製薬企業の競合リサーチ|公開情報に基づいた国内開発中の新薬情報収集術
外資系製薬企業の経営企画室に勤めるこういちと申します。私はこれまで、営業、メディカル、デジタル戦略部、製品戦略部、経営企画部と製薬企業の多くの部門で経験を積んできました。今回は、そうした製薬企業での経験から、公開情報に基づく国内で開発中の競合品の情報収集術について独自の視点から解説します。
開発中の競合品の情報収集を行う目的は「市場での競争に勝つ戦略を構築/修正するため」
【ポイント】開発中の競合品の情報収集を行う目的
- 開発中の競合品の強みと弱みを明らかにする。
- 自社品の強みと弱みを明らかにする。
- 市場での競争に勝つ自社戦略を構築/修正する。
開発中の競合品の分析は、なぜ必要なのでしょうか?
それは市場での競争に勝つ自社品の戦略を構築/修正するためです。
参入市場において、開発中の競合品がどういった強みや弱みを持っているかを事前に把握することは、裏を返せば自社品の強みと弱みを把握することにも繋がります。
また開発中の競合品のTop line result、申請、承認、発売のタイミングを把握しておくことも重要です。それらの材料が、結果的に市場での競争に勝つ自社品の戦略を構築するための材料になってきます。
「自社品のどこの部分に焦点を当ててプロモーションすべきなのか?」
「自社品の弱みはどのようにして対処していくべきなのか?」
これはその市場における開発中の競合品の強みと弱み、また発売のタイミングを把握した上でないと決定することが困難でしょう。なぜなら自社品の優位性は競合品と比較した上で明らかになるものだからです。従って、開発中の競合品の情報を把握することは非常に重要になります。
幸い、医療用医薬品の場合には、競合品が発売する前からデータが発表されることが多いです。また臨床試験情報も原則公開されていますので、開発中の競合品の参入タイミングも予想しやすいという市場特性を持っています。
それに加えて、株主向け資料でも詳しい薬剤のプロファイルが紹介されていたり、市場への参入タイミングが公開されていたりすることも往々にしてあります。
開発中の新薬の情報収集に活用できるサイト
本記事で紹介する情報源は、あくまで公開情報です。競合品を調べるCI(Competitive Inteligence) ツールを提供している会社もいくつかありますが、そういったものを利用する方法ではなく、すべてWeb上に無料で公開されているサイトを活用した方法になります。
製薬協のサイト
まず、とても参考になるのがこちらの製薬協のサイトです。このページでは、臨床試験情報の探し方を丁寧に解説しています。
医薬品評価委員会 治験の探し方~jRCTのみかた~(2023年3月)
その中でも国内で開発中の競合品を探すのに有用なサイトを3つ、海外の情報を探すのに有用なサイトを2つ紹介します。
①jRCT 臨床研究等提出・公開システム
国内で実施されている治験(企業治験を含む)や臨床研究全般の情報を見つけることができる公的なサイトです。治験・臨床研究を実施する企業や研究者は、jRCTに試験情報を掲載することが義務付けられています。なお、これまでJapicCTI、JMACCTに掲載されていた情報は、jRCTにデータ統合済みです。
②UMIN臨床試験登録システム(UMIN-CTR)
主に大学や公的研究機関(アカデミア)で実施される試験研究が掲載されています。
③臨床研究情報ポータルサイト
国内の情報サイト(jRCT 及び UMIN )に掲載されている全ての治験・臨床研究情報を横断的に検索することができます。
海外の臨床試験情報は、以下2つのサイトから情報を得られます。
④ClinicalTrials.gov
米国の臨床試験情報が入手できます。
⑤Clinical Trials Information System
欧州の臨床試験情報が入手できます。
日本が試験に参加していれば、④⑤からも日本が参加しているGlobal試験の情報を把握することが可能です。
PMDAのサイト
PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)のサイトでは、承認申請のために現在動いている臨床試験の情報(主に第3相臨床試験)を確認することができます。
治験情報の公開 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
この中には、以下のリストがExcelで格納されています。
- (薬物)主たる治験情報リスト
- (機械器具等・加工細胞等)主たる治験情報リスト
「機械器具等・加工細胞等」のExcelは、再生医療等製品の臨床試験情報です。
製薬企業のサイト
最後に、製薬企業のホームページや株主向け公開情報です。
すべての会社一覧 | 新薬・治験情報 | 日本製薬工業協会
