#3 病院での薬剤採用の舞台裏|Dr.心拍の「製薬本社にちょっと言いたい」
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こんにちは。勤務医として臨床に携わりながら、専門的知見を生かしてさまざまなヘルスケア企業とお仕事をしております、Dr.心拍と申します。普段医療メディアやSNSで発信をしております。臨床医が本音で語る連載シリーズとして、製薬企業の情報提供や、医療現場との関係性について感じていることをお話しさせていただきます。
今回のテーマは、病院での薬剤採用についてです。医師視点で、その採用プロセスっていったいどうなっているの?というところを製薬企業の方も知りたいかもしれません。今回もしっかり本音で語っていきます。
通常新しい薬剤が発売されると、各製薬企業のMRが担当している病院の医師にアポイントを依頼してきます。同時に薬剤部にも訪問することが多いと思います。さらに、説明会を開催し、新規に発売開始となった薬剤について、その効能効果や副作用などを臨床試験のデータを用いて説明してくれるのが一般的です。
我々医師としては、発売されたらすぐにでも採用して処方したいという薬剤は一部に限られると思います。そのため、説明会後、あるいは院内薬剤師さんから「このような薬剤がありますが院内で処方することはありますか?必要でしょうか?」といった相談が来た場合に、じゃあすぐに採用しましょうという決断を下すことはそれほど多くはありません。
そもそも院内採用って誰が決定しているのでしょうか。おそらく最終判断は病院運営側かもしれませんが、その必要性の評価は通常その専門科の科長に委ねられているのではないでしょうか。
現場は、もしその薬剤がガイドラインに記載されるような標準治療薬であれば、積極的に病院運営側に採用を依頼します。例えば、肺癌化学療法において新規作用機序を持つ分子標的治療薬が出たとすれば、肺癌遺伝子変異陽性の患者さんに新たな治療選択肢を提供できるわけですから、当然採用する理由になります。
一方で、喘息吸入薬で同効薬が既に院内採用されているような状況であれば、薬価が下がる、あるいは他に何か大きなメリットがないと採用し難いというのが実情です。
特に院内採用に際しては、その分何かほかの薬剤を削る必要があるというような院内ルールがあったりする施設もあり、そういう視点でも採用には慎重にならざるを得ないです。
それでは、このような採用プロセスと実情を押さえた上で、製薬企業側はどういったアプローチをすればよいのでしょうか。
答えは、きっとこの記事を読んだ製薬企業の方が医師の立場になって考えればイメージできると思います。
この薬剤をどのようなシチュエーションで使用するか、これまでにある薬剤と何が違うのか、処方におけるメリット・デメリット、採用におけるメリット・デメリットも意識して完結に説明しましょう。
せっかくの説明会で時間を取っているのに、長い薬剤資料を棒読みされても眠くなるだけです。資料はあとで見ることもできます。わざわざ時間を割いて説明を聞くのですから、資料を読むだけでは得られない価値を提供していただきたいものです。
やはり、そのためには前回の記事でもお伝えしたように、自社薬剤あるいはその周辺領域の知見を深めておくことでしょうか。なるべく、持ち帰ってまたアポイントをお願いしますとならないようにしましょう。厳しいようですが、自社薬剤に関する質問を投げかけた際に回答を持ち帰ってしまうようなMRであれば、その後のアポイントは受けません。自分で調べます。
さて、今回は薬剤採用の舞台裏と製薬企業のアプローチ方法についてお伝えしました。前回もお伝えした通り、医療はチームで行われるべきですから、患者さんを救う薬剤を届けてくれる製薬企業もその一員であることを常に意識してほしいと思います。ぜひ今後も一緒に、より良い医療を提供するチームの一員として協力していただければと思います。