we-go/school-hair
・『キャンペーン展開から3日で、20,000件を超えるTwitter上の反響 パンテーン 『#この髪どうしてダメですか』 第2弾始動!』, PRTIMES, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000042936.html
・『#NoBagForMe』, ソフィ, https://www.sofy.jp/ja/campaign/nobagforme.html
・『すべての女性が自分に合った生理ケアを選択できる社会を目指して  ソフィ #NoBagForMe 限定デザイン誕生  まったく新しいデザインの タンポン・ナプキン・おりものシート同時発売』/@Press』, https://www.atpress.ne.jp/news/199040
・『ソフィ 「#NoBagForMe」2021年始動/@Press』, https://www.atpress.ne.jp/news/249704
・『ユニ・チャーム、第36回企業広報賞「企業広報大賞」を受賞/ユニ・チャーム』, https://www.unicharm.co.jp/ja/company/news/2020/1214383_13534.html