KOLのニーズに即したコミュニケーションとは?文献検索AIツールを含む情報検索の効率化についても解説!

KOLのニーズに即したコミュニケーションとは?文献検索AIツールを含む情報検索の効率化についても解説!

製薬企業のマーケティング担当者として、MSLとして、大学病院の担当者として、この4月からKOLの先生方とコミュニケーションを開始する方もいらっしゃると思います。本記事では、そのような方々に向けて、KOLのさまざまなニーズに焦点を充てて、それに応えるための情報検索方法について解説します。さらに、最新の文献検索AIツール「Consensus」の活用方法についても紹介し、業務効率化につながる情報をお届けします。

KOLとは

医薬品のマーケティングにおいて、KOL (Key Opinion Leader)とは、「対象領域で影響力を持つ権威ある医師」と捉える方が多いと思います。具体的には、以下のような特徴を持つ医師をKOLと呼ぶことが一般的です。

  • ガイドラインの執筆を担当している
  • 当該領域の学会などで教育講演を担当している
  • 他の医師に対して情報を発信することを業務の一部にしている


KOLは周りの医師に及ぼす影響力も高いため、製薬企業の営業部門だけでなく、マーケティングやMSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)などの本社スタッフも、積極的にアプローチを試みる先生方だと言えます。

KOLのニーズに即したコミュニケーションを行うには?

製薬企業のマーケティング担当者、MSL、また大学担当者となると、このようなKOLと言われる医師とのコミュニケーションが増加します。

その際に重要なことは「相手のニーズ」に即したコミュニケーションを行うことです。

KOLのニーズの多面性

KOLの先生方のニーズは大きく5つのカテゴリーに分けられると考えられます。
こちらは過去の業務経験を通じて独自に作成した分類です。

医師一人ひとりのニーズは当然異なりますので、他のニーズの分類も考えられると思います。今回対象とするのはKOLということで、大学の教授クラスであることが多いため、その役割の性質から作成しました。

【KOLのニーズ分類】

1. 研究者としてのニーズ

最新情報

海外学会の最新情報

2. 講演者としてのニーズ

発表の機会

情報の正しさ

プレゼンテーションの技術

3. 教育者としてのニーズ

若手医師への影響

医局に所属する若手医師への教育機会の提供

4. 経営者としてのニーズ

繋がり

組織マネジメント

企業研修

5. 先駆者としてのニーズ

治験・新しい情報

海外のKOLとのコネクション

ここで強調したいポイントは、この分類の良し悪しではなく、「KOLのニーズは多面的であり、意識的に深掘りをしないと表面的なニーズしか捉えることができない」という点です。

考えを深掘りするために、あらかじめ考えられるニーズを分類しておくと、質問が立てやすく、本質の把握に繋がる可能性が高まります。

私自身は次の打ち手に繋がりやすいこと、また整理のしやすさから、この分類を用いて、担当するKOLの先生方の情報を整理するように心掛けていました。

ニーズ分類の活用方法

このニーズ分類を頭の中に思い描いた上で、先生方とコミュニケーションを図る利点は以下の3点です。

  1. 担当するKOLのニーズの強い部分を考える癖がつく
  2. 事前に仮説が作りやすくなり、質問に幅と深みが出せる
  3. 顧客のニーズは1つではないことを強く意識できる


通常、ニーズには強弱があり、どれか一つだけというよりも、複数持ち合わせている場合が多いです。しかし時に、この事実を忘れてしまうこともあります。つまり「○○先生のニーズは○○だ」と決めつけてしまっているようなケースです。そういった時にこのような分類をKOL一人ひとりにあてはめて考えることで、質問やアプローチに幅が生まれます。

ニーズ分類活用の事例

過去の事例を紹介します。
もの静かなタイプで学術的な議論を好むKOLを担当していました。

担当した当初は、研究者タイプと考え、海外の最新論文を紹介する形でのコミュニケーションをしばらく続けていました。

より先生との関係構築を深めるために、他のニーズで協力できることはないものかと模索をしていました。そこで改めて先生のプロファイルを確認したところ、その先生は教授に就任されて、まだ半年、かつ別の大学から来られていることに着目しました。

