製薬業界マーケティング/DX最新動向まとめ 2024年5・6月版

製薬業界マーケティング/DX最新動向まとめ 2024年5・6月版

昨今、医療・製薬業界でも、業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)やデジタルマーケティングに注力する動きが多くなってきました。本記事では、2カ月に1回、各製薬企業のプレスリリースより、最新製薬マーケティングやDXの取り組みをピックアップ。マーケティング、プロモーション、DXについて、業界全体の最新トレンドや、他社がどのような動きをしているのかを把握できます。今回は、2024年5・6月を対象に最新動向をまとめました。

※調査対象の企業は2023年5月にIQVIAより公開された22年度販売会社ベース企業売上ランキング(期間:2022年4月~2023年3月)より抜粋した19社。50音順にリストアップ

【2024年5・6月サマリー】

  • データやデジタルヘルスツールの活用によりエビデンス創出へ

製薬企業が、匿名化された患者データやデジタルツールを活用することで、疾患の予後研究や患者モニタリングを進めている事例が見られる。アストラゼネカは全国がん登録情報の匿名化データを活用し、肺がんの発見経緯ごとの予後に関する研究を開始。第一三共は早期乳がん患者を対象に、ウェアラブルデバイス「Fitbit」を用いて身体活動量を評価する臨床研究を開始した。こうした取り組みによって、より効果的な治療法の開発や患者ケアの向上が期待される。

  • 疾患啓発活動の強化とサイトの活用

疾患に関する正しい知識の普及と早期発見・予防の重要性を啓発するためのキャンペーンやプロジェクトを積極的に展開。MSDは子宮頸がん疾患啓発の新キャンペーンを開始し、若い女性に向けて子宮頸がん予防の重要性を訴求。日本イーライリリーと持田製薬は、潰瘍性大腸炎とその症状への理解を促進するプロジェクトを進めている。キャンペーンやプロジェクトの受け皿として疾患啓発サイトを活用。TVCM、YouTube、サイトなどさまざまなチャネルを活用した積極的な情報発信により、患者や社会全体の疾患に対する理解が深まることが期待される。

  • 患者中心トータルケアの推進

製薬企業が診断から治療、予後ケアに至るまでの一連の過程で、患者一人ひとりに寄り添ったトータルケアの提供を目指す流れが見られる。エーザイは認知機能のデジタルチェックツール「のうKNOW」を用いた認知症検診事業において、検査結果に基づく医師のアドバイスや訪問看護師による支援、生活習慣改善プログラムへの参加促進など、多面的なサポートを図る。 第一三共は、早期乳がん患者の身体活動量と健康状態の関連性を評価する研究を通じて、治療中の患者の就労やライフイベントの計画、サポート体制の確保などに貢献することを目指すとしている。医療サービスと生活支援を統合的に提供し、患者のQOL向上と社会生活の維持を支援する取り組みが進められている。

【各社プレスリリース抜粋】
■アストラゼネカ株式会社

アストラゼネカ、全国がん登録情報(匿名化情報)を活用し、全国規模で肺がんの発見経緯ごとの予後に着目した日本初の研究 J-Pathway研究を開始

2024年6月9日

アストラゼネカは、厚生労働省が所管し、国立がん研究センターに事務および権限が委任されている、日本国内におけるすべてのがん患者の罹患状況、がん種、進行度、特定の治療の有無、生存期間などの情報が含まれる匿名化が行われた「全国がん登録情報」を利用した、全国規模では日本で初めてとなる、肺がんの発見経緯ごとの予後に着目した研究「J-Pathway研究(以下、本研究)」を実施すると発表。
本研究は、これまで日本において報告がなかった、全国規模の肺がん患者を対象とした、純粋に肺がんのみが死因となる場合を推定した生存率(純生存率)について、発見経緯ごとに調査することを目的としている。本研究で、発見経緯ごとの純生存率を解析することで、早期発見の重要性の啓発につながることが期待される。

https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2024/2024061901.html

■エーザイ株式会社

東京都文京区の2024年度認知症検診事業を継続受託 2023年度 成果連動型民間委託契約方式において成果指標を達成

2024年6月21日

エーザイは、認知症の啓発と早期発見の推進に向けて受託実施している東京都文京区の認知症検診事業(以下、本事業)について、2023年度の予め設定した成果指標を達成し、2024年度も継続実施することをを発表。
本事業は、55歳~75歳の5歳毎の節目年齢の文京区民(約12,300人)を対象とした認知症検診で、認知機能のデジタルチェックツール「のうKNOW®」を用いて脳の健康度のチェックを実施し、「のうKNOW」の測定結果や問診を踏まえて、医師からのアドバイスの提供や医療機関での受診勧奨のほか、訪問看護師による支援の紹介や生活習慣改善プログラムへの参加促進をはかるもの。
本事業は、文京区の重点施策として2021年度から実施され、エーザイは初年度から受託し、「のうKNOW」の提供や集団検診の運営支援等を行ってきた。2022年度には、成果連動型民間委託契約方式(PFS)が導入され、「のうKNOW」実施数および生活習慣改善プログラム参加者数を成果指標としてそれぞれ目標を設定。エーザイは「のうKNOW」の体験会実施や、当社が開発した運動プログラム「ブレパサイズ®」の体験機会提供などにより、2022年度に続き2023年度も両成果指標を達成している。

