セミナーレポート/医師ターゲティング3.0:データ活用が切り拓くKOLマッピングの新展開
2023年4月に開催された、国内最大級のデジタル/IT×製薬業界をつなぐイベント「ファーマIT&デジタルヘルス エキスポ 2023」。本記事では、製薬企業における医師ターゲティングの実態や課題をふまえ、データ活用によるターゲティングの効果最大化の方法について紹介した株式会社医薬情報ネットの笹木雄剛による講演内容をレポートします。
- 対象薬剤の処方適正化のためのファーストステップである「医師ターゲティング」
- 製薬ビジネスにおける医師ターゲティングの実態と課題
- データ活用が広く浸透する一方、客観性や選定基準に課題
- 医師ターゲティングの課題は「情報源」「選定基準」「社内リソース」に大別される
- 医師ターゲティングの課題解決へのアプローチ
- 3つの課題を解決するためのそれぞれの対応策
- データの客観性と鮮度を高めて効果を最大化する
- 医師ターゲティングに活用できるデータの種類と、分析指標設定の重要性
- ターゲティングの進め方
- 1. 目的に応じて適切なデータセットを整備
- 2. 対象疾患・領域で学術実績のある医師の抽出・ロングリスト化
- 3. 誰でもできるスクリーニング手法の確立
- 医薬情報ネットが提供するデータベースサービス
- データドリブンな医師ターゲティングを実現する学会情報/論文情報データベース
- 医師のリサーチを効率化する「Doctorna」
- 客観的・網羅的なデータと効率的な分析で医師ターゲティング「3.0」へ
対象薬剤の処方適正化のためのファーストステップである「医師ターゲティング」
製薬企業は各社、マーケティング・メディカル・プロモーションといったさまざまな視点から医師ターゲティングを実施しています。医師ターゲティングの最終的な目的は「対象薬剤の処方適正化の実現」であり、影響力が高い医師(KOL:Key Opinion Leader)を選定し関係構築を図ります。
「どの医師に情報提供するか?」「どの医師とコミュニケーションを取り、対象薬剤の処方適正化を進めていくか?」という問いが生まれた時、医師ターゲティングがその後展開するマーケティングやメディカル活動、販売促進のための重要なファーストステップとなります。
最初のKOL選定後も、プロダクトライフサイクルの状況に応じてKOLの見直しや入れ替えを定期的に行っていく必要があります。また、医師の分析はエリアの絞り込み、次世代KOLの発掘、医師同士の関係性や専門性の把握など、さまざまな軸で進めます。こうした一連の分析を経てMRやデジタルチャネルからのアプローチを進め、対象薬剤の処方適正化に繋げていくことが、医師ターゲティングの位置付けです。
製薬ビジネスにおける医師ターゲティングの実態と課題
それでは、現在各社はどのように医師ターゲティングを行い、どのような壁を感じているのでしょうか。医薬情報ネットの運営するWebメディア「Medinew」で製薬企業や医療機器メーカーに勤務する読者を対象に実施した「製薬企業のデジタル&データ活用実態調査」の結果をもとに、製薬企業における医師ターゲティングへのデータ活用の実態について紹介がありました。
データ活用が広く浸透する一方、客観性や選定基準に課題
「あなたの所属する部署において、どのような目的でデータを活用していますか?」という問いに対し、「医師や施設のターゲティング(KOL抽出、若手医師の発掘など)にデータを使っている」と回答したのは約83%、「医師同士の関係性・ネットワークの分析」と回答したのは約27%と、医師ターゲティングにおけるデータ活用は進んでいることが示されました。
一方で、医師ターゲティングにおいて感じている課題として「客観的な情報に基づいたターゲティングができていない」「医師ターゲティングの手法が属人的」「医師ターゲティングの手法が会社で統一されていない」と、客観性や選定基準に課題を感じている現状がうかがえました。
医師ターゲティングの課題は「情報源」「選定基準」「社内リソース」に大別される
実際に、医薬情報ネットには以下のような相談が寄せられると言います。
- ターゲット医師リストは持っているが、属人的な視点が盛り込まれて客観性に欠けている
- 担当者が辞めてしまい、どういう視点でこの分析が行われたのか全くわからない
- 新規領域に参入する際、人的リソースが足りずKOLのリストアップが進まない
- 本格的なターゲティング活動は承認後が中心で、スタートダッシュが切れない
長年この事業を展開している立場から、これまで蓄積された担当者の悩みごとを分析したところ、医師ターゲティングにおける課題は「情報源」「選定基準」「社内リソース」の3種類に分類できることが明らかになりました。
医師ターゲティングの課題解決へのアプローチ
「課題が明らかになれば、あとはそれを裏返して対応していくだけ」と、ここから課題への解決策について解説がありました。
3つの課題を解決するためのそれぞれの対応策
情報源の課題に対しては「客観的かつ網羅的なデータ収集」を、選定基準に対しては「明確な指標でスコアリング・リスト化」を、社内リソースに対しては「誰でもできるスクリーニング手法の確立」を、この流れに沿ってそれぞれ対応していくことで、課題は解決できます。
このとき、特に重視すべきなのは最初のデータ収集のフェーズだと笹木は言います。最初のデータに不備があれば、その後どんなに優れた選定基準や社内共有フローを構築しても、効果的なターゲティングは困難となるためです。
データの客観性と鮮度を高めて効果を最大化する
データをうまく活用できれば、医師ターゲティングの手法自体が進歩します。効果を最大化するためには、データの客観性と鮮度を高めて医師ターゲティング「1.0」から「3.0」へとレベルアップさせるアプローチが求められます。