半年であれば、大学病院での勤務にも慣れてきたころで、経営者(管理者)としてのニーズである組織マネジメントにより関心が高まっている時期であろう仮説を立てました。

そこで、企業で行なわれているチームビルディング研修についてそれとなく話題提供を行いました。すると予想以上に話が盛り上がりました。そして、チームビルディング研修を実施している数社の情報を提供しました。後日訪問すると、「あの時教えてもらった会社にコンタクトして、実際の研修を実施した。有益な研修となり満足している」と感謝の言葉をいただきました。些細な情報提供ではありますが、仮説立て→ニーズの確認から、顧客満足に繋がる情報提供に繋がった事例です。

このほかにも分類したニーズをその時々に応じて深堀りすることによって、海外KOLの招へい講演会、若手セミナーの企画、プレゼンテーション研修の紹介など、さまざまなアクションに繋がっていきました。

これはKOLの先生に限った話ではありませんが、顧客とコミュニケーションを図る際に、「この先生のニーズがどこにあるのか?」と予想しながら話をすることは有用です。多くの場合、顧客が自らニーズを口にすることはありません。顧客ですら気付いていないニーズも多々あります。それらを浮き彫りにするのに、ニーズの分類という考え方が役立ちます。

KOLニーズの高い学術情報への感度を高めるために

KOLは、学術情報のニーズが強いことが一般的です。なぜなら、KOLは他の医師の前で講演する機会も多く、教育する立場でもあるため、自身の知識を常に質の高い状態にしておきたいという強いニーズがあるからです。このニーズは、多くのKOLが共通して持ち合わせているものです。

したがって、KOLが求めるような質の高い情報について、感度高く収集することが求められます。このことは、先生との信頼関係構築の一助になり得ます。

生成AIがなかった時代では、PubMedのアラート機能を設定し、担当する薬剤や領域の最新文献や、海外のガイドラインがUpdateされる情報を掴みにいくといった工夫をしていました。

PubMedのアラート機能については、インターネットで簡単に調べることができます。例えば、以下のサイトなどが参考になるでしょう。

もっと使える!!PubMed: 検索式の保存・Eメールアラート|九州大学附属図書館

そのほかには、国内学会や国際学会が最新トピックをX(旧Twitter)で発信しているケースも散見されます。

これらのアカウントをフォローしておくと、最新情報に目を触れる可能性が高まります。ぜひご自身の関連する学会のアカウントを一度検索されてみてください。

またXの中には自ら情報発信しているKOLも散見されます。これはYouTubeもしかりです。そういったKOLの発信を見逃さないことも、いまの時代では必須の情報検索活動になってきます。

論文検索AI「Consensus」を活用した情報収集

いまのこの世の中には、生成AIという非常に優れたツールが存在します。このツールを上手に使いこなすことで、薬剤や疾患に関する情報収集力がさらに高まります。

その中で一つの強力な武器になり得るのが、論文検索に特化した生成AIである「Consensus」です。

Consensusは、公開されている学術論文から、ユーザーの質問に応じて情報を抽出し、結果を要約・集計してくれるAI搭載の検索ツールです。利用は無料で、アカウントを作成すれば誰でも使用できます。

https://consensus.app/search/ 

使用言語は英語であり、英語で質問すると、英語で回答が返ってきます。

英語が読めない方には少し扱いづらく感じるかもしれませんが、Google翻訳などのAI翻訳ツールを利用すれば、問題なく利用できます。

Consensusは2億件を超える学術論文データを元に論文検索を行い、データセットは毎月更新されているそうです。参照するのは査読のある学術論文であり、検索結果には参照元や参考論文も掲載されます。

参考論文は、以下のようなパターンで信頼性が示されます。

  • 「Very Rigorous Journal」非常に厳格な研究
  • 「Rigorous Journal」厳格な研究
  • 「Highly Cited」多く引用されている
  • 「Case Report」症例報告
  • 評価なし


また、YesかNoで答えられる質問をした場合、検索に応じたYesとNoの%表示をしてくれることも特徴の一つです。

例えば、以下のリサーチクエスチョンを質問した時の結果を紹介します。

Does wine reduce cardiovascular events?(ワインは心血管系イベントを減らすことができるか?)

