紙資材の個別化戦略で、漏れなく効率的な情報提供を実現/MDMD2024Summerレポート

紙資材の個別化戦略で、漏れなく効率的な情報提供を実現/MDMD2024Summerレポート

2024年6月5日に開催された「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Summer」。セッション「製薬企業のリアルな声から紐解くデジタルと紙の共存戦略」では、ネット印刷サービスを手がけるラクスル株式会社の平光竜輔氏が登壇しました。本セッションで語られた、製薬マーケティングにおけるオンラインチャネルとオフラインチャネルの使い分けや、オフラインチャネルにおける紙資材の効果的な活用方法についてご紹介します。

今の製薬マーケティングに求められるのは、限られた人的リソースで、より多くの医師をカバーすること      

はじめに平光氏は、製薬マーケティングにおけるオンラインチャネルとオフラインチャネルの立ち位置を明らかにするため、製薬マーケティングにおける現状と課題の全体像に触れました。

MRによる営業活動の現状と課題

医師の働き方改革により、製薬企業にとっては医師との接点確保が難しくなる中、MRの数は2013年ごろから減少傾向にあり、MR1人あたりの担当医師は増加しています。また、医薬品の情報提供はより個別化・多様化を求められるようになってきており、以前より複雑化してきました。平光氏は、この現状における課題を、「限られた人的リソースで、タッチポイントの構築と拡大、多様化する情報ニーズへの対応が必要になっている」と表現します。

取るべき戦略とその課題
2024.6.5 ラクスル(株)『製薬企業のリアルな声から紐解く デジタルと紙の共存戦略』資料より抜粋

デジタルマーケティングの現状と課題

製薬企業のマーケティングにおいては、医師の医薬品の採用に至るまでのジャーニーに沿って、オムニチャネルの最適化が進んできました。中でもデジタルチャネルの活用は大きく進み、3rd partyなどでの双方向コミュニケーションの強化やCRMとの情報連携の結果、医師の個別ニーズに対応した効率的な情報発信が可能になりつつあります。

一方、デジタルチャネルには課題もあると、平光氏は指摘します。Web上の競争率が高まり、配信コンテンツが読まれなくなってきている他、デジタル非アクティブな医師にはリーチできず、カバレッジに限界があるのです。そこで、このような課題に対処するため、オフラインチャネルである紙資材の郵送施策を活用している企業も多いと平光氏は語ります。

デジタル非アクティブ層への紙資材郵送施策
2024.6.5 ラクスル(株)『製薬企業のリアルな声から紐解く デジタルと紙の共存戦略』資料より抜粋

必要な医師に必要な分だけ情報提供することで、オフラインチャネルのメリットを最大化

オフラインチャネルの中でも紙資材はどのような役割を果たしているのでしょうか。平光氏は、富士製薬工業株式会社の國澤朋弘氏をゲストに迎えたパネルディスカッションをもとに、ポイントを提示しました。

オンラインとオフラインは受容度で使い分け

平光氏はまず、オンラインとオフラインのチャネル活用状況について、國澤氏に質問。國澤氏は、コロナ禍を機にリモート面談やeディテールといったオンラインチャネルの利用が進み、コロナ禍が明けた後も、対面で会えない医師への情報提供や幅広い医師に対する情報周知、緊急度の高い情報伝達の場面でオンラインチャネルを活用していると回答しました。

國澤氏によれば、オンラインとオフラインで、役割に違いはないとのこと。ただし、オフラインの情報提供を求める医師もいれば、オンライン対応で十分だと感じる医師もいるため、医師のデジタル受容度によって使い分けているといいます。

MR以外の手段を引き続き活用する一方で、紙資材の利用はニーズに応じて効率化していく

今後のプロモーション活動について平光氏から問われた國澤氏は「製薬企業として医師の働き方改革を後押しするためにも、医師の求めている情報を個別に提供していくことが大切」と語りました。ただ、それぞれの医師の属性やニーズを見極めるには、MRによる対話での情報収集が欠かせず、そのMRのリソースは限られていることにも言及。そのため、eディテールなどの他の手段を引き続き活用していくといいます。

