複数の調査から読み解く医師の情報収集方法の変化とeディテーリング活用のポイント
訪問規制や情報収集方法のデジタルシフトなどを受け、医師への情報提供において変化を求められてきました。医師の働き方改革も始まり医療従事者を取り巻く環境が変化する中、製薬企業のマーケティング活動にもさらなる変革が求められています。今回は株式会社インテージヘルスケアのセミナーで紹介されたデータやMedinewが実施した医師調査結果を交えながら、情報提供手段の一つとしてのeディテーリングの現状と今後について考えていきます。
労働時間への意識の高まりで、今まで以上に「医師一人ひとりの異なる情報収集ニーズ」に対応することが重要
2024年4月から施行されている医師の働き方改革は、医師の労働時間だけでなく、製薬企業のマーケティング活動にも影響を与えるでしょう。今後医師はどのような情報収集方法を選んでいくのでしょうか。また、製薬企業はどのようなことに配慮し情報提供していくべきなのでしょうか。
医師ごとの状況把握が必要
2024年3月12日にインテージヘルスケアが開催したオンラインイベント内の講演「働き方改革による変化をN1分析で探る」では、これまで以上に個々の医師に応じた情報収集ニーズを把握することが大切であると述べられました。その理由は、労働時間に対する医師個人の意識の高まりに加え、時間外労働の上限が医師ごとに異なること、労働時間に該当する業務認定の定義が医療機関ごとに異なることにあると指摘しています。
時間外労働の上限は同一施設内でも医師ごとに異なり、さらに副業・兼業先施設の基準にも左右されます。また、製薬企業が開催する講演会など勉強会への参加が業務に該当するかは、医療機関ごとに定義や解釈がなされるため医療機関ごとの状況把握も必要です。
労働時間に対する医師個人の意識は高まるものの、日々進歩する医学情報の学びが医師にとって重要であることは変わりません。そのため製薬企業は医師ごとの状況を把握し、これまで以上に個々の医師の情報収集々ニーズに合わせた情報提供をしていく必要があるでしょう。
情報収集方法は、より効率的なものへシフト
2024年4月以降、多くの医師が求める情報収集ニーズとはどのようなものなのでしょうか。2024年2月にMedinewが250名の医師に実施したWebアンケート結果によると、医師は「自己研鑽の時間は確保しつつも、より効率的な情報収集方法を選ぶ」ことが示唆されました。
同調査の「医師の業務配分で考えられる変化」に関する質問では、時間配分が減ると回答した医師が多い業務は「MRなどとの面談(23.2%)」と「製薬企業が開催するリアルセミナーの聴講(18.4%)」でした。一方、増えると回答する医師が多かったのは「選択肢に記載がない自己研鑽(14.4%)」や「製薬企業が開催するWebセミナーの聴講(13.6%)」でした。
これらのことから、働き方改革が推進されても医師にとって自己研鑽の時間は大切であり、その方法がリアルではなくオンラインなどより効率的なものへとシフトしていくと考えられるでしょう。
同アンケートでは情報収集方法についても質問を実施しています。その結果、「インターネットやメルマガ、SNSといったオンライン」が最も利用されている方法であることがわかりました。さらに、その中でどのようなデジタルリソースを活用しているか質問したところ「m3.comなど医師向けメディア・SNS」が昨年度調査に引き続き最も多い回答であり、約6割の医師が週1回以上利用していました。
労働時間への意識が高まる中、サードパーティの医師向けメディアはこれからも医師の有用な情報源であり、効率的で効果的な情報提供を行うために有効な手段の一つだと言えそうです。
eディテーリングの現在地|インテージヘルスケアセミナーのデータより
前述のインテージヘルスケアの講演「働き方改革による変化をN1分析で探る」では、医師の情報収集の変化についてもデータを用いて解説されました。コロナ禍で情報収集の手段はMRが対面で行うディテーリングからeディテーリングへシフトしましたが、新型コロナウイルス感染症が5類に移行された現在でもその傾向は続いており、eディテーリングの実施回数は増加し続けています。
また、サードパーティの医師向けメディア別にeディテーリングの回数を見たところ、2024年現在、メドピア・ケアネット・エムスリーの順に回数が多いという結果でした。これは単純な配信数の差だけでなく、全会員への配信かターゲット医師のみへの配信かどうかなど、各メディアにおける配信方法の違いもディテール回数に影響を与えていると考えられるとのことでした。
