疾患啓発サイトに病院検索サービスを連携させ、患者の受診促進を強化/MDMD2024Summerレポート

疾患啓発サイトに病院検索サービスを連携させ、患者の受診促進を強化/MDMD2024Summerレポート

医療・製薬業界で「ペイシェントセントリシティ」の重要性が説かれる今、製薬企業による疾患啓発(DTC)の設計を見直す動きが増えてきています。2024年6月に開催されたMedinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Summerで株式会社メディウィルの城間波留人氏が登壇したセッションでは、「病院検索サービス」を活用した疾患啓発について、事例を交えながら提案がなされました。本記事では、インターネット上のペイシェントジャーニーに添った患者の受診促進につながる疾患啓発の設計や、その事例についてまとめます。

疾患啓発を行う上で注目すべきは「インターネット上のペイシェントジャーニー」

患者向けの疾患啓発(DTC)は、患者を適切な医療へとつなぐためにも、製薬マーケティングにとっても重要です。疾患啓発施策には医療施設での疾患啓発ポスターの掲示やパンフレット設置などの手段がある中で、メディウィルは「インターネット上のペイシェントジャーニーに添った疾患啓発」に着目します。
※メディウィルでは、ペイシェントジャーニーにまつわる活動のなかで患者の心にも寄り添いたいという思いを込めて、「沿う」ではなく「添う」の漢字を使用

その背景には、ほとんどの患者が健康や医療に関わる情報を収集する手段としてインターネット検索を用いているという事実があります。総務省の「平成27年版 情報通信白書」によると、健康や医療について調べたいことがある場合、約76%がインターネット検索を行っていることがわかります。また、メディケア生命による「病院選び・医者選びに関する調査2019」では、病院や医師を選ぶ際に家族や知人の評判を参考にしている人は減っている一方、病院のホームページや病院検索サイトを参考にしている人は増えていることが示されています。そのため、潜在患者を受診につなげるためには、インターネットを活用したマーケティングが重要だといえます。   

疾患啓発デジタルマーケティングの設計ポイント

インターネット上のペイシェントジャーニー
2024.6.5(株)メディウィル『ペーシェントジャーニーに添った「いしゃまち病院検索サービス」を 活用した疾患啓発事例紹介』資料より抜粋

では、具体的にはどのような施策を講じればよいのでしょうか。ここで着目すべきは、「インターネット上のペイシェントジャーニー」です。潜在患者はインターネット上で「疾患情報の認知」→「受診への行動変容」→「病院情報の収集」→「受診」というプロセスをたどります。最終的に受診患者数を増加させるためには、インターネット上のペイシェントジャーニーの各プロセスで、離脱という「漏れ」をなくすことが重要です。
 
まず、受診意欲を高めるような疾患啓発サイトを設計し、広告やSEO対策などを適切に実施し、疾患啓発サイトに集客することが大切です。しかし、たとえ潜在患者が疾患啓発サイトにたどり着き受診意欲が高まったとしても、適切な医療機関が見つからなければ受診に至らない可能性が高いでしょう。ここで、疾患啓発サイトに「病院情報の収集」が可能な病院検索サービスを設置することが大きな意味を持つと、城間氏は強調します。

病院検索サービスを組み合わせ、未受診患者にアプローチした事例

インターネット上のペイシェントジャーニーをたどる潜在患者の離脱をできるだけ減らし病院受診につなげるために、メディウィルでは病院検索サービス「いしゃまち病院検索」を提供しています。潜在患者を適切な治療につなげるためには、疾患啓発サイトにただ病院検索サービスを設置するだけではなく、サイトへの導線の整備や、潜在患者の行動変容を促せるようなサイトそのものの設計など、多方面からの施策が必要です。

ペイシェントジャーニーに添った設計
2024.6.5(株)メディウィル『ペーシェントジャーニーに添った「いしゃまち病院検索サービス」を 活用した疾患啓発事例紹介』資料より抜粋

ここからは、本講演で紹介された「いしゃまち病院検索」の活用事例を抜粋して紹介します。

希少疾患の潜在患者を受診につなげた事例

協和キリン株式会社への導入事例では、疾患啓発デジタルマーケティングを成功させるための具体的なポイントが紹介されました。協和キリンの啓発対象疾病、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症で、患者数は日本国内で約2万人に1人、計6,000人程度といわれる希少疾患です。しかし、そのうちおよそ9割が未受診者だと推定され、どのように受診につなげるかが協和キリンにとって長年の課題となっていました。
 