一方、紙資材の利用については、一定のニーズがあるため今後も継続するものの、なるべく減らしていく方向性であると、國澤氏は明らかにしました。現在のオフラインチャネルは、各医師の嗜好性に合わせるというよりは、漏れなく全体的に発信する方向性であるため、費用対効果やSDGsなどの観点から、今後は個別のニーズに応じて必要な分を配布できる体制を構築していく必要があるといいます。

紙資材の課題とメリット

國澤氏の話を受け、平光氏は製薬企業におけるマーケティング担当者やMRへのヒアリングをもとに、紙資材の課題とメリットを整理しました。

まず、課題としては、印刷コストや業務コスト、管理の煩雑さ、費用対効果を算出したり、PDCAを回したりする難しさなどが挙げられます。

マルチチャネルの1つとしての紙資材の効果「製薬企業目線」
2024.6.5 ラクスル(株)『製薬企業のリアルな声から紐解く デジタルと紙の共存戦略』資料より抜粋

一方、医師にとって追加情報を書きやすく、見直しやすいことは、大きなメリットといえます。ラクスル社が行なった調査によれば、医師の紙資材の開封率は7割というデータもあり、メールよりも情報が埋もれにくいこと、院内に掲示できることなどにメリットを感じている医師もいるとのことです。

以上から、紙資材の課題を克服しつつ、メリットを最大化するには、大量印刷・大量配布する形から、ニーズのある医師に必要な分だけ印刷して配布する形へと変化させることが重要だと、平光氏は強調します。

オフラインチャネルでも、情報の利活用でPDCAを回す

平光氏は、オフラインチャネルで目指すべき方向性として、2つのポイントを挙げました。

  • 医師のニーズやインサイト情報が取れる
  • 医師に対して個別的で多様な情報を効率的に提供できる


1つ目の「医師のニーズやインサイト情報が取れる」環境にするための解決策としては、郵送物への反応をデータとして取得することが重要だと主張します。

郵送物の反応を分析するには、ラクスルの提供するバリアブルQRコード印刷が活用できると平光氏。医師ごとに異なるQRコードを発行し、どの医師がいつどのコンテンツを読んだかというデータを蓄積でき、セグメントごとの訴求価値や訴求方法を検証しやすくなる他、個人ごとの反響分析も可能となります。これにより、セグメントや個人の歩留まりを分析し、PDCAを回すことが大切だと、平光氏は語ります。

2つ目の「医師に対して個別的で多様な情報を効率的に提供できる」環境の構築については、平光氏は、フレキシブルな紙資材提供に有効なサービスとして、ラクスルのネット印刷サービスを紹介しました。印刷から封入、発送までの工程を一気通貫で代行するもので、小ロットの案件もクイックに対応。もともとMRが同業務を担当していた企業では、大幅な業務効率化を実現できたという事例もあるといいます。  

将来的には紙資材を中心としたオフラインチャネルも、現在のオンラインチャネルと同様、ダッシュボード上での効果の可視化やCRMとのAPI連携、ターゲットの精緻な行動分析などを通じて、情報の利活用が可能になっていくはずだと、平光氏は述べました。

紙資材を活用したオフラインチャネルの未来図
2024.6.5 ラクスル(株)『製薬企業のリアルな声から紐解く デジタルと紙の共存戦略』資料より抜粋

オフラインチャネルでも、個別化がポイント

最後に平光氏が改めて強調したのは、「オフラインチャネルでも、個別化する情報ニーズを把握し、対応していくことが必要」というメッセージでした。コロナ禍を機にオンラインチャネルが重視されるようになったとはいえ、依然として紙資材を含めたオフラインチャネルの需要はあり、その効果を最大化するためには情報発信の個別化が欠かせません。平光氏は、「本講演が、オフラインチャネルの見直しや新たな施策の立案の一助となれば幸いです」と講演を締めくくりました。