新任担当者にお届け。製薬マーケティング担当者に求められる能力5選

新任担当者にお届け。製薬マーケティング担当者に求められる能力5選

マーケティング担当者として今年から新たに製薬マーケティングに従事される方もいらっしゃると思います。今日はそのような方々に向けて、「製薬マーケティング担当者に求められる能力5選」について、自身の経験とこれまで関わってきた数多くのマーケティング担当者の能力を分析しながら、考察していきたいと思います。

【製薬マーケティング担当者に求められる能力5選】

  • 調整力(自らがプロアクティブに動き、人を巻き込む力)
  • プレゼンテーション能力(想いを伝達する力)
  • 仮説検証力(仮説を組み立て、検証・実行まで担える力)
  • 英語力(スピーキングおよびリスニング力)
  • 学術力(KOLとも対等に議論できる力)

①調整力(自らがプロアクティブに動き、人を巻き込む力)

1つ目は調整力です。

製薬企業のマーケティング担当者が関わるステークホルダーは非常に多岐に渡ります。

製薬企業のマーケティング活動は、マーケティング部だけで完結する活動ではないからです。

マーケティングで有名な4Pのフレームワーク(Product/Price/Place/Promotion)と概略を下記に記載します。説明の部分では製薬業界の場合を想定してまとめてみました。

4P

戦略

説明

Product

製品戦略

顧客に対して、どんな製品・サービスを提供するのか。目指すべき適応症や効果/安全性を決定し、どのように競合と差別化していくかのコンセプトづくり。

Price

価格戦略

顧客にいくらで届けるのか。原価計算方式、類似薬効比較方式をもとに、加算も考慮しながら価格を決定。

Place

流通戦略

病院および患者さんにどのような経路や手段、またパッケージで製品を届けるか。契約する卸を含め、製品にとって最適な流通を考える。

Promotion

販促戦略

顧客に、どのように製品の存在や特徴、魅力を伝えるか。販売促進のためのリソース配分やチャネル戦略の立案。

この4Pのフレームワークを見てお分かりいただけるように、マーケティングの仕事はプロモーション(販売戦略)の仕事だけで完結するわけではありません。

製品のライフステージに応じて、多くのステークホルダーと協業しながら仕事を進めていくことになります。

社内であれば、開発、メディカルアフェアーズ、営業はもちろん、人事、経理、法務、監査部、広報などの部門とのやりとりも発生します。社内のほとんどすべての部署と関わって仕事をすることになるでしょう。また近年は、外資・内資関わらずGlobal Teamとの関わりも増えていると思います。

社外であれば、資材を作成する広告代理店や、講演会やWeb企画をサポートするベンダーさん、データを扱う企業との関わりも多くなります。

関わる社内外のステークホルダーの数が他の部署と比べると格段に多く、その密度が濃いというのが職種の特徴です。

そのような性質を持つ部署になりますので、当然さまざまなコミュニケーションが社内外で発生します。

そこで必要になってくるのが調整力です。

調整の際に重要な「巻き込む力」

調整力の中でも特に必要な能力が「自らがプロアクティブに動き、人を上手に巻き込む力」になります。

ブランドの方向性を決め、自らが手を動かしつつも、社内外のステークホルダーに多くの仕事をお願いしなければいけない立場にあるのが、マーケティング担当者です。

人に動いてもらうためには、自らのブランドに誇りを持ち、受け身ではなく、プロアクティブに働き掛ける姿勢が非常に重要になります。

性質上、次から次に仕事が舞い込むのもマーケティングの特徴です。忙殺される時間がありながらも、いかに上手に人を巻き込むことができるか、ポイントは、「人にやらせる」ではなく、「人にいかに動いてもらえるか」です。

他部署や外部業者に業務をお願いする際の意識として「人にやらせる」という感覚が強い方は、コミュニケーションエラー(ちょっとした意見の食い違いや反発)が起こる傾向が高いと感じています。

想いを適切に伝え、相手から共感を引き出し、いかに自ら動いてもらうように働き掛けるか。

その調整力を問われるのが、製薬マーケティングの仕事になります。

②プレゼンテーション能力(想いを伝達する力)

マーケティングの仕事に携わると、多くのプレゼンテーションの機会に遭遇します。

経営陣、MR、他部署、外部ベンダー、Global Teamに対して、日本語に限らず、英語でプレゼンテーションを行う必要も数多く出てきます。

その時に必要な能力が、プレゼンテーションの能力です。もう少し噛み砕くと、プレゼンテーションのストーリーを、分かりやすくロジカルに説明し、そこに想いも乗せて伝達する力とも言えると思います。

この能力値が高い方は、周りの理解や納得を得ることを得意とするため、仕事の進みが早い印象があります。

相手に伝わるプレゼンテーション技術「PREP法」

プレゼンテーションの技術の1つにPREP法があるというのはご存じでしょうか?

