訪問に頼らず処方を伸ばす、デジタルを活用した製薬企業の次世代プロモーション戦略/MDMD2024Autumnレポート
2024年9月に開催された製薬マーケティングイベント「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Autumn」。株式会社シャペロン 執行役員 事業開発責任者 原口 剛嘉氏の講演「訪問に頼らず処方を伸ばす、次世代のプロモーション戦略 -MR減少 × 働き方改革 × AI-」では、製薬企業のプロモーションを取り巻く環境変化とそれに起因する3つの対立構造、この状況に対応する次世代のプロモーション戦略について紹介がありました。
医師のデジタルシフト vs 対面重視の現場
製薬企業における「MRの減少」、医療従事者に影響の大きい「医師の働き方改革」の施行、技術的な側面での「生成AIの進歩」など、製薬業界を取り巻く環境は、日々大きく変化しています。
製薬業界の変化を考える上で、まず原口氏が指摘するのは「医師のデジタルシフト」と「対面重視の現場」という対立構造です。医師が情報収集の手段をデジタル化していく傾向にある中で、まだまだ現場では直接医師と会って話すことを重要視する声も聞かれます。
もちろん、デジタルと対面の情報提供がどちらも重要であることは確かです。しかし、それぞれのバランスをどのように考えていくべきなのでしょうか。
デジタルチャネルでの案内で講演会視聴率アップ
シャペロンは、MR向けのメールプロモーションサービスを提供しています。そのサービスの成果を見てみると、対面のみでWeb講演会に案内した場合よりも、対面+メールの両方で案内した場合の方が、視聴数は2~4倍まで増加するといいます。
さらに、医師へのメール送信頻度が多い場合は、少ない場合に比べて平均面会数が8割もアップ。「対面かデジタルか」ではなく「デジタルを効果的に活用することで、対面機会も増やすことができる」というマインドチェンジが必要になってきます。
処方インパクトにおいてもデジタルはその効率性の高さが強み
同社の分析によると、デジタルの情報提供の頻度を増やすことと、リアルの訪問頻度を増やすこと、どちらにも処方を増加させる効果が期待できるといいます。一方で、1コールにかかる時間を鑑みると、効率性の面ではデジタルの情報提供に軍配が上がります。
もちろん、同社の分析は対面での情報提供の効果を否定するものではありません。しかし、これからの情報提供のあり方を考える上では、効率性・インパクト・医師のチャネル嗜好性など、さまざまな観点を踏まえて、医師のセグメントごとに最適な対面・デジタル比率を見つけていく必要があるといえます。
現場MRのDX化 vs リモートMRの活用
次に原口氏が指摘するのは、今後のMRのあり方についてです。現場のMRに裁量を持たせて、MRを強くしていくという考え方がある一方で、MRの機能を本社で巻き取ってリモートで情報提供するという潮流も強まっています。
MRの数は年々減少しており、2023年のMR数は4.7万人弱となりました1)。
それでも、日本における医師に対してのMRの数は医師100人当たり14人※であり、欧米(アメリカ:8人、フランス:4人、イギリス:2人)に比べて依然数倍も多い2)ことから、このMR数の減少傾向はまだまだ続くのではないかと原口氏は予想しています。
※MR数約4.7万人、医師数約34万人3)をもとに計算
デジタルチャネルとMR、それぞれの得意領域と苦手な領域
MCI DIGIRALの調査(2021年10月)によると、デジタルチャネルが得意なのは、疾患・薬剤情報を効率的に提供すること。一方で、新規処方に大きな影響を与えるのは、MRとの面談(対面・Web面談)の力が大きいという結果になりました。
デジタルチャネルの勢いが増しているとはいえ、新規処方における影響力を考えると、MRの右に出るチャネルはいまだ登場していません。
MRと共存するeMR
そこで近年注目を集めるのは、デジタルによる情報提供を専門とするリモートMR、すなわち「eMR」です。原口氏によると、eMRは大きく3つのパターンに分けられるといいます。
- リアクティブ:問い合わせに適切に対応する。
- ナーチャリング:処方意向の向上や、MR面談の創出を目指す。
- クロージング:MRと並行してeMR単独でも処方を獲得する。
この中でも、特に近年増えており、数が多いのは「ナーチャリング」タイプのeMRです。また、一部「クロージング」タイプのeMRも増加しており、MRを支えるかたちで、あるいは並行してeMRが活躍するようになってきました。
MRとeMR、そしてeMRの中でも「ナーチャリング」と「クロージング」といったタイプごとに対応範囲を整理し、それぞれに適したKPIを設定していく必要があるでしょう。
無限に膨らむ施策 vs 限定的なリソース(予算・人)
情報提供のチャネルがどんどん増加し、製薬企業側が考えるべき施策は無限に広がっていきます。一方で、マーケティングに使える予算や人員といったリソースには限りがあります。
この問題を解決するには、最新のAI技術を用いて自動化できる業務の棚卸を行い、貴重なリソースを有効活用することが重要です。
シャペロンではAIを用いたプロモーションサイクルの自動化に取り組んでおり、その一例として、AIを活用したコンプライアンスチェックの新サービス「モニタリングAI」が紹介されました。
<新サービス「モニタリングAI」でできること>
- メール、日報/コールレポートなどの一次チェックをAIが行い、コンプライアンス上のリスクがあるとAIが評価したものだけを人間が最終チェックする仕組みを構築
- 約99%の精度で逸脱事例を判定でき、コンプライアンスチェックの工数を約98%削減可能
- 教師データの作成やメンテナンスは不要
- リスクありの場合、(点数ではなく)リスク判定理由が出力されるので、人間が最終判断する時もチェック観点が明確
MRの減少や医師の働き方改革、情報提供チャネルの増加といった潮流の中で、製薬企業には今までより一層、効率的なリソース活用が求められています。デジタルツール、外部リソース、そしてAIなどを上手く活用しながら、デジタルで自動化する領域と、リアルなリソースを投入する領域を見極めるなど、選択と集中を行う必要があると言えるでしょう。
出典 ※最終閲覧日2024.10.3
1) 公益財団法人 MR認定センター, 2024年7月, 2024年版 MR白書 -MRの実態および教育研修の調査-(https://www.mre.or.jp/files/co/page/attachment221201/mre_info/Investigation/whitepaper/2024/2024hakusyo31.pdf)
2) ライズコンサルティンググループ, 2023.10.23, 製薬企業における今後のプロモーション体制のあるべき姿とは?(前編) (https://www.rise-cg.co.jp/digital-site/insight/health-care_3/)
3) 厚生労働省, 2024. 3. 19, 令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/22/dl/R04_1gaikyo.pdf)