医薬品のマーケティングやセールスにリアルワールドデータ(RWD)を活用する動きが広まっている。RWDを分析することで処方傾向や粒度の高い市場把握、KPI検証などが可能になる一方、その認識や活用度合いは企業によってばらつきがある。具体的にRWDで何が分かり、製薬ビジネスにどんなインパクトをもたらすのか。
レセプトデータを中心にRWDを提供し、マーケティング施策立案・実行を支援するJMDC製薬本部本部長の野口亮氏にRWD活用の処方箋を聞いた。
RWDがもたらす、粒度の高い市場把握とKPI検証
― なぜ製薬ビジネスにおいて、リアルワールドデータ(RWD)が注目されているのか ?
コンシューマー向けのビジネスなら、個人の購買データやWeb上の行動履歴などから、様々な分析を比較的行いやすいが、医療用医薬品の場合はそれが難しい。医療機関に届けた薬が、どの医師によってどのように患者さんに処方されているかは、把握できない。現在もそれは変わらないが、レセプトなどのリアルワールドデータ(RWD)を活用することで、傾向を把握することが可能になった。
私たちは、レセプトデータを健康保険組合や医療機関などからお預かりし、匿名加工した上で製薬企業においてデータ分析などに活用頂いている。一千万人規模までデータベースが成長したことで、分析精度が向上し、医薬品のマーケティングやセールスでの活用が進んだ。加えて、プロモーションコードの厳格化、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による医師との面談機会の減少により、正しいターゲットに的確なメッセージを届ける重要性が高まり、RWDに注目が集まっている。
どのような患者さんに、どのような薬が、どのように処方されているのか、という傾向を把握し、医師とコミュニケーションすることが、患者中心の医療を実現する上でも欠かせない。
― RWDを用いた分析にはどのようなものがあるか
例えば、新薬上市前の市場のフォーキャスティングだ。患者数に平均処方量、処方日数、薬価などに基づいてフォーキャスティングが行われるが、それぞれの数値の精度がぶれると、結果がぶれてしまう。
患者数は、一般的な統計データではざっくりとした数字しかわからないことが多い。薬剤のスペシャリティ領域へのシフトが進む中、市場を細分化して把握する必要があるが、統計データでは不十分なケースが増えている。私たちが取り扱うレセプトデータは、疾患ごとの患者数だけでなく、診療科や治療行為、薬剤などを組み合わせて詳細に市場を把握できる(図1)。
さらに、平均処方量や投与日数などの情報も精緻に把握することができるため、フォーキャスティングの精度を上げられる(図2)。
― 上市後は、どのような分析で活用しているのか
たとえば、売上を処方ベースで詳細に把握し、的確なマーケティング戦略を検討するために活用されている。レセプトデータを用いることで、卸からの売上データでは把握が難しい新患内でのシェアや治療薬の切り替え、追加処方の状況などを時系列で把握することができる。また、複数疾患の適応がある薬剤であっても、疾患ごとのシェアをつかめる。(図3)また、患者数に加えて、処方量や投与日数などについても実際の推移を把握することで、当初の想定を比較し、想定と異なる場合は、マーケティングプランを軌道修正することで、KPI達成を後押しすることができる。
アドヒアランスの分析にも活用されている。治療継続率を一般医と専門医で比較したり(図4)、患者年齢による違いを分析したりすることが可能だ。分析結果を踏まえて、アドヒアランスを向上させるために、どのような医師にどのようなアプローチが必要か検討頂くケースも多い。
― 個別の患者さんの動向を把握することは可能か
匿名加工された患者さん毎のペイシェントジャーニーを可視化できる。図5はベーチェット病患者の受診歴を分析した事例だが、はじめにGPで虹彩毛様体炎と診断され、その後HPでベーチェット病の確定診断を受けている。3年間で4施設で治療を受けており、患者さんは何らかの理由で様々な医療機関を受診する可能性が高い疾患だということがわかる。
データ提供&ソリューション機能で製薬企業のマーケティング、セールスを支援
― JMDCのデータソリューションの特徴とは
私たちの強みは、データの規模と質、サービスのラインアップにある。
データについては、健康保険組合や医療機関のレセプト・DPCデータや健康診断、検査値データなどを保有している。データ量を増やすことはもちろん、データのマネジメントにかなり注力している。質を担保するためにクレンジングや各種マスタによる標準化を行い、分析しやすいデータを提供しているが、これは業界の黎明期から、アカデミアや製薬企業などとデータ連携や分析でさまざまなノウハウを蓄積したことで実現できている。
サービスとしては、データ提供や分析ツール提供にとどまらず、直近ではコンサルティングサービスや、データベース研究のサポートなどを展開している。長年蓄積したノウハウを活かしてデータベースごとの特長や留意点を踏まえ、適切な分析やツールの提案をすることは勿論、レセプトデータだけでは答えが出ないものについてはプライマリ調査やコンサルティングなどで補完をするなど、製薬企業のニーズに合わせてカスタマイズしたサービスも提供している。
― 今後、製薬企業がRWDの活用を拡大するために、JMDCとして強化する機能は?
RWDには様々なデータがあり、特徴や限界がある。レセプトデータなら、患者さんの所見や重症度といった処方の背景情報までは把握できない。個人情報保護の兼ね合いもあるが、グループ会社を含めデータソースを拡大し、製薬企業のニーズに応えていく。
また、RWDに対する認識や理解も企業や部門によって大きなばらつきがあり、業務のために利活用できる人材は一部に限られている。RWD活用は総論では賛成意見が大多数だが、実際の現場で理解が促進し、活用されるには、企業内での啓もう活動が必要と考えている。
JMDCは製薬企業がRWDの活用を検討した際に、まずご相談を頂ける企業でありたいと考えている。従来は健保データの活用時に声をかけて頂くことが多かったが、それ以外のデータやサービスのラインナップも拡充してきており、ニーズに応じた様々なご提案も可能だ。今後もあらゆるニーズにこたえられるよう、データの質、量とともにサービスの質も高めて行きたい。
<取材協力>
株式会社JMDC
製薬本部 本部長
野口 亮 氏
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