「ファーストパーティデータ」とは?製薬マーケで欠かせない理由と活用法
プライバシー保護の観点からサードパーティCookieの規制が進む動きを受けて、他業種のマーケターの間でも、ファーストパーティデータの重要性が再認識されるようになってきました。さらに、今、ファーストパーティデータとそのほかのさまざまなデータを組み合わせて、ユーザーの行動や思考をより理解し、効果的なマーケティング戦略を展開する動きが加速しています。
では、製薬マーケティングでは、どのようにファーストパーティデータを活用できるのでしょうか。今回は、デジタルマーケティングで用いるデータを取得経路によって分類し、製薬マーケターがそれぞれどのように収集・活用できるのかを解説します。
「○○パーティデータ」の種類と特徴
マーケティングの対象としたいユーザー群(ターゲットオーディエンス)の理解、パーソナライズされたコンテンツの提供、広告の最適化など、デジタルマーケティングではデータが重要な役割を果たします。これらのデータは取得経路によって、いくつかに分類されます。まずは、それぞれの特徴をおさえましょう。
ファーストパーティデータ:自社で収集したユーザーデータ
「ファーストパーティデータ」は、当事者(1st party)である自社がユーザーとの直接的な交流やインタラクションを通し、ユーザーの同意を得て収集した情報です。ファーストパーティデータには、以下などが該当します。
- 会員ID
- Webサイトやアプリの利用履歴/購買履歴/行動トラッキングデータ
- メールキャンペーン(メールマガジンなど)への反応
- CRM(顧客関係管理)システムに保存されたデータ など
これらのように、ユーザーがサービスを利用している中で企業側が収集・蓄積するデータが該当します。
ファーストパーティデータは企業が直接収集・管理できるため、データの精度や関連性が高いという傾向があります。また、ユーザーからの同意・許諾を得ることで、法的なリスクを軽減して収集できるデータでもあります。
ユーザーの同意・許諾は、ユーザーとの信頼関係を築く上でも不可欠です。データの使用について透明性を持たせることで、ユーザーの安心感を高め、長期的な関係構築にもつながります。
セカンドパーティデータ:パートナー企業から共有されたデータ
「セカンドパーティデータ」は、パートナー企業(2nd party)から提供されるデータです。パートナー企業とは、自社が長期的なビジネス関係を築いている信頼できる企業や組織を指し、業務提携先、共同マーケティングパートナーなどが該当します。
例えば、航空会社とホテルチェーンが提携し相互にユーザーデータを提供し合う場合、相手側から提供されたデータがセカンドパーティデータに該当します。製薬企業と医療従事者向けサービス提供企業が共同でキャンペーンを行い、その結果得られたデータを共有する場合も、セカンドパーティデータです。
セカンドパーティデータは、ファーストパーティデータと同様に信頼性が高く、ユーザーの行動や選好に基づいた情報である点が特徴です。自社だけでは得られないユーザーインサイトを得ることができ、より広範なマーケティング戦略に活かすことができます。
ただし、自社のデータを他社に共有する場合は、ユーザーからの同意が必要です。企業は、ユーザーデータを他の企業と共有する前に、その目的や使用方法について明示し、適切な同意を得る必要があります。
サードパーティデータ:外部から取得したデータ
「サードパーティデータ」は、第三者(3rd party)であるデータプロバイダーやデータ販売業者から購入またはライセンスされるデータです。
サードパーティデータには、Web上の行動データ、人口統計情報、購買履歴など、さまざまな種類のデータが含まれます。大量に収集されたこれらのデータは、オンライン広告などで特定のターゲット層にリーチするために利用されるほか、ユーザー分析、ユーザーインサイトの理解のために活用されることもあります。
サードパーティデータの信頼性や精度は、データプロバイダーの質に依存します。また、同じデータが複数の企業に販売されるため、マーケティング活用時に差別化が難しくなるといったデメリットもあります。データプロバイダーは、多数の情報源からデータを集め、データを匿名化して個人を識別できない形で販売しますが、プライバシー保護の観点からの懸念もあります。
リターゲティング広告や、アトリビューション分析などで利用されるサードパーティCookie は、ユーザーが訪問したWebサイトとは異なるドメインから発行されるCookieであり、サードパーティデータの一部であるといえます。
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ゼロパーティデータ:ユーザーが直接提供する個人データ
「ゼロパーティデータ」は、ユーザー自身が意図的・積極的に企業に提供する情報です。例えば、以下のようなものが挙げられます。
- アンケートやクイズへの回答
- 会員登録時に入力したメールアドレス/勤務先/診療科や興味
- 資料ダウンロード時にフォームに入力した情報 など
これらはユーザーが自発的に提供するため、その精度や信頼性が高く、企業にとって貴重な情報源となり得ます。
ゼロパーティデータは、自社で収集するデータという意味ではファーストパーティデータと同じものですが、ユーザーの行動から推測するのではなく、ユーザーの意思で提供されるデータであり、その重要性から区別されることが増えています。診療科や勤務先などといったユーザーのゼロパーティデータを会員IDなどのファーストパーティデータと連携させることで、よりパーソナライズされたマーケティング戦略を展開でき、ユーザーとのエンゲージメントを強化できます。
なお、ゼロパーティデータの収集には、ユーザーからの明示的な同意が必要であり、データの使用目的や取り扱いについては透明性を持たせなければなりません。
サードパーティCookie廃止で高まるファーストパーティデータの価値
