メーカーの情報提供は業務範囲外?調査で見えた現場の実態と効率的なDTLのための医師の検索行動分析/MDMD2024Summerレポート
2024年6月5日に開催された医薬品マーケティングのイベントMedinew Digital Marketing Day 2024 Summer(MDMD2024Summer)。セッション「働き方改革によって医師の情報収集は新たな変化を見せるのか」では、株式会社インテージヘルスケア 井上彰一氏より「働き方改革」が医師の情報収集に与える影響、そしてこれから求められる情報提供について、同社の調査結果をもとに解説がありました。
「働き方改革」で変わる情報収集への意識
2024年4月から始まった「医師の働き方改革」によって、医師の長時間労働を是正する取り組みが強化されるとともに、勤怠管理の厳格化も進められています。この「働き方改革」は、医薬品や医療機器のプロモーションにどのような影響を与えるのでしょうか。
情報収集の時間は労働時間にカウントされるのか?
まず、医師の「研鑽」、つまり情報収集に充てる時間が労働時間に当たるか否かは、業務上必要であるかどうかによって変わってきます。
業務上必須ではない医薬品や医療機器の情報収集は、基本的には労働時間として取り扱われず、労働時間外に自由意思で行うものと考えられています。
ただし、医療機関ごとに情報収集(を含む「研鑽」)の取り扱いを明確化することが求められており、製薬企業は医療機関ごとの傾向を把握しておく必要がありそうです。
多くの病院では「自己研鑽」についてのルールが定まっていない
インテージヘルスケアが約200名の院内ルール策定に関与する医師を対象に行った調査によると、半数以上の回答者が、院内で「宿日直体制の見直し」や「勤怠管理システムの導入/変更」といった動きがあると答えました。
一方で、「自己研鑽の定義明確化」の動きがある病院は約2割。多くの病院では、情報収集についての院内ルールを策定する動きはまだ始まっていないといいます。
メーカーの情報提供は「業務の範囲外」という見方が強い
同調査によると、営業からの製品説明、説明会や講演会といったメーカーからの情報提供の時間は、対面・オンラインを問わず「業務となりえない」と回答した医師が6割以上という結果に。多くの医師が、情報収集にかける時間は業務時間外であり、自己の裁量で行うべきことと捉えています。
一方で「業務扱いとなりうる」と回答した医師からは、自身の判断か上司の指示かを問わず、
勤務時間内に院内で受ける情報提供は業務扱いになるという意見が多く見られました。
院内ルールで情報収集の時間が「業務外である」とされる場合、勤務時間外や休憩時間の必要最低限の時間、あるいは勤務時間内で手短に面談を行うなど、医師の時間を圧迫しない面談のあり方が求められます。
また、情報収集の時間が「業務内である」とされる施設でも、勤務時間内の時間を使っているという意識に基づき、不要不急の面談は避けるべきと考えられるでしょう。
勤務時間への意識の高まりがMRなどの訪問・面談の実質的な規制強化に
製薬MRや医療機器営業による訪問、リアル面談、院内説明会についての規制は、概ね従来通りとなる見込みです。
「勤務時間内の訪問/開催が制限された」「事前アポイントが必須となった」といった声もありますが、7割以上の施設ではルールに変更はないということです。
しかし、訪問ルールが変わらないとはいえ、勤務時間への意識の高まりが「実質的な規制強化」になる可能性は十分に考えられます。
また、医療機関ごとに研鑽の取り扱いの明確化が進めば、訪問自体を規制しなくても、病院や上司の指示による面談・説明会への参加は減少するでしょう。
選ばれるのは「効率的」な情報提供
では、これからはどのような製薬MR・医療機関営業のあり方が求められるのでしょうか?
同調査によると、多くの医師が「少ない時間で有益な情報が得られるMR/営業を厳選していく」「MR/営業との面談を減らし、インターネットの情報収集で完結すべき」と答えています。
さらに、自由回答式の「働き方改革にあたってのメーカーへの期待」を問う項目でも、やはり「効率の良い情報提供」や「勤務時間に対する配慮」を求める意見が多く見られました。
効率だけでなく「誠実さや信頼感」も重要
一方で、株式会社インテージヘルスケアが行った別の調査「Rep-i」によると、医師がMRを評価する上で最も重視するのは「誠実さや信頼感」。続いて「自社製品の知識や情報」と、必ずしも効率だけが評価されるわけではありません。
以下の画像の中で、緑色に着色された「簡潔でわかりやすいプレゼン」「適度なタイミングでのアポイント」などが、面談の効率性に関わる部分です。
これからは真摯に医師のニーズに向き合いながらも、不必要に時間を奪うことなく、簡潔に情報をまとめることのできるMRが求められる時代となるでしょう。
提供する情報の種類に合わせてチャネルを選ぶ
同社は情報提供の手段についても「SOC」という調査を実施し、医師がどのような手段で情報提供を受けたいと思っているかを調べています。
結果として、特に新薬に関する情報は「訪問」で情報提供を受けたいという回答が多く見られました。
一方で、既存薬や疾患に関する情報は「ネット(テキスト/画像)」、最新の手技に関する情報は「ネット(動画)」という回答が最多に。情報の種類によって最適なチャネルを見極め、簡潔でわかりやすく発信する必要があるといえるでしょう。
データベースから医師の潜在的なニーズを読み取る
これからの製薬企業・医療機器メーカーには、「どのような情報を」「どのようなチャネルで提供していくべきか」より洗練された情報提供が求められます。そのために役立つ可能性があるのが、医師のPCやスマホにおける「検索行動」です。
インテージヘルスケアが所属するインテージグループでは、同意を取得した調査モニターから、検索行動やWeb閲覧履歴などを収集しています。
このデータを使って、今回はモニターとなる医師のPC・モバイルの検索履歴やアクセス状況から、どのような検索行動を行っているのかを調査しました。
例に挙げられた50代医師のログデータによると、Web接触時間は2023年4月~2024年4月の1年間で大きく増加。特に勤務開始前・終了後のWeb接触時間が増加し、医療系サイトの閲覧も増えたといいます。
同サービスでは、どのサイトにアクセスしているか、どれだけの時間閲覧したか、といった検索行動を確認できます。こういった検索行動のデータを拡充し、分析してパターン化していくことで、どのようなニーズが隠れているのかを見極めていくこともできるでしょう。
検索行動に限らず、得られるデータを分析することによって医師にとって価値のある情報を見極め、簡潔にわかりやすく提供していくことが今後の製薬企業にとっての課題となるでしょう。