医師への情報提供を個別化・効率化する、紙資材の活用ポイントとその事例/MDMD2024Autumnレポート
多くの企業がデジタルチャネルの活用に力を入れる中、MRや紙資材といったオフラインのチャネルはどのような役割を果たし、医師と製薬企業にとってどのような効果をもたらすのでしょうか。Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Autumnでのラクスル株式会社の講演では、ラクスル事業本部エンタープライズ事業部の太田百香氏が登壇し、具体的な事例を交えつつ、オフラインチャネルを活用するためのポイントを紹介しました。
少数精鋭でタッチポイント・カバレッジの拡大が求められる現代の製薬マーケティング
医薬品自体の複雑化、医師のニーズの個別化が進む中、2013年以降はMR数が減少傾向を見せており、MR一人当たりの業務負荷が増加しています。また、2024年4月より医師の働き方改革が施行され、コロナ禍が明けた後も医師との接点が取りづらい状況が継続。そのため太田氏は、「少数精鋭の体制で、医師ニーズの収集と利活用、および医師とのタッチポイントの構築と拡大をしていくことが、製薬企業に求められるようになっている」と話します。
デジタルチャネルの課題をオフラインチャネルがカバー
コロナ禍以降、製薬マーケティングでは、オンラインとオフラインの複数チャネルをまたいだカスタマージャーニーが一般的になりつつあります。特にデジタルマーケティングでは、ログの活用やモジュラーコンテンツの作成などを通して、医師の個別ニーズに対応した情報を効率的に発信できる仕組みが整ってきています。
しかし太田氏は、Web上の競争率が高まることでデジタルコンテンツが読まれなくなってきていること、デジタルではリーチできないセグメントが依然として存在することを指摘。このようなオンラインチャネルの課題を補い得るのが、オフラインチャネル、特に紙資材です。
紙資材もひとつのマーケティングチャネルとして、医師の状況に応じて使い分けることが可能です。例えば、デジタルの嗜好性が低い医師には、個別ニーズに合わせた郵送物を送り反応をうかがうような施策を実施。ほぼ面識のない・接点がない医師には一斉に郵送を行い、低コストでリーチの拡大を図るといった施策が考えられます。
オフラインチャネルも医師のニーズや嗜好性による使い分けが重要
デジタルを含むオンラインチャネルと、MRや紙資材をはじめとするオフラインチャネルはどのように使い分けるべきなのでしょうか。また、その使い分けに当たっては、どのような課題があるのでしょうか。
太田氏は、富士製薬工業株式会社 営業企画部 企画推進グループの國澤朋弘氏をゲストに迎えたパネルディスカッション動画を紹介。國澤氏は、なかなか会えない医師への継続的なコンタクトのために、自社製品を処方する全ての医師に広く情報提供するために、そして期日の早い情報をすばやく届けるためにオンラインを活用すると話します。
一方で、全ての医師がオンラインコミュニケーションをメインとしているわけではありません。コロナ禍の影響で一部のコミュニケーションはオンラインに移行したものの、オフラインを好むという医師も存在します。
オンラインとオフラインを使い分けるためには、それぞれの特性を知っておかなければなりません。
例えば、オンラインへの感度が高い医師であればオンラインコミュニケーションによるデータを本社側で確認できますが、オンラインへの反応がない医師については本社側でデータを取得することはできず、医師が求めている情報を探ることができません。このようなケースでは、MRが医師と対話することで、医師個人の詳細なニーズを引き出せます。
しかし、多くの製薬企業ではMRを減らしていく動きが継続しており、オフラインチャネルとしてMRが重要でありながらも、MRのリソースを増加させることは現実的ではないという、困難な課題があることが、パネルディスカッションの中で浮き彫りになりました。
紙資材が持つ医師目線、製薬企業目線の効果と課題
ここで太田氏は、MRと同様に活用できるオフラインチャネルとして、紙資材を挙げます。
DMや案内状といった紙資材の開封率は70%と高く、保持性の高さや情報の視認性の良さなどがメリットです。
