製薬企業の講演会戦略2025 -働き方改革後の実態調査と運営のプロの視点から
コロナ禍や医師の働き方改革を受け、製薬企業の医師向け講演会へのニーズやあり方が変化しています。本記事では、『医師の製薬企業主催講演会の活用実態とニーズ調査2024』の考察を深めるべく、株式会社医薬情報ネットの講演会運営サポート部門であるGC Convention Unit担当者5名にインタビュー。長年にわたり数多くの製薬企業の医師向け講演会運営サポートを経験し、講演会現場のリアルを知っている担当者はこの変化をどのように捉えているのか、今後の製薬企業の効果的な講演会活用法とともに伺いました。
製薬企業主催講演会は、ますます「使い分け」が肝要に
コロナ禍以降、講演会のスタイルは「リアル」「Web」「ハイブリッド」の3つに分かれることになりました。2024年4月に医師の働き方改革が施行され、現在の医師の講演会参加状況や製薬企業側の講演会活用はどのように変化しているのでしょうか。
Webやハイブリッドの需要は引き続き拡大
Medinewが実施したアンケート調査結果では、一部の層において医師の働き方改革前後でリアル講演会からWeb講演会へ情報収集の場がシフトしたことが伺える結果が得られました。
GC Convention Unit担当者はこの結果について、「コロナ禍が明けてリアル講演会が戻ってきたと言いつつも規模感としては縮小していることを肌で感じており、ターゲット医師をより絞って開催している印象を受けている」とコメント。
コロナ禍を機にデジタル親和度の上がった医師側から、製薬企業側にWebやハイブリッドを要望する意見も聞かれるとのこと。その声を受け、リアル講演会から切り替えざるを得ないケースもあるようです。
製薬企業側では目的や条件によった講演会の使い分けが進む
Web・ハイブリッド講演会のニーズが高まっている傾向にある中、製薬企業側は目的・疾患領域・ターゲット医師数などをふまえて講演会の実施手法を適切に選択しているようです。
例えば希少疾患などのニッチな領域を扱う場合、ターゲット医師数が比較的限られ、かつ内容が複雑である傾向があるため、ディスカッションなどを交えながら知識を深めていただくとともに、企業側の想いを直接届けたいという理由からリアル講演会が選択される傾向にあります。
また、例えば500~700名程度の規模感の講演会を1回行うよりも、100人程度の規模感で開催エリアを分けて数回開催するといった実施方法の最適化が進むなど、リアル講演会のあり方も慎重に検討されている姿勢がみられるとのことです。
「コロナ禍でWeb講演会という選択肢が登場したことでリアル講演会費用の予算をカットされたという話も聞くが、すべてのリアル講演会がWeb講演会に置き替えられるものではない。それぞれの特長を理解し、上手く活用していただきたい」と、GC Convention Unit担当者は引き続き目的や条件に合った手法を選択していくことを勧めています。
Web講演会で認知を広げてリアル講演会で関係性を強化する
同調査によると、リアル講演会はWeb講演会に比べて、処方拡大や主催製薬企業との関係強化といった面でより影響を与える傾向にあることがわかりました。
情報提供が一方的になりやすいWeb講演会と比較して、リアル講演会の最大の特長は対面で話し合い、ディスカッションや親交をインタラクティブに深めることができることです。
この結果については「製薬企業の講演会はさまざまな変化を経てきたが、MRが直接医師に会って関係性を作ることが、いつの時代も処方の拡大や関係性の強化につながるというのは変わらない」と、GC Convention Unit担当者も頷くところ。
リアル講演会はWeb講演会よりも予算面や集客の難しさなどの課題があるのは事実です。しかし、上手く活用することで目的達成のためのパワフルな手段になり得ます。
Web講演会はクイックに、リアル講演会は合計2~3時間をかけてじっくりと
リアル講演会の所要時間について、リアル講演会主要ターゲット医師※では「講演会が1時間~1時間半」「情報交換会が1時間~1時間半」が適切だという意見が最も多くなりました。
※回答者のうち、製薬企業からの全国規模リアル講演会への案内回数が多い医師を「リアル講演会主要ターゲット医師」としてセグメント分けし分析
この結果に関して、GC Convention Unit担当者からは「講演会の長さは2時間以上で実施している企業が多い印象。もう少し短い方が適切と感じる参加医師が多いのであれば、そこを見直してみるのも一手」「情報交換会は、1時間前後を見ておいて様子をみながら中締めを入れるケースが多い。参加医師らも1時間以上かけてじっくり交流したいという希望があったのだなとリアルへのニーズを実感した」といった意見が聞かれました。
