製薬マーケティングの基礎知識|病院の種類について開設者別・機能別に解説

製薬マーケティングの基礎知識|病院の種類について開設者別・機能別に解説

製薬企業がマーケティング活動を行う際、前提として医療機関の分類を把握しておくことは欠かせません。それぞれの医療機関がどのような特徴をもち、どのような役割を担っているかを知ることは、顧客理解の第一歩と言えます。本記事では、製薬マーケティングの基本となる病院の種類や病院と診療所の違いについて解説し、病院内にはどのような部門があるかについても紹介します。

開設者別の病院の種類は6つ

病院は、開設者ごとに種類分けがされています。ここでいう開設者とは「病院を開設し、経営を行っている組織」を意味します。具体的には、「国立病院」「公立病院」「公的病院」「社会保険関係法人の病院」「大学病院」「一般病院」の6種類です。

種類

開設者

国立病院

厚生労働省や国立大学法人など

公立病院

都道府県や市町村、独立行政法人国立病院機構や地方独立行政法人、厚生連、日本赤十字など

公的病院

社会保険関係法人の病院

大学病院

国立や公立、私立いずれかの大学

一般病院

上記以外の公益法人や医療法人、社会福祉法人など

病院と診療所、クリニックの違い

病院と診療所(クリニック、医院)は、さまざまな違いがあります。病院と診療所の定義は、医療法によって定められています1)
病院は、医師や歯科医師が「公衆」「特定多数人」のために医療を提供する機関であり、20人以上の患者が入院可能です。一方で、診療所は入院可能数が19人以下、あるいは入院機能自体を有していないケースもあります。

それぞれの違いをまとめると、以下の通りです2)

病床

医師の数

医師1人が診る患者の数

病院

20床以上

最低3名以上

・外来患者40名に対して医師1名

・入院患者16名に対して医師1名

診療所(クリニック、医院)

20床未満

1人以上

制限なし

機能別の病院の種類は6つに分類される

病院は、その機能によって役割が分かれています。医療法においては「一般の病院」「病院のうち一定の機能を有する病院」という分類です。一定の機能を有する病院については、病院が有する機能に応じて「特定機能病院」「地域医療支援病院」「臨床研究中核病院」に分けられています。
また、対象とする患者の違いに着目して分類されているのが「精神病院」「結核病院」です。

  • 一般病院
  • 特定機能病院
  • 地域医療支援病院
  • 臨床研究中核病院
  • 精神病院
  • 結核病院

以下より、それぞれについて解説していきます。

一般病院

機能別に分けた場合の「一般病院」とは、患者に基本的な医療を提供するための機関で、診療所では対応できない病気や症状、検査、入院などに対応する役割があります。認可要件については、前述した病院の定義を満たすこと以外に決まりはありません。

厚生労働省の「医療法に基づく人員配置標準について」の資料を参照すると人員配置は以下のようになっています2)

<一般病床>

  • 医師…16:1
  • 薬剤師…70:1
  • 看護師…3:1


<療養病床>

  • 医師…48:1
  • 薬剤師…150:1
  • 看護師…4:1


特定機能病院

「特定機能病院」とは、一般病院では対応が難しいより高度な医療を提供している病院のことです。「高度医療の提供」「急性期の患者への対応」を目的としています。

原則として、患者の診療は、一般病院や診療所からの紹介によって受けつけています。特定機能病院として経営するためには、国からの承認を得なければなりません。

承認には、基準とされる診療科の数や病床数、医師や看護師、薬剤師の配置人数、紹介率や逆紹介率などを満たす必要があります。2022年12月1日時点で、特定機能病院は88施設が存在します3)

特定機能病院は、高度な医療技術や研修を行う能力を有していることが特徴です。そのため、特定機能病院に所属する医師は高度医療に関する研修も受けており、日々知識や技術を磨き続けています。

