前回の「マーケティング・インタビューを成功させるコツとは?本音を引き出す傾聴スキルを高めよう」では、カウンセリングでも使われている「聴く技術」について解説しました。今回は、積極的に気持ちを聞き出すために必要な質問の投げかけ方や、回答の受け止め方のコツをご紹介します。
マーケティング・インタビューを成功させるコツとは?本音を引き出す傾聴スキルを高めよう
話を深める質問のポイント3つ
インタビュー調査では対象者と会話しながら聞き取りを行うため、質問次第で話が深まることもあれば、表面的な一般論で終わってしまう場合もあります。インタビュー相手の気持ちを聞き出すためには、漠然と質問を投げるだけでは答えてくれません。話を深めるための質問のポイントを3つ紹介します。
1. 攻撃的な「なぜ」をぶつけない
時間制限のあるインタビューでは、いきなり核心に迫りたい気持ちにもなるかもしれません。しかし、気持ちを聞き取るためには、まず「自分は受け入れられている」と安心してもらうことが重要です。批判されたり、攻撃される危険を感じてしまうと、深い気持ちを見せることはせず、当たり障りのない表面的な回答に終始してしまいます。
特にインタビュー序盤では信頼関係が築けていないため、「なぜ」をぶつけないよう気をつけましょう。
以下は、いつも市販の風邪薬を選ぶ人へインタビューをする場合の質問例です。
「なぜ」をぶつける質問例
「他にもいろいろある中で、なぜいつも同じ製品を選ぶのですか?」
「なぜ他の風邪薬を買わなかったんですか?」
言い方よって印象は変わりますが、このように「なぜ」をぶつけられた側は問い詰められているように感じます。いつも同じ薬を選ぶのが悪いことであると批判されているような気持ちになってしまうと、回答者は萎縮して気持ちを引き出すことが難しくなります。
攻撃的と受け取られないためには、仮定の話や周辺から聞き取ると、柔らかい印象になります。
攻撃的でない質問例
「別の製品を買おうかと考えたとき、妨げとなっていたことはありますか?」
「どんなきっかけがあったら、そのとき買おうと思えたでしょうか?」
「あなたが感じている、その製品にはあって、他の製品にはない独自の特徴はなんでしょうか?」
このように「なぜ」を使わずに理由をたずねることができます。周辺情報から絞り込んでいき、だんだんと問題の輪郭を掴んでいくイメージです。回答者が自分の気持ちを考えながら話を深めるために有効な方法です。
2. 質問の種類を意識する
質問には、「クローズドクエスチョン」と「オープンクエスチョン」の2種類があります。
クローズド・クエスチョンは、ひと言ふた言で答えられる回答を求めるもので、一般的にピンポイントで情報を得たい場合に有効です。また、回答しやすいために序盤の空気が硬い段階に盛り込むことで、スムーズに会話のキャッチボールを開始することができます。
ただし、多用すると誘導的、訊問的になってしまい、インタビュー相手の隠れた気持ちを聞き出すのが難しくなる危険性がありますので注意しましょう。
対して、オープン・クエスチョンは、語りの広がりや深まりを求める問いかけです。主体的な話や自己探求を促進する機能があります。ただし、クローズド・クエスチョンと同じく、多用すると弊害があります。過剰にオープンクエスチョンを用いてしまうと、「この人は一体何が聞きたいんだろう?」と回答者が混乱したり不安を感じる場合があります。質問の意図が曖昧にならない程度にしましょう。
オープン・クエスチョンに対して回答者が答えにくそうなときには、クローズド・クエスチョンに言い換えて質問し直してみると、答えやすくなるでしょう。
オープン・クエスチョン例
「風邪をひかれたとき、どのように対処されていますか?」
クローズド・クエスチョン例
「風邪をひかれたとき、いつも同じお薬を買われるとお伺いしているのですが、あっていますか?」
→Yes、No
このように、質問の種類を意識することで、インタビューの流れをつくったり、立て直すことができます。
