【2024年診療報酬改定を先取り】診療報酬改定を製薬企業のマーケティングに活かす方法 5『Ⅳ 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上』編

【2024年診療報酬改定を先取り】診療報酬改定を製薬企業のマーケティングに活かす方法 5『Ⅳ 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上』編

これまでお伝えしてきた2024年の診療報酬改定の個別改定項目の解説は、今回で一区切りとなります。これまでの範囲だけでも、製薬業界に大きな影響を与えると予想できる改定項目が数多くありました。
後発医薬品については、さらなる使用促進が図られるだけでなく、バイオ後続品の使用も強力に推進されます。今回の改定では、どのような内容が盛り込まれたのでしょうか。そこで今回は、『Ⅳ 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上』を中心に解説していきます。

Ⅳ 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上

これまで厚生労働省は、日本の医療保険制度をできる限り長く持続させるために、日本の医療全体の効率向上と適正化に力を入れ続けてきました。今回もその方向性は変わっていません。そのために必要な、医療のコストを下げ続ける取り組みがこの『Ⅳ 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上』の項目に記されています。
製薬業界への強い風当たりは、まだまだ続きそうです。

Ⅳ-1 後発医薬品やバイオ後続品の使用促進、長期収載品の保険給付の在り方の見直し等

従来の後発医薬品の使用促進と併せて、医薬品の供給不足などの場合、患者さんに提供する治療の計画見直しといった体制の整備と、患者さんに理解を促す院内掲示が要件化されました。

また、バイオ後続品の使用を促すために、バイオ後続品使用体制加算が新設されます。
施設基準として『直近1年間に先発バイオ医薬品およびそのバイオ後続医薬品の使用回数が100回を超えること』が設定されます。
さらに、先発バイオ医薬品の銘柄とバイオ後続品の規格単位数量の割合に80%あるいは50%という数値目標も設定されました。

これらは、厚生労働省が暗に、今後も後発医薬品の市場浸透を止めるつもりがないことをほのめかしているとも受け取れます。
したがって、今後も後発医薬品の市場浸透は続くでしょう。

【具体的な改定内容】

  1. 医療DX及び医薬品の安定供給に資する取組の推進に伴う処方等に係る評価の再編
  2. バイオ後続品の使用促進
  3. 長期収載品の保険給付の在り方の見直し
  4. 再製造単回使用医療機器の使用に対する評価
  5. プログラム医療機器の使用に係る指導管理の評価

Ⅳ-2 費用対効果評価制度の活用
Ⅳ-3 市場実勢価格を踏まえた適正な評価

Ⅳ-2、Ⅳ-3の改定内容については、中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申をご参照ください。

Ⅳ-4 医療 DX の推進による医療情報の有効活用、遠隔医療の推進

今回の診療報酬改定の個別改定項目の中には「医療 DX の推進による医療情報の有効活用、遠隔医療の推進」が合計23回出てきます。
厚生労働省が医療DXを中長期的に推進していくことによって、医薬品の処方にどのような変化が起こりそうかということに着目し続ける必要があるかもしれません。
具体的なⅣ-4の改定内容については、中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申をご参照ください。

Ⅳ-5 患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価

Ⅳ-5の改定内容については、中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申をご参照ください。

Ⅳ-6 外来医療の機能分化・強化等
Ⅳ-7 生活習慣病の増加等に対応する効果的・効率的な疾病管理及び重症化予防の取組推進

Ⅳ-6、Ⅳ-7の2項目については、「Ⅱ ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」編で解説した「Ⅱ-5 外来医療の機能分化・強化等」をご参照ください。生活習慣病の診療に大きく関わる可能性がある改定があります。

Ⅳ-8 医師・病院薬剤師と薬局薬剤師の協働の取組による医薬品の適正使用等の推進

この改定によって、フォーミュラリがさらに浸透する可能性があると考えられます。
ターゲット施設内などの医師と薬剤師の活動に注視する必要がありそうです。

【具体的な改定内容】

  1. 入院中の薬物療法の適正化に対する取組の推進
  2. 医療 DX 及び医薬品の安定供給に資する取組の推進に伴う処方等に係る評価の再編
  3. 投薬用の容器に関する取扱いの見直し

Ⅳ-9 薬局の経営状況等も踏まえ、地域の患者・住民のニーズに対応した機能を有する医薬品供給拠点としての役割の評価を推進

Ⅳ-9の改定内容については、中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申をご参照ください。

2024年の診療報酬改定の4つの目的

「Ⅰ 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」編「Ⅱ ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」編「Ⅲ 安心・安全で質の高い医療の推進」編で見てきたように、今回の診療報酬改定の目的は、下記の4点です。

【2024年診療報酬改定の目的】

  • 物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応
  • 全世代型社会保障の実現や、医療・介護・障害福祉サービスの連携強化、新興感染症等への対応など医療を取り巻く課題への対応
  • 医療DXやイノベーションの推進等による質の高い医療の実現
  • 社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和

これらを実現させるために細かな見直しや評価項目の新設、古くなった評価項目の削除などがなされました。これらが製薬業界に直接的・間接的にどれくらい影響をおよぼすのかを予測することが製薬業界のマーケティングを考える際に重要です。

診療報酬改定を読み解くにあたり重要なことは?

私たちが診療報酬改定を読み解くにあたり、大切なことは「医療者や患者さんの意思決定や行動がどのように変化するか?」を常に考えることです。

直接自社製品に関係がないと思われる改定項目でも、かかりつけ医の浸透によって患者さんの受療行動が変化したり、急性期病院に入院した患者さんが迅速に他院に転院したりするなどの変化がありました。

このことによって、患者さんの居場所や処方箋をもらう場所などが変化してきたのです。このような状況が診療報酬改定によって作られてきました。

また、診療報酬点数のインセンティブの変化によって、医療機関がどの届出を行い、どの加算や評価を取りに行くのかも変化します。それにより、患者さんの受療行動や、医師の処方に影響が出ることもあります。

これらの外的環境をより広範に把握し、マーケティングプランの策定に活かすことが、プロマネに求められることです。
先発医薬品の製薬企業にとっては後発医薬品の使用促進という厳しい環境が続きます。これらも踏まえ、丁寧にPEST分析を行い、製薬業界を取り巻く環境変化を分析しておくことをおすすめします。

診療報酬改定は、未来の日本の医療の姿を描いている

診療報酬改定では、厚生労働省が実現したい医療の将来像を示すものです。製薬企業は、その将来像を実現するためにサポートできることをエリアごとのマーケティングとして展開することができるでしょう。
多くの医療従事者は、診療報酬改定に非常に高い関心を持ち、地域医療を支えることに責任感と意義、やりがいなどを感じています。製薬企業は、診療報酬を理解して、医療従事者と同じ目線でその地域の医療に関わることで医療従事者と面談のアポイントも取りやすくなり、自社製品の価値を届ける情報提供活動もスムーズに行えるようになるでしょう。
今後の情報提供活動では、診療報酬改定を踏まえた取り組みと自社製品の情報と組み合わせることで、自社製品の付加価値を高めることができると考えられます。
診療報酬改定を活用した効果的なマーケティングプランを作成していきましょう。

参考資料
1) 厚生労働省資料 令和6年度診療報酬改定の基本方針の概要(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001177119.pdf
2) 中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申 (https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001220377.pdf)