<役割>

  • 高度医療の提供
  • 高度医療技術の開発・評価
  • 高度医療に関する研修


<承認要件>

  • 高度の医療の提供、開発及び評価、並びに研修を実施する能力を有すること
  • 他の病院又は診療所から紹介された患者に対し、医療を提供すること(紹介率50%以上、逆紹介率40%以上)
  • 病床数…400床以上の病床を有することが必要
  • 人員配置医師…通常の2倍程度の配置が最低基準。医師の半数以上が専門医
  • 構造設備…集中治療室、無菌病室、医薬品情報管理室が必要、など


地域医療支援病院

「地域医療支援病院」は、地域の人々に対し、身近で幅広い医療提供を行うための病院です。地域医療の中核的役割を果たす役割があり、幅広い診療科に対応し、設備も十分に整っています。

地域医療支援病院として認められるためには、都道府県知事からの承認を得る必要があり、主体が「国」「都道府県」「市町村」「社会医療法人」「医療法人」のいずれかであることが前提条件です。2022年9月1日時点で、地域医療支援病院は685施設が承認されています4)

ほかにも、病床数や紹介率、逆紹介率、救急医療の能力や設備体制など、さまざまな要件が定められています。さらには、地域の医療従事者のための研修や講習会も活発に行われているのが特徴です。

<役割>

  • 紹介患者に対する医療の提供(かかりつけ医等への患者の逆紹介も含む)
  • 医療機器の共同利用の実施
  • 救急医療の提供
  • 地域の医療従事者に対する研修の実施


<承認要件>

  • 開設主体が原則として国や都道府県、市町村、社会医療法人、公的医療機関、医療法人、など
  • 紹介患者中心の医療を提供していること(紹介率80%を上回っていること)など
  • 救急医療を提供する能力を有すること
  • 建物、設備、機器等を地域の医師等が利用できる体制を確保していること
  • 地域医療従事者に対する教育を行っていること
  • 原則として200床以上の病床、及び地域医療支援病院としてふさわしい施設を有すること、など


臨床研究中核病院

「臨床研究中核病院」は、日本製の医薬品・医療機器の開発を推進するため、臨床研究を行う役割を持っている病院のことです。「研究計画の立案」「医療機関との共同研究」「他医療機関の研究サポート」などを実施しています。

臨床研究中核病院の設立にも国からの承認を受ける必要があり、2023年時点で14の病院が該当しています5)

<承認要件>

  • 400床以上の病院


精神病院

精神疾患の患者に対し、集中的な治療や看護、保護を行い、その社会復帰を促進するための専門病院です。「精神疾患の発生の防止と国民の精神的な健康の保持、およびその増進に努める」ことにより、国内における福祉の増進と国民の精神保健の向上を図ることが目的とされています。現在は、精神病院ではなく精神科病院という呼称が使用されています。

結核病院

「精神病床」「一般病床」「感染症病床」「結核病床」「療養病床」のうち、結核の患者を診るための結核病床が80%以上を占める医療施設が、結核病院に該当します。

病院内の部署、診療科の種類

製薬企業の営業、マーケティングを行う際には、病院の種類だけでなく「病院にはどのような部署や診療科があるのか」も把握しておく必要があるでしょう。ここからは、病院内の「部署」「診療科」の種類について紹介します。

病院内の部署

一般的に、病院内の部署は以下のようにさまざまな部門に分かれ、各部門が専門性を持ちながら連携をとっています。

部署名

概要

管理者

・医療法人の場合…理事長や病院開設者が経営責任、病院長が診療責任を担う管理者

・個人立病院…病院長が経営・診療の責任・管理者

診療部

(※医局とも言う)