過去の経験や個人的なつながり・知見を重視したターゲット選定は「1.0」に分類されます。人間関係や現場の情報をもとにしたターゲティングは重要であるものの、これだけでは客観性に欠けます。
そこで次の段階である「2.0」にステップアップさせるためには、定量・定性データ、FACTを重視したターゲット選定により、バイアスを排除し客観性を高めることが重要です。
そこからさらに「3.0」に到達させるためには、データの分析レベルを上げ、高度かつ迅速な分析によるターゲット選定を目指します。ビジネスのスピードが加速する昨今では、情報の客観性に加え、豊富なデータを早く分析することが何にも勝る強みとなります。
医師ターゲティングに活用できるデータの種類と、分析指標設定の重要性
「3.0」を目指す上で、ベースとなるのはやはりデータであると笹木は強調します。利用できるデータが限られている製薬業界で、活用できるデータの代表例としては以下が挙げられます。
そして「各データをどう評価するか」で戦略は大きく変化します。例えば学会発表情報でいえば、第一演者や座長、共同演者、企業セミナーをどの程度経験しているかといったデータを収集しても、第一演者経験数を重視するか、座長経験数を重視するかなど、目的によって異なる視点があり分析する上での指標はさまざまです。医薬情報ネットでは、顧客の目的に応じて何を指標として評価していくべきかをコンサルティングしながら決定しています。
ターゲティングの進め方
それでは、実際にそれらのデータを使ってどのようにターゲティングしていくのでしょうか。進め方の流れと、各フェーズのポイント解説がなされました。
1. 目的に応じて適切なデータセットを整備
まずは、「適切な」データセットを収集・整備します。集めたデータの中に無関係な領域や疾患のデータが混ざっていると、ノイズになり精度の高い分析は叶いません。どんなデータを、どんなデータソースから、どのくらいの範囲で収集するかは最初に明確に定義しておく必要があります。
また、名寄せ作業※も不可欠です。全国30万人超の医師の中から同姓・同名人物を区別できなければ正しいデータにはならないため、医薬情報ネットでは力を入れて対策しています。
※複数に分散されているデータベースの同一人物に、同じIDを付与するなどしてデータを統合・管理する作業
2. 対象疾患・領域で学術実績のある医師の抽出・ロングリスト化
データが整ったら、対象疾患・領域で学術実績のある医師を抽出し、ロングリスト化します。さらに、著者経験や獲得研究資金といった明確な指標をもとに重みづけを行い、ランキング化します。
例えば、第一著者経験数が多い医師のランキングを作れば、論文執筆経験豊富な医師が誰から見ても一目瞭然であるように、明確な指標のもとでスコアリングを行うことで、説得力のあるロングリストが成立します。
3. 誰でもできるスクリーニング手法の確立
スコアリングとロングリスト化が済んだら、スクリーニングを行います。「最重要医師を選定したい」というニーズがあれば学会役員やガイドラインメンバーのフラグを付与したり、「地域のKOLを選定したい」であれば所属施設や都道府県情報を付与したりなど、多様な軸でスクリーニングを行い、マーケティング活動に活用します。
この手法を社内で確立し、リスト自体を引き継いでいけば、誰でも目的に応じた医師の抽出が可能です。そうすると、ターゲティング手法や結果が資産として社内に残ります。
医薬情報ネットが提供するデータベースサービス
医薬情報ネットでは、医師ターゲティングに役立つ以下のデータベースサービスを提供しています。
データドリブンな医師ターゲティングを実現する学会情報/論文情報データベース
「学会情報データベース」は、日本国内で開催される年間1,400ほどの医学系学会の抄録集やプログラムなどの情報をデータベース化したものです。学会事務局から直接収集し、オペレーターの入力・確認作業を介してテキストデータに変換しているため、データ構造化の精度が高いことが特長です。
2014年以降の国内主要学会はほぼ網羅している日本最大級のデータベースであり、口頭発表以外にも、ポスター発表、スポンサードセミナーなどあらゆる演題が含まれます。また、主要海外学会にも対応しています。
「論文情報データベース」は、日本人医師が英語で執筆した論文に関する情報をMEDLINE®から抽出したデータベースであり、論文タイトル、著者名、著者順、書誌事項などをデータベース化しています。
MEDLINE®から直接情報を入手するため網羅性が高く、英語の人物名から日本人医師を判別し人物コードを付与することに成功しているため、社内システム・データとの連携が可能です。
学会情報データベースと論文情報データベースの連携も可能であり、2つを組み合わせることにより、対象領域の学術活動ベースでターゲットとなる医師を漏れなくピックアップできます。「臨床を重視しているため執筆やレビュー対応などの時間がない」「希少疾患で症例数の少なさから論文化が難しい」といったケースにおいて、論文発表数は少ないものの学会発表数は多いという医師もいるためです。
医師のリサーチを効率化する「Doctorna」
医師ターゲティングを「3.0」に進めていくためには、分析のスピードを早める必要があります。
もし、1カ月早くターゲットがわかれば、その分早く売り上げが立ち、利益も増えます。逆に時間がかかってしまうと、ランニングコストが嵩み、利益が圧迫されてしまいます。その課題を解決する仕組みとして、医薬情報ネットでは「Doctorna(ドクターナ)」を開発。疾患名や症状などのキーワードから医師別に学会・論文情報を集計し、独自のランキングを生成できるクラウドサービスにより、医師ターゲティングの効率化をサポートしています。
Doctorna製品サービスページ
https://lp.doctorna.jp/