話題のUXグロースを製薬マーケティングに活用するには?|#5 UXグロースの運用と、新たな課題解決の方法は?

話題のUXグロースを製薬マーケティングに活用するには?|#5 UXグロースの運用と、新たな課題解決の方法は?

UXグロースに取り組み始めたら、それまでとはまた異なる新たな課題が出てきます。ですが、私たちの実務の中で、その課題をどのように扱うのが適切なのか、悩ましい場面も多いです。UXグロースに限らず、製薬業界全体でも一時期話題になったDX(デジタル・トランスフォーメーション)も同様です。「導入したけど、これからどうしたらいいの?」と悩める方の『あるある』の解決策を一緒に見ていきましょう。

UXグロースの運用開始後に起こる課題と改善策

UXグロースを推進していくと、新たな課題が出てきます。

着手前の状況とは異なり、顧客理解が深まった状態でさまざまな打ち手を実行するので、UXグロースの取り組み開始後、ある期間は自社に対する顧客の満足度が高まり、売上も伸びてきます。

ところが、顧客の満足度も売上も定常状態に達する時期がくることがあります。取り組みを開始してから自社が提供するサービスやアプリなどをあまり変化させていない場合、このようなことが起こり得ます。

このような時期を迎える前に、事前に検討しておくべき取り組みの改善があります。

①高速改善型のUXグロース活動

これは、Webサイトや治療アプリ、PSP(Patient Support Program、患者サポートプログラム)のアプリなどで、より適する取り組みです。この取り組みでは、マーケティングやプロモーションの振り返りや、Webサイトやアプリから得られるデータ分析の結果に基づいて、日常的に改善活動を行います。

これらの場合、毎日得られるデータを見ていくと、
「Webサイトやアプリのリリース前に想定していたユーザーの画面遷移とは異なる動作をしている」
「予想外のページでユーザーが離脱してしまっている」
ことなどが容易に把握できます。
これらが分かったら、直ちに改善作業に着手しましょう。

高速改善型のUXグロース活動では、下記の点に留意しましょう。

  • 大原則として、行動データをもとに「ユーザーが想定通り動いたか」「何が私たちの予想外なのか」「その予想外な行動の裏に隠れた原因は何か」を考えていく。
  • 日常的にデータに基づく改善を行い、私たち自身に知見を蓄積させ、継続的に結果を出し続けることを常に意識する。
  • ただし、これらから得られる知見は、あくまでもユーザーの利用状況などのデータから得られる定量調査なので、分かることは限定的であり、ユーザーの行動の変化の背景を理解するのに確証が乏しい。


②抜本改善型のUXグロース活動

こちらは、Webサイトやアプリなどを、その時点での市場や利用者の状況に応じて大幅に改善する取り組みです。

そもそも現在は、製薬業界も含め、多くの業界がWebサイトやアプリをたくさんリリースしていて、顧客も何を選んで良いか、何が自分に最もフィットするのかが分からない、混沌とした状況です。

そのため、Webサイトやアプリは「過疎化」や「コモディティ化」が進んでいる状況です。

1 過疎化

  1. Webサイトやアプリをリリースしたが、当初の想定通りに利用してもらえない
  2. もちろんビジネス成果にもつながらない
  3. 顧客に利用してもらえない明確な理由がわからない
   Ⅰ.Webサイトやアプリのコンセプトが、顧客に受け入れられていない?
   Ⅱ.Webサイトやアプリのコンセプトが、顧客への有益な顧客体験に落ちきっていない?
   (例:インターフェイスがわかりにくい、使いづらい、そのような箇所が多い など)
  4. 結果につながる期待感が持てず、運用コストだけがかさみ、自社ビジネスの中で位置付けが不明瞭になってしまい、サービス打ち切りの可能性をはらんでいる

2 コモディティ化

  1. サービスのコンセプトの真新しさが失われてしまい、新たに登場した競合のサービスに顧客を奪われてしまっている
  2. 広告を出稿して顧客獲得を強化したり、UXグロースの改善活動で結果を出してきたが、その伸びが鈍化してきた
  3. 主なUXの課題を解決してしまっており、UXグロースの改善活動を通じて改善できるユーザーのペインポイントが小さくなっている

これらに対して、どのような手を打つべきなのでしょうか?

UXグロースの過疎化対策

  1. 現在提供しているWebサイトやアプリへのUXリサーチ(第4回参照)を実施し、それらのコンセプトが顧客に最高の顧客体験を提供できているかを、リサーチする
  2. それらのコンセプトが顧客に受け入れられていなければ、下記に応じて打ち手を変える


コンセプトが受け入れられない理由

対応策

顧客がそのサービス、コンセプト、提供価値を必要としていない

コンセプトを抜本的に見直す。

顧客から見た時、競合のサービスの方が圧倒的に受け入れられている

顧客に提供する顧客体験とその価値を、全く違うものに変更する。

顧客はアプリや体験価値を必要としているが、使い勝手が悪い / 顧客に伝わっていない

提供する価値をさらに磨き込む。

この判断を精度高く行うために、顧客が「価値がある」と感じる情報やサービスが何かを①のリサーチ時に確認しておく。

UXグロースのコモディティ化対策

  1. コモディティ化が起こる原因は、「既存サービスのUXグロース改善には注力している一方で、コンセプトレベルでの抜本改善に取り組めていないこと」が多い。そのため、コンセプトを定期的に見直すことをチーム全体であらかじめ認識しておく。
  2. 私たちが提供する価値や顧客体験は大きく変化しないこともあるが、顧客を取り巻く環境や社会、経済状況などは、私たちの意向にかかわらず変化し続ける。そのことを思考の前提に置く。
  3. ②の状況を把握するために、PEST分析も年1回くらいの頻度で、UXグロースに関わる全員が一堂に介して実施する。
  4. そこから見つけた変化のポイントが、私たちの顧客にどのような影響を及ぼすかを深掘りして考える。
  5. ④で検討した顧客が置かれている状況や判断軸が適切かどうかを、UXリサーチで確認する。
  6. その結果を、私たちが提供しているWebサイトやアプリのコンセプトに反映させる。新たなコンセプトに応じて、コンテンツやインターフェイスなども更新する。

UXグロース活動でマーケティングの実効性を高めよう

さいごに、これまで見てきたUXグロース活動の理想的な状況を下記に示します。これらは、私たちがマーケティング活動の中で常に目指している状況ですが、UXグロースでも大きくは変わりません。むしろ、UXグロースによって、私たちのマーケティング活動の実効性が高まります。

売上アップへの貢献

CVR向上

・Webサイトへの流入後の取りこぼし削減、広告効果の向上(顧客獲得費用の最適化)に寄与する

アクティブユーザー数向上

・アプリのダウンロード後、休眠するユーザー数を減らし、再購入意向を高める

・Webサイトへのアクセス後、他のページへの遷移と閲覧でクロスセル効果を高める

リピート率向上・解約率低下

・トライアルでアプリやWebサイトから離脱するユーザー数を減らす

・アプリなら、継続的なデータの蓄積を加速させ、私たちの顧客理解、市場理解がより迅速になる

・これらのことから、市場の新たなインサイトをいち早く把握でき、迅速なマーケティングプランの策定と実施が可能になる

コスト削減への貢献

コスト削減

・コールセンターへの問い合わせが減り、コストが削減できる

ここまでご紹介してきたUXグロース活動を通じて、医師や患者さんに最高の顧客体験を提供することで、私たちもビジネスで大いに結果を出し続けていきましょう。

参考文献
藤井保文 小城崇 佐藤駿, 日経BP, 2021,『UXグロースモデル』