一方でWeb講演会の適切な時間は「30分~1時間未満」が最多という結果に。Webではクイックに情報収集し、リアル講演会ではじっくりと話を聞くとともに、製薬企業や医師間でのつながりを深めたいというニーズの違いがうかがえます。
広い層にリーチできるWeb講演会で認知を広めた上で、関係を強化していきたい医師に対しては、リアル講演会でより深い理解や関係性強化へと引き込んでいく。それぞれの特長を生かした設計が今後の講演会には必要といえるでしょう。
企画の充実と効果的な事前案内でリアル講演会の参加率を高める
影響力の高い一方で、リアル講演会は遠方から訪れる場合は半日~1日を要することもあり、その時間的コストは参加率を下げる一因となっています。
同調査においても、直近の1年において案内を受けた講演会に1回以上参加した割合は、リアル講演会では4~6割程度、Web講演会では9割程度と、参加率に大きな差が見られました。
集客が難しいリアル講演会だからこそ、Web講演会では得られない価値を見出してもらう必要があります。参加率を高め、かつ満足感を得てもらえるリアル講演会に必要な要素とは一体何でしょうか。
登壇医師の魅力を引き出す企画と環境づくり
同調査によると、印象の悪かったリアル講演会には以下のような傾向が見られました。
<印象の悪かったリアル講演会の特徴>
- 他で聞いたことのある情報が多い・・・(46%)
- 講演会の時間が長すぎる(少なすぎる)・・・(45%)
- 登壇者のプレゼン能力が低い・・・(43%)
この結果についてGC Convention Unit担当者は「製薬企業主催講演会は、プロモーションコードに準拠する必要性から、情報提供に一定の制約が生じることは避けられない。しかし、例えばチーム医療の状況や実臨床での工夫など、参加医師が持ち帰ることのできる+αの情報を織り交ぜることで、既視感を和らげることができより充実した情報提供が可能になるだろう」とコメント。
企画内容はもちろんのこと、企画に沿った登壇医師や共演者の選定、そして制限のある中でも登壇医師らができるだけ個性や経験を発揮できる環境づくりが大切であることを、数々の講演会運営サポートを通して実感しているようです。
また、「登壇者に気軽に質問をすることができる環境がない(21%)」、「質問の機会がなく、発言やディスカッションの機会がない(18%)」といった回答も。交流が重視されるリアル講演会だからこそ、気軽に質問やディスカッションができる環境を整えることはマストといえるでしょう。
事前案内は適切なタイミングかつ興味を引く内容で
リアル講演会の参加率は、事前案内によっても大きく変わるといいます。直接足を運ぶという負担が医師側にかかる分、それをカバーできるだけの興味を惹ける充実した内容と、誰が何について話すのかなど会の趣旨をしっかり示した上で案内をすることが効果的です。
事前案内のタイミングについて、アンケート結果では、宿泊を伴うリアル講演会は「2か月前」、伴わない場合でも「1か月前」には案内がほしいという声が多数に。時間的コストが足かせとなりやすいリアル講演会では、少しでも予定を組みやすい状態を作る工夫が必要であるといえます。
一方、せっかく参加してくれた医師の期待を下回る内容を提供することになると、製薬企業へのイメージを下げてしまう可能性がある点にも注意が必要です。企画は、製品のことを誰よりも理解している製薬企業側にしか用意できない部分もありますので、主催者は企画の充実に専念し、準備や運営はコンベンションユニットのような外部ベンダーに任せてしまうのもひとつの方法です。
講演会の特長に応じた使い分けで成果を出す
医薬品の適正使用の推進や医療現場との持続的な関係構築を実現する場として重要な役割を果たす医師向け講演会。Web講演会は比較的手軽に多くの医師に情報を届けられる一方、リアル講演会は深い議論や相互理解を通じて、治療方針の決定により本質的な影響を与える傾向にあります。製薬企業には製品特性や情報提供の目的に応じて講演会手法を適切に使い分け、それぞれの特長を最大限に活かした企画を立案することが求められています。
特にリアル講演会については、医師の貴重な時間を拝借する機会であるだけに、質の高い情報提供が不可欠です。参加医師の満足度が高ければ、主催製薬企業の信頼性向上や、その後の医師間のコミュニケーションにおいて好意的な評価が共有される可能性が高まります。充実した企画内容の準備や事前案内の工夫により、貴重な機会を確実な成果につなげていくことが重要といえるでしょう。
取材協力:株式会社医薬情報ネット GC Convention Unit(加藤、川﨑、金城、佐々木、原目)