製薬企業の固形がん系希少疾患の疾患啓発サイトを調査【2024年7月版】

製薬企業の固形がん系希少疾患の疾患啓発サイトを調査【2024年7月版】

希少がんは各疾患での患者数は少ないものの、希少がん患者総数はがん全体の15〜22%を占めています。疾患に関する情報を求める患者やその家族は多く、希少がんに関する情報提供も製薬企業の使命と言えるでしょう。今回は固形の希少がんを取り上げ、製薬企業が運営する疾患啓発サイトを調査しました。原因が不明であったり治療が確立していなかったりするため、提供できる情報も限られる希少がんの疾患啓発サイトについて、各社の工夫をご紹介します。

希少疾患(固形がん)の疾患啓発サイトを運営している製薬企業一覧

希少がんとは、人口10万人あたりの年間発症率6例未満のがん1)と厚生労働省により定義されています。希少がんの研究開発の推進や正しい診療を目的に、国立がん研究センターでは2014年に「希少がんセンター」を設立。国内でも希少がんに対する活動が行われていますが、胃がんや乳がんなど他のがんに比べて治療実態の把握が十分でなく、生存率の改善が劣るなど、がん疾患の中でも課題が多いのが現状です。

各希少がんの患者数は少ないですが、希少がんに該当する悪性腫瘍は200種類ほどあり、がん全体の15~22%を占める患者数1)がいます。このことからも、製薬業界全体で取り組まなければならない重要な疾患であると言えるでしょう。

2021年10月発足の難病・希少疾患タスクフォースでは、患者が得られる情報が少なく、必要な情報の取得に苦労することへの課題解決の必要性が指摘されています。これは2023年に実施した「希少疾患患者での困りごとに関するアンケート」結果によるもので、希少疾患患者のリアルな声を反映したものです。2024年2月開催の「製薬協 Rare Disease Day 2024 シンポジウム」でも、この課題に焦点が当てられていました2)

これまで希少疾患についていくつか取り上げ疾患啓発サイトを調査してきましたが、今回は希少疾患の中でも固形の希少がんに絞り、疾患啓発サイトでの情報発信について調査しました。主に、希少疾病用医薬品で製造販売承認を受けた効能効果に関する情報を調査しています。2023年5月にIQVIAより公開された22年度販売会社ベース企業売上ランキング(期間:2022年4月~2023年3月)より抜粋した19社の中で、今回調査対象となったサイトは、6社14サイトでした。
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所HPに掲載の希少疾病用医薬品指定品目一覧表(2024年3月更新分)、厚生労働省HPに掲載の希少疾病用医薬品に指定された品目一覧(2024年3月更新分)より、特徴ある19社の固形がん系希少疾患啓発サイトをピックアップ

固形がん系希少疾患啓発サイト 調査対象

複数のサイトを運営している製薬企業が多いことが、がん疾患啓発サイトの特徴の一つです。多くのサイトは希少がんに特化するのではなく、一般的ながん疾患啓発サイトの中で希少がんを解説していました。

複数のがん疾患啓発サイトを運営している企業では、がん総合サイトを用意し、がんの基本情報、一般的な検査や治療、治療費、体験談などについて情報をまとめています。疾患情報とは別にがん総合情報サイトがあることで、各サイトのコンテンツ数が多くなり過ぎず、情報の探しにくさが解消されている印象を受けました。

ここでは15サイトの中から、特徴的な3サイトを取り上げて詳しくご紹介します。その他のサイトも含めた調査結果は、ダウンロード資料を用意していますので、ページ下部よりご確認ください。

中外製薬 おしえて 肺がんのコト

イラストやアイコンを上手く使い、知りたい情報へアクセスしやすいサイトです。その一つがトップページの「肺がんを知りたい」「肺がんの疑いがある」など知りたい内容や状況別にコンテンツを探せるように配置した、イラスト付きのリンクボタンです。またページ右端には、アクセスしやすさに配慮した「肺がんクイックアクセス」を設置しています。この機能により、サイト内のコンテンツだけでなく、運営するがん総合サイトや他のがん疾患サイトのコンテンツにも簡単にアクセスできます。