3. 個人の感情に焦点を当てる
一般論で質問してしまうと、回答者にその場しのぎの回答をされ、表面的な受け答えになる可能性があります。深い意識を掘り下げるには工夫が必要です。
回答者の意識を掘り下げて聴くためにはどうしたらよいのでしょうか。
先程の例と続いて、いつも同じ風邪薬を買い続ける理由を聞きたいとします。インタビュー対象者は25歳女性です。
一般論として問いかける質問例
「風邪はすぐに治したくありませんか?」
→「いいえ、別にそんな強い薬はいりません、そこまで必要ありません」
このように、一般論の質問に対しては一般論で返答されてしまい、表面的な内容になってしまいます。そこで働く女性としてのニーズを探るためには、感情に焦点を当てた質問が効果的です。
対象者の感情に焦点をあてると、このような質問が考えられます。
対象者の感情に焦点を当てた質問例
「冬に風邪をひいて仕事のうえで困ったことはありませんか?」
「そういうときはどんな気分でしたか?」
→「たしかに社会人になったころから風邪をひいても休めないときがあり、そういうときには特定の症状に即効性のある薬を求めたいという気分のときもあったかもしれません」
このように、個人の体験や感情に焦点をあてた質問をすることで、具体的なニーズが引き出されます。
回答者の意識を探るためには、感情面からニーズを探ることが効果的です。感情を聞き出すには、例のように「風邪のときの気分や葛藤」「風邪をひいて困ったとき」など、具体的エピソードを思い出してもらうことが手がかりとなります。
今まで使ったことのない風邪薬に対して否定的な印象があるわけではなく、慣れや安心感から使っていただけであることが判明すると、使ったことのないブランドであっても製品の魅力を伝えていけば、ブランドスイッチの可能性があると推測されます。製品や企業ブランドにまつわる課題を調査したり解決するためのマーケティング・インタビューの成功につながります。
回答の受け止め方ポイント
質問する側は相手から返答が得られると満足しますが、実はその後の対応が重要です。
忘れがちなことですが、相手が答えてくれた後、必ずしっかりリアクションをして返答を受け止めていることを伝えることが大切です。メモをとるなどしていると返事をせず流してしまうことがあるかもしれません。しかし、回答者としては、せっかく考えて返したボールが丁寧に扱われていないように感じ、やりとりに対する気持ちがしぼんでしまいます。
具体的には、自分ではオーバーすぎるかなと思うくらいにしっかりうなずき、聴いている姿勢を伝える他に、内容をまとめて伝え返す「要約」という方法があります。
要約のコツ
要約とは、回答者の一連の語りや表現の要点をまとめて伝え返す方法です。回答者の返答が長かったり、複雑なものになったり、話があちこちに飛んでしまうことがあります。その際にはインタビュアーが一連の語りの全体を振り返って、要点を伝え返すことを要約といいます。
要約を伝えることで、回答者は「相手がたしかに聴いてくれている」と安心感が得られるだけでなく、自分の話を他人の言葉で聴きなおすことで、話した内容について改めて考えるきっかけになります。自分で話すときには何気なく発言したことでも、耳で聴いてみると違う印象になり、考えを深めることができます。要約はマーケティング・インタビューに限らず、聞き手として有効な方法なので、日常会話でも使えます。
相手の気持ちを聞き出し実りあるマーケティング・インタビューに
このように、マーケティング・インタビューは質問と回答の受け止め方によって、効果的に回答者の気持ちを深堀りできます。積極的に気持ちを聞き出すマーケティング・インタビューのため、今回ご紹介したポイントを活用してみてはいかがでしょうか。
<参考文献>
上野啓子『マーケティング・インタビュー』東洋経済新報社
『産業カウンセリング 産業カウンセラー養成講座テキストⅠ』一般社団法人 日本産業カウンセラー協会