Webとリアルをどう使い分ける?医師が求めるクイックな情報提供実践のヒント/MDMD2024Summerレポート
2024年6月5日開催のMedinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Summerの最終セッションでは、「医師が求めるコミュニケーションとは?」をテーマに、現役医師3名をゲストに迎えパネルディスカッションを行いました。Medinewが2月に実施した医師へのアンケート調査の結果をもとに、2024年4月1日から施行された「医師の働き方改革」によって生じた医師の情報収集方法の変化、製薬企業のWebサイトの活用方法、MRとの関係性など、製薬企業に求められるコミュニケーションの在り方を探ります。
■パネラー
市立青梅総合医療センター 医長 呼吸器内科 日下 祐氏
JCHO東京高輪病院 整形外科医 岡田 智彰氏
船橋総合病院 呼吸器内科医 居倉 宏樹氏
働き方改革によって、医師はさらに効率的な情報収集を重視
2024年4月に、「医師の働き方改革」に関する新制度が施行され、水準別で医師の時間外労働の上限が定められたほか、医師の健康を確保するための休息時間の確保や面接指導が義務付けられました。それに伴い、医師の勤務状況はどのように変化したのでしょうか。
働き方改革以前から医師の働き方の見直しは徐々に進んでいる
―「医師の働き方改革」によって、先生方の業務に変化はありましたか
日下氏:大きな変化は感じていません。理由のひとつは、働き方改革が始まる前から働き方を見直す準備や体制構築を少しずつ進めていたことです。もうひとつは、職場全体の働き方の価値観が徐々に変わってきたことです。みんなで協力しながら時間外労働を減らす工夫をして、だんだんと働き方が変わっている印象です。
居倉氏:同感です。「医師の働き方改革」の施行で、劇的な変化が起きたというより、これまでの積み重ねで徐々に変化してきています。当院の場合、土日や連休の当直業務を外部の非常勤講師に任せることで、常勤医師の当直業務を減らす施策などを取り入れています。
岡田氏:私の診療科である整形外科は怪我を扱うため、緊急手術などで時間外に働かざるを得ないケースが多々あります。一方で、労働時間を守ることを求められるので、書類作成や情報収集などの仕事は効率よく、早く切り上げるようにしています。
カンファレンスも同様です。外来や手術を終えて全員参加するには16時半~17時スタート、手術が長引けば参加できる時間が18時以降になることもあります。就業時間内に終わるよう、出席可能なメンバーを優先してカンファレンスを開き、欠席者はツールで情報共有しています。以前より帰宅時間は早まっています。
情報収集はクイックに、効率的に。状況に応じて情報源を使い分ける
―働き方の変化に伴い、情報収集にかける時間や方法も変わりましたか。
日下氏:医療アプリやインターネット情報が充実しているし、どのサイトで、どんな情報を得られるか勘所を掴めているため、必要な情報を素早く取得できるようになりました。情報収集にかける時間は以前より減り、効率が良くなったと感じます。
居倉氏:スマートフォンでの検索やWeb講演の聴講など、オンラインでの情報収集が増えています。きっかけはコロナ禍だと思います。リアルでのコミュニケーションが制限されるなか、Web面談やWeb講演といったオンラインを利用する機会が大幅に拡大しました。時間や場所などの制約なく情報を得られるメリットを実感する機会となり、オンラインでの情報収集が広く浸透したと感じます。
―診療や薬剤に関する情報を、普段どのように調べていますか
日下氏:時間の余裕があるときは、PCで論文を検索したり、医学書を参照したりします。外来診療中などクイックな対応が必要なときは、診察に支障をきたさないよう自分で調べるほか、薬剤師に確認します。
居倉氏:薬剤に関する情報収集はほとんどスマートフォンで行っています。外来でも、病棟でも調べられるので重宝しています。ただ場所によって電波が届かず、情報源が限られるときは、薬剤部に問い合わせるなど、別の方法をとっています。
岡田氏:自分の診療科で用いる薬剤は、副作用などの情報を確認するために、カルテのドラッグインフォメーション(DI)を供覧します。それ以外のメディアを使うことはほとんどありません。スマートフォンを使うのは、入院患者さんの持参薬の中に配合錠があるケースが多いです。院内処方の仕方などを調べます。
製薬企業のオウンドメディアに求める「専門外の薬剤情報」と「情報へのアクセスのしやすさ」
医師は、限られた業務時間の中でスピーディーに必要情報を収集しなければなりません。その中で、製薬企業が医師に活用されるオウンドメディアを構築するためには、どのような点に留意すべきでしょうか。
Google検索から製薬企業のサイトに遷移。非専門の薬剤情報もチェック
―普段活用しているオンラインの情報源と、その理由を教えてください