一方、eディテーリングの回数の多さと処方への影響度の上昇にはギャップが認められているといいます。新規処方の先行指標とされるブランド想起(印象に残っている薬剤と影響したチャネルの調査)と各メディアとの関係を調査したところ、コロナ禍以降から現在まで継続してエムスリーの影響度が高いことが示されました。
処方アップを図るeディテーリングを構築するためには、回数だけではなくプラスαの工夫が必要であると言えるでしょう。
eディテーリング有効活用の鍵は「メディアの使い分け」と「コンテンツの質」
サードパーティのeディテーリング導入や、自社でのeディテーリング構築では、処方へつながる活用にすることが重要です。そのためには、メディアの使い分けやコンテンツの質を高めることが欠かせないでしょう。
医師会員数の多い4メディアの特性を理解して使い分ける
各メディアを活用するには、それぞれの特性を理解し使い分けることが大切です。各医師向け医療情報サイトの概要について下記の表にまとめました。ここでは各社のeディテーリングサービスに注目して紹介していきます。
m3.com
32万人以上の国内医師が登録しているm3.comは、サービスのひとつであるMR君を導入する製薬企業も多く、ターゲット医師への有用なアプローチツールとして地位を確立しています。
さらに製薬企業向けの営業マーケティング支援サービス「メディカルマーケター」をコロナ禍前より提供5)。エムスリー所属のデジタルMRがビッグデータを分析し迅速なディテール戦術改善からカスタマイズ化したディテールを行うサービスです。このように、以前より個々の医師に最適化した情報提供が行われていることが、ブランド想起の高さへつながっているのかもしれません。
ターゲットを絞ったeディテーリングを提供する一方、全会員を対象に配信可能なmega Web講演会のサービスも用意しています6)。
日経メディカルOnline
日経メディカルOnlineは、2022年に創刊50周年を迎えた日経メディカルがコンテンツを作成しており、質の高い医療情報配信が特徴のメディアです。2022年4月からは、医師とMRのコミュニケーションを支援する「日経メディカル Lounge」の提供を開始しています7)。
また、プロモーションからは独立したサービスとして「CMEデジタル」も用意8)。製薬企業のメディカル部門が作成した疾患啓発情報や医師の生涯教育情報を学習できるサイトです。
CareNet.com
日本初の医療従事者専門TV放送局を運営してきたケアネットでは、CareNet.com内にて毎月10本以上の新作有料コンテンツ動画を配信3)。2023年6月には、メディカルアフェアーズ部門が最新薬物療法などの情報を配信する「CareNet 医学教育」サイトをオープンしました9)。製薬企業が作成したコンテンツを掲載可能ですが、プロモーションではなく中立的で科学的な情報提供を行うものとしています。
さらに2025年度に本格的な始動を目指し、医師とのエンゲージメントに特化したサービスの計画も進んでいます10)。これはケアネットのオンラインアクセスでの強みと、医薬品卸の地域医療施設への情報収集力とアクセス力を活かしたサービスになる予定です。
Medpeer
会員は医師のみと、臨床医に特化した医療情報を発信するMedpeerでは、2023年4月に他社サービスとの業務提携により、医師へカスタマイズ化したプロモーションができるサービスの提供を開始しました11)。これにより製薬企業はメールアドレスを知らなくても、会員医師への情報提供が可能となります。さらに、同年4月から提供している製薬企業が独自の設定でWeb講演会を配信できる「セルフ集客講演会サービス」12)に、同年9月にはストリーミング配信機能を追加13)。これまで各製薬企業が用意する外部メディアツールごとでの聴講だったため遷移先での離脱が発生していましたが、会員登録の手間などを軽減し離脱を防ぐ効果が期待されます。
このようにeディテーリングについても各サードパーティサイトで特色が異なるため、有効活用のためにはメディアを使い分けることが欠かせないでしょう。
配信のカスタマイズ化とコンテンツの質確保も重要
メディアの使い分けに加えて、配信をカスタマイズしたり質の高いコンテンツを用意したりすることも忘れてはいけません。
前述のインテージヘルスケアの講演内ではeディテーリングだけでなく、情報収集方法によるブランド想起への影響度のデータも示されました。それによると、MRによる院内説明会の回数はコロナ禍以降に大きな増加は見られませんが、ブランド想起への影響度は5類移行後回復傾向にあります。つまり、MRによる院内説明会は1回のディテールに対する処方への影響が大きくなっていると言えるでしょう。
これは訪問規制緩和により個々の施設や医師の情報ニーズをMRが把握しやすくなったことで、処方へつながる効果的な説明会の実施が戻ってきたためかもしれません。
