医師個人データの活用による客観的な顧客理解の重要性とメリット/MDMD2023Summerレポート
2023年6月に製薬・医療機器業界のキーパーソンが集結し開催された「Medinew Digital Marketing Day 2023」。2020年よりオンラインで開催されてきた同イベントは、今回が初のリアル開催。本記事では、株式会社医薬情報ネットの富永による講演「医師の学術活動情報の収集・分析を効率化させる新サービスDoctornaのご紹介」より、製薬企業のデータ活用実態や課題、そして医師の学術活動情報の効率的な活用を支援するサービスについての内容をレポートします。
製薬業界のデータ活用の実態と課題
マーケティングにおいて必要不可欠なデータ活用。現在、製薬企業各社はどのようにデータを活用し、どのような課題を感じているのでしょうか。医薬情報ネットの運営するWebメディア「Medinew」が製薬企業に勤務する読者を対象に実施した「製薬企業のデジタル&データ活用実態調査2022」の結果をもとに、製薬企業におけるデータ活用の実態について紹介がありました。
「医師へのアンケート調査結果」のデータを活用する企業が増加
現在製薬企業が活用しているデータの種類としては、以下の4項目が76.5%と同率で上位を占めています。
・医師へのアンケート調査結果
・納入実績(実消化データ)
・MR活動によって得られた情報(医師の処方動向、安全性情報など)
・本社主導のWeb講演会の参加・視聴ログ情報
この中で特に注目したい項目は、2021年にも行われた同調査と比べ20ポイント近く増加した「医師へのアンケート調査結果」です。増加の理由として、COVID-19禍における訪問規制で医師と直接コミュニケーションをとる機会が減ったため、代用手段として医師へのアンケート調査結果を活用する製薬企業が増えたことが考えられます。
他にも、MR活動によって得られた情報や自社会員制Webサイト内のユーザー行動ログ情報など、医師個人に紐づいたデータ(下図の緑丸の項目が該当)の活用が進んでいることも示されました。
客観的なデータと活用できる人材の不足が課題
また、製薬企業の抱える「データ活用の課題」については、以下2つの項目が上位となっています。
・データに精通した人材・体制が不足している(68.2%)
・医師個人に紐づいた客観的なデータが不足している(61.2%)
「医師個人に紐づいた客観的なデータが不足している」項目は、前年の調査と比べ10ポイント以上増加しました。医師個人に紐づいた客観的なデータの不足を感じているからこそ、医師へのアンケート調査結果のデータを活用する企業が増えていると考えられます。
また、「データに精通した人材・体制の不足」の回答は昨年の調査と同様に最も多く、製薬企業各社が持つ共通の課題と言えそうです。
富永は「データ自体の不足も問題ながら、データを入手できたとしても活用できる人材や体制が不足しており、社内で効率よくデータを活用できていない現状を改善する必要がある」と指摘します。
医師個人に紐づいた客観的データ活用で実現できること
それでは、データを上手く活用できると、具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。「ターゲティング」と「顧客理解」という2軸から、医師個人に紐づいた客観的データがない場合に生じ得る問題点と、客観的データの保有により実現できることについて紹介がありました。
まず「ターゲティング」について、医師個人に紐づいた客観的データがない場合、ターゲティングは過去の経験・個人の知見やつながりに基づくものとなります。過去の経験は製薬企業にとって重要な財産ですが、過度に頼り過ぎるとバイアスがかかりやすくなってしまう点が問題です。また、製薬業界は人材の流動性が高いため、そうした側面からも、属人的な対応はリスクが高いと言えます。
「顧客理解」においても、客観的なデータなしでは過去の経験や個人の知見・つながりが頼りとなり、経験が不足する新領域への参入が困難になります。
それに対して、医師個人に紐づいた客観的データを保有することで、網羅的かつ客観的なターゲティングが可能となり、バイアスが生じにくいターゲティングが叶います。さらに、偏りのない広範な顧客情報を収集できれば、新領域への参入時にも顧客理解を深めた上での展開が可能となります。
網羅的かつ客観的なターゲティングを実現し、顧客理解を深めることで、製薬企業はより精度の高いマーケティング戦略を展開でき、的確な意思決定が可能となります。
医師個人に紐づいた客観的なデータの不足を解消する学会情報・論文情報データベース
医薬情報ネットでは、医師個人に紐づいた客観的なデータ不足に対処するため、学会情報データベースを2017年より、論文情報データベースを2021年よりそれぞれ提供し、製薬企業のデータ活用をサポートしています。
