デジタル資産を有効活用して顧客とつながる、新しい医薬品マーケティングのあり方とは?/MDMD2023Summerレポート
2023年6月に製薬・医療機器業界のキーパーソンが集結し開催された「Medinew Digital Marketing Day(MDMD) 2023 Summer」。本記事では、株式会社セールスフォース・ジャパン 早田和哲氏による講演「デジタルでつながる新しい医薬品マーケティング〜Customer Equity(顧客資産)を増やす方法〜」より、デジタル資産を有効活用したマーケティング手法についてレポートします。
顧客のEquityを増やす「Data Cloud」と「Health Cloud」
「顧客のEquityを増やす」をテーマにするにあたり、早田氏は“顧客”と“Equity”を定義しました。ここで言う“顧客”とはHCP(ヘルスケアプロフェッショナル)と患者の両方を指します。一方、Equityとは、顧客自体が資産的価値であるという考え方に基づいた「顧客生涯価値」のことです。
「Journal of Service Research」では、Equityを増やす方法として7つの方法を紹介しています。
そのうち、「組織を連携させて顧客管理活動を実行する」と「CRMを効率性向上ツールからサービス向上ツールへと発展させる」の2点について、セールスフォースが提供するライフサイエンス向けソリューション「Data Cloud」と「Health Cloud」が貢献できると早田氏は話します。
データをつないでマーケティングに生かす「Data Cloud」
まず早田氏が取り上げたのは、HCPのEquityを増やすソリューション「Data Cloud」です。
COVID-19禍以降、MRが病院を訪問することが難しくなり、製薬企業はさまざまなデジタルチャネルを活用するようになりました。あらゆるチャネルで得られたデータを1つの箱に入れ、データ同士を連携するソリューションが「Data Cloud」です。
早田氏は、次のように解説しました。
「例えば、VeevaのCRMやコールセンターに寄せられる医師からの問い合わせ、マーケティングオートメーション(MA)ツールで得られるデータ、自社ポータルにおける医師の閲覧行動データ、エムスリーやケアネットなどのサードパーティから得たデータなどをData Cloudに入れ、DCFコードでつなぐことで医師のプロファイルを作ることができます。データを入れておけば、シームレスにデータ同士を連携することが可能です」
Data Cloudを活用し、リアルタイムで医師のプロファイルを生成することで、医師が何に興味を持っているかを把握できます。それをもとに、さまざまなチャネルでコンテンツを提示しながらリレーションを上げることで、エンゲージメントの構築が可能となります。
続いて、早田氏は製薬企業でのData Cloudの導入実例を2つ紹介しました。
内資系製薬企業における導入実例
1つ目は、内資系製薬企業におけるData Cloudの活用事例です。この企業では、大きく3つのフェーズに分けてData Cloudを活用しています。フェーズ1ではデータの収集と統合、ターゲットのセグメント化を行い、フェーズ2では統合した顧客情報をシームレスにMAツールと連携。フェーズ3では顧客の興味や好みを特定しながら、最適なコンテンツを適切なタイミングで提供することを目指します。
外資系製薬企業における導入実例
もう1つの実例は、外資系製薬企業による取り組みです。この企業では、MRとの接触頻度が低いターゲット外の医師に向けてもMAツールを利用して幅広くフォローすることを目的として、MAツールなどを活用したアプローチを構築しています。
フェーズ2では、事例1同様に、医師の関心に則したパーソナライズされた情報を提供するためにMAツールなどとの連携を試みています。
また、医師とMRとのより密接なコミュニケーションが必要となるスペシャリティ領域であることから、SFA(Veeva)と連携してMRに医師の現状を明示することで、MRが効果的に活動できる環境の整備を実現しようとしています。
その他のData Cloudの活用用途
早田氏は、Data Cloudの具体的な活用用途を3つ紹介しました。
1つ目は、関心領域に応じたコンテンツの表示です。過去にポータルサイトを訪れた医師が興味のあるコンテンツ、例えば消化器系のコンテンツを閲覧した場合、そのデータをもとに医師が再ログイン後に消化器メインのコンテンツを表示することができます。
2つ目は、Web接客によるオンボーディング支援です。例えば、メディカルサイトをあまり利用したことのない顧客でもスムーズな利用を促せるようなオンボーディングシナリオを作成することで、メディカルサイトへの登録支援、医師の興味に応じたコンテンツ表示、ウェビナーの案内などのサポートを行います。
3つ目は、閲覧落ちフォローメールです。例えば、ウェビナーの申し込み画面を閲覧後、登録せずに離脱した医師をリスト化し、MAツールを使って申し込み忘れがないかフォローメールを配信します。さらに、メールの開封・未開封でセグメントを分け、メールを開いていない医師にはCRM側にToDoを発行し、MRにフォローしてもらうことを可能にします。
早田氏は「Data Cloud内でさまざまなチャネルのデータをDCFコードで統合することで、組織全体でのデータ活用が可能になります。また、デジタルでの医師の活動をCRM側に連携してMR活動をサポートすることで、サービスの向上につながると考えています。さらに、医師のナーチャリング向上、ロイヤリティを増やして、処方につなげる活動を可能にすると考えています」と述べました。
患者体験を向上させEquityを増やす「Health Cloud」
次に早田氏は、患者のEquityを増やすための「Health Cloud」を活用したPSP(Patinet Support Program)について紹介しました。
「Health Cloud」は、さまざまな患者データを統合し、患者や医師、製薬企業、医療機器メーカーと情報を共有できるプラットフォームです。データをもとに最適な治療を進めることで、患者の治療アウトカム向上に貢献します。
実際に「Health Cloud」を活用したことで、アドヒアランスが29%改善、治療から離脱する割合は22%減少したという結果が紹介されました1)。
Health Cloudは、患者向けアプリからの情報を連携することも可能です。また、ウェアラブルデバイスやSaMD*、DTx**などとの連携を検討しているほか、HL7 FHIR規格の電子カルテのデータも格納できるため、日本の電子カルテがHL7 FHIR規格に対応すればシームレスな情報連携が可能です。
*SaMD:プログラム医療機器(Software as a Medical Device)
**DTx:デジタル治療(Digital Therapeutics)。SaMDのうち、疾患治療を目的としたもの
さらに、マイナンバーに紐づく検診の情報や受診状況などをAPI***で統合することも検討しているなど、患者のEquity向上を実現するさまざまな機能の拡大が想定されています。
***API:アプリケーション・プログラミング・インターフェース(Application Programming Interface)
最後に、早田氏は「HCPのEquityを増やすという点では、Data Cloudを活用してDCFコードですべてのデータを紐付け、MAツールとあわせて活用すれば、パーソナライズされたデジタルプロモーション活動が可能です。また、患者のEquityを増やすという点では、Health Cloudを活用し、患者の情報をセキュアに扱いながら、さまざまなサービスを提供できるプラットフォームとして貢献できると考えています」と締めくくりました。
<出典>※URL最終閲覧日2023.07.05
1) PR TIMES, 2019.05.11, Patient Support Program Increased Medication Adherence with Lower Total Health Care Costs Despite Increased Drug Spending(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31081461/)