製薬ベンチャーの実例に学ぶ、限られたリソースでのKOLターゲティング戦略/ファーマIT&デジタルヘルス エキスポ2024

2024年4月下旬に開催された「ファーマIT&デジタルヘルス エキスポ2024」。アキュリスファーマ株式会社 メディカル本部の西馬氏と熊谷氏が登壇した本講演では、新規領域参入時のKOLターゲティングにおけるデータ活用の取り組みについて、同社の当時の課題や成果を交えながら紹介がありました。株式会社医療情報ネット 芳賀が紹介した製薬企業におけるデジタル&データ活用実態調査の結果もふまえ、講演内容をお伝えします。
また、データ活用が順調である企業と順調ではない企業での違いについて、非順調群の約34%が「データ利用の前処置(名寄せ・人物コード付与など)に時間がかかる」と回答し、順調群の6.8%に比べて大きな差が見られました。
このように、多くの製薬企業がデータ活用に必要性を感じながらも、活用方法・共有については未だ多くの取り組むべき点があることが分かります。
続いて芳賀は、KOLターゲティング実施前後でマーケティングおよびメディカル担当者が抱えがちな悩みについて以下を挙げ、KOLターゲティングにおけるデータ活用においても課題が山積していることを指摘しました。
【ターゲティング実施前】
- KOLリストを持っているが属人的な視点が盛り込まれ客観性に欠ける
- 承認前にターゲット医師を絞り込んでおき、よいスタートダッシュを切りたい
【ターゲティング実施後】
- KOLは選定できたがなかなか接点を持てない
- 講演会の演者・座長がいつも同じ
これらをふまえ、アキュリスファーマ メディカル本部の西馬氏、熊谷氏より同社の抱えていた課題や取り組み、成果について紹介がありました。
ドラッグラグ・ドラッグロス問題の解消に取り組むアキュリスファーマ
海外で有効性や安全性が認められ使用されている治療薬が、日本では使用開始が大幅に遅れるもしくは使用できない、いわゆるドラッグラグ・ドラッグロス。欧米で承認されている治療薬のうち日本で承認されているのは約30%にとどまり、特に神経・精神疾患およびがん領域においてその傾向が顕著だといいます1)。
2021年1月に設立されたアキュリスファーマは、そのようなアンメットメディカルニーズの高い神経・精神疾患領域に特化した製薬ベンチャーで、従業員数25名(2023年11月時点)と少数精鋭でドラッグラグ・ドラッグロス解消への取り組みに邁進しています。
現在、米国・欧州で承認され臨床使用実績のある2製品をライセンス・インにより日本へ導入し開発中であり、そこで直面したKOLターゲティングの課題や対応について熊谷氏から事例共有がありました。
顧客情報に乏しく、社内のマンパワー不足もある中で見出した現在の活動
すでに海外での承認・販売実績があった2製品の開発ではPhaseⅠからPhaseⅢまでのプロセスが早く、ローンチまでの期間が短いということで早急にメディカルとしてプレローンチ活動を始める必要がありました。
主に以下の活動を行うために、まずはKOLの選定を進めました。
- てんかん・睡眠関連疾患領域における医療実態、課題の理解およびアンメットニーズの把握
- 開発製品のポジショニングの検討
- エビデンス創出のための共同研究の実施 など
しかし、当時スタートアップ企業ということもあり顧客情報に乏しく、さらに社員数が9名とマンパワー不足でフィールドに出て顧客情報を収集することが難しかったため、KOLの選定に苦労したと熊谷氏は振り返ります。
アキュリスファーマのKOLの定義と選定の流れ
KOLの定義は各社で異なりますが、アキュリスファーマでは以下をKOLと定義し、KOLの特定を進めました。
- 発信力があり、多方面に影響力を持つ医学専門家
- 共同研究者:共同研究者・ライジングスター
STEP1:KOLの特定
KOLの選定プロセスでは、「学会役員やガイドライン委員であるか」「他社治験の参加有無」「疾患専門病院への所属」についてデスクリサーチを行い、加えて「学会情報および論文情報」を医薬情報ネットから購入。客観的な情報を用いた評価を行いました。
