医師データの精度アップと充実化でKOLターゲティングを効率化/MDMD2023Autumnレポート
2023年9月に開催された“Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2023 Autumn”。製薬マーケティングのかなめでありながら、変化が早く更新負担の大きい医師の所属情報データのメンテナンスについて、ミーカンパニー株式会社の小関未来氏から効率化と精度アップの提案が示されました。昨今の医師データの課題と活用について語られた本セッションをご紹介します。
ターゲティングの効率化にはメンテナンスされた医師データが必須
はじめに小関氏は、なぜ今、医師の所属情報データのメンテナンスが課題になっているのか、その背景や問題点について、以下のように説明しました。
MRに依存する医師データメンテナンスからの脱却が必要
これまで医師データの確認や更新は、各製薬企業のMRに依存してきました。しかし、2023年版MR白書によるとMR数は年々減少しており、MR数の減少はこれからも続くとみられます。
一方で、SCUEL医師データベースの登録件数を元に算出すると、100床以上の病院では年間で3割以上の医師が異動します。MRによる情報更新の場合、医師の新規着任情報は把握しやすい傾向にありますが、退職した医師の情報更新は滞っており、その結果、一人の医師が複数機関に所属しているように見えてしまう問題が起こります。これら医師の在籍情報をMRがタイムリーに収集し、さらにデータ内容を確認、承認するという現状の医師データのメンテナンス方法は限られたリソースの中ではMRの負担が大きいと言えるでしょう。
さらに医療機関からは完全アポイント制が要求されるなど訪問規制も厳しくなっており、医師の在籍について最新情報を入手しにくくなっています。これらの要因から、医師の在籍データの精度が悪化してしまうことが製薬企業の課題です。
医師の所属データの精度悪化による問題点とは
医師データのメンテナンスに漏れや遅れが生じたときに起こりうる問題点として、ターゲティングや市場分析が不正確になることが挙げられます。マーケティング部門では
- 自社製品の処方ポテンシャルのある医師を見逃す可能性
- 社内データの信頼性低下により組織をデータで動かしにくい
ことなどが指摘されており、データ管理・DX関連部門においては
- 担当MRにより精度や更新頻度が異なり、データ品質が安定しない
- 医師単位の分析を行うAIモデル開発において精度改善のボトルネックになる可能性
ことが課題であると小関氏は指摘します。
メンテナンスされた医師データで処方ポテンシャルを見逃さない
ミーカンパニーでは、全国の医師33万人のデータを独自に収集した「SCUEL(スクエル)データベース」を保有しています。SCUELデータベースでは、MRによる更新ではなく、医療機関や学会のホームページなどのオープンデータからテクノロジーと人力を組み合わせた精度の高い情報収集をしており、厚生労働省の令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計結果と照らし合わせて94%の医師をカバーしていると小関氏は説明します。
これまでMRが行っていた医師の在籍確認をSCUEL医師データで補完することで、各社の医師データのメンテナンス作業の時間と手間を短縮し、MRによるデータ更新の負担を大幅に軽減できます。小関氏は「適時に更新され、漏れのない医師データを用いることで、ターゲティング精度向上に貢献できる」と強調しました。
医師の専門性を示す豊富な属性情報でターゲティングを明確化
近年の製薬マーケティングのデータ活用において、医師の所属データのみでは不十分ではないかと小関氏は問いかけます。医師には、資格、所属学会、過去の経歴や研究履歴、医師会役員、難病指定医など豊富な属性情報といった多くのデータがあります。それらを組み合わせて、自社製品の処方可能性のある医師を抽出する、ターゲット医師のリスト作成などが提案されました。
治験に積極的な医師リストなど多様な属性情報を活用
医療機関HP、学会、jRCT、KAKEN、reseachmapなどの複数の出典元で、それぞれの医師が主導・参加した治験や学術研究に関する情報も収集できます。SCUELデータベースではそれらをデータセット化しているので、例えば「治験に積極的な医師リスト」の作成なども可能であると小関氏は提案します。
現在のKOL*1に留まらず、将来のKOL、KEE*2候補となる若手医師の発掘や新領域のKOL探索も可能といいます。さらに、研究系データを用いて医師を抽出できること、そのデータに属性情報を付与すること、経験件数や役職などでランキング形式にリスト化することも可能です。
*1 KOL:Key Opinion Leader *2:KEE:Key External Expert
属性情報の重ね合わせでターゲット医師を絞り込む
医師の属性情報は多岐にわたり、専門医・指導医などは500以上、専門領域や研究履歴、組織内の役職情報などを含むとさらに膨大な情報になります。それらを組み合わせて抽出して、KOLに限らず診療可能性のある医師を特定することも可能だと小関氏は話しました。
SCUELデータベースでは、医師の専門分野、得意領域、研究履歴、疾患ごとの診療履歴のタグ化も行っています。例えば、呼吸器科の中でも肺がんを専門とする医師を抽出することで、これまでたどり着けなかった、処方可能性のある医師を見落とさずにリスト化できると小関氏は説明しました。
Web散在データの活用で新規データ開発も
Web上には、医療に関する多様なデータが散在しています。例えば、自治体のコロナワクチン助成状況などは地域の医療支援を行う企業にとって重要な情報です。SCUELデータベースでは、任意接種ワクチンの助成状況について、全国の各自治体のHPを検索、目視で確認してデータセット化し活用できる状態にしています。
SCUEL医師データを活用することで、医師データの精度改善、ターゲティング精度向上に貢献
本講演では、昨今のMR数の減少や訪問規制による医師データの精度悪化という課題に対する解決策として、さまざまな視点から医師ターゲティング精度向上の提案がなされました。各製薬企業が保有するデータにミーカンパニーの「SCUELデータベース」の医師データを併用利用することで、各社の医師データの精度は改善され、ターゲティングの効率アップに貢献できると小関氏は結びました。