製薬マーケティングのプロダクトマネージャーが知っておきたい開発用語

製薬マーケティングのプロダクトマネージャーが知っておきたい開発用語

製薬企業において、プロダクトマネージャーの業務範囲の中心は、製品を発売した後の戦略立案・戦術の実行がメインですが、上市準備をするフェーズも業務に含まれます。そのフェーズで必要になるのが、開発用語に関する知識です。本記事ではそのようなプロマネの方向けに「知っておきたい開発用語」について解説していきます。
今回は、「プロマネが知っておきたい開発用語100選亅のダウンロード資料もご用意しています。記事の最後からダウンロードできますので、ぜひご活用ください。

なぜプロマネに開発用語の知識が求められるのか?

なぜプロマネに開発用語の知識が必要になるのでしょうか?

それは開発段階から、R&Dチームと円滑なコミュニケーションを図り、最適なタイミングでコマーシャルニーズのインプットを行う必要があるためです。プロマネの話を聞いてもらうためには、R&D担当者間のコミュニケーションの内容を適切に理解して、彼/彼女らとラポール(信頼関係)を形成する必要があります。

要は「開発のこと、よく理解しているな。よし、話を聞いてやろうか。」と開発の担当者から思ってもらうことが大切です。

開発段階の薬剤をプロマネとして担当する場合、例えば以下のようなR&Dチームのやりとりに遭遇することがあります。

「TPPに関して日本からのインプットが求められてます。」
「GMPがもうすぐか、QC担当は誰ですか?」
「TID?せめてBIDじゃないと。理想はQDだけど。」

これは、筆者が本社勤務1年目にR&Dチームの担当者とのMeetingで実際に遭遇した会話の一部です。

R&D畑の方からすると当たり前のようなこれらの会話も、MR出身の方からすると「なにを言っているのか全然わからない」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際、私もそうでした。R&DチームとのMeetingでは、R&D独特の略語や用語が飛び交い、悪戦苦闘した記憶があります。最初はよく分からない用語や単語が会議で飛び交う度に、メモを取っていました。

R&Dの方が使用する単語や略語をすべて把握しておく必要はないと思います。とはいえ、R&Dチームの使う言葉がよく分かっていないと、適切なタイミングで意見を述べることも難しくなります。そのため、最低限の知識は必要になってきます。またラポール形成にも時間が掛かり、マーケティング側の意見を聞き入れてもらいにくい状況が発生するリスクが生まれてきます。このような状況を避けるためにも、プロマネは開発用語を正しく理解して、適切にR&D担当者とコミュニケーションを図る必要があります。

プロマネが知っておきたい開発用語

この記事では、プロマネが知っておきたい開発用語をいくつかピックアップしてお届けします。
「プロマネが知っておきたい開発用語100選亅の資料は、記事の最後からダウンロードいただけますので、あわせてご活用ください。

◆TPP

Target Product Profileの略。目標とする製品の特徴をまとめたリスト。製品にかかる目標(Vision)や開発に向けた戦略(Strategy)を具体化し、目指すべき製品の特徴を示した戦略文書。目指す適応症名、効果、安全性などをリストアップしたもの。

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)からテンプレートも公表されています。
Target Product Profileテンプレート Word - AMED

上市後を踏まえて最適な形で薬剤開発が進むように、R&D担当者と中身について議論することもあるため、プロマネが押さえておきたい用語の1つです。

◆CTD

Common Technical Documentの略。医薬品の承認申請のために作成する、日米EU共通の国際共通化資料。

CTDは以下の5つの部(モジュール)で構成されます。

  • 第1部(モジュール1)・・・申請書など行政情報、添付文書に関する情報で、各地域に特異的な文書も含まれる。
  • 第2部(モジュール2)・・・CTDの概要で、品質や臨床などに関する全般的な概略の情報。
  • 第3部(モジュール3)・・・品質に関する情報
  • 第4部(モジュール4)・・・非臨床試験報告書
  • 第5部(モジュール5)・・・臨床試験報告書


新薬発売時に資材作成時に確認が必要になる、プロマネが抑えておくべき文書の1つです。

◆NDA, sNDA

New Drug Application、Supplemental New Drug Applicationの略。日本語では、新薬承認申請、医薬品承認事項変更申請(一変申請とも言う)。申請の時期によって、承認や発売の時期が決定することになるため、プロマネはこれらの時期を正確に把握しておく必要があります。

◆PoC

Proof of Conceptの略。日本語では、研究段階で構想した薬効がヒトでも有効性を持つことの確認。効果が出たことを確認した時には、「PoC(ポック)が出た」「PoC(ポック)を確認した」などと表現します。Ph2終了時にこれらの用語が頻出します。

◆QD, BID, TID

QD(quaque die:1日1回)、BID(bis in die:1日2回)、TID(ter in die:1日3回)。ラテン語が元になっている。薬剤の一日あたりの投与回数を意味します。

◆SAP

Statistical Analaysis Planの略。日本語では、統計解析計画書。臨床試験で収集する定量的または定性的データの分析手法の概要を示すもの。プロマネとしては、資材制作の際に、使いたいデータがSAPで事前に解析手法が規定されていない場合、使用に制限が生じるため、重要なデータについてはSAPの記載について確認することが大切になってきます。

※参考:日本製薬工業協会 医療用医薬品製品情報概要審査会『医療用医薬品製品情報概要等に関する作成要領』, P15.
https://www.jpma.or.jp/basis/drug_info/lofurc0000001vb4-att/2310_1.pdf 
(以下、一部抜粋)

a) 統計解析結果について記載する場合、事前規定された解析かつ科学的妥当性のある結果を除いては記載しないこと。結果(主要・副次評価項目、サブグループ解析結果)を記載する場合は解析計画に統計解析手法を記載すること。

d) 承認申請時の臨床試験の結果が論文化される際に、当初の解析計画で設定されたものとは違う再解析を行ったものは、論文化されたとしても、その結果は事後解析になるため用いないこと。

開発用語を覚えて、適切なタイミングでコマーシャルニーズをインプットしよう!

プロマネになられたばかりの方には、なじみのない略語や用語が含まれていたのではないかと推察します。R&Dの方たちが使う用語を理解しておくと、コミュニケーションがスムーズになりますし、ラポール形成にも寄与してくれます。プロマネの方が開発段階でR&Dの方と適切なコミュニケーションを図り、デバイス開発や評価項目に適切なコマーシャルニーズのインプットを行うことによって、会社として、より市販後を意識した製剤開発を行うことが期待できます。

この記事で紹介した用語以外も含めた「プロマネが知っておきたい開発用語100選」は、以下フォームよりダウンロードいただけます。
一度にすべてを暗記する必要はないと思いますが、R&Dの方々との会議の中でわからない言葉が出てきた際には、この開発用語リストを活用いただけたら嬉しく思います。


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<参考>
シミックグループ, 略語・専門用語集, https://www.cmicgroup.com/ir/qa/glossary
日本CMO協会, 用語集, https://www.jcmoa.org/dict.html
日本製薬医学会(JAPhMed), 製薬医学用語集(略語), https://japhmed.jp/glossary/index_ab.html