疾患啓発サイトの構築とデジタルマーケティングを駆使した運用で多くの実績をもつ株式会社メディウィルの代表取締役社長城間氏に、行動変容を推進するデジタル施策やオフライン施策との融合など、実践で役立つノウハウやナレッジをお聞きしました。さらに製薬業界の動向や昨今急速に広がってきた企業のSDGsと疾患啓発活動との関連など、今後の展望についても解説いただきました。
疾患啓発サイト運営の3つの課題解決策を事前に設計する
―ペイシェントジャーニーに添った疾患啓発(DTC)におけるデジタルマーケティングに必要な施策をお教えください。
ペイシェントジャーニーに添った疾患啓発(DTC)におけるデジタルマーケティングとは、デジタル時代の患者さんが受診に至るまでの行動に添ったデジタルマーケティングの施策全般を指します。
疾患啓発サイトの構築・運営時に直面する課題を患者さんの行動ごとに把握し、はじめの設計段階からソリューションを検討していくことが大事だと考えています。具体的なポイントは3つあり、1点目が疾患啓発サイトの「集客手法」、2点目が疾患啓発サイト上での「行動変容のための5つの施策」、そして3点目が「UI/UXの優れた病院検索サービスの活用」です。
1. 集客手法
まず、疾患啓発サイトの集客手法に関しては、主にGoogleを中心とした検索エンジン最適化(SEO)とデジタル広告があります。日本では、検索エンジンシェアの9割以上を実質Google検索エンジンが占めているので、Googleの検索エンジンを対策していくことが大きな方針となります。
ただし、最終的に我々は検索結果まではコントロールできない点は留意したうえで、そこに振り回され過ぎないことも大切です。一方、デジタル広告は予算に応じて一定のアクセス数を見込めるので、適切な運用をすることでコントロールが可能です。主にリスティング広告(検索連動型広告)、ディスプレイ広告、動画広告などがあります。こうした手法をうまく組み合わせて疾患啓発サイトへの流入経路を確保していくことが、集客段階での主な施策になります。
2. 行動変容のための5つの施策
次に疾患啓発サイト上での行動変容のための5つの施策として、「モバイル最適化」「相談チェックシート」「病院検索」「動画」「(スマートフォン)アプリ」の活用をご紹介します
デジタルマーケティングの主戦場は、パソコンからモバイルへと急速にシフトしてきました。モバイル端末からアクセスしやすくストレスなく利用できるよう設計された「モバイル最適化」は、潜在患者であるサイトユーザーが離脱しない導線を確保するためにも必須の考え方です。
「相談チェックシート」は、「●●の症状が●日以上続いている」「検査で●●という結果が出ている」といった項目をサイト上でチェックできるようにしたコンテンツです。サイト上のチェックシートで気になる症状や検査結果などを入力し医療機関に持参することで、医師とのコミュニケーションに役立てることができます。さらに「病院検索」は近隣の相談できる医療機関を探すためのサービスで、設置によりユーザーは受診への行動を一歩進められ、疾患に対応した適切な医療機関の受診を後押しできます。
疾患や受診・治療の必要性に対するユーザーの理解を深めるという観点では、近年増えてきた「動画」を活用することで、文章や画像だけでは伝えづらい内容を視覚的・直感的に伝えられます。加えてサイトに訪問したユーザーとのコミュニケーションを強化するためには「(スマホ)アプリ」の活用が有効です。アプリを通じて定期的な情報提供やアンケート依頼をすることで、サイトを通じた同様の施策に比べて個々のユーザーに適したアプローチも可能です。
3. UI/UXの優れた病院検索サービスの活用
3つ目のポイントは、UI/UXの優れた病院検索サービスの活用です。行動変容の施策でご紹介した「病院検索」は、ペイシェントジャーニーに添った疾患啓発(DTC)におけるデジタルマーケティングの活用においては、受診につなげるラストワンマイルを担う極めて重要なポイントになります。
ここではUI/UXの優れた、つまりユーザーが使いやすい病院検索サービスを選ぶことが重要で、「モバイル最適化」「スピード」「検索のしやすさ」の3つがサービス選定の肝です。
このようにペイシェントジャーニーに添った疾患啓発(DTC)におけるデジタルマーケティング施策を紹介致しましたが、患者さんの心理や行動は疾患の特性や患者さんがおかれている状況などによって異なってきます。そのため実際には、上記の3つのポイントについて患者さん視点に立って設計することが重要です。
次にオンラインのデジタル施策だけではなく、オフラインの施策を併せて行うことで、より効果的な活動となるお話をしていきます。
デジタル施策と併せて行うオフライン施策
― オフライン施策の内容と効果は?