希少疾病用医薬品で製造販売承認を受けた効能効果「進展型小細胞肺癌」の情報は、「肺がんの種類」で紹介。限局型と進展型に分け、状態や治療法の違いを簡潔に解説しています。ページ下部に関連リンクを設置することで、小細胞肺がんの情報や関連する内容にスムーズに辿り着ける工夫が見られました。また「もっと知りたい!」ボタンを設置し、クリックすることで、より詳しい解説が見られる仕組みを装備。ページが長くなり過ぎず、流し読みされにくい工夫です。

中外製薬では、がん総合サイトを複数運営しています。「おしえてがんのコト」では、各種がんのサイトをまとめて紹介。「がんwith」では仕事やお金、生活についての情報を発信しています。その他にもAYA世代やがんゲノム医療に関するサイトも用意するなど、サイトを分けることでサイト内の情報を絞りより深く伝えています。

おしえて 肺がんのコト
https://oshiete-gan.jp/lung/

サイトディスクリプション

肺がんの情報サイト「おしえて 肺がんのコト」。肺がんは知って備えて早期受診をすることが大切と言われています。中外製薬が運営する「おしえて 肺がんのコト」では、早期受診のために肺がんの疑いがある人に向けた様々な情報から、診療中の患者さん・ご家族が、肺がんについて適切に知るための情報を医師監修のもと詳しく解説しています。

キーワード

コンテンツ一覧

・肺がんを知る
肺がんの症状、種類、原因についてイラストや表を用いて解説。肺がん患者の統計を紹介
・肺がんの検査
スクリーニング検査、確定診断、病期診断などについてイラストを用いて解説。確定診断後の検査では遺伝子変異の解説を掲載
・肺がんの治療
病期、治療法、再発・転移についてイラストを多く挿入し紹介
・おしえて先生!肺がんのコト
3名の医師のインタビュー記事を掲載
・肺がんクイックアクセス
9つの気になる項目から選択すると、適したコンテンツを表示

アストラゼネカ 乳がん.jp

コンテンツは「乳がんと診断されたかた」と「乳がんについて知りたいかた」に大別して用意しています。各コンテンツ下部には関連コンテンツを掲載しているため、知りたい情報へアクセスしやすいサイトです。

乳がん全体をテーマとするサイトですが、遺伝性乳がんの情報を豊富に掲載しています。コンテンツではBRCA1/2遺伝子検査のための簡単チェックの提供や、BRCA遺伝子・HBOCの詳しい解説を用意。さらに遺伝性乳がんに関する動画も配信しています。「動画で解説 遺伝性乳がん」では動画コンテンツ下に、動画内容をチャット形式で記事化。動画に字幕もついており、音声で聞けない場合でも動画内容を確認しやすい工夫がなされていました。

がんの総合サイト「がんになっても」も運営しており、治療や仕事、治療費、体験談などを掲載しています。体験談ではがんの種類・性別・立場から検索でき、調べやすい仕様です。

またLINE公式サイト「わかる乳がん」でも、疾患情報を提供しています。ここではサイト内コンテンツを紹介するのではなく、LINEオリジナルのコンテンツを用意。記事と動画で紹介する疾患知識やボリュームのある体験談など、充実した内容となっています。「よくある質問」はチャットボットを活用し、選択肢から質問を選んでいくスタイルを採用しています。

乳がん.jp
https://www.nyugan.jp/

サイトディスクリプション

人それぞれに個性があるように、乳がんにもそれぞれの性質があり、すべての乳がんが同じというわけではありません。このサイトでは、患者さんひとりひとりの乳がんの性質にあわせた情報を提供します。

キーワード

コンテンツ一覧

・乳がんと診断されたかた
各種タイプの乳がんについて、特徴・治療前・術後の治療と生活・再発と転移に関する情報を提供
・乳がんについて知りたいかた
疾患を疑い不安な方へ向けた情報をまとめて掲載。セルフチェックや遺伝性乳がんチェックリストも紹介
・注目のコンテンツ
遺伝性乳がんについての動画、LINEアプリ、各国のピンク色の景色を紹介
・よくある質問
セルフチェックや検診、手術、術後の経過などについてQ&A形式で解説
・用語解説
乳がんに関する用語、乳がんと間違いやすい主な病気を簡単に解説
・タグから記事を見つける
全コンテンツにタグを付けることで横断的に情報を探せる工夫