上記の製薬協のリンクから、各企業の開発サイトにアクセスできる仕組みが整っています。また、企業が公開している株主向けの資料の中には、開発品情報が記載されていることが多く、Top line resultや承認・発売予想の情報も、入手することができます。
開発中の競合品の細かな情報について、より詳しく調べたい時に有用です。
具体的な検索方法
ここからは、こういち流の調べ方を3つのステップで解説していきます。
[1st step] jRCTのサイトで治験を調べる
まず初めに利用するのは「jRCT 臨床研究等提出・公開システム」です。
このページの「対象疾患名」に、対象とする適応症名を入力します。
次に、適応症取得を目的とする「企業治験」「医師主導治験」を選択します。
そうすると、現在企業が実施しているPh1-Ph3の臨床試験の情報が確認できます。その試験の詳細を見たい場合は、「閲覧」をクリックします。
次に詳細を確認していきます。
通常、フォルダが閉じていて見にくいので、フォルダが開いているマークを押すと、一括で詳細確認が可能になります。
ここから競合品の開発状況について確認していきます。組み入れ基準や除外基準、対象症例数、治験施設の情報など、細かく確認することが可能です。これらの作業を競合品一つ一つで確認していきます。
[2nd step] PMDAのサイトで、抜け漏れ・誤りがないかを確認する
次に確認するのはPMDAのサイトです。
治験情報の公開 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
jRCTで調べた情報に抜け漏れがないか、誤りがないかを確認していきます。
このサイトで公開されているリストで、承認申請を目的に実施している臨床試験情報(多くがPh3試験、一部例外あり)が確認できます。裏を返すと、承認申請を目的に実施していない臨床試験(多くがPh1やPh2、 一部例外あり)の情報はこのExcelでは確認できません。
Excelをダウンロードし、フィルタ設定をした上で、対象の「適応症名」で検索をします。開発品一覧が表示されるので、jRCTで調べた情報との整合性を確認していきます。
ここでの注意点は、企業名で検索をかけないことです。PMDAのサイトには開発企業名も掲載されていますが、中にはCRO(医薬品開発委託企業)の名前が代わりに入力されていることも多いためです。
また薬剤名での検索にも注意が必要です。薬剤名は薬剤の一般名ではなく、開発コード(例:RT-111)で登録している企業もたくさんあるので検索漏れが発生するリスクがあります。ソートをかける時には、適応症名での検索をお勧めします。
[3rd step]出揃った競合品リストを深掘する
この段階まで来ると、国内で開発中の競合品リストがある程度揃うと思います。
次は深堀です。それぞれの薬剤について、詳しい情報が公開/Publicationされていないか探しにいきます。
- Google scholar
- Pubmed
- 医中誌
- 企業の株主向け公開情報
この5つの検索ソースを使えば、深堀が可能です。
承認前であってもTop line resultの結果がすでにPubmedで公開されている場合もあります。
公開されていない場合には、企業の株主向け公開情報を確認しにいくことで、Top line resultや承認日・発売予定日が明記されていることもあります。細かな医薬品のプロファイル(作用機序や対象患者情報)が公開されていることもあります。
そのほか、最新の情報は海外学会、国内学会で発表されることが一般的です。そのため海外、国内の関連学会のAbstractは細かく確認し、競合品に関する発表はデータを確認する必要があります。
このように、1st stepから3rd stepを丁寧に踏んで行けば、ある程度ご自身でも情報収集が可能になります。
情報のまとめ方
調べた情報は以下のように一覧でまとめておくと、比較が容易になります。
情報ソースは項目ごとにURLリンクを管理しておくと、後でもう一度探す時に便利です。情報が現時点で見つからない場合には、TBC(To be confirmed)という形で、後で確認することを忘れないように記載を残しておくと良いと思います。
最後に、まとめた情報は何年何月何日時点の情報かを記載しておきます。時が経つ中で、情報がUpdateされていきますので、更新があれば都度日付もUpdateしましょう。
競合分析は、製薬マーケティングにおける必須アクション
通常、規模の大きい製薬企業であれば、競合品情報の分析と情報収集を専門とする部署が存在していることが多いと思います。
しかしながら、そういった部署からの情報だけを頼りにするのではなく、ご自身でも情報検索とまとめ方のスキルを身に着けておくことで、いち早く競合の動きやデータを把握し、マーケティング戦略/戦術の立案/修正を行うことができるでしょう。
本記事の内容が皆さまの日々の業務のお役に立ったのであれば嬉しく思います。
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