またディテール回数とブランド想起度の剥離は、単に回数を重ねるだけでは不十分であり、より質の高いコンテンツが求められていることを示唆している可能性があります。
eディテーリングにおいても、リアルと同様に個々の医師に最適化した情報提供や質の高さが求められていることは間違いありません。医師が求める情報の内容や配信タイミングの工夫と質の高いコンテンツ作りが、処方につながるeディテーリング成功の鍵となるでしょう。
医師個々の情報収集ニーズを把握し、最適なeディテーリングを
働き方改革など環境の変化により、医師の労働時間に対する意識が高まっています。製薬企業は、個々の医師が求める情報収集ニーズを把握することがこれまで以上に重要です。さらに効率的で効果的な情報提供を行うために、リアルでの情報提供に加え、eディテーリングの活用も有効でしょう。医師から評価を得ている医師向けメディアの特性を理解し、コンテンツの質向上やカスタマイズ化など工夫することで、医師へのリーチの最大化を目指しましょう。
<出典>
1) m3.com, エムスリー, ログインページ(https://www.m3.com/)
2)日経BP,お知らせ,2023.11.01,日経メディカル Onlineの医師会員にMediiが運営するオンライン専門医相談サービス「E-コンサル」の提供を開始(https://www.nikkeibp.co.jp/atcl/newsrelease/corp/20231101/)
3)ケアネット,2024.01.18,2023年12月期通期決算説明資料(https://ssl4.eir-parts.net/doc/2150/tdnet/2397796/00.pdf)
4)メドピア,事業内容(https://medpeer.co.jp/service/)
5)エムスリー,プレスリリース2021.11.10,製薬企業営業マーケティング支援サービス「メディカルマーケター」の導入薬剤数が100薬剤を突破(https://corporate.m3.com/assets.ctfassets.net/1pwj74siywcy/2RBiyWOxGmHMlmhIuvCBUR/293efe29fbc7398799fdeab02307b320/20211110_Press_J.pdf)
6)エムスリー,プレスリリース,2022.01.31,mega Web 講演会の最大ライブ視聴数が33,000名に(https://corporate.m3.com/assets.ctfassets.net/1pwj74siywcy/1AfUU9aFt58VytrUCz5npZ/befeb5d3adcff5808b64fb1d654784ac/20220131_Public_J.pdf)
7)日経BP,お知らせ,2022.04.22,日経メディカル Onlineの医師会員数が20万人を突破(https://www.nikkeibp.co.jp/atcl/newsrelease/corp/20220422/)
8)日経メディカル開発,事業紹介,製薬会社向けソリューション,CMEデジタル(https://project.nikkeibp.co.jp/nmp/comm/cmedigital/index.html)
9)ケアネット,ニュースリリース,2023.6.5,製薬企業が発信する「Care Net 医学教育」サイト、オープン(https://www.carenet.co.jp/wswp/wp-content/uploads/2023/06/ir_20230605_1.pdf)
10)ケアネット,ニュースリリース,2024.2.14,フォレストホールディングスとケアネット、合併会社を設立(https://www.carenet.co.jp/wswp/wp-content/uploads/2024/02/ir_2024021402.pdf)
11)メドピア,プレスリリース,2023.04.27,メドピア、シャペロンと業務提携し製薬企業のデジタルマーケティング活動を支援する新たなサービスを提供開始(https://medpeer.co.jp/press/10671.html)
12)メドピア,プレスリリース,2023.03.13,メドピア、製薬企業向けに小規模Web講演会の集客ニーズに応えた『セルフ集客講演会サービス』を2023年4月より開始(https://medpeer.co.jp/press/10607.html)
13)メドピア,プレスリリース,2023.09.22,医師向けWeb講演会ツールに新たな機能追加、シームレスな視聴に対応、より便利に快適に(https://medpeer.co.jp/press/11583.html)