居倉氏:どの薬剤がどの製薬会社から販売されているのか全て把握していないため、まずGoogle検索から製薬企業のサイトに飛び、薬剤情報を調べることが多いです。また、m3.comや、MedPeerなどの医師向けメディアを活用して、関連する薬や一般内科の知識のアップデート、ニュース情報取得に役立てています。
日下氏:最初はGoogleで検索しますが、信頼性を担保するために、必ず診療ガイドラインや学会ホームページなど一次情報にあたるようにしています。SNSは情報が早いですが、間違った情報もあるため、元論文を辿ることが欠かせません。翻訳ツールのDeepLを使って論文のアブストラクトを読むこともあります。それ以外の日常的な情報収集には、医師向けメディアの記事やメールマガジンを利用しています。
岡田氏:専門外の薬剤や特殊な薬剤に関しては、発売元である製薬企業のサイトをよく利用します。私の専門は整形外科ですが、患者さんの持参薬に糖尿病や高血圧の薬剤があります。持参薬と併用確認するために、DIではなく製薬企業のサイトを確認します。
ホームページを訪れると担当MRからメールが届く仕組みのサイトもあります。そこから情報交換が始まり、院内の勉強会を企画するケースもあります。医師向けメディアは週1回のペースで、新薬の情報チェックなどをしています。自分の診療科以外で関連性のある便秘薬や糖尿病薬などの名前を覚えるといった使い方をしています。
ID/パスワード入力が離脱の原因になり得る
―情報収集する中で、困っていること、不便だと感じることを教えてください
日下氏:呼吸器内科では、肺がんの抗がん剤や免疫治療薬などの新薬が続々と出てきます。副作用が出たときは、最初にGoogleで情報検索します。一発で答えに辿り着けず、さまざまなサイトに行き着くのですが、クリック回数が増えて、離脱することが少なくありません。本当に必要な情報に、少ないクリック数で確実に辿り着けるかが課題だと感じます。
居倉氏:薬剤名をGoogleで検索すると、発売元の製薬企業の薬剤情報に辿り着くことは多いですが、知りたい情報にアクセスするにはIDやパスワードを求められます。だだ、その必要な瞬間に覚えていないことがほとんどです。本当に必要なときにすぐ参照できるよう、簡易に情報にアクセスできる仕組みがあると助かります。
岡田氏:製薬企業のホームページで、トップページから知りたい情報を探し、最後にIDとパスワードを入れるのはいいですが、トップページでいきなりIDとパスワードを求められるのは敷居が高いと感じます。
MRには対面ならではの質の高い情報提供を期待
アフターコロナの今、多くの製薬企業がWebとリアルの情報提供の棲み分けに悩んでいます。少しずつMRとのリアル面談の機会も増えつつある中で、MRとのリアル面談に求められるものとは何か、先生方の意見をうかがいました。
―MRからの情報提供に期待することを教えてください
岡田氏:患者さんごと、状況ごとに適切に処方したいと考えていますが、普段からよく処方している薬でも、十分知識をアップデートできていない場合があります。どういった状況が適しているか、どういう薬と組み合わせるのがよいか、競合薬とどんな違いがあるかなどを教えてもらえるのはありがたいです。また、最新情報は、パンフレットやリーフレットを届けるという形でいいので、まずは情報共有してもらえると助かります。
居倉氏:MRに対して一番求めるのは、有害事象などの情報を的確に端的に共有してもらうことです。特に、対面の場合は、オンラインではできない深い情報のやり取りを期待します。
岡田氏:最近は、オンライン面談も増えていますが、MRとは一度会って話したいというのが本音です。薬剤の副作用データはどの論文から引用したものか、どのくらいのn数で安全性を検証しているのかなどを聞いた上で、処方したいという考えがあります。今後、リアルの面談回数は減っていくと思いますが、対面の機会は大事にしたいです。
日下氏:医師の働き方改革は進んでいるものの、医療業界全体の働き方改革は進んでいないと感じます。以前より減っているとはいえ、MRもアポイントのために、何時間も病院に待機しているケースがあり、心配です。
アポイントを取ることが目的になって、中身が形骸化するのは問題です。例えば、論文やガイドラインなどに明文化されていない副作用情報に関して、MRから生の情報を得ることで助けられています。わざわざ時間をとって対面するのであれば、こうした中身のある情報のやりとりを行いたいです。
単に回数や時間を増やすのではなく、回数を落としても質を上げる形で、お互いに有益な情報をやりとりする。働き方改革を進めつつも、よりよい医療の提供という共通のゴールに向かっていけるといいと思います。
笹木:医療業界に限らず、営業では数値化しやすい訪問数や面談数をKPIに設定しますが、質が高いことは大前提です。面談やコミュニケーションの質を高めるために、面談前の事前準備やシミュレーション、データ活用など、さまざまなアプローチが製薬企業には求められます。今回のディスカッションでは、製薬企業と医師がより良い関係を構築するためのヒントを多く得ることができました。
先生方、本日は貴重なお話をありがとうございました。