これは、次の4つの頭文字を取った、プレゼンの技法の名前になります。
相手の理解を得やすい、分かりやすい構成を表したモデルとなっています。

Point :要点(結論・主張)
Reason :理由(結論にいたった理由・そう主張する理由)
Example:具体例(理由に説得力を持たせるための事例・データ・状況)
Point :要点(結論・主張)

PREP法を用いた説明とは、たとえば以下のような説明です。
「ターゲティング」というマーケティング担当者であれば、必ず考えるであろう項目を題材にして、例を考えてみました。

Point:ターゲットを今の段階で、他診療科にまで広げるべきではありません。

Reason:なぜなら、メイン診療科の顧客の製品認知度が高まりきっていないことが確認できるからです。

Example:具体的に申し上げます。市場調査から得られた結果では、製品認知度という項目において、目標50%に対して、25%の認知度しか確認されなかったためです。

Point:したがって、今の段階で、他診療科にまでターゲットを広げるべきではありません。

このような形です。

このPREP法には2つのメリットがあります。

1つ目は、結論→理由→具体例→結論という構成が相手に分かりやすく物事を伝達できる点です。

2つ目は、自分自身の考えを整理する習慣がつくという点です。

PREP法を覚えておくと、プレゼンテーション以外にも、例えば普段の会議や上司への報告の時にも役立つスキルになります。

プレゼンテーションに「想い」を乗せるには?

また、こういった技術に加えて大事になるのが、「想い」を乗せることです。特にマーケティング担当者の場合には、プレゼンテーションの機会を利用して、経営陣に対して大事な承認を得たり、MRの方や他部署の方に戦略・戦術を伝えて相手に動いてもらう場面が多く出てきます。

そこで重要になるのが、「想い」や「感情」をプレゼンテーションに込めることです。

時々、ロジカルに説明することには長けてはいても、「想い」や「感情」が伝わってこないプレゼンテーションを目にします。声に抑揚が不足していたり、ジェスチャーが極端に少なかったりするケースが、それに近いかもしれません。

そうすると、いくら正しいことを言っていたとしても、相手の感情は中々動かされないものです。

したがって、「想い」をプレゼンテーションに込めることも非常に重要です。

ではどのようにして「想い」をプレゼンテーションに乗せるのか?

1つの解決方法として、私個人が大切にしているのが、プレゼンテーションの練習時間をきちんと確保することです。

本番に近い環境で何度かプレゼンテーションの練習をすることによって、話す言葉が洗練されていきます。そしてスライドそれぞれで話す言葉が頭の中で整理されていきます。そうすると、そこに感情を上乗せする余裕が生まれてきます。

練習の効果はこういった所にあります。

練習をしていない場合は、セリフや話し方ばかりに気を取られて、感情が置いてけぼりになりがちです。また逆に感情ばかりに気を取られると、話し方の構成や言葉が分かりにくいものになります。

構成、話し方も大事にした上で、感情を上乗せする。そのための練習です。

私自身は、プレゼンが上手いほうではありません。ぶっつけ本番で行った時は上手くいかないことが多いです。なので意識的に練習回数を確保するように努めています。

日本語、英語に関わらず5回ほど、なるべく本番に近い環境で練習することを以前の上司に指導されてからは、そのことを意識しながら日々のプレゼンに臨むようにしています。

③仮説検証力(問いを立て、仮説を組み立て、検証・実行まで担える力)

3つ目は仮説検証力です。

問いを立て、仮説を組み立て、検証し、実行まで担える力と言い換えることもできます。

仮説検証力は仮説思考とも表現されます。

BCG(ボストンコンサルティンググループ)で日本代表にまで登り詰めた日本人で、有名コンサルタントのお一人に内田和成さんがいらっしゃいます。

内田さんは、著書「仮説思考」の中で、以下のように仮説と仮説思考を定義しています。

”仮説とは、十分に情報がない段階あるいは分析が済んでいない段階でもつ「仮の答え」「仮の結論」。常に答えを持ちながら全体像を見据える習慣を仮説思考と呼ぶ”

内田和成著「仮説思考」より

なぜ、自社の製品の認知度が低いのか?
なぜ、自社の製品の導入率が低いのか?
なぜ、自社の製品の継続率が低いのか?

このような問いに立ち向かう必要があるのが製薬マーケティング担当者の宿命です。この問いに向き合う時に必要なスキルが仮説検証力になります。

仮説検証力の2つの利点

では仮説検証力の利点はなんでしょうか?

利点は2つあります。

1つ目は、限られた時間の中で効率的に解に辿りつく可能性が高まることです。

膨大なデータを処理する必要があるのがマーケティングの宿命です。施設の売上情報から、顧客のデータ、MRの訪問記録など、製薬マーケティング担当者の扱うデータは非常に多岐に渡りますし、また膨大です。それらの情報をすべて網羅した上で、意思決定を行うのには時間がかかります。データを網羅的に見て解を導き出すのではなく、仮説(≒仮の答え)を持った上で、データを見て、解を導きだす。この後者のアプローチを取ることによって、仕事の効率性が上がります。

2つ目は、質問が研ぎ澄まされて、分析精度が上がることです。

仮の答えがある場合とない場合では質問の仕方も変わってきます。例えば市場調査を例にして考えてみます。
仮の答えを持った場合は、それを確かめるための質問や調査を行うことになります。その場合、その仮の答えが正しいのか、正しくないのか?またその理由について深堀していくことになります。一方で仮の答えがない場合は、質問が漠然としたものになりがちです。