Consensus出力結果1

論文が分析され、その要約が以下のように抽出されました。

These studies suggest that moderate wine consumption may reduce cardiovascular risk through various mechanisms such as improving lipid levels, increasing antioxidant capacity, and affecting hemostatic variables, but excessive consumption may have adverse effects like increased heart rate and sympathetic nerve activity.

(これらの研究から、適度なワインの摂取は、脂質レベルの改善、抗酸化力の増加、止血変数への影響など、さまざまなメカニズムを通じて心血管リスクを低下させる可能性があることが示唆されるが、過剰な摂取は心拍数の増加や交感神経の活性化などの悪影響を及ぼす可能性がある。)


そして、右側には

Yes-80%
Possibly-20%
No-0%

という分析結果も表示してくれています。

これは「ワインは心血管系イベントを減らすことができる」という結果にYesと答えた論文の割合が8割、Possibly(おそらく)と答えた論文の割合が2割、Noと答えた論文の割合が0割であったことを意味しています。

さらに、このConsensusには「Copilot」という機能も搭載されています。

これは調べた複数の論文からいくつかの要点を引用し、かつ最終的な結論(Conclusion)を導いてくれる機能です。

Consensus出力結果2
Introduction
The relationship between wine consumption and cardiovascular events has been a subject of research, with studies exploring how different types of alcoholic beverages may influence vascular risk and related health outcomes.

Key Insights from Research Papers
●Moderate wine consumption is associated with a J-shaped relationship to vascular risk, indicating a significant reduction in risk at certain levels of intake, with maximal protection observed at 21g/day of alcohol for wine and 43g/day for beer; no such relationship was found for spirits1.

●Red wine consumption may lead to favorable changes in cardiovascular risk factors, such as an increase in high-density lipoprotein cholesterol (HDL-C) and a decrease in fibrinogen levels, suggesting that the benefits may be primarily due to the alcohol content rather than non-alcohol components in wine2.

●Acute effects of red wine and ethanol on hemodynamics and sympathetic nerve activity show that one drink of ethanol or wine dilates the brachial artery without activating sympathetic outflow, while two drinks increase sympathetic nerve activity, heart rate, and cardiac output, with these effects not significantly modified by red wine polyphenols3.

●Chronic consumption of red wine has been shown to reduce low-density lipoprotein cholesterol (LDL-C) and increase HDL-C in hypercholesterolemic postmenopausal women, suggesting a reduction in cardiovascular disease (CVD) risk4.

●Moderate wine consumption, particularly red wine, is associated with antithrombotic effects and a reduced vascular risk, potentially due to the polyphenols present in wine5.

●Regular light to moderate wine consumption may counteract oxidative damage induced by alcohol in coronary heart disease (CHD) patients, with wine's bioactive compounds exerting antioxidant actions6.

●Wine, especially red wine, and to a lesser extent beer, appear to confer greater cardiovascular protection than spirits, likely due to their polyphenolic content7.

●Antioxidant dietary intervention with red wine in asymptomatic hypercholesterolemics can increase total antioxidant capacity and vitamin E levels, potentially reducing cardiovascular risk factors8.

●Moderate wine consumption may attenuate the inflammatory response induced by alcohol consumption, as evidenced by the effects on cytokine secretion by peripheral blood mononuclear cells in CHD patients9.

●The protective effect of moderate red wine consumption against CVD is supported by epidemiological and experimental studies, with mechanisms including LDL oxidation and alterations in hemostatic variables10.

Conclusion
The synthesis of the research indicates that moderate wine consumption, particularly red wine, is associated with a reduction in cardiovascular events and risk factors. This protective effect is attributed to the alcohol content and the presence of polyphenols in wine, which may improve lipid profiles, exert antithrombotic and antioxidant effects, and attenuate inflammatory responses. However, the benefits are dose-dependent and exhibit a J-shaped relationship, emphasizing the importance of moderation.