学会情報データベースは、日本国内で開催される年間約1,400の医学系学会の開催や演題情報を集約したものです。対象は全国区の大きな学会から地方会や研究会など幅広く、学会事務局から抄録集やブログラムを直接紙やPDFで入手し人間がデータベース化するため、網羅性と精度の高さを備えています。
論文情報データベースは、日本人医師が英語で執筆した論文に関する情報をMEDLINE®から抽出し、データベース化しています。医薬情報ネットでは、英語人物名に対し人物コードを付与・構造化できるシステムを保有しています。
これらのサービスは医薬情報ネットでデータベース化した学会や論文情報を製薬企業各社が持つ顧客コードと突合し、社内システムやデータと連携することが可能です。学会や論文の情報は医師について客観的に把握できるデータであり、過去の発表内容から専門性を把握したり、共同発表から医師同士のつながりを予測したりと顧客理解に活用できます。
データ活用の人材・体制の不足を改善するDoctorna
データ活用における最大の課題として挙げられる「データに精通した人材・体制の不足」に対応すべく、医薬情報ネットではクラウドサービス「Doctorna」を提供しています。
「1カ月かかっていた医師のリサーチがわずか1時間に」というコンセプトのもとに開発されたDoctornaの特長について、以下の通り紹介がありました。
Doctornaの5つの特長
医師の学術活動情報の収集や分析を効率化し、顧客理解や医薬品マーケティングを高速化かつ強化するDoctorna。学会情報と論文情報を収載し、スムーズにデータを活用できるシステムが構築されています。
1.希望の学会・論文情報を分析し顧客コードを付与
専用の分析環境において収載された学会・論文情報を分析可能。また、各企業の顧客コードを付与するため導入後の管理がスムーズです。
2.キーワードで独自の医師ランキングを生成
Doctornaでは、学会発表数やスポンサードセミナー登壇回数、論文発表数などを集計し、医師ランキングを生成。疾患や領域などキーワードを指定して、企業独自の医師ランキングを生成することも可能です。
エリアや卒年などで絞り込むこともでき、自社ニーズに合う医師ランキングを作成し、すぐに活用できる形でデータが提供されます。
3.ランキング指標の重み付けを変え、目的別のランキング生成が可能
医師ランキングで“重み付け”を変更する機能を搭載。学会情報では、学会登場回数・座長登場回数・第一演者登場回数・その他登場回数・スポンサードセミナー登場回数の5項目で重み付けを選択できます。
重み付けを変更することで、自社の目的に合わせて医師の絞り込みが可能です。例えば、経験豊かな医師を探す場合は座長登場回数を主軸に、講演会で登壇する医師を探す場合は第一演者登場回数を主軸に設定します。
KOLやエリア医師など目的に応じた医師ランキングは、項目設定後20~30秒で迅速に生成されます。ランキング上位の医師の基本情報やスコアの内訳を確認できるだけで、詳細な情報をスムーズに調査可能です。
4.医師と競合企業の関係性を可視化
収載するスポンサードセミナー情報から、競合企業の分析も可能です。医師ごとのスポンサードセミナーへの登場回数をランキングで表示すれば、どの企業で何回セミナーを実施しているかを容易に把握できます。
学会名や企業名を選択し、医師と企業の学会活動状況を確認することで医師と企業とのつながりや特定の領域に強い企業を知ることができ、戦略立案に役立ちます。
5.ソーシャルグラフ機能で医師の人間関係を予測
Doctornaには、学会の共同発表経験や論文の共同著者などから医師の人間関係を予測し、可視化するソーシャルグラフ機能が搭載されています。関係性の強さは、共同活動の回数に基づいて判断され、線の太さによりビジュアルとしてわかりやすく表示されます。
ソーシャルグラフの作成は、ランキングや人物検索から医師名を選択すると簡単に生成できます。疾患名などのキーワードや学会名を指定することで、特定の範囲内における医師の人間関係を予測表示することも可能です。
ソーシャルグラフ機能は、より使いやすく改良されたバージョンが近々リリース予定とのこと。医師同士の共同発表回数などの数値情報を確認できるように表も表示し、さらに見やすくなる予定です。
Doctornaの導入フロー
Doctornaを導入する際には、まずは収載するデータを決定。学会名や論文の該当キーワード、対象年数を設定し、各社オリジナルのデータベースを作成します。
抽出したデータは製薬企業各社の顧客コードと突合し、Doctorna用のデータへと整えてから、専用の分析画面を構築します。
データ活用支援サービスで医薬品マーケティングの高速化と強化を実現
学会・論文情報データベースを備え、各企業専用のプラットフォームを構築するクラウドサービスDoctorna。収集したデータを効率的に活用することは、医薬品マーケティングの高速化と強化の実現に不可欠な要素です。
製薬企業におけるマーケティングの課題とされる、客観的データやその活用のための人材・体制の不足の解決に向け、大きな力となるのではないでしょうか。