・大病院…各診療科の構成単位

・一般病院…各診療科の医師が集まり、診療情報の共有や研修を行う場所

看護部

診療の補助業務、患者の衛生確保や食事の介助、異常がないかの観察などを行う。病院の中で最も配置人数が多い職種

薬剤部

医師の処方に基づく調剤や薬品管理、服用指導などを行う。品質と安全の保証された薬剤を適切な情報とともに患者に提供する役割を担う

栄養部科

管理栄養士や調理師などが入院している患者の食事管理や栄養指導などを行う部門

事務部門

病院内の人事や経理、庶務、総務、施設関連を担う部門

医事課

診療受付や会計、入退院事の事務手続きや保険請求業務などに携わる

情報管理部門

病院内の情報システムと診療情報の管理を行う部門。病院の運営や情報活用の効率性アップ図る役割がある

地域連携室

地域住民が必要な治療を十分に受けられるよう、地域の医療機関と連携する部署。各機関の機能分担や連絡役、医療機関や介護施設からの紹介受付などを担う

経営企画部

病院の運営を支援するための専門組織。管理運営に関わる経営戦略の立案や病院の中長期計画の実行に対する支援を行うための部門

委員会

法律で設置が義務付けられている医療安全委員会や感染対策委員会など。提供する医療の質や病院におけるサービスの向上、運営の効率化が主目的

診療科

病院は「自由標榜制」であり、医師免許を取得していれば、自施設での診療科目を自由に選び、外部に対する広報活動を行うことが可能です。そのため、現在日本には、多くの診療科があります。厚生労働省の令和2年の統計では、39の診療科が挙げられていました6)。実際はもっと多くの診療科が存在しています。

代表的な診療科として、厚生労働省の統計で「従事する医師数」の上位10位を、総数の多い順に紹介します。

部署名

概要

医師数

内科

内臓を対象に、手術によらない方法で診療を行う。風邪やインフルエンザ、花粉症、高血圧などを診療対象とする。

6万1,514人

整形外科

整形外科 臓以外の診療を行う。診療対象は切り傷や擦り傷、骨折、脱臼など。

2万2,520人

小児科

子どもがかかる病気全般の診療を行う。子ども特有の疾患もあり、治療法が異なる場合もあるため、一般的に15歳前後以下の子どもは小児科の受診が推奨される。

1万7,997人

精神科

精神障害や精神疾患、依存症、不安障害、認知障害など、心の病気の診療を行う。うつ病、統合失調症、不眠、などを診療対象としている。

1万6,490人

消化器内科(胃腸内科)

消化管や胃、小腸、大腸など食べ物の消化に携わる臓器の病気を診断・治療する。診療対象は食道炎、食道がん、胃炎、胃潰瘍など。

1万5,432人

眼科

眼球、その周辺組織の病気や異常の診療を行う。近視・老眼検査に加え、白内障や緑内障の手術も行う。ドライアイや視力低下、眼精疲労、充血だけでなく、メガネ・コンタクトの処方なども診療対象。

1万3,639人

外科

手術で患者の病状を回復に導く診療科。

一般外科、乳腺外科、消化器外科、甲状腺外科などの種類がある。

1万3,211人

循環器科

心臓・血管・リンパ管などに関連する症状の診療を行う。不整脈や高血圧症、虚血性心疾患、心筋梗塞など。

1万3,026人

産婦人科

妊娠から分娩、産褥期までを診療するための「産科」と、不妊や悪性腫瘍、生理不順、更年期障害について診る「婦人科」に分かれるケースもある。生理不順やPMS、子宮筋腫、子宮内膜症、下腹部痛などを診療対象としている。

1万1,219人

皮膚科

皮膚に関するすべての病気の診療を行う。帯状疱疹のような感染症に加え、アトピーのような炎症性の疾患、皮膚がんなど。

9,869人

(※上記は「臨床研修医」を除く順位)

製薬マーケティングの基礎知識として病院の種類を理解しよう

病院は「開設者」「機能」によって、いくつかの種類に分類されており、それぞれ承認要件が定められています。各病院が「どのような母体が運営する、どういった機能を持った施設なのか」を基本事項として正しく把握し、マーケティングの戦略立案に生かしていきましょう。


<出典>※URL最終閲覧日2023.4.12
1) 厚生労働省,医療法(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80090000&dataType=0&pageNo=1)
2)厚生労働省, 医療法に基づく人員配置標準について(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0323-9b.pdf)
3)厚生労働省,特定機能病院の承認状況(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001018536.pdf)
4)厚生労働省,地域医療支援病院について(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137801_00015.html)
5)厚生労働省,臨床研究中核病院について(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/tyukaku.html)
6)厚生労働省, 令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/index.html)