例:ガイドラインについての考え方を医師に聞きたい場合

<仮説がない場合>

仮説:無し
質問「ガイドラインについてどうお感じになっていますか?」

<仮説がある場合>

仮説①:ガイドラインの認知度は非専門医では20%程度である。非専門医に対する啓発が不足しており、浸透している状況とは言えない。

質問:「ガイドラインについて、どの程度把握されていますか?また遵守している度合いについて教えてください。浸透していないとしたら、その理由について教えてください。」

仮説がない場合と、ある場合で、質問に変化が生まれることがお分かりいただけるかと思います。質問がより具体的になり、明確にしたいことがクリアになります。これが仮説検証力の利点です。

仮説検証力を鍛えるには?

多くのマーケティング担当の方が、日々データを取り扱っていると思いますし、市場調査も行うと思います。「仮の答えを持ち合わせた上でデータを見たり、市場調査を行う」ことは、一見当たり前のようなことであり、多くの方が頭の中で自然と行っていることでもあると思います。

ベテランと言われるマーケターの方は、これらを自然とされている方も多くお見受けします。ただ、新たにマーケティングの担当になった方の場合には、仮説をあえて言語化・見える化することをおすすめします。実践してみるとお分かりいただけると思いますが、「仮の答え」を立てることはそんなに簡単ではありません。何度も書き直すということが発生すると思います。そして立てた仮説が正しいのか、データを見たり、市場調査を行ったりする。その作業を通じて、思考のトレーニングと仮説検証力を鍛えていただきたいと思います。

④英語力(スピーキングおよびリスニング力)

4つ目は英語力です。

マーケティングで上のキャリアを目指すのであれば、英語力は必須になります。外資、内資に関わらずポジションが上に行けば行くほど、英語を使う頻度が高まります。

今のこのAI全盛時代に必要になる英語力は、おもにスピーキング力とリスニング力だと、個人的には考えています。なぜなら、ライティング力とリーディング力に関しては、AI翻訳の登場で、その必要性が相対的に下がってきたためです。今は英語の論文も日本語で読める時代です。また日本語で文章を打てば、英語に変換される時代になりました。

従って、いまのこの時代に必要な英語力はスピーキング力とリスニング力だと考えています。会議の場での英語によるプレゼンテーションや質疑応答、ディスカッションは基本的にまだAIの力に頼るのは難しい状況です。また通訳者を介してのコミュニケーションよりも、直接Globalのメンバーとやりとりできたほうが「想い」をダイレクトに伝えることができます。

英語力を高めるには?

マーケティング担当者で、実務を回す上で優秀な方をこれまで何人も見てきましたが、この「英語力」の壁にぶち当たり、なかなか次のステージに進むことができない諸先輩方を何人か見てきました。

新たにマーケティング担当に配属された場合には、現状の必要性は低かったとしても、将来のキャリアを考えた時には必須のスキルであることを自覚して、日々トレーニングを積むマインドセットが重要になると考えます。

一番良いのは、上長に相談し、英語を使うプロジェクトに就けてもらうことです。仕事で苦労して、悔しい思いをするのが一番のカンフル剤になります。この記事を書いているこういち自身も、過去、英語が出来ないなかで国際学会に参加させてもらい、仕事をした経験が、その後の英語力を高める動機となりました。

ぜひ上長と相談されることをおすすめします。

⑤学術力(KOLとも対等に議論できる力)

5つ目は学術力になります。

マーケティング担当者は、KOLの対応をすることが多くなります。資材作成の監修や、リーフレットの記事監修などで、KOLの先生方とやりとりすることも多いです。そのコミュニケーションの中で、やはり薬剤に関する知識、疾患に関する知識が高いレベルで求められます。

加えて、MRからの質問に答える場面もありますし、戦略を考える上でも、その製品に対して詳しい知識を持ち合わせておく必要があります。

基本資材である添付文書、インタビューフォーム、適正使用ガイドはもちろんのこと、審査報告書にも目を通して、どのような承認申請および審査が行われたかまで把握すべきです。これらの情報はPMDAの医療用医薬品情報検索サイトから検索が可能です。

学術力を高めるには?

優秀とされるマーケターの多くは、学術知識にも長けています。MSLと比較しても、多くの情報を知っている傾向があります。

学術力を高めるために日々勉強するのはもちろんですが、部内での勉強会や部門横断の勉強会を定期開催するのも1つの効果的な方法です。負荷は掛かりますが、人に教える機会を半ば強制的に持つことによって、知識がブラッシュアップされていく経験は過去何度もしてきています。ご検討いただけたらと思います。

以上、新任担当者にお届け。製薬マーケティング担当者に求められる能力5選について解説させていただきました。

本記事の内容が皆さまの日々の業務にお役に立ったのであれば嬉しく思います。以下、運営しているブログの中では、製薬企業で勤務する上で役に立つ情報やマインドセットについても発信しています。良かったらご覧ください。

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