STEP2:KOLの優先順位付け
KOLのリスト作成後、優先順位付けを行うにあたり、学会情報および論文情報データベースの「重み付け」の機能が役に立ったと熊谷氏。例えば、学会発表が多いが卒業年が若い医師は「ライジングスター」というフラグを付けるなど、KOLの特徴から容易に分類が行えたといいます。
STEP3:KOLリストの精度の検証
優先順位付けを終えKOLリストが整ったところで、上位の医師からコンタクトを始めました。その際、「この領域で影響力のある医師は?」と尋ねて回ったところ、挙げられる医師はほとんどSTEP1~2で作成したリストと相違なく、見直しの必要はなかったといいます。
STEP4:KOLとの活動
現在は特定したKOLとの活動プランを作成のうえ、以下の活動を実施しています。
- MSLとのScientific exchange
- アドバイザリー業務(開発治験、企業活動など)
- 共同研究(企業主導の観察研究およびNDB研究など)
振り返り:新規参入領域でリソース不足であれば、データ活用で効率的にKOL特定を
前職では主にフィールド担当者(MR/MSL)からのインプットに基づきKOLターゲティングを行ってきたという熊谷氏。今回、マンパワーが不足している中でも客観的なデータ(学会および論文情報データベース)を活用することで、短期間で精度の高いKOLリストを、それぞれのKOLの特性もふまえながら作成できたので良い結果が得られたと振り返っています。
続けて熊谷氏は、今回デスクリサーチを行った学会および論文情報データベース以外の客観的な情報※についても、外部から購入していればさらに効率的かつ精度の高いリストができた可能性があると反省点を述べたうえで、「新規に参入する領域で効率的にKOLやターゲット医師を特定したい企業、そしてリソース(主にフィールド担当者)が少ない企業においては、このようなデータを最大限に活用したKOLターゲティングを行うとよいのではないか」とまとめました。
※ 学会・ガイドライン委員、専門医の有無、科研費情報、交友関係、他の医師からの評判など
客観的なデータを活用してKOLターゲティングの課題を解消
製薬企業にとって、新規領域におけるKOLターゲティングのアプローチは試行錯誤の連続です。アキュリスファーマのケースは、外部データベースの積極的な活用と社内の知見を組み合わせることで、スピーディかつ精度の高いKOLリスト作成が可能になることを示した成功事例と言えるでしょう。
本セミナーを主催した医薬情報ネットでは、同社が提供する「学会情報データベース」および「論文情報データベース」に加え、1カ月かかっていた医師のリサーチを1時間にする医師分析プラットフォーム「Doctorna(ドクターナ)」など、製薬企業のマーケティングをサポートするソリューションを展開しています。
熊谷氏が展望として挙げていた、ターゲティングの効率化のために重要な要素の一つである「医師同士の交友関係」についても、Doctornaでは線の太さで示したソーシャルグラフとして視覚的に確認できます。
これにより「KOLは把握できたがなかなか接点を持てない」「講演会の演者・座長がなかなか決まらない」といった課題に対しても、関係性のある医師を上手く巻き込んだうえでのアプローチを行うことができるようになると芳賀はメリットを強調し、本講演を締めくくりました。
データやテクノロジーの活用が加速する中、自社の知見とリソースを生かしつつ、外部データベースを効果的に組み合わせたKOLターゲティングが製薬企業のマーケティングおよびメディカル戦略を支える柱になるのではないでしょうか。
<出典>※2024.5.20参照
1)医薬産業政策研究所, 「ドラッグ・ラグ:国内未承認薬の状況とその特徴」政策研ニュースNo.63 (2021年07月発行)
https://www.jpma.or.jp/opir/news/063/08.html