はじめに
ワインの消費と心血管イベントの関係は研究対象であり、さまざまな種類のアルコール飲料が血管リスクや関連する健康転帰にどのように影響するかを探る研究が行われてきた。

研究論文からの主な洞察
●適度なワインの摂取は血管リスクとJ字型の関係にあり、一定の摂取量でリスクが有意に低下することを示し、ワインではアルコール量21g/日、ビールでは43g/日で最大の予防効果が観察された1。

●赤ワインの摂取は、高比重リポタンパク質コレステロール(HDL-C)の増加やフィブリノーゲン濃度の低下など、心血管危険因子に好ましい変化をもたらす可能性があり、この有益性は、ワインに含まれる非アルコール成分よりもむしろアルコール含有量によるところが大きいことが示唆されている2。

●血行動態と交感神経活性に対する赤ワインとエタノールの急性作用によると、エタノールまたはワインを1杯飲むと、交感神経の流出が活性化されることなく上腕動脈が拡張するが、2杯飲むと交感神経活性、心拍数、心拍出量が増加し、これらの作用は赤ワインのポリフェノールによって有意に変化することはない3。

●赤ワインの慢性的な摂取は、高コレステロール血症の閉経後女性において、低比重リポタンパク質コレステロール(LDL-C)を減少させ、HDL-Cを増加させることが示されており、心血管疾患(CVD)リスクの減少を示唆している4。

●適度なワイン、特に赤ワインの摂取は、抗血栓作用と血管リスクの低下と関連しているが、これはワインに含まれるポリフェノールによる可能性がある5。

●冠動脈性心疾患(CHD)患者では、軽度から中等度のワインを定期的に摂取することで、アルコールによって誘発される酸化的損傷に対抗できる可能性があり、ワインに含まれる生物活性化合物が抗酸化作用を発揮する6。

●ワイン、特に赤ワインと、それほどではないがビールは、蒸留酒よりも心血管系の保護作用が強いようであるが、これはおそらくポリフェノール含有量によるものであろう7。

●無症候性高コレステロール血症患者に赤ワインを用いた抗酸化食事介入を行うと、総抗酸化能とビタミンE濃度が上昇し、心血管危険因子が減少する可能性がある8。

●CHD患者の末梢血単核球によるサイトカイン分泌への影響から明らかなように、適度なワインの摂取は、アルコール摂取によって誘発される炎症反応を抑制する可能性がある9。

●適度な赤ワイン摂取によるCVD予防効果は、疫学的および実験的研究によって裏付けられており、そのメカニズムにはLDLの酸化や止血変数の変化などが含まれる10。

結論
これまでの研究を総合すると、適度なワイン、特に赤ワインの摂取は、心血管イベントおよびリスク因子の減少に関連することが示された。この保護効果は、ワインのアルコール含有量とポリフェノールの存在に起因しており、これらのポリフェノールは脂質プロファイルを改善し、抗血栓性および抗酸化性を発揮する可能性がある。


このような形で検索結果を引用を用いながら要約してくれます。

そして、このCopilotに続いて、実際に引用に用いられたメタアナリシスやランダム化比較試験(RCT)も表示されます。これらが他の論文にどれだけ引用されたかは、Citationsという形で掲載されており、引用が多い論文には“Highly cited”の記載もついています。

Consensus出力結果3

以上がConsensusの説明となります。

Consensusの抽出力に驚いた方も多いのではないでしょうか。

私自身もこの生成AIの存在を知った時は、とても驚きました。

さらに、使用中に驚いたのは、そのスピードです。質問をしてから、ものの数秒でこれらの結論を作成してくれるのは、生成AIの恐ろしいほどの能力を感じます。

情報に対する感度を高めることのできるツールや情報源を上手に活用することで、KOLのニーズに叶う情報提供の可能性が高まります。

私自身もまだまだ知らない生成AIもあり、十分使いこなせているとはいえませんが、少しずつ勉強しながら自身の能力向上に努めていきたいと思います。

KOLのニーズを深堀りし、情報への感度を高めよう

本記事では、KOLのニーズに即したコミュニケーションと文献検索AIツールを含む情報検索について解説しました。

KOLのニーズを深堀りすることと、情報への感度を高める活動を継続することによって、KOLとのコミュニケーションの質が向上し、信頼関係の構築や成果に繋がっていきます。

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