患者中心の情報提供に向け業界ルール再検討を|中外製薬「PHARMONY DAY」の情報発信戦略

患者中心の情報提供に向け業界ルール再検討を|中外製薬「PHARMONY DAY」の情報発信戦略

中外製薬は2024年10月16日、患者中心の医療に向けた取り組みを発信する社内イベント「CHUGAI PHARMONY DAY 2024」を初開催しました。同社社員400人超が東京都内の会場とオンラインで参加し、奥田修代表取締役社長CEOと患者団体のダイアログ(対話)や、社内の患者中心に向けた取り組みの紹介、がん患者の語りに耳を傾けました。

患者中心の取り組みを社内共有するためのイベント

中外製薬は、2019年から「患者中心」の価値観を掲げています。翌2020年には同社CEOと患者団体が直接話し合う「CEOダイアログ」が始まり、その中で発見された課題に対する活動の中から、2022年には創薬研究に患者の声を取り入れる活動スキーム「PHARMONY(ファーモニー)」が構築されました。PHARMONYとは、Patients(患者)、Pharma(製薬)とHarmony(調和)を組み合わせた造語です。
 
当初は創薬研究に限った活動でしたが、2023年には開発・製造販売・育薬へと至るバリューチェーン全体で患者の声を聞き、協働しようという、全社的な活動へと発展しました。
 
「CHUGAI PHARMONY DAY」は、この活動スキームを同社内で共有し、発展させていくためのイベントです。がん経験者でもあるフリーアナウンサー笠井信輔氏が司会を務め、セッション1ではがん闘病中の患者が登壇し、自身の経験を語りました。
 
さらにセッション2では、同社内で2023年に行われた患者中心に向けた取り組み96件の中から、以下の事例の結果報告が行われました。
 

  • 創薬・薬理研究に携わる社員が、リアルワールドデータ分析と患者ヒアリングを行い、症状コントロールに対する潜在ニーズを創薬研究の初期段階で評価
  • 原薬から製剤を開発する製剤研究部の社員らが、患者・患者家族とのサマーキャンプを実施。剤形やデバイスの設計などについて要望をヒアリング
  • 臨床開発本部の社員らが、治験参加者へのThank you letterや『医薬品開発協働ガイド』に対する患者の意見をヒアリングし、文章表現などを工夫
  • 治験補償に携わる社員らが、治験参加者への補償活動の手順を患者中心の視点でレビュー。さらに患者ヒアリングに基づき、関連文書を「シンプルで平易な表現」へと改善
  • グローバルビジネス戦略に携わる社員が、米国の子宮内膜症の患者支援団体と協働し、患者インサイトとアンメットメディカルニーズへの理解を深める

奥田CEOと患者団体が対話、情報提供の業界ルールに問題提起 

セッション3の「CEOダイアログ」では、悪性リンパ腫の患者団体である一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパンの天野慎介氏、日本筋ジストロフィー協会の竹田保氏らが登壇し、奥田CEOと対話しました。

CEOダイアログ

この対話は2020年に初開催され、毎年継続して行われています。天野氏は過去のCEOダイアログを振り返り、「打ち上げ花火のように単発で終わらず、継続して開催され、前年の振り返りも提示されてきた。その継続の結果が、今年の事例報告のように結実しているのは素晴らしいことだ。製薬他社にも取り組みが広がってほしい」と所感を述べました。
 
一方で、患者視点で見ると、「薬機法の情報提供の規制が障壁になっていると感じる。患者は、SNSで公表前の情報を入手して混乱したり、臨床試験の情報をすぐに入手できずに治療選択肢が狭まったりしているのが現状だ」と問題提起しました。
 
竹田氏も「自身がどの薬を使えるのか知らない、むしろ薬ができたことすら知らない患者も多い。製薬企業がもっと積極的に伝えてもよいのではないか。伝えられない原因があるのなら、それを解決しなければならない。患者に伝えること自体は問題ではないはずだ」と訴えました。
 
奥田CEOは、「情報提供の問題の大きさを実感している。製薬企業は患者に対して販売促進活動を直接行ってはならない、というマインドが染み付いているが、変えないといけない。少なくとも、患者から要望を受けたら適正・正確な情報提供をするべきだ。ただし、さらに患者の要望がなければ動けないという壁もまだ存在している」と主張しました。
 
PHARMONYの活動の今後について、奥田CEOは「紹介された社内事例などを、部門を超えて横展開していく。来年また振り返りたい」と社員に呼びかけました。そして、「ゴールは患者団体との協働ではない。その結果、何かを変えて、よい薬を世に出すこと、患者に届けること、患者がよい選択をできるようにすることだ。そのために今後もマルチステークホルダーを巻き込んで対話していきたい」と意気込みを語りました。

社内イベントを通じて業界の在り方についてメッセージ発信

今回の社内イベントは同社のパブリックアフェアーズ関連部署が企画したものですが、社外向けの情報発信の一環としてメディアリレーション関連部署と連携。メディアの招待を初めて実施しました。
 
奥田CEOは「本イベントにメディアを招待したのは、この取り組みを報じてほしいからだ。記事を通じて、医療関係者、製薬他社、厚生労働省やPMDAなどの当局にも、この患者さんの声が届いてほしい」とのメッセージを発しました。
 
メディアリレーション部門では、特に製薬関係者への露出を意図し、製薬業界誌に向けた事前の情報提供などを行ったということです。その結果、イベント開催後には複数の製薬関連メディアが同イベントについて報じ、患者中心の情報提供の在り方についても言及しました。
 
製薬業界をよりよくしていきたいという中外製薬の広報戦略は、同社における患者中心の取り組みを広く知らしめることにつながり、企業ブランディングとしても一定の成功を納めたといえるのではないでしょうか。