そこで、製薬企業向けのワンストップデジタルマーケティングソリューションを提供するメディウィルが支援に加わり、疾患啓発プロジェクトが始まりました。まず、疾患啓発サイト「くるこつ広場」を立ち上げ、同疾患に関する詳細な情報を掲載。次に、メディウィルが提供するカスタマイズ型病院検索サービス「いしゃまち病院検索」を同サイトに連携させ、同疾患について相談できる病院を検索できるようにしました。さらに、デジタル広告や検索エンジンからの流入を通じて疾患啓発サイトの集客を行い、疾患情報の認知拡大を目指したのです。

メディウィルの事例
2024.6.5(株)メディウィル『ペーシェントジャーニーに添った「いしゃまち病院検索サービス」を 活用した疾患啓発事例紹介』資料より抜粋

ほかにも、KOL医師とのコンテンツ制作や学会Webサイトとの連携、患者の体験談掲載、相談可能なコールセンター「くるこつ電話相談室」の設置といった、医師や学会、治療中の患者や未診断の患者を巻き込んだ施策の推進により、同疾患に関わる「共感の醸成」にも努めたと城間氏は話します。協和キリンの親会社であるキリンホールディングス株式会社のWebページでも紹介してもらうなど、考え得る施策を多方面から実施していきました。
 
その結果、2022年7月から2023年6月の1年間で、「くるこつ電話相談室」は103件の相談を受け、5名が医療機関の受診に至り、うち2名に同疾患の確定診断がなされたことがわかりました。未診断患者へのアプローチが難しいといわれる希少疾患でも、病院検索サービスの活用を含めた包括的なデジタルマーケティングを通じて、受診促進の成果が確認できた事例といえるでしょう。

その他の疾患啓発サイトと病院検索サービスの連携事例

本講演では、協和キリン以外にも、「いしゃまち病院検索」を活用した製薬企業の事例が複数紹介されました。
 
たとえば、旭化成ファーマ株式会社の事例では、骨粗鬆症の疾患啓発サイト「骨検」に「いしゃまち病院検索」を実装し、同疾患のDXA検査ができる病院検索を可能にしました。
 
その他、株式会社メディコンの鼠径部ヘルニア情報サイト「そけいヘルニアノート」、EAファーマ株式会社の慢性便秘症疾患啓発サイト「イーベンnavi」、キッセイ薬品工業株式会社のANCA関連血管炎の専門サイトにも「いしゃまち病院検索」を連携させ、各疾患について相談可能な病院を検索できるように。城間氏は、疾患ごとにカスタマイズして病院を検索できるのが「いしゃまち病院検索」の強みだと改めて強調しました。

オープンデータを病院検索サービスに活用したカスタマイズ事例

城間氏は、疾患ごとのカスタマイズ検索だけでなく、オープンデータを活用したカスタマイズ検索にも可能性を見出しています。
 
その一例が、新型コロナウイルスの流行期における、発熱外来に対応した病院検索サービスでした。かかりつけ医のいない患者は発熱から受診までの間に、自治体の相談窓口に電話し、近所の発熱外来に対応した医療機関を紹介してもらうというプロセスを挟んでいました。メディウィルは、そのような患者の受診を効率化しようと、東京都のオープンデータを活用し、発熱外来病院検索サービスをリリース。「区名」と「発熱外来」を合わせて検索すると上位に表示されるようSEO対策を行い、患者が自分で近隣の病院を検索できるようにしました。その結果、2022年7月から2024年3月までの約20か月間で約525万PV、約100万ユーザー、のべ約24万回の電話コールクリックにつながり、発熱患者ユーザーの6割以上が受診先の医療機関を見つけたと回答したのです。
 
オープンデータを活用できるのは、新型コロナウイルスに限りません。ほかにも、帯状疱疹ワクチン助成や乳がん検診に対応した病院、救急病院など、さまざまなオープンデータをかけ合わせることで、病院検索におけるカスタマイズの幅が広がると、城間氏は話しました。

各疾患の特性に合わせたデジタルマーケティングの構築が重要

本講演では、インターネット上のペイシェントジャーニーに添って疾患啓発デジタルマーケティングの設計を行い、各プロセスでの離脱を防ぐことの重要性が示されました。施策の中心となる疾患啓発サイトは、ただ制作するだけではなく、広告や検索エンジンからの集客や、病院検索サービスの連携によって実際の受診につなげることが重要です。城間氏は、「いしゃまち病院検索」のようなフレキシブルにカスタマイズできる病院検索サービスなどを活用した、各疾患の特性に合わせたデジタルマーケティングの構築が欠かせないと締めくくりました。