デジタル上のオンライン施策を徹底して実行した上で、その補完を担うのがオフライン施策です。
疾患啓発サイトや病院検索サービスの認知を広めるために、MRを通じて担当の病院や医療従事者に配布し、医療従事者から患者さんに手渡す「リーフレット」や「小冊子」、院内に掲示する「ポスター」などの紙資材があります。これらの紙資材の情報量は限られていますが、受診した医療機関からの情報提供のため、患者さんにとって貴重な情報源となります。紙面では、閲覧して欲しいWebサイトを指名検索できるように「Webサイト名を分かりやすく表記」することや、「QRコードを設置」することでWebサイトへ容易にアクセスできるように配慮することはとても重要です。
また、希少疾患においては、新規に受診した患者さんの来院のきっかけを担当MR等が医療従事者に聞くことができると、「デジタル施策のフィードバックが得られる」点で有用なオフラインのアプローチになります。また、担当医療機関のホームページから疾患啓発サイトへ「リンクを貼ってもらうように依頼」することも、大事なオフラインの活動となります。
このように疾患啓発活動は、デジタル施策と併せて、MR等と連携しながら紙資材も活用して認知拡大をしたり、新規患者さんの情報収集をしたり、疾患啓発サイトへのリンク掲載依頼をしたりするオフライン施策を並行して行うとより効果的なものになります。
広がりつつある疾患啓発活動のデジタル施策
―製薬業界の中で疾患啓発活動は、どのような位置づけでしょうか?
製薬業界では、「ペイシェント・セントリシティ(患者中心の医療)」ということが盛んに言われています。同時に、新薬開発の中心が希少疾患をはじめとするスペシャリティ領域になってきています。それに伴い、ターゲットの医師が、一般医から専門医にシフトしていき、ペイシェントジャーニー全体の中で、適切な専門医を受診する疾患啓発活動の重要性が高まってきていると認識をしています。
スペシャリティ領域にシフトすることで適切な治療を受診する難易度が高まっている製薬業界において、患者さんや医療従事者に対する疾患啓発活動は重要性を増してきています。現在のようなデジタル社会において疾患啓発活動を行う際には、疾患・治療情報を掲載した疾患啓発サイトの認知をどのように向上させていくか、サイトに集まったユーザーを行動変容するように導いていくか、受診へのラストワンマイルを担う病院検索サービスをいかに機能させていくか、そしてMR連携を含めたオフライン施策をどのように統合していくかを考えていくことが重要です。
デジタル施策を活用し疾患啓発活動を実施する事例としては、旭化成ファーマ社が運営している「 骨検‐骨にも検診プロジェクト‐ 」や、協和キリン社が運営している「 くるこつ広場 」などが挙げられます。「骨検‐骨にも検診プロジェクト‐」は、骨粗鬆症に関する正しい情報を提供することで骨粗鬆症の検査(DXA検査)の受診を目指し、「くるこつ広場」はFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の医療費助成制度なども含む情報発信や、対象疾患に対する診療経験がある専門医療機関を紹介しています。
疾患啓発活動は、製薬企業のSDGsの一翼にも
―疾患啓発活動に注力している背景をお教えください。
医療従事者や患者に対して最新治療に関する情報提供や疾患啓発活動が、製薬企業の重要な活動であることはいうまでもありません。日本製薬工業会が公表している「メディカルアフェアーズ(MA)の活動に関する基本的な考え方」の中でも、MAの主な業務の一つである「医学・科学的情報の発信、提供」に関する業務の中に疾患啓発活動が挙げられています。
そうした中で、製薬企業が疾患啓発活動を行う理由は、単なる情報提供の視点のみではありません。むしろ、最近注目を集めるSDGsをはじめとする、企業に求められる社会的価値、持続可能な社会構築・貢献に資するアドボカシーをサポートする活動として取り組んでいる例があります。
世界中で持続可能な社会構築が目指されている時代の中で、製薬企業がヘルスケア領域で担う役割は増してきています。特にCOVID-19による地球規模のパンデミックが起きたことによって、製薬企業に求められた迅速なワクチン開発、治療薬開発は大きな貢献分野です。感染拡大を抑えるためのワクチン接種を普及させる活動は、疾患啓発活動の1つだと位置付けられるでしょう。
疾患啓発の成功事例を積み重ね、重要性の理解・認知を広げることを目指す
―メディウィルの今後のビジョンを教えてください。
メディウィルは「大切な人の健康を守るお手伝いをする」という経営理念のもと、ペイシェントジャーニーに添った疾患啓発(DTC)におけるデジタルマーケティングの成功事例を積み重ね、活動実績をオンラインウェビナーや各種イベントなどを通じて広く公開していくことで、製薬業界・医療機器メーカー各社に疾患啓発の重要性の理解・認知を広げていきたいと考えています。
疾患啓発活動を成功に導くためには、各社のご担当者様の協力が欠かせません。正しい疾患情報や、適切な治療方法を患者さんに届けたい気持ちは、我々パートナーとしてとも常に強く感じております。ともに試行錯誤し、様々な障壁を乗り越えて成功するプロジェクトとなるように支援して参りますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。