#2 自社のマーケ戦略に必要な複数データを重視・導入。活用度合いは昨年から向上せず|製薬企業デジタル&データ活用 実態調査2024レポート
自社に適した製薬マーケティングの手法・体制を整えるためには、あらゆるデータ、チャネルを活用して、戦略を設計・実行していかなければなりません。各製薬企業におけるそれらの活用状況や課題を探るべく、Medinewでは毎年、デジタル利活用の業界調査アンケートを実施しています。2024年7月の最新の調査結果から、本記事ではデータの利活用に関する結果を報告します。
調査概要
- 調査期間:2024年7月1日~10日
- 調査対象:製薬企業勤務の方(デジタルマーケティング部門、営業企画部門、プロダクト部門、メディカル部門など)
- 回答者数:109名(途中離脱者含む)
- 調査方法:Webによるアンケート形式
▶アンケート結果資料はこちらよりDLいただけます
サマリー
- 自社で得られるファーストパーティデータ、RWD(リアルワールドデータ)などのサードパーティデータの両者を重視する傾向があり、顧客ニーズやインサイトの把握に活用したい意図がある
- 直近1年では、RWD、DM白書(医師版マルチメディア白書)など、医師や患者像を把握しマーケティング戦略立案に活用するためのデータが導入されている
- 重視度の高いデータでも活用できているのは5~6割にとどまり、昨年と比較しても向上していない
- 活用の障壁は、人材・体制不足、データそのものの不足、部署間の共有・連携不足、予算不足など
製薬マーケティングでのデータ利活用実態
今回のアンケートでは、デジタル化を推し進めるにあたって、デジタルチャネルとデータの2つの観点から利活用状況を調査しました。本記事ではその中から、データの利活用状況に関する結果を一部抜粋し紹介します。
本社主導講演会をさらに重要視
所属部署でどのデータを重視しているかを問う設問では、「本社主導のWeb講演会データ」が最多の81%(「重要視している」46ポイント+「やや重要視している」35ポイント)でした。
「本社主導のリアル講演会データ」も74%が「重視している」と回答したように(「重要視している」39ポイント+「やや重要視している」35ポイント)、本社主導の講演会から得られるデータが、マーケティング戦略立案やターゲット医師へのアプローチに活用できると推察できます。デジタルチャネルの活用意向を問う別の設問で「Web講演会を今後は活用していきたい」という回答が多く見られたように、今後ますますWeb講演会・リアル講演会が製薬マーケティングの中で重要となると考えられます。
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複数データを掛け合わせ、より深い顧客分析を狙う
同設問では、講演会以外のデータへの重視度合いも明らかになりました。「レセプトなどのリアルワールドデータ」や「施設の売上情報」「納入実績(実消化データ)」も「重視している(重要視している+やや重要視している)」という回答が7割を超えており、ファーストパーティデータとサードパーティデータを組み合わせた深い顧客分析を行う狙いがあると推察できます。
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自社が導入すべきデータは?マーケ施策に応じて適したデータ導入が必要
直近1年で新規に導入したデータを具体的に問う設問では、以下のような回答が寄せられました。
- RWD
- DM白書
- DDDデータ※
- MDB(メディカルデータベース)
- 海外市場データ
- ASrid(特定非営利活動法人)を使った調査 など
※IQVIAが提供する、医療用医薬品の販売状況を町丁目レベルで分析できる売上データ
さまざまなデータが回答に寄せられていることから、自社にとって必要なデータは企業によって大きく異なることが分かります。
各データの導入理由を見ると、データを導入する目的は大きく以下の5つに分けられます。
- 患者分析:自社のペイシェントジャーニーの正確性の確認、潜在患者の抽出
- 医師分析:働き方改革による医師の環境変化の把握、医師の市場ポテンシャル分析、医師ターゲティング
- 施設分析:施設ターゲティング
- 自社分析:MRへの行動提案、マーケティング施策の評価
- 競合分析:競合他社の動向把握、ポジショニングチェック
この結果からも、企業ごとに深めるべき・注力すべき分析対象が異なることが把握できます。
製薬マーケティング戦略やブランドプラン策定のためには、多角的な視点で複数のデータを集め、分析を行わなければなりません。患者には、医師には、施設にはどのようなアプローチをすべきなのか、自社の既存のマーケティング施策は適切なのか、競合他社と比較してどのようなポジションにいるのか。
データは製薬マーケティングにとって、仮説の検証やターゲットの理解、施策のPDCAを回すためなど、さまざまなステップで必要となります。自社の分析が不十分なステップを見極め、必要なデータの導入を検討しましょう。
データ活用の課題は?
本アンケートから、複数のデータへの重視度合いは高いものの、そのデータはまだまだ十分な活用に至っていないことが分かりました。
所属部署でのデータ活用レベルをうかがう設問では、重視度の高い「本社主導のWeb講演会データ」「MR活動による情報」「リアルワールドデータ」であっても、「活用できている(十分活用できている+やや活用できている)」と回答したのは5~6割にとどまる結果に。昨年との結果を比較しても、5ポイントを超えて活用レベルが向上したデータはありませんでした。
データ活用には人材/予算確保と社内のデータ一元化が欠かせない
何がデータ活用の障壁となっているのでしょうか。
データ活用のための課題を問う設問結果を見ると、「人材・体制不足(67ポイント)」「顧客個人のデータ(61ポイント)」「社内でのデータ共有整備不足(61ポイント)」「予算不足(61 ポイント)」が課題として挙げられます。(いずれも「当てはまる」+「やや当てはまる」)
データを十分に活用しながら製薬マーケティングを実行するためには、上記全ての要素が欠かせません。例えば、外部企業からデータを購入するだけではなく、データ活用のための手法やノウハウを学び社内人材のケイパビリティを向上させるなど、「自社課題の解決のためにベンダーをどう使うか」に視点を当てることもひとつの手です。そのほか、生成AIなどを用いて、人材不足やリソース不足を解消する方法も検討できます。
コロナ禍をきっかけに、製薬マーケティング全体がデジタルシフトして4年。各企業で、自社のデジタルチャネル上から顧客データを取得する、いわゆるファーストパーティデータを集める土台は整いつつあります。
これからは、集めたデータをどのように掛け合わせ・分析し、自社に合った戦略を立て、実行していくかが、製薬企業の明暗を分けることにつながるでしょう。