サードパーティCookieは今、プライバシー保護の観点から規制・廃止の動きが進んでいます。これにより、従来のトラッキングに依存していた他業種の多くの企業は、デジタルマーケティング手法の根本的な見直しを迫られているといえます。
このような状況下で、今、企業が自ら収集するファーストパーティデータの価値が再認識されつつあります。今後のマーケティングでは、自社が保有するユーザーデータがカギとなるからであり、それは、製薬マーケティングでも同様です。
ファーストパーティデータは、ユーザーの行動や選好を理解し、個々のユーザーにパーソナライズした体験を提供するために欠かせません。例えば、過去の検索履歴やWebサイトでの行動データを活用することで、ユーザーのニーズに応じた製品やサービスの提案を、ユーザーにマッチしたタイミングで配信できます。こうしたアプローチでユーザーの期待に沿った情報を提供することで、製品の新規採用や処方継続、ロイヤリティ向上につながり、長期的な関係構築に寄与します。
さらにファーストパーティデータは、ゼロパーティデータ、セカンドパーティデータと組み合わせることで、より深いインサイトを得ることができます。
例えば、既存のファーストパーティデータとゼロパーティデータを組み合わせて自社ユーザー群を詳細に分析し、類似または拡張したユーザー群(オーディエンス)を設定します。その上で、提携企業のセカンドパーティデータを活用してデジタル広告を配信すれば、高い効率が得られるかもしれません。これは、既存ユーザーに近い属性や行動を持つユーザーは、ユーザー化する可能性が高いという仮説で広告配信し、新規ユーザーを獲得するものです。
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製薬マーケでのファーストパーティデータの収集源
ファーストパーティデータは、企業がユーザーとやり取りを行う中で、収集・集積されていきます。収集源と収集方法は、以下の通りです。
会員登録情報
ユーザーが会員登録、アカウント登録する時に提供する個人情報(名前、メールアドレス、電話番号、勤務先など)が該当します。登録フォームやアカウント作成ページから収集します。
検索・ダウンロード履歴
ユーザーが検索した製品やサービス、ダウンロードした資材などに関する情報、日時が該当します。Webサイトを通じて収集します。
問い合わせやサポート
オンライン/オフラインのサポートやMRなどとの対話内容、問い合わせ履歴、チャット履歴などが該当します。サポートのシステムやCRMシステムから収集します。
メールキャンペーンデータ
メールマガジンなどに対するユーザーの反応(開封率、クリック率、返信など)が該当します。メールマーケティングツールやプラットフォームを使用して収集します。
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Webサイトの行動データ
ユーザーがWebサイト上で行うアクション(ページビュー、クリック、スクロール、検索クエリなど)が該当します。トラッキングツールや解析ツール(Google Analytics 4、Adobe Analyticsなど)を使用して収集します。
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アプリ内データ
ユーザーのアプリ利用状況や操作履歴、アプリ内の行動(タップ、スクロール、滞在など)が該当します。モバイルアナリティクスツールやアプリ内トラッキング機能を使用して収集します。
SNSの反応
ユーザーの企業SNSアカウントに対するエンゲージメント(コメント、シェア、いいね)が該当します。SNS管理ツールやプラットフォームの分析機能を使用して収集します。
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ファーストパーティデータの活用方法
ファーストパーティデータは、個人を特定できるIDと結びつけて活用することで、さまざまなマーケティング施策に活用できます。
例えば、Webサイトの閲覧履歴や検索キーワード、資材ダウンロード、MRなどへの問い合わせといった情報に合わせて、パーソナライズされたメールやメッセージを配信できます。ユーザーの関心が高いときに、ニーズに合う製品の情報提供をできれば、MRとの面談機会の創出や、新規処方につながる可能性も高くなるでしょう。メッセージの配信方法や時間も、どのチャネルの効果が高いのか、どの時間の開封率が高いのかといったことも組み合わせて最適化することで、より効果が期待できます。
IDと結び付けない場合でも、ファーストパーティデータは製品のレコメンドなどに利用できます。例えば、Webサイトを訪問したユーザーに対して、ファーストパーティCookieを利用して、閲覧した製品に関連する製品の情報を表示できますし、特定の行動に基づいてオーディエンスセグメントを作成したコンテンツ表示も可能です。
各種データの違いを踏まえた多層的マーケティングを
ファースト、セカンド、サードパーティのデータはそれぞれ異なる特性を持ち、マーケティングにおいて異なる役割を果たします。
特に、ファーストパーティデータの量と質を確保することで、製薬企業はより効果的なマーケティングができ、ユーザーと長期的な関係を構築できるでしょう。
一方で、ゼロパーティデータを含む多層的なデータ活用も、マーケティング施策を強化する上では必要になるケースがあります。ゼロパーティデータを活用すれば、ユーザーインサイトの理解につながりますし、セカンドパーティデータやサードパーティデータを補完的に活用することで、市場全体の動向や新たなターゲットセグメントを発見することも可能です。多層的なデータを統合し、効果的に活用することで、製薬企業はより高度で精密なマーケティング施策を実施し、ユーザーとのエンゲージメントを深めることができます。