小野薬品工業 オノ オンコロジー内「悪性黒色腫(メラノーマ)」

がん情報サイト「オノ オンコロジー」では、各がん疾患啓発サイトの形式を統一しています。基本的にコンテンツ上部に解説文章、下部にイラストを配置するスタイルになっており、閲覧しやすいページ作りがなされています。また、ページ最下部には関連記事を掲載。「オノ オンコロジー」サイト全体の記事がピックアップされています。

「悪性黒色腫(メラノーマ)」では疾患部位の画像を多数掲載。目で見てわかるがんの特性を捉えたサイトになっていると言えるでしょう。目視で確認して早期発見できる疾患であることから、セルフチェックの方法も紹介しています。

がん疾患で共通する情報は「オノ オンコロジー」にまとめて掲載しています。各種がん情報の他に、がん免疫・からだのケア・心と暮らしのサポートに関する情報を発信。「医師が答えるAYA世代・働く世代の相談室」は、チャット形式で複数の相談事を表記後、それらに関するトータル的な回答を掲載しています。

オノ オンコロジー内「悪性黒色腫(メラノーマ)」
https://p.ono-oncology.jp/cancers/mela

サイトディスクリプション

悪性黒色腫(メラノーマ)は、皮膚がんの一種です。特徴、患者数、種類、病期(ステージ)といった基礎知識、検査・診断、手術や放射線療法、薬物療法などの治療の流れや治療中のケアなどについてご紹介します。セルフチェックもご用意しています。

キーワード

メラノーマ,皮膚がん

コンテンツ一覧

・基礎知識
疾患の特徴や患者数、種類、遺伝子変異について図や画像を用いて解説
・検査・診断
検査と診断の流れ、検査内容、病期分類、診察時の確認ポイントを紹介
・治療
病期ごとの治療法、各治療内容、副作用について紹介。緩和療法についても解説
・再発・転移
転移の解説と転移しやすい臓器の割合を掲載
・経過観察
経過観察の重要性、セルフテックの方法を紹介

情報量に応じた適切なコンテンツ作りと検索のしやすさが求められる

情報量が多い疾患ではその疾患メインのサイトを作ることが可能でしょう。一方で情報量が少ない希少がんでは、それだけでサイトを作るのが難しく、今回紹介した肺がんや乳がんなど広域のがん疾患に含んで紹介する必要があります。

ただし知りたい希少がんのコンテンツが探しにくいと、閲覧者は探すことに疲れ、他のサイトへ移動してしまうでしょう。離脱を防ぐこと、適切な情報を伝えることを実現するためには、希少がんに限らずコンテンツの分け方や見出し作成、検索機能を工夫することがポイントです。

また今回のようにがん総合サイトを別途用意する方法も参考になります。他のがんであっても体験談や生活のケア情報は、患者さんやご家族にとって役立つ情報ではないでしょうか。情報量に応じてコンテンツ作りを工夫し、知りたい情報へ簡単にアクセスできる機能や見出し作りを取り入れるとよいでしょう。

<出典>
1) 国立がん研究センター 希少がんセンター, センター長ごあいさつ, 
https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about_rcc/greeting/index.html

2) 製薬協, ニューズレター 2024年3月号 No.220(「製薬協 Rare Disease Day 2024 シンポジウム」を開催より), 
https://www.jpma.or.jp/news_room/newsletter/220/20t1.html


ダウンロード資料「製薬企業の固形がん系希少疾患啓発サイトを調査【2024年7月版】」

本記事では調査対象の一部について紹介しましたが、さらに詳しいコンテンツ一覧など、今回調査した詳細な情報はダウンロード資料よりご確認いただけます。下記フォームに必要事項をご記入の上、お申し込みください。資料ダウンロード用URLをお送りいたします。