製薬企業にとっても紙資材はメリットがあります。例えば、紙資材があることにより「自分の説明を医師に書き込んでもらえる」「面談後でも医師が見直してくれる」などの効果をMRやMSLが感じているといったコメントが製薬企業から寄せられています。このことから、製薬企業にとっては、紙資材は認知を促すためのツールとしてだけではなく、情報の理解促進のツールとしても役割を果たしていると考えられます。
一方、紙資材には、効果の見えにくさやオペレーションの煩雑さ、コストの高さといった課題もあります。そのため、効果を可視化した上で医師の個別ニーズに合った情報を効率よく届けられるような仕組みづくりが重要だと、太田氏は強調します。
紙資材を活用し、個別的な情報を効率的に発信
太田氏は、紙資材をはじめとするオフラインチャネルで目指すべき方向性を2つ挙げ、それぞれに関して具体例を交えて説明しました。
医師のニーズやインサイト情報が取れる環境づくり
医師の個別ニーズに合った情報を提供するためには、まず各医師のニーズを知らなくてはなりません。そのためには、医師の郵送物に対する反応を分析したり、MRのプロモーション活動を充実させたりするという方策が考えられます。
郵送物への反応を分析
紙資材を郵送後、どのような医師がどのようなコンテンツにどのように反応したかを分析する方策です。ラクスルの提供するバリアブルQRコード印刷を活用すれば、医師ごとに異なるQRコードを発行して印刷し、どの医師がどのコンテンツを読んだかを検証することができます。
<事例>
ある製薬企業は、デジタルチャネルやMRとの接点がない医師に情報提供する手段がなく、オウンドサイトへの登録数が伸び悩んでいるという課題を抱えていました。そこで、セミナー案内のDMやオウンドサイトへの登録を促す紙コンテンツを郵送し、送り先ごとのコンテンツQRコード読み取り履歴を分析。その結果、どのような属性の医師がどのようなコンテンツに反応しているかを可視化できた上、全ターゲットの約1%から反応が得られ、セミナー集客やオウンドサイト登録が進みました。
MRのプロモーション活動の促進
MRのノンコアタスクを巻き取ることで、MRが医師とのコミュニケーションを深め、ニーズや嗜好性を引き出せるようにする施策です。
<事例1>
医薬品の適応拡大をきっかけに、新規疾患領域の医師へのアプローチを図りたいものの、MRのリソースが不足していたある製薬企業は、対象医師にセミナー案内を郵送することで集客を試みました。結果的には、MR経由でなかったにもかかわらず対象医師の約2%の医師を集客できた上、オンライン上の集客との被りも2名にとどまり、オフラインでしかリーチできない層に情報を届けることができました。
<事例2>
Web講演会の回数が増えたことで、MRが案内状発送業務に費やす時間も増えてしまったある製薬企業は、各MRがラクスル上で印刷から発送まで一貫して依頼できるような仕組みを構築しました。DM発送にかかる時間を大幅に削減できたことで、MRがプロモーション活動に専念しやすくなりました。
医師に対して個別的で多様な情報を効率的に提供できる環境づくり
デジタルチャネルと同様、医師の個別ニーズに沿った多様な情報を提供することで、医師の反応を高めます。紙資材については、小ロットで迅速なオンデマンド印刷が有効な方策です。
<事例>
ある製薬企業は、新薬承認時や適応追加時、それをフックとして迅速にプロモーション活動を始めたいにもかかわらず、資材が手元に届くのに1、2週間かかることに悩んでいました。コンビニや複合機印刷は、ページ数も多い上に製本化できないため、現実的な代替手段とはなり得ません。そこで、ラクスルの印刷代行サービスを利用して数クリックで資材調達が可能な自社資材専用発注サイトを構築し、2、3日で資材が届くようにしたところ、医師のニーズが高い時期を逃さずに情報提供できるようになりました。
ゆくゆくは、情報が利活用できる“ワンクリックDM”に
オフラインチャネルでも、デジタルチャネルと同様、PDCAが回るような設計をしていくことが大切だと語る太田氏。最終的には、デジタルチャネルと同様、効果をダッシュボードで可視化したり、CRMと連携したりといった、情報の利活用が可能な“ワンクリックDM”が実現するはずだと言います。太田氏は、「オフラインチャネル、そして紙資材の可能性を再考する機会になれば幸いです」と講演を締めくくりました。