https://www.eisai.co.jp/news/2024/news202443.html

■MSD株式会社

俳優 見上 愛さんを起用 子宮頸がん疾患啓発の新キャンペーン 『いつかじゃなく、「今」だ。』5月17日(金)より、テレビ・オンラインで開始

2024年5月17日

MSDは、子宮頸がん疾患啓発の新キャンペーン『いつかじゃなく、「今」だ。』を開始したことを発表。本キャンペーンは、俳優の見上 愛さんを起用し、TVCMやオンラインをはじめとする各種媒体を通じて展開している。
勉強やクラブ活動、仕事などで日々忙しく過ごされている10代~20代の若い女性のなかには、「がん」は遠い存在で、子宮頸がん予防をつい後回しにしている方も多いと考えられる。MSDは、そのような若い世代に向けて、子宮頸がんを自分のこととして考え、「HPVワクチン接種」と「定期的な子宮頸がん検診」で子宮頸がんを予防できる注)ことを知り、『いつかじゃなく、「今」』こそ、ご自身の体を守っていただきたいという想いのもと本キャンペーンを実施することになった。MSDは、子宮頸がん予防に関するWEBサイト「もっと知りたい 子宮頸がん予防」でも、最新の疾患・予防情報を提供しており、本CMも掲載中。

注)ワクチンと検診で100%予防できるわけではありません。

https://www.msd.co.jp/news/product-news-20240517-3/

■第一三共株式会社

トータルケアエコシステムの構築に向けた、早期乳がんを対象としたウェアラブルデバイスを用いた臨床研究の開始について

2024年5月8日

第一三共は、トータルケアエコシステム*1の構築の一環として、早期乳がん患者を対象とした、ウェアラブルデバイスを用いて身体活動量を評価する臨床研究(TRACK-BC、以下「本研究」)を日本において開始したことを発表。
本研究は、ウェアラブルデバイス「Fitbit®*2」と患者情報などを記録するスマートフォンアプリを用い、 術前化学療法を開始する早期乳がん患者の化学療法に伴う身体活動量*3の変化を明らかにすること、 および身体活動量の変化と健康状態*4の変化の関連性を評価することを目的としている。本研究により、身体活動量の低下時期などが明らかになることは、治療を 受けながら働く女性の就労スケジュールやライフイベントの計画、仕事の配分、休息やサポート体制の確保などに貢献することが期待されている。
さらに、トータルケアエコシステムの構築の一環として、本研究で取得したデータをトータルケアプラットフォーム*5上で利活用する仕組みの構築を目指し、将来的には診断支援技術や新たなサービスの開発の展開も見据える。

*1 トータルケアエコシステムとは、患者や生活者一人ひとりの困りごとを解決し Well-Being を実現することを目的として、健康・医療領域の企業・団体やデータプロバイダー・IT 企業等が協働し、 健康促進~予防~治療~予後ケアにわたるトータルケアを創出し、提供するエコシステムのこと。
*2 Fitbit®は、Google LLC 製の健康管理に特化したスマートウォッチ。
*3 身体活動量は、Fitbit®から得られる身体活動の強さの値から算出する総身体活動および中高強度活動を基に解析。
*4 健康状態は、スマートフォンアプリ(患者日誌)を用いて患者自身が答える食欲などの身体状態、不安などの精神状態に関するアンケート結果を基に解析する。

https://www.daiichisankyo.co.jp/files/news/pressrelease/pdf/202405/20240508_J.pdf

■日本イーライリリー株式会社

「潰瘍性大腸炎との暮らしを、話せる社会へ。」プロジェクト 患者さんと専門医の座談会レポートを公開

2024年6月20日

日本イーライリリーと持田製薬株式会社は、潰瘍性大腸炎と、その症状の1つでありQOLに大きな影響を及ぼす「便意切迫感」への理解を促す「潰瘍性大腸炎 との暮らしを、話せる社会へ。」プロジェクト(以下「本プロジェクト」)を進めている。その一環として、長年にわたり潰瘍性大腸炎とともに暮らす2人の患者さんと、炎症性腸疾患の専門医である中村志郎先生(大阪医科薬科大学内科学Ⅱ教室 専門教授)による座談会を開催し、そのレポートを公開。
本プロジェクトは、2023年7月5日に発足し、特設サイト上に患者の声や患者への「便意切迫感」に関する調査結果、 WEB動画「便意切迫さんのうた」を掲載し、潰瘍性大腸炎と「便意切迫感」に関する社会の理解促進のための 情報発信を行ってきている。
今回開催した座談会では、患者の日常生活における困りごとや、周囲の人との関係性、便意切迫感に備えて工夫していること、患者さんと主治医のより良いコミュニケーションのあり方など、多くの示唆を得ることができたとしている。

https://mediaroom.lilly.com/jp/previewPDF/2024/24-22_com.jp.pdf